感染転生者の活動日記   作:ゆう31

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おかしい……予定なら7/31日には完成していた筈なのに……
という事で出来ました。
どうぞ。


『序章』

加速する──────

 

 

まるで最初からあったかのように私の思い通りにこの翼は空を羽ばたいて、空と同化する。

 

 

加速する──────

 

 

この力は有限で、本当は使っちゃいけないモノなんだろう、私が何故こんな姿になったのかは鉱石病によるモノだ。

 

だが、それ以外の要因がある事を私はチェルノボーグに来る前に知ってしまった。

 

 

加速する──────

 

 

いつかの日記に書こうと思った事だ。

私の母親はサンクタ族で父親は➖➖➖族だった、奇跡的に私は産まれたらしい、それを奴ら➖➖➖が目に付け、私を人体兵器として利用しようとした。

 

それに対して両親は二人共反対、幾たびの逃避行の末に流れ着いたあの場所は、たった数年の──────長い数年の平穏を両親に与えた。

 

それから直ぐだった、刹那の一時に母親が先に奴らに➖された、➖➖され➖➖され、人の悪意に満ちたそれは父親を狂わすには充分過ぎた。

 

それでも両親としての責務を父親は捨てられなかった、だから私を➖➖➖➖➖➖➖

 

そして『私』は、タルラと出会った。

 

……いや、もう一人いた気がする、でも彼女の名前は➖➖➖➖➖ない。

 

あれは誰だっただろうか?

 

 

加速する──────

 

 

加速して、そうして私は彼女が居る場所を認識した、低空飛行でレユニオンとウルサス帝国の争いの場とは離れながら飛んでいた。

 

私の存在を奴らに知らしめる為にも、羽を広げる必要があった。

 

 

───────────来た。

 

 

意識外からの攻撃を結晶を盾にする事で防ぐ、続け様に放たれたアーツの光線を結晶を展開して防ごうとして、急激に起きた痛みに私は空を飛ぶ力を失った。

 

落下していく、降下していく、下落していく。

 

翼を使って勢いを消して地面に降り立って、私を囲む様に奴らは現れた。

 

奴らは私を知っている(私は奴らを知っている)

 

ウルサス帝国でもない、我らが同胞でも勿論無い。

 

ではライン生命か?──────違う、ヴィクトリア王国の追手でも無い。

 

では何か?

 

それは深淵、知ってはならない者達だ。

 

黒い外套の奥に隠れた目と目が合う、無機質に私を見つめる奴らはまるで死神だ。

 

最も、私は死神などにくれてやる命は無い。

 

軋み続けるこの体を駆使して私は奴らに結晶の刃を展開する、全力で対処しなければ私はきっと➖➖される。

 

私の展開した刃は私に襲いかかる標的に対し、無慈悲に斬り裂きその生命活動を終わらせようと舞い踊る。

 

刃を掻い潜った者には空から降る氷柱の結晶をお見舞いし、それを打ち破った者には今度は予備動作も無く地面から結晶を生やして閉じ込める。

 

 

そうやってアーツを駆使して一人を無力化し、また一人無力化していき。

 

それでも減らないこの軍勢に私は溜息を付いた、そうまでして私に固執するのか、お前らにくれてやるモノなど一つもないと言うのに。

 

脱力していく体を引き締めて、私は視界に映る、否、視界以外の私の空間の構造を把握し、未だに加速的に成長するアーツを解放した。

 

 

全てを結晶に閉じ込めよう──────

 

 

周囲一帯を結晶化させる、生も無も全てが結晶に変わる。

 

ここに私と奴ら以外に存在していない事は確認済み、私のこの行動で無駄に命を減らす者も居ない。

 

これで私を止める者はいなくなった、翼を広げて空に羽ばたこうとした時、私の体から力が抜ける。

 

いいや、まだだ。

 

まだ私の体は動く、こんな所で寝てられるか。

 

地面に倒れそうになる体をなんとか繋ぎ止めようとするが、私の意思に反して体はそのまま地面に倒れようとしてしまう。

 

ダメだ、くそ、このままじゃ……

 

「辛そうね」

 

──────声がした。

 

反応する前に、体を誰かに支えられた。

 

「そんなになってまで、何処に行きたいのかしら?」

 

この挑戦的な口調が当てはまる人物は一人しかいない。

 

─────────── W!

 

「暫くぶり、ミラー。随分とイメチェンしたわね」

 

あ、あぁ、似合ってるかなW

 

「いいえ、全然?」

 

転生者の知識で彼女がチェルノボーグにいる事は知っていた、だけど全部が全部知識通りに事が進むとは限らない、あの一件以降連絡すら付かなかったから、もしかしたらもう会えないんじゃないかと思ってしまった。

 

だから驚いた、Wに助けられるなんて、何で私を?

 

「何故って?……はあ、何故かしらね」

 

な、何だろう。

 

今物凄くバカにされた気がする。

 

「バカよ、本当にバカ、そんなにボロボロになって、死んだらどうするの?死んでいいと思ってるの?私は……」

 

その続きはWは言わなかった、彼女の顔を見ようと思って、顔を背けていて表情を確認出来ない。

 

私は死ぬつもりなんてない、それにほら、まだ体は動くし、翼だって生えた。この体が動かなくなっても飛ぶ事が出来るようになったんだ。

 

私はまだ限界なんかじゃない、それにやるべき事をやらないで私は死なない。

 

「っ……そう、もう良いわよ。言っても聞かなそうだし」

 

Wは私をおぶって走り出す、その方向が私の目指している場所だという事に嬉しくなった、私が何処に行きたいかも分かっているWに申し訳ないと思いながらも、体を委ねる。

 

「前からそうだけど、貴女()他人に頼る事を全然しないわよね、そういう所、時が時なら本当に嫌いになりそう」

 

ご、ごめんW……でもこれはきっと私にしか出来ない事なんだ、だから。

 

「うるさい」

 

私は黙ることにした。

 

怒られるのは慣れてない、というかこんなに怒っているWは初めてだ、少し、いやかなりこわい。

 

「はぁ……なんで貴女に➖➖➖➖の影を見るんだか」

 

その名は、確か──────

 

「ミラー、貴女はアイツ(タルラ)に会ってどうするのよ」

 

どうする?決まってる、目を覚まさせるんだ、レユニオン・ムーブメントを導く本来の指導者としての彼女を取り戻す。

 

彼女は誰かの下に着いていい人なんかじゃない、その意思は誰にも濁らせない、私の親友はそんな場所に留まるような人じゃない。

 

私は彼女に全て話す、その上で彼女を止める、ウルサス帝国の良いようにはさせない。

 

「その為なら自分の命も使って良い、そう思ってるんでしょう」

 

 

そんな事は、ないよ。

 

 

「貴女、嘘は苦手ね……わかってる?アイツが何より気にしているのはミラー、貴女の命なのよ」

 

それは……分かってる。

 

だからこそ、鉱石病をどうにかする為にもレユニオン・ムーブメントは正しい感染者の位置に到達しなければ、間違ってはダメなんだ、私達を狂わした全ての元凶は鉱石病なんだから。

 

そしてそれは絶対に解決出来る未来な筈なんだ、レユニオンがロドスと手を組み合って、そして他の国や企業とも……いや一部はどうしようもなくダメだが、手を取り合えば、必ず治すきっかけが出来る。

 

私はそう信じた、彼らと出会ってそれは尚強くそう思えた。

 

「……そう、まあ。貴女を止める事は私はしない」

 

ありがとう、W。

 

「別に?」

 

それから会話は生まれなかった、でもそれは決して悪い事とかではなく、もう私とWは話終えたのだ、後は私は進むだけで、Wはそれを分かってくれた。

 

そうして進み続けて、そうしてようやくたどり着いた。

 

「体は動くわね?」

 

うん、もう大丈夫だ。

 

Wは私を下ろして、すぐにその場を後にした。他にやる事があるのだろう、彼女は彼女の意思で進み、その人生を全うとしている。

 

それを少しだけ、その足を止めて私を助けてくれた事に、私は返しきれない恩をWに返さないといけないな……だからやっぱり、私は死ねないし、死ぬつもりなんてない。

 

私は一度➖だ身かもしれない、この転生者の知識は私にこの世界の出来事を教えてくれただけで、それ以外の事は殆ど教えてくれなかった。

 

私は歪だ、しっかりそれを自覚している。

 

この世界は歪だ、身を以てそれを実感した。

 

 

でも、人は、彼等は、生ある者は────────

 

 

相対する彼女を見据えて、私はその足を動かした。

 

それは彼女も全く同じで、自然と私たちは互いに手の届く距離まで移動した。

 

ゴシックドレスのような黒を基調とした服装は、今ではタルラを象徴する服装になっている、銀色に輝く髪色と相まってとても良く似合っていた。

 

彼女と向き合い、決意を宿した瞳を見てまるで私がここに来る事を予知していたかのように、その瞳が輝いていた。

 

もう、何度目だろう、君とこうやって話すのは。

 

いつまでそうしていただろうか、この空間の沈黙を最初に破ったのは私だった。

 

 

 

さぁ───────────話し合おう、タルラ。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

初めて会った時、彼女は感情が気薄だった、今から死ににいくような全てを諦めた目をしていた。

 

それがいつに間にか……鉱石病を患ったあの日から『決意』を宿した瞳に変わっていた、表情はまるで変わらないのに、どこか感情豊かになっていった。

 

彼女と関わる事を辞めなかった私は当然のように私自身も感染者になった、それが何故か➖➖かった。

 

彼女と逃避行を繰り返して、最終的にレユニオンで互いに手を取り合い、私はレユニオンの指導者になった。

 

本当は彼女こそが相応しいと思ってその席を彼女に渡そうとした時がある、その時彼女は首を横に振って「私は指導者じゃない」と言った。

 

最初は彼女が言うならそうなんだろうと納得した、だが指導者になり、レユニオンをどう動かすのか、この先を見据えて動き続けて。

 

ある一件の出来事をきっかけに私はそれ以降彼女と衝突する事が多くなった、その度に「正しい」彼女と衝突して、やっぱり私ではない、彼女こそがレユニオンの指導者なのだと強く思い始めた。

 

段々とレユニオンの”彼ら“は私ではなく彼女を支えとして、その在り方を変えていった、怒りの矛先は徐々に鉱石病へと変化した。

 

それは彼女がそうだから、彼らも次第にそうなっていったのだ。

 

私も鉱石病への恨みはある。

 

だがそれ以上に彼女を迫害した”奴ら“を許せない、居場所を奪った奴らを生かしてはおけない。

 

そうしていた私の決意は、ある日をきっかけに変わった。

 

彼女が私の前で意識を失った時がある、彼女と行動を共にする事の多い部隊の者達は、脈絡も無くこうして倒れることが多いと言った。

 

初めてだった、今まで一度もそんな素振りを見せた事すらなかった、彼女の“弱さ”を私は従前に理解していなかったのだ。

 

それから直ぐに彼女の体が➖➖の➖➖➖➖に➖➖

 

語りたくもない。

 

その彼女を見て、私は鉱石病を恨むようになった。

 

彼女を失うのは耐えられない。

 

彼女が居ない世界に最早意味なんてない、➖➖➖しまう前に私はどうにかしようと持てる全ての知識を使った。

 

知識を使ってもダメなら、行動で示した。

 

そして彼女を生かす方法を見つけた、その為に払う代償は大きく多かったが、どうでも良かった。

 

彼女さえ生きてくれれば良い。

 

ミラーさえ、私の隣に居てくれれば……私はこの世界で生きられる。

 

……なあ、ミラー、君は今何を思っている?

 

目の前の彼女は片目を眼帯で隠し、輪っかに羽と、まるでサンクタ族のようだ。

 

その姿を見て、様々な感情が浮かび上がった。

 

ウルサス帝国に囚われていた事が嘘だった事に対する安堵。

 

先ほど、とある一帯が結晶になったのを知って、アーツを使った事に対する怒り。

 

そもそも何でここに居るのかに対する疑問。

 

ああ、でも何より。

 

「体は……平気か……?」

 

私が真っ先にしたのは心配だった。

 

「平気だよ、タルラ」

 

平気?何処が平気なんだ、刻一刻と君は鉱石病が進行しているのに、本当は立っているだけで辛いんだろう、なのに平気なんて口にする。

 

その笑顔が私は嫌いなんだ。

 

私を安心させようとする顔が。

 

きっと君は平気なんだろう、自分がどれだけ傷付いていようが、➖➖ていようが、止まる事をしない限り、平気なんだろう。

 

そんな君が───────

 

「タルラ、このチェルノボーグを制圧した後に君はどうするんだ」

 

「決まってる、チェルノボーグを制圧して、龍門にぶつける、ウルサス帝国は龍門との戦争がしたいらしいからな、その土俵を作ってやる……それから、やっと君を治す事が出来る」

 

そう私が言うと、ミラーは瞳を閉じて首を横に振った、ゆっくりと開いた瞳には、悲しさが宿っていた。

 

「それじゃだめだ、いいように使われてるだけだ、違うだろ。君は、タルラは誰かに使われていい器じゃない筈だ……もう、分かってるだろ。そんな事をしても意味なんかないんだよ」

 

「意味がない?違う、意味ならある、君を治す手筈が出来る、その忌々しい鉱石病から解放させられるんだ」

 

「それは違う、君を騙してるだけだ、第一その約束を保証するような奴らじゃない」

 

「なら君をどうやって助ける……?君は死なないと言うが今にも……私はミラー、君に死んで欲しくないだけなんだ」

 

「私は死なないよ、その未来をこれから全員で力を合わせて手に入れるんだ、私の信じたモノは確実に成し遂げてくれる、私はそれを待つだけで良い」

 

「……平行線だな、何を言っても納得してくれない」

 

「タルラだってそうじゃないか」

 

当たり前だ、私は君に時間がない事を知っている、時間がないのにそれを待つなんて出来る筈がない、明日死ぬかもわからないような状況で、不確かな未来を掴むよりは。

 

私は確実な未来を掴む。

 

「言っても聞かないなら……少し寝ていてくれ、ミラー」

 

「目覚めさせてやるタルラ、この頑固者────ッ!」

 

「頑固者はどっちだ──────ッ!」

 

互いのアーツがぶつかり衝突し、反発し合う。

 

これじゃあ本末転倒だ、互いに寿命を削って、不毛な争いだ。

 

ではこんな争いは無意味なのか?

 

違う、意味ならある。

 

彼女は眠らせない限りその動きを止める事は出来そうにない、もう何度も話し合った、その度平行線を辿った私達がこうなる事は、決まっていた事なのかもしれない。

 

私は初めてミラーと交差する。

 

予備動作のない結晶の生成は確かに見切り難いが、それだけだ、私のアーツで溶かせる。

 

銃弾も全て溶かしてしまえばば良い、彼女の懐に入り、刀の柄で意識を刈り取ろうとした時、風圧が私とミラーの距離を離した。

 

ミラーに生えているあの翼が厄介だ、再度動こうとして、両足が結晶に閉じ込められている事に気付いた。

 

両足の結晶を溶かせば今度は腕、腕を溶かせば次は全身。それも溶かして次の結晶を発生させる前に脱出し、足をバネの様に使って一気に加速する。

 

この速さにはついて来れないだろう、ミラーの目の前に瞬時に飛翔する。

 

ミラー……寝ててくれ。

 

意識を飛ばそうと手刀をする刹那、ミラーと私は目が合った。

 

瞬間ミラーは私の手刀を紙一重で避けた後に、私を押し倒して私の両手足を地面とくっつける様に結晶を発生させる。

 

私は融解しようとアーツを発動しようとして……やめた。

 

「もう、良いでしょう、タルラ」

 

「負けた、か」

 

「違う、最初から本気で戦ってないのなんて分かってた、本気を出せば私は簡単に倒れてしまう、タルラはそれを分かってたんだろ」

 

その通りだな、勝つのは出来た、簡単では無いが私のアーツを最大限に利用すれば、彼女の命を引き換えにこの戦いに勝利を刻めた。

 

生かしたいと願っている人物にそんな事ができる筈がない。

 

互いに生かし合う戦い方で、彼女に上を行かれただけの話だった。

 

「ミラー……私は間違っているか、君を救いたいと、一人の親友を死なせたくないと思う事は間違いなのか」

 

「間違いじゃない、でもタルラ一人じゃ治せない、だから周りと協力し合って、手を取り合って、そうやって見つけていくしかないんだ」

 

「……本当に、それは君が死ぬ前に出来る事なのか?」

 

「出来るよ、私は君を置いて死なない。絶対に」

 

私はそう言う彼女の決意を宿した目を見て、本当に私を残して死ぬつもりは無いことを悟った。

 

いや、ずっと前からそれは変わらない、死ぬつもりなんて最初から無いのは分かってる、解ってたんだよ。

 

その強い意志を持つ黄昏色の瞳は昔から色褪せる事無く、人の目を焦がし続ける。

「なら約束してくれミラー、私を置いていくな」

 

「約束するよ、タルラ」

 

ミラーは結晶を解除して私を自由にさせる、座り合って、互いに小指を絡ませてゆびきりをした。

 

見合わせた私たちは、何だかおかしくなって笑った。

 

「何でこんなに拗れてしまったんだろうな……」

 

「それは、タルラが頑固だからだよ」

 

「違うな、君が頑固だからだ」

 

「むっ」

 

抗議する様な目で私を見るがミラーは頑固だ、一度決めたことを簡単に曲げない、私も簡単に曲げないがミラーはそれ以上だ。

 

一度も自分の考えを曲げた事は無かった、根底にある考えを今も尚貫いている、その在り方に私だけじゃ無い、同胞全てが……いや、言葉にしなくても良い事か。

 

「ミラー、レユニオンはこのままチェルノボーグを占領する」

 

「……次は?」

 

「このチェルノボーグを占領し、ウルサス帝国と『交渉』しよう、互いの生殺与奪を掛けた話し合いだ、感染者を代表する者として、奴等に選ばせてやる」

 

「そっか……分かった、君を信じる(・・・・・)

 

帝国だけじゃ無い、他の問題も山積みだ、全く……私を指導者にしたのは➖➖だな。

 

そうと決まればと立ち上がり、ミラーの手を取る、そのままミラーも立ち上がった後に、私の方に倒れかかったのを受け止めた。

 

「ミラー……ッ」

 

「流石に疲れたかな……もう動けそうにない」

 

軽い。

 

受け止めた彼女はあまりにも生物としての➖➖をしていない、それが何を意味するのか私が理解出来ない程察しの悪さをしていない。

 

「そんな顔して見ないでくれよタルラ、私は……」

 

「わかってる、わかってるさ……だからもう、眠って良い」

 

ふと、灰色混じりの黒かった髪色が一部変色していた、橙色のような、いやそれよりも暗く、存在感のある、夕焼けを感じさせる色に変わっていく。

 

それと共に翼が消え、末期の鉱石病者が見せる滲出性の原石結晶が形を潜めた。

 

いやそんな、まさか──────

 

今、私の表情は➖➖しているだろう、➖➖の➖➖は、➖を➖➖する。

 

「ミラー、後は任せて、休んでくれ」

 

私がそう言うと、彼女は昔の呼び方で私の名前を呟いた後に、その目蓋を閉じた。

 

彼女を抱えて、空を見る。

 

もうじき始まる、その前に彼女を安全な所に連れて行く必要があるが……ふと、私とミラー以外の存在に気付いた。

 

「何故……いや、良い。お前なら預かれる」

 

猫とは気紛れなモノだと認識していたが、どうやら受けた恩に報いる猫らしい。

 

彼女にミラーを預け、私は再度、目を閉じ、決意する。

 

 

舞台の幕引きの時間だ。

 

長い、長かった『序章』を終わらそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────それから、全てが終わった(始まった)

 

 

 

彼女の知識で起こるはずの戦いは➖➖し。

 

 

 

彼女の知識で消えるはずの者達は➖➖し。

 

 

 

彼女の知識で救われない出来事は➖➖し。

 

 

 

彼女の➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖し。

 

 

 

そうして世界を巻き込んだ一人の➖➖は。

 

 

たった一つの日記となって存在している。

 

 

これが彼女から渡された一人の物語、その序章だ。

 

 

ため息を一つ、珈琲を飲もうとカップを手に取り、中身が無い事に気付く、それから時計を見れば随分と時間の経っていたようで、やっとの思いで手に入れた休日が残り僅かで終わってしまう事を意味していた。

 

また理性回復剤を多用する日々が始まるのか。

 

嫌だなあ、つらいがんばろう。

 

そういえば、そろそろ約束の時間か、忘れていたわけでは無いが、つい夢中になってしまった。

 

日記を厳重に保管して、自分の部屋を後にする。

 

 

歩く。

 

───────────誰かに命を狙われたような……嗤われた気がした。

 

歩く。

 

───────────白い兎と黒い兎が談笑しているのを見かけた。

 

歩く。

 

───────────あれは、確か……あの時の。

 

そして、止まる。

 

───────────そうして。

 

 

扉をノックした後に、部屋に入った。

 

 

優雅に、毅然としていた➖➖と、目が合った。

 

 

さあ、これから(この先)を始めよう。

 

 

 

 

「やぁ、ドクター」

 




それは始まりに過ぎなかった、だがそれは長く、奇跡の様な道の上で辿り着いた始まりだった。
これから先の事も彼女は書き続けるだろう、記録として、一つの媒体に残していくだろう。

終りゆく、その時まで。

と、いう事で一応本編終了です、未回収の伏線はそのまま謎なので考察なりしてくれたら嬉しいゾ。
当初はBADENDで終わる気だったけどやっぱ書くと愛着湧くよね。

気が向いた時に短編集とか、別視点とか、IFとか。えとせとら。
そして、感想評価、誤字報告ここすき等々ありがとうございました!ちゃんとモチベが続いたのは7割ぐらい読者の皆のお陰です。
い駆け足気味だったけど完結出来たの初めてでした。

長くなりましたが、これにて!読了ありがとうございました。

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