□月□日 晴れ
やったぞ、私はやったんだ……!
私は遂にやった、レユニオンに『米』を輸入する事に成功した。
遂に東国食の文化を自ら学び、信頼を勝ち取り、『米職人』に認められ……やっと、輸入する事に成功したのだ。
実にここまで長かったが、それに見合う成果を得られたと自負している、ここ数ヶ月の未来が見えるぞ。
レユニオンの同胞が数ヶ月『米』の魅力に取り憑かれ、三食全てが米になる未来が。
米は美味い、何にでも合う……いや流石に、ケーキやパンなどには合ったもんじゃないが。
しかし、東国は食文化が遥かに進んでいて非常に面白い国だった、もちろん密入国だが。
けれども米職人……いや師匠には私が感染者である事は直ぐ様見抜かれ、だが私が『米』に対して真剣なのを察し、私を『米職人』の後継者として育ててくれた。
師匠、私は米文化をレユニオンで成功させ、他国、企業にも繁栄させる事を約束します───────────!
ふふ、最高の気分だ。
やはり美味しいご飯を食べる幸せは何物にも変えがたい幸福だ。
□月◯日 晴れ
どうやら聞いた話によるとアビサルには『刺身』と言う文化があるらしい、曰く海に生息する生物を、生で食す文化らしい。
生で食べるなど、怖い文化だ……残酷だ。
しかし味はとても良いらしく、鮮度が良いと天に登る程だと。
アビサル、何れ行こう。
□月×日 雨
二度目の暗殺を受けた。
私が一人になる所を狙った計画的犯行、姿格好もまばらな事から金で集められた殺し屋だろう、恐らくライン生命からの依頼だろうが、粗末なモノだった、アーツを使うどころか本気を出すまでもなかった。
それが狙いだったのだろう、不意に現れた殺意を背後に感じ間一髪で致命の一撃を避ける、そうして振り向けば、もうそこに人がいた形跡さえ掴めなかった。
次に感じた殺気に今度は躱しきれず左腕が掠れた、掠れただけだと言うのにその衝撃は私に浅くないダメージを与えた。
次は直撃する。
そう確信のような第六感が働き、私は封印していたアーツを解放する、私を中心にして一瞬で周りに結晶を作り出す。
私のアーツに予備動作は必要としない、随分前から視界外に結晶を作る事も容易になった、だというのにその暗殺者は結晶の中に閉じ込められる事もなく、軽傷程度で済んでいた。
その暗殺者には見覚えがあった、この戦闘能力、まるでステルスのような認識の“ズレ”を起こす能力。
私の転生者としての知識を総動員させ、特定した。
あぁ確かこの少女は、ロドス・アイランド着任以前、指定対象の排除に従事していたことから、前職は殺し屋だったと推測されていたな。
潜伏や侵入、敵陣営への奇襲を得意とする人物、マンティコア。
まさかこの少女が殺し屋として私の前に立ちはだかるとは、どうしたものか……この実力、無力化するのは容易では無い。
私がアーツを使うか、彼女が気配を遮断するのが先か?
睨み合い、均衡した所で先に動いたのは私だ。
二丁のサブマシンガンをフルオートで放つ、直ぐ様その位置から消えるマンティコアだが、気配を消してもそこにいない訳では無い、私の周りに具現化している結晶は鏡のようにそこに居る人物を写す。
環境を作り出した私の勝ちだ、何れロドスのオペレーターになり、活躍するだろう、だが無傷で無力化出来る相手ではない、両足を撃ち抜きその機動力を潰す。
苦悶の表情を浮かべた彼女に心が痛むが、手を抜いて私が殺されるなど目も当てられない、申し訳ないがここで寝ていて貰う。
結晶を霧散させ、マンティコアに近付く、何処か怯えた様な表情を浮かべる彼女には私がどう写っているだろうか?
「殺しはしないよ」と言ったが更に怯えてしまった、あわよくばレユニオンで保護しようと思ったがそれは難しそうだ、素早く彼女を気絶させる。
このまま放置するのは少し危険だと感じ、彼女をおぶって危険とは無縁の所に寝かせる事にした。
しかし、とんでもない暗殺技術、殺し屋としての腕前だった、もし最初の一撃をまともに受けていたらそこで私の生命活動は終了していたかもしれない。
今後もこれ程の実力者に狙われる事があると仮定して慎重に行動した方がいいだろう、まだ死ぬ訳にはいかない、為さなければならない事を終わらせる、その時まで私は歩みを止めるつもりは無い。
レユニオンで私の護衛が出来る人物、か。
どうしたものか。
□月☆日 曇り
昨日は騒がしく賑やかな夜を過ごした。
クリスタルレンズの皆と食事をしていた所、フロストノヴァとスノーデビル小隊の隊員達がレユニオンに帰ってきたようで、自然と大宴会になった。
クリスタルレンズの彼、彼女達は私と同じ隊員以外にあまり関わりを持たない、これを機に絆の繋がりを増やしてくれると私は嬉しい。
まあ、スノーデビル小隊の隊員達は皆良い子達なのでそれ程心配していなかったりするが、最終的には仲良く肩を組み交わして酒を飲んでいたので、私は嬉しくなった。
その光景を酒のつまみにしながら飲んでいたら酔ってきた、「ミラー姉さんが酔う前に二軒目いこうぜ!」とか言っているスノーデビルの隊員には後でお仕置きをするとしよう。
フロストノヴァもいつもよりペースが早い、どこと無く彼女に熱を感じた。
気付けばクリスタルレンズ&スノーデビル連合達は二軒目に向かい、フロストノヴァが私の相手をしてくれるようだ。
「二人で飲むのは……あの日以来か?」と言われたのでどの日だろうと考えてみる、たぶん日記にも書いた私の自宅で飲んだ時だろうか?
と言うと、そうだと言うのでそれがどうかしたかと聞いてみる、特に深い理由で呟いた訳では無いようで、そうかと返し酒を飲む。
……ん?これは酒では無い、お水だ。
「それ以上は体にも悪い」というがそれは本心では無いだろう、まさかフロストノヴァにも酔っ払った私は面倒くさいと思われていたのか?
ショックだ、かなしい。
「面倒では無いが……ああいや、やっぱり面倒くさいな」
うう、そうなのか、そこまで言われる程酒癖が悪いのか私は、自覚している以上に厄介なタチらしい。
(段々と文字が砕けている、どうやら酔いが回ったようだ)
□月★日 たぶんくもり。
あたまいたい。
ふつかよい、ねる。
あれ?フロストノヴァいる、なんで?
ねてていい?じゃあねる。
□月▲日 晴れ
恥ずかしい、フロストノヴァには悪い事をした、反省はしているがフロストノヴァに介抱されるのはこれが初めてでは無い。
きっとまたやると言うと「素直なのは良い事だ、ミラーの世話をするのも悪くない」と言われたので、素直に甘える事にしよう、うん。
フロストノヴァは次の任務が下されるまでレユニオンに滞在しているらしい、休暇とも言うべきだろう、存分に堪能して欲しい。
良い機会だ、改めて今現状のレユニオン・ムーブメントの幹部達の動きをまとめてみよう。
パトリオットは“やるべき事”をすると告げ、Wはあの日からあまり連絡が取れなくなり、フロストノヴァはレユニオンに滞在。
メフィストとファウストはタルラに色々任されているようで、その内容は私には知らされていない、少し不満に思うが私が知らなくても良い事なのだろう、そう思う事にする。
スカルシュレッダーはパトリオットと行動する事が多かったが、今はパトリオットが居ないので私が依頼を回している、というか『米』の輸入を一任している。
その事に対して文句を言われたので米の味を覚えさせた、するとスカルシュレッダーとその部下達は意欲的に仕事をするようになった。
ふふん、米の魅力に取り憑かれたな。
クラウンスレイヤーは基本単独行動、タルラからの直接的な指示が主だが、私もたまに頼む事がある。今はレユニオンに居ないが、何処にいるだろうか。
では私はというとタルラがレユニオンに戻るまでの代行役、時に一人で実地調査や他国、他企業との外交などが主だ。
幹部ではないが、ヘイズは私の家の管理を主にしてくれている、つまりは自宅警備員、ニート猫。
……甘やかし過ぎたな。
ヘイズをいつまでもそうしているのは中々勿体無いので、私の護衛役にしようと思う。
気怠そうに「いいよぉ〜」と言って布団の中に埋もれるヘイズ。
こ、こやつめ……
□月◇日 曇り
朝起きて鏡を見ると、左の目の色が変わっていた。
元々黄昏色の目をしていた私だが、今では黒い……まるでオリジニウムの様な色になっている。
鉱石病が進行したのだろう、腕や脚などの見える場所に影響していなくて良かった、色が変わったからと言って視界が変わっている訳じゃない。
私は大丈夫だ。
□月◆日 豪雨
遂にこの日が来た。
ロドスの最高幹部の一人であり、医療部門の総責任者。アーミヤの主治医であり、指導者。
ケルシーだ、私が最も会いたかった人物の一人に出会えた。
護衛のレッドはもう居るのか、クラウンスレイヤーに近接戦で圧倒できる実力、まず勝ち目は無いが私は戦うつもりは無い。
「レユニオン・ムーブメントのNo2がどうして此処にいる?」とケルシーは言うが、本当に偶然だ。
依然として警戒は解かれず、私との距離は一定を保っている、何故そんなにも警戒する?私たちレユニオンとロドスの行動概念は概ね一緒の筈だ。
「それだ」
「我々は、いやロドスは表向きには製薬会社だ、確かに裏では感染者を保護している、鉱石病の研究もしている、今ではその裏を知る者も多くなった」
「時に、ドクターが珍しく妙に饒舌に語った時がある、その時ロドス・アイランドは無名であり、実績の一つも公表したことすら無い」
「ミラー……何故その無名のロドスをさも“前々から知っている“ように話していた?英雄の片割れ、『結晶世界』と評されるレユニオン・ムーブメントのNo2」
─────────────お前は何者だ?
敵意、背後の左側から来る狼の影を紙一重で回避する、待ってくれと静止する間もなく目の前に急接近してくる蹴りに両腕で防ぎ、衝動から私の体は簡単に吹っ飛んだ。
まずい、私の転生者としての知識が仇になった、こうなるなんて思ってもいなかった。殺すような一撃ではなかったので、恐らく拘束し、目的や正体を探るつもりなのだろう、ここは……敢えて捕まるか?
思考がブレたその瞬間、私は深淵の➖➖➖を見た。
なんだこれは、いや確かこれは『Mon3tr』……この謎の生物から明確な殺意を感じ取った。
私を殺す気か?ケルシー。そこまで私が信頼出来ないか、信用できないか?
アーツを使う、瞬間『Mon3tr』は一瞬で結晶の作品の一つに変わる、続け様に私は目を見開いているケルシーに加速した。
今までで出した事のない速度に今度は私が驚いた、こんな力今までなかった、まさか身体能力も上がったのか?
いや、今自分の体を考察している場合じゃない、レッドが間に入ろうとする前に私とケルシー以外の全方向に壁を生成し、かまくらの形のように結晶を形成する。
これで私と彼女以外この空間には存在しないし、存在させない。
「私をどうするつもりだ?」と聞いてくるケルシーにどうもしないと返す。
私は殺し合いをしたい訳じゃない、ケルシー、あなたと話したかっただけなんだ、今回は本当に偶々、運が巡り合っただけだ。
暫く見つめあい静寂した空間は、ケルシーの言葉でその静寂が破れられた。
「気付いているか?その背中にあるソレを」
……ああ。
この羽の様なものはやはり私の幻ではなかったのか、頭の輪っかも相まってまるで天使か……それとも悪魔か。
自分の体に起きている変化にケルシーは何か知っているのかと聞いてみる、自分の体について何も知らないのか?と逆に問われて、私は何も知らない事を話すとケルシーは片目を閉じて、言葉を放つ。
容姿の変貌、それがアーツによるものならそれは鉱石病の影響だ、だが私のソレは”人工的にオリジニウムを投与した研究の一つ“だとケルシーは語る、思い当たるプロジェクトがあるとケルシーは語って、私は不思議とソレを受け入れられた。
鉱石病になる前の記憶の殆どが欠落している、そのプロジェクトは実験体の死亡で失敗したと聞いているとケルシーは言うが、きっとそこで私の精神は一度死んだのだろう。
体の防衛本能によるものなのか、それとも奇跡でも起きたのか、私は奥底に眠る“ナニカ”を引っ張って『ソレ』を体に定着させた。
それが転生者の私であり、本来この世界に存在すら許されない人物なのだと、推察する。
私は転生者である事を、自分自身を話した、到底眉唾だとケルシーは言うが、私に取ってはこれが真実だ。
「……その目に嘘が無いのは分かった、だが信用も信頼もしない」
それで良いよ。
でも私達の目的は同じのはずだ、合致してる筈だ、それはケルシーもわかってるだろ?
そう言うとケルシーは深く溜息を付き、どの道負けた身だと言うと何が目的だと私の意図を伺う。
私は彼女の目を見て、しっかりと言葉を告げた。
──────レユニオンと同盟を結ばないか?
ケルシーは僅かに驚いた様子で、直ぐに無表情で考える様に視線を下げる。
いつまでそうしていただろうか、ケルシーは私の顔を見て、次に手を出した。私に握手を求めてきたのだ、これがどういう事を意味するのかわからない私では無い。
「私はお前を信用しない、だがお前の考えには賛同しよう」
そう言われたので、私は笑って同じことを言った。
するとケルシーは皮肉げに笑う、やっと……この未来に辿り着いた。あとはタルラが帰ってきた時に改めて話さなければ、ケルシーも同じ様で他のロドスのメンバー達、特にドクターとアーミヤに話さなければと言う。
結晶を全て霧散させる、するとレッドが直ぐ様敵意を見せたが、私とケルシーが握手をしているのを見て呆気に取られていた。
それを少し面白く感じて、瞬時に急激に来る痛みに思わず意識を失いかけるが、ここで倒れる訳にもいかない。なんとか意識を保つ。
ケルシーは冷静に私の体を観察して、羽の生えていた両肩に鉱石結晶が表面化している事を告げた、その目は何処か……私を信用しないと言った割には、心配している様に見えた。
大丈夫だ、痛むだけでそれ以外の事はない、何より両足が動き、両腕が動く、五体が動くならさしたる問題はない、レユニオンのメンバー達には見せられないが……そうだな、次からローブを纏うことにしよう。
また会おうケルシー先生、次はもっとちゃんとした所で。
さて。
ヘイズめ、何処に行ったんだ?
◆月☆日 雨
タルラが帰ってきた。
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am.0:50 曇り レユニオン・ムーブメント
彼ら、或いは彼女らの日常
互いの隊長を置いて、私達クリスタルレンズとフロストノヴァさんの小隊、スノーデビルの方々の殆どは二次会に来ていた。
私はあまり人と話をするのは苦手だけど、彼らと話すのは確かに楽しい、人見知りな私でも二次会に行く事に拒否感は無かった。
「ァ〜!酒がウメェ〜!これもこの米って奴が美味いからっすねぇ!」
そう言う彼に同意する、この米は美味しい。聞いた話によるとスカルシュレッダーさんの所の部隊の人達はこの米の魔性に取り憑かれてしまったとか。
それもこれも隊長がやった事だが。本当に恐ろしい人だ、何処からその食に対する熱意が出てくるのだろう。
「うーん……二人置いてきて良かったのかな」
「じゃあお前がミラー隊長の相手するか?」
「無理っす!無理っす!」
ガハハ!と笑う彼らに私もくすっとする、確かに面倒臭いよね、男性には次々と酒を進めて潰れさせるし、女性には抱きついたりなにかと触れ合いに行くし……最初は驚いたけど、今ではレユニオンの一つの日常になるぐらいには見慣れた光景だ。
最近はタルラさんが居ないから、気絶させる人も居ないし、あれ……フロストノヴァさん大丈夫かな。あの人結構受けのタイプだよね、家に連れ込まれるんじゃないかな、私も一回されたし。
どんちゃん騒ぎをする彼らを少し離れた所で飲んでいると、隣に誰か座った。スノーデビル小隊の方だ。
……ナンパ?
「ち、違う違う!少し疲れたし、ゆっくり飲める所に来ただけだ!」
成る程、確かに楽しいけどずっとあんな調子だから疲れるのも分かる、気付けば飲み比べ大会とか言ってるし、お金はみんな十分あるからって羽目外し過ぎだよ。
でも、まあいっか。この日常を私は気に入っている。
最初に隊長に付いて共に過ごした時から、この日まで私は感染者でありながら、こんなにも幸せを与えてもらった。
癒えない傷を隊長は癒す、凄い人だ。
。
「君の話が聞きたい、ミラーとはどんな馴れ初めだったんだ?」
馴れ初めか……最初は同期なんだって感情しかなかった、あの時の私は感情が凍り付いていて、人を信じなかったから。
ある時に、確か部隊から逸れて、ウルサス帝国の部隊に襲われてる時だったかな、躓いて、武器も壊れた私に待っているのは死だけ。
死にたくなかった、当たり前でしょ?誰だってそうだ、何もしてないのに、感染者だけって迫害されて、そんな日々を変えようとレユニオンに来たのに。
目を閉じた、でもいつまでも痛みがこないのに疑問を感じて、目を開けると結晶の世界が広がっていた。
そこにいた全てを結晶にした隊長は、私の方に振り返って目線を合わせて一言だけ告げた。
「もう大丈夫、私が守る」
そう言って抱きしめてくれた時に、私は初めて感情を剥き出しにして泣いた、ただ強く抱き締めるだけだったけど、私にはそれだけでよかった、余計な言葉なんか要らなかった。
それからずっとこの人について行こうって決めたんだ。
「なるほどな……君達も俺達も互いの隊長の為に命を張れる、似た者同士だな」
確かにそう言う所はスノーデビル小隊と似てる、だから気が合うのかな?どうだろう。
あなたはどうなの?フロストノヴァさんとはどんな?
「俺か?俺はだな───」
「あっおい!あいつ可愛い子にナンパしてやがる!」
「は?!いや違う!お前ッ!」
「酷いっすよ!僕の事は遊びだったんすね?!」
「は?!おい待て、あーくそ!ごめん後でまた話そう!あいつぶっ飛ばしに行く!」
私はおかしくなって笑った。
この日常をくれた隊長に恩返しが出来る日が来たらいいな。
いつも評価感想、誤字報告感謝です。ここすき機能もありがとう。