死神のヒーローアカデミア   作:icy tail

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第17話

雨梟との試合を終えた轟は、自分の右手を見つめながら選手入場口を通り通路を歩いている。

ふと、人の気配を感じ顔を上げるとエンデヴァーが立っていた。

 

「来たか。試合の勝敗はまぁいいだろう」

 

「…」

 

「炎熱の操作…ベタ踏みでまだまだ危なっかしいもんだが、子どもじみた駄々を捨ててようやくお前は…」

 

エンデヴァーは轟が自分の個性をようやく受け入れたと、勝手に自分の良い方に考えているらしい。

だが…

 

「確かに、意固地になってたかもしれねえ」

 

「そうだ!だからこそ、卒業後は俺の元へ来い!俺が覇道を」

 

「あんたを否定するために、右側だけで俺の存在を証明しようとしてた」

 

轟が見ているのはエンデヴァーではない。

雨梟との試合ではっきりと思い出した、自分がヒーローを志した母との記憶。

 

「俺はあんたの思い通りにはならねぇよ。あの日、お母さんが言ってくれたように…俺は俺の信じるヒーローを目指す」

 

「…」

 

轟はそう言って、エンデヴァーの横を通り抜けて歩き始める。

エンデヴァーは信じられないと言った様子で振り返ることもせずただ立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨梟は轟との試合を終えた後、観客席の方には戻らずに控え室に向かった。

 

「ふぃ~。やっぱめちゃめちゃ燃費悪ぃな。維持できてあと…15秒ってとこか」

 

椅子に座り、大きく伸びをしながら独り言ちる。

制御ができないから仕方がないが、どうしても負荷がかかってしまう。

 

「決勝は…爆豪か!」

 

モニターでは爆豪が常闇を押さえつけるようにして跨がっている。

そして、常闇が降参したことにより爆豪の勝ちとなったようだ。

そうしてモニターを眺めていると、控え室のドアがノックされた。

 

「ん?どーぞ」

 

「志波!」

 

「志波さん!」

 

「よぉ。2人とも激励に来てくれたのか?」

 

入ってきたのは耳郎と八百万だった。

どうやら、決勝戦の前に激励に来てくれたようだ。

 

「もちろん!決勝戦だしね!」

 

「サンキューな!」

 

「いえ!それにしても、轟さんとの試合で見せたあの力…とても素晴らしかったです!」

 

「本当だよ!志波がすごいのは知ってたけど、あそこまでとは!って感じ!」

 

休憩時間を挟んでの決勝戦のため、少し時間があると言うこともあって3人は少しの間話をしていた。

すると話題は轟との試合中にあった会話についてになる。

 

「そういえば、試合中に轟と何か話してたけど、あれは何だったの?」

 

「あっ!私も気になってましたの!」

 

「んー。いや、実は試合の前に焦凍の過去のことを聞いちまってよ。ほっとけなくてな…お節介ってやつだ」

 

「へぇ………焦凍、ねぇ…」

 

(まさか、轟に…)

 

「そうでしたのね………焦凍、ですか…」

 

(先を越されてしまうとは…)

 

何となしに聞いた2人だったが、話そっちのけで雨梟が轟を名前で呼んだことに大きく反応していた。

2人はお互いに視線を合わした後、頷きあってから意を決したように口を開いた。

 

「う、雨梟!」

 

「う、雨梟さん!」

 

「うおっ!?急にどうした!?」

 

急に叫ぶように名前を呼ばれた雨梟は驚いて聞き返した。

すると、2人は示し合わせたように話し出す。

 

「い、いや~、せっかく仲良くなったんだし名前で呼ぶことくらい普通だよ!ね!百!」

 

「そ、そうですわね!響香さん!」

 

「それもそうだな…って、もう試合始まる時間じゃねぇか!」

 

「えっ!?ご、ごめん!」

 

「すみません!邪魔をしてしまって…」

 

気づけば結構な時間話し込んでいたようで、試合の時間が迫っていた。

雨梟は立ち上がり扉に向かう。

2人は大事な準備の時間を潰してしまったことに責任を感じて落ち込んでいるようだ。

だが、雨梟は気にした様子もなく笑いながら言った。

 

「いや、むしろ元気でたわ!ありがとな!響香、百!そんじゃ、勝ってくるぜ!」

 

「「っ!!!///」」

 

こうして雨梟はステージに向かって行った。

雨梟がいなくなった控え室にハイタッチの音が響いたとか響かなかったとか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校体育祭1年の部決勝戦。

会場のボルテージは最高潮だ。

 

『さァ!いよいよラスト!!雄英1年の頂点がここで決まる!!』

 

雨梟と爆豪はすでにステージで対峙しており、お互いに好戦的な笑みを浮かべている。

 

「来ると思ってたぜ、爆豪!」

 

「ったりめェだ!これでテメェをブッ殺す!そんで、俺がトップだ!」

 

「おーおー!随分と元気なこって!お前こそ、負けても泣くんじゃねぇぞ!」

 

雨梟は既に捩花を顕現させており、準備万端。

爆豪も入念にアップしてきたのだろう、全身に汗が浮かんでいる。

そして…

 

『決勝戦!志波 対 爆豪!今!スタート!!!』

 

決勝戦が始まった。

 

「捩花『嵐揮流』」

 

雨梟は開始の合図と共に、爆豪に突っ込んでいった。

どうやら近接を挑むらしい。

 

「ハッ!上等だァ!」

 

爆豪も爆破の力を利用して雨梟に迫る。

 

「行くぜ!『斬雨』!」

 

「んな攻撃が…」

 

先に仕掛けたのは雨梟。

水の刃を横なぎに振るう。

そんな単調な攻撃を爆豪が避けられない筈もなく、爆破の勢いを使って雨梟の頭上を越えて背後に回った。

 

「当たるなんて思ってねぇさ」

 

「っ!?」

 

だが、爆豪が雨梟の方に振り返ると、雨梟が手をこちらに向けていた。

その手には赤い火球が形成されてゆく。

 

「先手もらうぜ!破道の三十一『赤火砲』!」

 

雨梟の手から赤火砲が放たれ爆豪に迫る。

雨梟も、会場中の誰もが被弾すると思っていただろう。

しかし…

 

「…当ったるかッボケェ!」

 

「はぁ!?これ避けんのかよっ!?」

 

まさかの個性の微調整で赤火砲を躱し、なおかつ雨梟の目の前に迫ってきた。

そして、雨梟が防ぐ暇もなく爆豪のラッシュが見舞われた。

 

「オラオラオラオラァッ!死ねやッ!」

 

「ぐぁっ…っつぅ…!」

 

腕を十字にして踏ん張る雨梟にお構いなしで爆撃を食らわせる。

大きい一撃を放とうと爆豪が右手を振りかぶると、雨梟が一瞬の隙をついて左手を掴んだ。

 

「っハァ!こんなモンか…なんっ!?」

 

「っあ゛ー、痛ぇ痛ぇ。随分とまぁ派手にやってくれたもんだなぁ!」

 

雨梟は顔への攻撃を避けながらずっと大振りになるのを待っていたのだ。

そして、爆豪の右手の大振りを距離を詰めることにより避けた雨梟は爆豪の体に手を当てた。

 

「テメッ、放せやッ!」

 

たまらず暴れる爆豪。

だが、もう遅い。

雨梟は轟戦でも見せた、雷吼炮を放った。

 

「いやだね。これなら避けられねぇだろ?破道の六十三『雷吼炮』!」

 

「があぁっ…!!」

 

食らって勢い良くぶっ飛んだ爆豪。

なんとか勢いを殺して場外に落ちる前に着地した。

雨梟は爆豪が次の行動に移る前に既に動きだしている。

 

「君臨者よ 血肉の仮面」

 

「はぁっ…はぁっ!っざけやがって!オラァ!」

 

爆豪が顔を上げる頃には雨梟は何らかの鬼道の詠唱に入っていた。

爆豪は即座に雨梟に迫り攻撃するが…

 

「あァ?水…」

 

「万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 」

 

「ちぃっ!うざってェ!」

 

攻撃をすると水になって弾けた。

気がつくと背後から声が聞こえ振り返り様にもう一度攻撃を放つ。

だが、それも水でできた偽物だ。

少し頭を冷やし、改めてステージを見渡すと数人の雨梟が爆豪に構えながら詠唱をしていた。

 

「んなっ…!」

 

「 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ」

 

驚く爆豪をよそに、雨梟は詠唱を完了させた。

それと同時に数人いた雨梟が溶けるように消えていき本物一人が残る。

そして、爆豪に向かって高火力の鬼道を放った。

 

「破道の七十三『双蓮蒼火墜(そうれんそうかつい)』!」

 

「くそがッ!」

 

咄嗟に爆破による打消しを試みる爆豪だが…

 

「何のために詠唱したと思ってんだ!そんな中途半端な火力じゃあ打消せねぇよ!」

 

「っくしょォ…!ぐあぁっ…!」

 

対応が遅かったせいで、麗日戦ほどの火力が出せず爆豪の手元で暴発し吹っ飛んだ。

そして、雨梟は決着をつけるべく力を解放する。

 

「ふぅ。出し惜しみは無しだ……卍解」

 

「はぁっ…はぁっ!ンのヤロォ…っ!!?」

 

何とか体勢を立て直し、ステージを滑るように着地した爆豪は急に自身に降りかかった力の波動に勢い良く顔を上げた。

そして、雨梟が轟戦で見せた力を使ったと理解したのだろう、凶悪な笑みを浮かべている。

 

『捩花沁槍』

 

「やっと出しやがったな!待ってたぜェ!」

 

「あぁ、決着といこうぜ!」

 

「ハッ!ねじ伏せるッ!」

 

2人同時に地面を蹴り、今できる最高の技をぶつける。

爆豪は麗日戦で見せた最大火力に回転の力を加えて威力を底上げしている。

雨梟は緑谷戦で見せた打撃技にさらに炎の力を纏わせた。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!!」

 

蒼炎・海煌拳(そうえんかいおうけん)!!!」

 

お互いに万全の状態で放たれた技は、ぶつかり合い大きな爆発を起こし煙幕が上がる。

会場中がステージに注目しこの試合の勝者の姿を待つ。

そして、煙が晴れたそこに立っていたのは…

 

「おっしゃぁ!!!俺の勝ちだぜ!!!」

 

雨梟だった。

爆豪は場外、客席下の壁にぶっ飛び背中を預ける形で座り込んでいる。

勝利を決めた雨梟は右腕を高々と上げて叫ぶ。

それと同時に会場では割れんばかりの歓声が上がった。

 

『以上で全ての競技が終了!!今年度、雄英体育祭1年優勝は…A組 志波雨梟!!!』

 

鳴り止まぬ歓声の中、雨梟はゆっくりとした足取りで歩きだし爆豪の元へと向かった。

雨梟は座っている爆豪に手を差し出し言う。

 

「楽しかったぜ!『勝己』!またやろう!」

 

「………ちっ。次は負けねェ…水ヤロー」

 

「はぁ!?せめて名字で呼べよ!照れんなって!」

 

「黙れ殺すぞ!」

 

素直に手を取って立ち上がった爆豪は雨梟の横を通り抜けて歩きだした。

そして、2、3歩進んだ所で立ち止まり雨梟の方に振り返らずに声をかける。

 

「表彰式だろが。早く行くぞ…………『雨梟』」

 

それだけ言って、またすぐに歩きだした爆豪。

 

「おう!」

 

雨梟は嬉しそうに笑いながら後を追いかけた。

これにて雄英体育祭1年の部は終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てのプログラムが終わり、表彰式。

ミッドナイトが仕切り、4人の生徒が表彰台に登った。

メダルを贈呈するのは今年から教師として赴任したNo.1ヒーローのオールマイトだ。

 

「私が!メダルを持って来た!」

 

早速、メダル授与に移る。

まずは、3位の常闇。

 

「常闇少年おめでとう!強いな君は!」

 

「もったいないお言葉」

 

「ただ!相性差を覆すには個性に頼りっきりじゃダメだ!もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう」

 

「……御意」

 

続いて轟。

 

「轟少年おめでとう!」

 

「ありがとうございます」

 

「スッキリした顔をしてるね。気持ちの変化があったのかな」

 

「はい。雨梟が…俺の心にかかった霧を全部払ってくれました。ここから、ちゃんと全部清算して…まずは雨梟の背中を追いかけますよ」

 

「そうか。君たちは良い友人、ライバル関係になるだろうね!そのために、まずはしっかり気持ちに決着をつけなさい。今の君なら心配は要らないだろうしね」

 

「はい」

 

続いて準優勝の爆豪。

 

「爆豪少年おめでとう!」

 

「…あぁ」

 

「良い顔してるじゃないか!君も良い気持ちの変化があったのかな?」

 

「違ェよ。ただ…絶対に負けたくねェ奴が1人増えただけだ」

 

「ハハッ!そうかそうか!敗けを認めるられるのも1つの強さだよ!この世界に負けたことがない人なんていない!私だってそうだ!爆豪少年…君は、もっともっと強くなれる!その気持ちを忘れるなよ!」

 

「うす」

 

そして、最後に雨梟だ。

 

「志波少年!優勝おめでとう!見事な伏線回収だった!」

 

「ありがとうございます!」

 

「君には終始驚かされていたよ!ヒーローの素地、そして本質を理解し自分の力にしている!更に!君の強さには芯がある!ここが偉大なるヒーローの第一歩って所かな?これは私もうかうかしてられない!」

 

「ええ!まだまだ課題は山積みですけどね!いずれは、貴方をも越えて更に先へ行きます!」

 

「なんと頼もしい!将来が楽しみだぜ!チクショウ!」

 

こうして、オールマイトが雨梟の首にメダルを掛けて表彰式が終わった。

 

「さて!今回は彼らだった!だが、ここにいる全員がここに立つ可能性があった!次代の芽は確実に育っている!今日、この日が君たちヒーローの卵にとって大きな糧となるだろう!」

 

最後にオールマイトが全生徒へ語りかける。

皆がそれぞれ強い気持ちをもって挑んだ体育祭。

この悔しい気持ちが、苦い敗北が、飽くなき向上心が未来へのエネルギーになることだろう。

 

「てなわけで最後に一言!皆さんご唱和下さい!せーの…」

 

『プルスウル「お疲れ様でしたァ!」…トラ…』

 

最後にまさかの噛み合わないと言うなんとも閉まらない幕引きだが、これにて雄英高校体育祭は全プログラムを終了した。

 

 

 




技紹介

蒼炎・海煌拳(そうえんかいおうけん)

緑谷戦での海皇拳に卍解による威力の底上げと炎の力が上乗せされた打撃技



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