騎馬戦が終わり、昼休憩。
本選までまだ時間がある。
「飯の前にトイレ行っとくか」
雨梟はトイレへ向かうために競技場の中を歩いていた。
「ん?ありゃあ…轟と…デク?」
すると、前方の方で轟と緑谷が何か話している。
見た感じ楽しい話じゃなさそうだ。
盗み聞きは趣味じゃないと戻ろうとした雨梟。
「記憶の中の母はいつも泣いている…『おまえの左側が醜い』と…母は俺に煮え湯を浴びせた」
しかし、不意に聞こえてきた轟の次の言葉で足を止めた。
(轟に何があったんだ…)
だが、振り返りたくなる気持ちを抑えて雨梟は再び歩き出した。
歩き去っていく雨梟の手は血が滲むほどに強く握られていた。
・
結局、遠回りして別のトイレに行った雨梟は昼飯を食べたあと、グラウンドに戻った。
すると…
「なんだありゃ?チア?応援合戦でもすんのか?」
A組の女子がチアの衣装を来て勢揃いしていた。
どうやら峰田と上鳴が騙した結果らしい。
「またお前か…峰田」
「し、志波!?い、いいじゃねえかよぉ!今くらい!」
「そ、そうだぜ志波!元気貰おうぜ?な?」
共犯の上鳴も必死だ。
「ふむ…一理あるな」
「「志波(さん)!?」」
志波の思いがけない言葉に耳郎と八百万が驚きの声をあげた。
「だろ!?似合ってるし、なんだかんだやる気だぜ?」
「だよな!?テンション上がるだろ!」
思わぬ援護を受けた峰田と上鳴は捲し立てるように言う。
「確かに似合ってはいる…」
「「へっ…!?///」」
「「だったら!」」
「だが…それとこれとは話は別だ。お前達が騙したことは事実だしな。お仕置きだ」
結局、そう言って2人にゲンコツを食らわせた。
「「いってぇ!!?」」
鉄拳制裁を実行した雨梟。
ちなみに、誰かは分からないが2人が顔を真っ赤にして頭から湯気を出していたのは内緒だ。
その後、レクリエーションを挟んで決勝戦が行われるらしい。
雨梟達が集められたのは先に組み合わせを決めるためだった。
「さぁ、組み合わせを決めるわよ!」
ミッドナイトが仕切って組み合わせを決めたのだが、途中で尾白とB組の庄田が棄権し、鉄哲と塩崎が繰り上げで決勝に行くことになった事以外はつつがなく決まった。
「俺の引きやべぇな!」
雨梟はそう言ってモニターに映っているトーナメント表を見ている。
1回戦から…
緑谷 心操
志波 瀬呂
上鳴 轟
飯田 発目
塩崎 青山
常闇 八百万
鉄哲 切島
爆豪 麗日
と言う組み合わせだ。
「マジでついてんな!」
この組み合わせで運が良いと言うのは雨梟くらいなモノだろうが、本人的にはご満悦みたいだ。
そして、組み合わせ決めを終えた後に、全員参加のレクリエーションを行い。
決勝戦の特設ステージが完成して遂に決勝戦が始まる。
『色々やってきましたが!!結局これだぜ!!ガチンコ勝負!!』
プレゼントマイクの実況で会場にも再び熱が伝わっていく。
ルールは単純で、相手を場外に落とす、行動不能にする、降参させる。
基本的にはこんな感じだ。
雨梟はと言うと、2回戦目なので控え室で精神統一をしていた。
「ふぅ~」
控え室にはもちろん雨梟しか居らず、備え付けのモニターから漏れる実況の音だけが響いている。
「………そろそろか」
数分がたった頃、雨梟はゆっくりと目を開き立ち上がった。
雨梟はモニターを見ていなかったが、フィールドでは今まさに緑谷が心操の『洗脳』を打ち破っていた。
「あぁーもうほんっとに…」
モニターから聞こえる緑谷の勝利宣言を聞きながら控え室を出る。
何の気の迷いもない、力強い歩みでフィールドへ向かう雨梟の顔には好戦的な笑みが浮かんでいた。
「滾るなぁ!!!」
フィールドへ続くゲートから光が漏れている。
実況の声も聞こえてくる。
『さぁ続いてはこいつらだ!!!』
雨梟は足を速め、一直線に進みフィールドへ降り立った。
『優秀!!優秀なのに拭いきれぬその地味さは何だ!ヒーロー科!瀬呂範太!!』
「ひでぇ」
『その戦いっぷりは多彩の一言に限る!コイツに出来ないことあんのかぁ!?同じくヒーロー科!志波雨梟!』
「ははっ!多彩なんて嬉しいねぇ!」
実況からの簡単な紹介を受けて早速…
『スタート!』
「さっきはチームだったが手加減しねぇぞ!瀬呂!」
「俺的にはしてくれるとありがたいけどな…」
雨梟は距離を保ったまま捩花を顕現させようとした。
しかし…
「水天逆巻け…うおっ!?」
「隙だらけだぜ!場外出して終わりだ!」
解号の途中で瀬呂が個性で雨梟を巻き取った。
『おおーっと!やらせる前に瀬呂の速攻!勝ち筋見えたかぁ!!?』
後は場外に出すだけと持ち上げた次の瞬間…
「くそっ!やっべぇ………なーんてな!破道の十一『綴雷電』!」
「俺の勝ちぃっ!?ちょっ、まっ…ああぁぁぁぁぁ!!!」
勝ちを確信した瀬呂にテープを通じて電流が流れた。
全部雨梟の掌の上だったようだ。
煙を上げながら倒れている瀬呂に歩いて近づいていく雨梟。
手には瀬呂のテープを掴んだままだ。
「ぐぅっ…え、演技…かよ…!」
「騙されたろ?…んで降参するか?」
手に持ったテープを見せながら言う雨梟。
やけに楽しそうな顔をしている。
「ひっ…!こ、降参!お、俺の負けだ!」
瀬呂は叫ぶようにして降参をした。
それを聞いたミッドナイトが雨梟の勝利宣言をして終わった。
「瀬呂くん降参!志波くん2回戦進出!」
『うーわっ。良い子には刺激が強いなコレ…ま、まぁ!気を取り直して次行くぜ!』
雨梟の鬼畜っぷりに若干引いているが取り敢えず進めるみたいだ。
雨梟は試合が終わった後は観客席の方に向かった。
・
「おーっす!」
「あっ!志波!お疲れ!」
観客席に到着した志波は近くにいた耳郎の隣に座った。
「おぅ!お疲れさん!試合はどうなった?」
「たった今、上鳴が轟に完封されたとこ!でも何か轟は変な雰囲気だったんだよね…」
「ほぉ…」
(アイツが見てるのは誰なんだ…)
「志波?」
「何でもねぇ。それよりも残念だったな耳郎は!俺は耳郎とも戦いたかったぜ!」
「あはは…それはまた次の機会ってことで!」
「ああ!約束な?」
「えっ!う、うん…///」
こう言う時の雨梟は本当に無邪気に笑う。
ある一部のと言うか2人には効果バツグンである。
その頃、フィールドでは飯田と発目の試合が始まっていた。
雨梟は耳郎との話をそこそこに、近くに緑谷を見つけそちらに移った。
「よぉ!デク!」
「志波くん…!次…だね」
デクは緊張した様子で雨梟に応じた。
そんな緑谷の背中を叩きながら楽しそうに言う雨梟。
「なーに緊張してんだ!楽しくやろうぜ!」
「う、うん!ありがとう!」
緑谷の緊張もいい具合にほぐれたようだ。
フィールドに目を向けると塩崎と青山の試合が塩崎の勝利で終わったようだ。
「次は常闇と八百万…どうなるか」
「常闇くんの個性は……………」
緑谷は自分の世界に入ってしまったようでぶつぶつと一人言を言いながらじっくり観察している。
いざ試合が始まると、一方的な展開が続き、八百万が場外負けと言う結果だった。
「一対一の純粋な戦闘だと常闇が一枚上手か…」
フィールドでは、俯きながら立ち尽くす八百万の姿。
「ちょっとトイレ行くわ」
「………………あっ、うん!」
一応一緒に見ていた緑谷に声をかけて席を立つ。
返事は期待していなかったが帰ってきたことに苦笑しながら歩き出した。
雨梟はただトイレに行くだけだ。
そこで誰かに会ったとしてもそれは偶然なのである。
・
「よぉ…八百万」
「…っ。志波…さん」
俯きながら前から歩いてくる八百万に声を掛ける雨梟。
顔をあげた八百万の目元は腫れている。
「どうしたよ。そんなにしょぼくれて」
「負けて…しまいました…」
心底悔しそうに言う八百万。
(勘違いしてるし…このままじゃ悪い方向に行っちまいそうだ)
「別に…負けることは悪いことじゃねぇよ」
「何を…」
「負けることが悪いんじゃねぇよ。…負けて立ち止まっちまうのが悪いんだ」
「立ち止まる…」
「おぅ。立ち止まってたらどんどん先に行っちまうかんな?」
「…ふふっ。それは…いけませんわね!」
少し吹っ切れた様子だ。
雨梟の出番はこれで終わり。
後は、本人の気持ち次第。
「んじゃ俺は控え室向かうな」
「はい!頑張ってくださいね!」
そう言って雨梟は歩き出し2人は別れた。
フィールドでは爆豪と麗日の試合が始まったみたいだ。
雨梟の出番はもうすぐだ。
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