月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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あー、またも書ききれない………。
ついでに秀逸なサブタイトルが思いつかないなあ。
そんな第8話。

3/25 誤字修正


第8話「箱庭の吸血鬼」

 “フォレス・ガロ”のギフトゲームをクリアした夜。耀のお見舞いの帰りに“ノーネーム”の本拠の談話室に出向いてみた。そこには兎耳を萎れさせて気落ちする黒ウサギと、不機嫌そうな顔でソファに寝転がる十六夜がいた。

 

「どうしたんだ、二人とも? 元気なさそうに見えるけど」

「あ、白野さま………」

 

 談話室へ入ってきた自分に対し、やはり顔がしゅんとしていた。確か、耀を“ノーネーム”の本拠へ送り届けた後に“サウザンドアイズ”へギフトゲームの申請に行ったはずだ。先代の“ノーネーム”の一員で元・魔王という肩書を持った人が景品に出される大事なギフトゲームなのだが、何かあったのだろうか?

 

「実は………そのギフトゲームは無期限の延期になりました。このまま中止の線もあるそうです」

 

 黒ウサギの説明によると、景品となった元・仲間に巨額の買い手がついたらしい。それで今の持ち主はゲームを急きょ取り止めたそうだ。

 

「そんな………なんとかならないのか?」

「難しいでしょう。ゲームの主催を行っていたのは“ペルセウス”。“サウザンドアイズ”傘下の幹部コミュニティです。直轄では無いため白夜叉さまの伝手を頼っても、ゲームを再開させることは出来ないでしょう」

「要するに、そいつらは金を積まれたからゲームを取り下げるような五流エンターテイナーってわけだ」

 

 詰まらなさそうに吐き捨てる十六夜。さっきから不機嫌なのはそれが理由か。

自分もせっかくのチャンスをふいにされた怒りはある。でも違法な手段とはいえ勝って傘下のコミュニティを増やしたガルドを見れば分かる通り、この箱庭ではギフトゲームは絶対の法律なのだ。そのゲームが行われない以上、打つ手は無いだろう。

重くなった空気を変える為か、十六夜は大きく伸びながら黒ウサギに聞いた。

 

「まあ、次回に期待するとして。ところでその仲間はどんな奴なんだ?」

「そうですね………一言で言えば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の様にキラキラするのです」

「へえ? よく分からないが見応えがありそうだな」

「それはもう! 加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました。近くに居るのならせめて一度お話しかったのですけど………」

「おや、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

 

 突然した声に驚いて窓を見ると、そこにはにこやかに笑う金髪の少女が窓の外で浮かんでいた。跳び上がって驚いた黒ウサギが急いで窓に駆け寄る。

 

「レ、レティシア様!?」

「様はよせ。今の私は他人に所有される身分だ」

 

 黒ウサギが窓を開けると、レティシアと呼ばれた少女は苦笑しながら談話室へ入る。

 砂金の様な金髪を特注のリボンで結び、紅いレザージャケットに拘束具を彷彿させるロングスカートを着た彼女は、黒ウサギの先輩と呼ぶにはずいぶんと幼く見えた。

 

「こんな場所からの入室で済まない。ジンには見つからずに黒ウサギと会いたかったんだ」

「あんたが元・魔王様か。前評判通りの美人………いや、美少女だな。目の保養になる」

 

 体を起こし、レティシアをマジマジと見つめる十六夜。それに対してレティシアは笑いを噛み殺しながら、上品に空いてるソファに腰かけた。

 

「ふふ、なるほど。君が十六夜か。白夜叉の言う通り歯に衣着せぬ男だな。しかし観賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが」

「あれは愛玩動物なんだから弄ってナンボだろ」

「ふむ。否定はしない」

「否定して下さい!」

 

 口を尖らせて怒る黒ウサギ。なんかこのコミュニティにおける黒ウサギの立ち位置が分かってきたかも………。

 

「黒ウサギ、ひょっとしてこの人が?」

「YES! “箱庭の騎士”と称される希少な吸血鬼の純血。それがレティシア様なのです」

「吸血鬼だって?」

 

 日の光を苦手とし、流水を渡れないというあの吸血鬼だろうか? いや、それよりもこのタイミングで来る吸血鬼ということは―――。

 

「レティシアさん、貴方に聞きたい事があります」

「君は………岸波白野だったか。君が何を言いたいかは分かってる。ガルドに鬼種のギフトを与えたのは私だ」

 

 やっぱり、そうだったか。ゲームの最中、ジンくんには黒幕の存在に心当たりがある様に見えた。東側だと吸血鬼は希少種だそうだ。その中でもジンくんに縁故があり、さらにゲームが終わった後の今に来たとなれば疑うには十分過ぎた。

 

「………どうしてそんな事を?」

 

 努めて。冷静に聞いてみた。あのゲームで、自分はギフトを思い出す切っ掛けにはなった。その点は感謝している。しかし一歩間違えれば耀が命を落としていたのだ。レティシアに全ての責任があるとは言わないが、それでもどんな心算でガルドを利用したのか問い質さなくてはならない。

 

「君の怒りはもっともだ。負傷した彼女には心よりお見舞い申し上げる」

 

 頭を下げて、済まなそうにレティシアは目を伏せた。

 

「レティシア様!?」

「君達の力量を試したかったのだ。“ノーネーム”としてのコミュニティの再建は茨の道。もしも新たな同士が力不足なら、ジンに更なる苦労を負わせる事になる」

「………」

「だからこそ試したかったのだ。異世界から呼び出してまで招いたギフト保持者。彼等がコミュニティを救える力を持っているか否かを」

「結果は………どうだった?」

 

 自分が聞くと、レティシアは苦笑しながら首を横に振った。

 

「ゲームに参加した君達はまだまだ青い。ガルドでは当て馬にすらならなかったから、判断に困る」

 

 席を立ち、窓から空を見上げるレティシア。その顔は憂いに満ちていた。

 

「何もかもが中途半端なまま、ここに足を踏み入れてしまった。さて、私は君達になんと言えばいいのか」

「違うね」

 

 突然、今まで聞き役に徹していた十六夜がレティシアに声をかける。いつもの様に軽薄な声で先を続けた。

 

「アンタは古巣へ言葉をかけたくて来たんじゃない。仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見たかったんだろ」

「………そうかもしれないな。解散を勧めるにしても、ジンの名前が知れ渡った今では意味が無い。だが仲間の将来を託すには不安が多すぎる」

「その不安。払う方法が一つだけあるぜ」

 

 そう言って、十六夜は不敵に笑った。

 

 

 

 その後、談話室にいた自分達は中庭に来ていた。十六夜とレティシアは自分達から離れた場所で、お互い対峙し合っていた。

 十六夜が示した提案は明快なものだった。自分達の力が不安ならば、直接試せばいい。回りくどい方法を取らない、至極単純な力試しだ。

 

「ルールを確認するぞ。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、それを受け合う」

「で、最後まで立っていられた奴が勝ち。いいね、シンプルイズベストってやつ?」

 

 笑みを交わし、二人は距離を取る。レティシアは背中の黒翼を広げて空中へ、十六夜は地に足をつけたまま半身に構える。

 

「十六夜。いま能力を強化する魔術(キャスト)を、」

「要らねえ。コイツは俺のゲームだ。下がってろ」

 

 制空権を取られたのを見て、援護しようと申し出るもキッパリと断られる。ああなった十六夜はこちらの意見など聞き入れないだろう。仕方ない、黒ウサギの隣で観戦するとしよう。

 

「先手は私からだ」

 

 空中でレティシアは懐から己のギフトカードを取り出した。金と紅と黒色のコントラストで彩れたギフトカードを見て、黒ウサギは蒼白な顔で叫んだ。

 

「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、これは決闘である」

 

 ギフトカードが輝き、レティシアの手に長大なランスが顕現する。翼をはためかせ、同時に力の奔流が黒い光となってランスに集まっていく。

 

「ふっ―――!」

 

 一閃。一呼吸の内にレティシアから投擲されたランスは、視認できる程のソニックブームを撒き散らしながら十六夜へ向かっていく。空気との摩擦のあまり、槍は熱を帯びて赤く輝き出す。その様子はまさに地上へ落ちる流星を彷彿させた。人間がまともにくらえば、ミンチどころかジュースになってしまうだろう。

 だが、その一撃を前にして十六夜は牙を剥いて笑い、

 

「しゃらくせえ!」

 

 殴りつけた。

 

「………は?」

 

 瞬間、ランスは粉々に砕けていく。なんて、出鱈目。余りの出来事に黒ウサギと一緒に呆けてしまう。それはレティシアも同じだろう。凄まじい力で砕かれたランスは、無数の鉄塊となって散弾銃さながらに主の元へ殺到し―――って、マズイ!?

 

「レティシア様!?」

 

 自分が声を上げるより先に、黒ウサギが飛び出していた。レティシアを抱きとめると同時に、迫っていたランスの残骸を払い落として地面へと降りる。そして、レティシアのギフトカードを掠め取った。

 

「く、黒ウサギ! 何を!?」

 

 レティシアの抗議を黙殺して、黒ウサギはギフトカードを覗き見た。やがて、身体が小刻みに震えだした。

 

「ギフトネーム“純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”………やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残ってない」

「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの? どおりで歯ごたえないわけだ」

「はい………。これではかつての十分の一にも満たないかと」

 

 黒ウサギに指摘されて気まずそうに目を逸らすレティシアに対し、十六夜は不機嫌そうに舌打ちしていた。そんな弱体化した状態で相手にした事が不満だったのだろう。

 

「他人に所有されたら、ギフトまで奪い取られるものなのか?」

 

 三人の元へ駆け寄った自分に対し、黒ウサギは首を横に振った。

 

「いいえ………“恩恵(ギフト)”とは魂の一部。隷属させた相手でも合意なしにギフトを奪うことは出来ません。レティシア様は鬼種の純血と神格を兼ね備えていたからこそ、“魔王”と呼ばれていたのに………どうして、こんなことに?」

「………それは、」

 

 レティシアが何か言いかけた時だった。突如、遠方から褐色の光が射し込む。ハッと顔を上げたレティシアが光から庇う様に自分達の前へ立ち塞がった。

 

「これは、ゴーゴンの威光!? 駄目です、レティシア様!」

 

 黒ウサギの声も虚しく、褐色の光を受けたレティシアは瞬く間に石像に変わっていく。完全に石になる前。すまない、と言い残して。

 

「―――ッ!」

 

 突然の出来事に唇を噛んでいると、光の方向から男の集団が押し寄せて来た。皆一様に古代ギリシャ風の鎧に身を包み、羽の生えた靴を履いて空に浮かんでいた。

 

「ゴーゴンの首を掲げた旗印………“ペルセウス”のコミュニティ!」

 

 男たちが掲げている旗を見て、黒ウサギは息を呑んでいた。あれが、レティシアを売ろうとしている連中か!

 

「吸血鬼は石化させた。すぐに捕獲しろ」

 

 集団のリーダーなのか、一段と立派な飾りがついた兜を被った男が周りに命令していた。

 

「“名無し”共がいる様ですが、どうしますか?」

「邪魔をするなら切り捨てろ」

 

 剣を抜き、こちらへ降りてくる男たちに身構える。男たちは地面へ着陸すると、石化したレティシアを指差した。

 

「ソレから離れろ、“名無し”風情が。ソレは我ら“ペルセウス”の大事な商品だ」

 

 明らかにレティシアを物扱いし、こちらを“ノーネーム”と知った上で見下していた。高圧的な態度に、頭が沸騰しかけるのを必死に抑える。ところが、

 

「………ありえない」

「黒ウサギ?」

 

 様子のおかしい黒ウサギに声をかけるも、こちらの声が聞こえていない様にブツブツと呟いていた。

 

「本拠への不当な侵入、武器を抜く暴挙。挙句の果てには侮辱の言葉の数々。ありえない、ありえないのですよ………“月の兎”を! ここまで怒らせるなんて!」

 

 黒ウサギがギフトカードを掲げた途端、右手から空気の裂ける音と目も眩む様な閃光が迸る。やがて雷鳴が治まると、その手には一本の黄金の槍が握られていた。

 

「これは、インドラの槍………!?」

 

 驚きの余り声を上げる。ふと、また見覚えのない映像が脳裏に映し出された。炎の翼を広げ、手にした光槍を構える白髪の青年。その一撃を前にセイ■ー/■ャスター/アー■ャー/ギル■メッシ■と自分は最大限の防御を展開し―――

 

「フギャ!」

 

 黒ウサギの気が抜けた声にハッと意識を取り戻すと、十六夜が黒ウサギの耳を後ろから引っぱっていた。インドラの槍は黒ウサギの手からすっぽ抜け、あらぬ方向へ向かって投げ出された。箱庭の天井に着弾し、解放された稲妻が夜を日中の様に照らし出す。

 

「お、ち、つ、け、よ! 相手は仮にも“サウザンドアイズ”の傘下。ここで問題を起こしたら、困るのは俺達だろうが!」

「い、痛い、痛いです十六夜さん!」

「つか俺が我慢してるのに、一人でお楽しみとはどういう了見だオイ」

「フギャア!? って怒る所はそこなんですか!」

 

 グイグイ、とリズミカルにウサ耳を引っ張る十六夜。

 

「そ、そこら辺にしておいてやれよ。まだ“ペルセウス”の連中もいるんだし」

「もう帰ったぜ」

 

 そう言われて、さっきまで男達がいた場所に目を向けると既に誰もいなかった。それどころか石像になったレティシアも消えている。

 

「黒ウサギに敵わないと知るや、尻尾を巻いていったぜ。それに奴等が俺の知る“ペルセウス”なら、空飛ぶ靴の他にも透明になれる兜を持ってるだろ」

 

 ペルセウス。石化の瞳を持つ怪物、メドゥーサ殺しで有名なギリシャ神話の英雄だ。メドゥーサを暗殺する際に用いたのが、空飛ぶ靴や不可視の兜といった神々から与えられた武具(ギフト)の数々だ。

名前から察するに、彼等はそのペルセウスと所縁のあるコミュニティだろう。流石に男達の持つ武器の全てが本物という事は無いだろうが、それでも集団で揃えているとなると脅威には違いない。

男達が消えた先を睨み、黒ウサギは一目散に駆けようとしていた。

 

「すぐに追いかけないと!」

「待てよ。詳しい話を聞きたいなら、事情に詳しそうな奴に聞いた方が早いだろ」

 

 十六夜が何を言いたいのか察し、二人に飛鳥達を呼んでくると言い残して自分は屋敷へ駆け出した。

 

 

 




いつもより短いですが、今回はここまで。
書きたいシーンを書いていたら、10000文字を超えたので分割します。
次回は近日中に出しますね。

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