小猫が倒れたと聞いて一度俺も屋敷に戻ることになった。小猫本人と関わったのは、前回の襲撃からオカルト部に入ってからになる。別にそこまで関わっている気は無いのだが、今は部活で苦楽を共にする後輩であるのは間違いない……ん?部活で言えば向こうの方が先輩かもしれないな。
「にしても……」
戻って来たはいいが何せ冥界の屋敷、特に貴族のものとなるとだだっ広いし何処にどの道通って行けばいいのかがまるで分からねぇんだが!?バルバトスの屋敷も大概広かったが、あそことは構造がまるで違うからデジャブって余計に迷うから困る…
確かに俺はリアス・グレモリーの眷属では無いし、悪魔でもないし、ついでに言えば別勢力からの協力者という特殊な立ち位置にいる部員だ。
…でもさ、こうも一人になる時間が多いなら屋敷に関しては誰かサポートしてくれても良くないか!?…まあ、今の自分の状況なんて気にしたら負けだな。いつも一人なのは慣れっこだし、今更アザゼルに文句を言ったところでどうにもならないし。
…ってかそういや今まで喰らった魔法の中に確か解析系の魔法あった筈だよな?ゼローグ、どうだ?
『暫し待て。……ん、丁度良いのが見つかったぞ。《
「おお!流石だよ相棒!!」
これでもう二度とこの屋敷で迷う事はなくなった訳だ。だがこれで部屋に戻ったとしてもやらことがないのには変わりない。さて、本格的にどうしたものか…。
『ならばドライグの所にでも行けばよかろう。奴のオーラはドラゴンの中でも力強く、独特だ。今の盟友であれば探知すればすぐさま居場所が分かるだろう。
…それにどの道暇なのだろう?成すことも無く、休息も不要ならば暇つぶしがてら行ってみてもよかろう』
「…それもそうだな、ここで突っ立ってるよりはずっといい。一誠の奴は今頃何をしてんだろうな」
一誠はこの屋敷に到着すると同時に部長さんの母に連れて行かれた為、俺は一人残されたのである。ゆっくり休めるようにという配慮だったのかはわからないが、自分の部屋すらわからなくなってるこの状況下だとな…
…数ヶ月前までは思いもしなかった。俺が誰かを、それも赤龍帝を鍛え助ける立場になるとは…とはいえ大層な事を教えられる訳でもないんだが。まあ取り敢えず確かに教えられることは、生きていく為には何かと戦い続けるしかないということだけだ。
俺はそんなことを考えながら床に手を当て、構造解析及び魔力探知の魔法を発動する。一誠の魔力を探知した俺は、発動させつつ目的の部屋に歩いていく。お、レーダーに引っかかった。
「この先か…ん?一誠と…もう一人は部長さんの母上か」
どうやら何かお話中らしい。…少し興味あるな。仕方ない、ここは盗聴といこう。
『あ、あの、ひとつ質問いいでしょうか?』
『小猫ちゃんは……?小猫ちゃんは無事なのでしょうか?』
一誠が部長の母ことヴェネラナさんと話をしていた。話は小猫の事だ。仲間思いと言えば聞こえはいいが、三勢力会談の時もそうだったがこいつはあまりにも裏表がなさ過ぎる。愚直というか馬鹿正直過ぎるというか……
まあかく言う俺も心配自体はしていた。悪魔の肉体でオーバーワークに至るまでに自分を追い詰めていたのには間違いなく並々ならぬ理由がある筈だと。以前の俺なら我関せずを貫いただろうが、今仮にも協力体制を敷いている仲間だ。そうも言ってられないのである。
ヴェネラナさん曰く、オーバーワーク自体はそこまで深刻というものではなかったので、一日か二日体をゆっくり休ませれば回復するだろうとのことだそうだ。大事に至らなかったのは何よりだが、その後の話が問題だった。ヴェネラナさんが次に話し出したのは、子猫の過去にまつわる話だ。
『彼女は今、懸命に自分の存在と力に向き合っているのでしょう。難しい問題です。けれど、これは自分で答えを出さなければ先には進めません』
存在と力?一誠は勿論、他の眷属の奴らの過去や悪魔になる前の正体なんて俺は知らない。小猫もそうだ。小猫が部長さんの眷属になったことと何か関係あるのだろうか。そしてヴェネラナさんは二匹の猫姉妹の事を再び語り出した。
姉妹は何時も一緒だった。寝る時でも食べる時でも遊ぶ時でも。親と死別し、帰る場所、頼る宛も無く、二匹の猫は互いを頼りに懸命に一日を生きていったと。親と死別と聞いて、あの光景が浮かぶが頭を振り、話に集中する。
『二匹はある日、とある悪魔に拾われました。姉の方が眷属になることで妹も一緒に住めるようになりました。やっとまともな生活を手に入れた二匹はそれはそれは幸せな時を過ごせると信じていたのです』
が、そうはならなかった。ここまで聞き、別の話を思い出した。まだ、グレモリー眷属と行動を共にするよりもずっと前、ヴァーリチームと過ごしていた時期のことを思い出した。
『私はあの子を……白音を助けてあげられなかった……あの時、もし一緒に連れ出せていたなら……』
ヴァーリチームのメンバーだった黒猫がふと己の前で漏らした懺悔の言葉……それが今になって頭に浮かんだ。あまりにも子猫の身の上話が、かつて仲間だった黒猫の言葉と関係があるように思えたからだ。
『力の増大が止まらない姉猫はついに主である悪魔を殺害し、《はぐれ》となり果てました。しかも《はぐれ》の中でも最大級に危険なものと化したものです。追撃部隊を尽く壊滅するほどの……』
『執拗に追撃されて、迎えに行くことが出来なかった』
歯車と歯車が噛み合い、俺の頭の中でパズルのピースが組み上がっていくようだ。何故ならあまりにも…あまりにも今の話と過去に聞いた話の辻褄が恐ろしい程に合致しているのだ。
『リアスはその猫に名を与えたのです。――――小猫と。彼女は元妖怪。猫又をご存知?猫の妖怪。その中でも最も強い種族である、猫魈の生き残りです。妖術だけではなく、仙術をも使いこなす上級妖怪の一種なのです』
「っ!」
俺はそこまで聞き終えてから音を立てずに、その場から素早く立ち去った。
そして外に出て、段差に座り込み空を見上げて黄昏れる。
「…あーまじかよ……つまり、そういう事か……」
出来上がってしまったこの推理は、恐らく間違っていない。
搭城子猫は、アイツが探し求めていた生き別れの妹「白音」と同一人物だ。
アイツが今まで探し求めていた妹がまさか小猫だったとは……名前が変わってたら流石に分かりづらいよな。本人なら見てわかるだろうが、妹の特徴も何も聞かされてなかったのに会ったこともない人物を見た目で当てろなんて芸当出来るか!
(つまり自分を受け入れろということは、猫魈であることを受け入れて妖術や仙術を使うようになれということだったのか…)
「…ここで考えてても仕方ないか。事情を知らない他の面々なら仕方ないけど、知っている以上俺がなんとかしねぇとな」
子猫は今、自身の力を恐れそれを振るうのを躊躇っている。それは暴走したとして「はぐれ悪魔」にされた姉への不信感と恐怖があるからだ。この事で悩むのは仕方ない事だが、いつまでもこのままでいいわけがない。一先ず己の力とどう向き合っていくか、そしてアイツへの疑惑を少しでも何とかしてやらないとな。道は違えど、彼女の後悔は本物であったと言う事を俺は知っている。
だが、これは人前で明かす事ではない。俺は夜になるまで待ち、小猫の部屋に行く。ドアをノックすると奥からどうぞ、と言う声が帰ってきた。
俺は扉を開けて、中に入る。そこには猫耳が生やした小猫がベッドに横たわっていた。俺は手を挙げながら、ベットの前にある椅子に座る。
「……イッセー先輩に続いて、ユウマ先輩も来たんですか」
半目になりながら俺に言う。こんな時間に、と呆れているのか?と思いながらも俺は
「まぁな。俺も見舞いに来たんだが大丈夫…じゃあねぇよな…」
「……」
小猫は黙ってしまう。正直どう話すべきかって悩んだが、どの道話さなければ行けないのには変わりないんだ。
だったら
「お前の本名、白音だろ?」
その名前を聞いて小猫は驚いた表情を浮かべ、聞いてくる。
「何処でその名前を聞いたのですか?一体誰から?」
恐怖と敵意を俺に向けてくる。そりゃ自身のタブーに触れられているわけだからな、警戒もするだろう。しかも、部外者の俺がだ。
「昔に黒歌……小猫の姉に話を聞いたことがあってな。まさか黒歌が言ってた妹が小猫だとは俺も思ってはいなかったけどな」
「ユウマ先輩…姉様と知り合いなのですか?姉様は今、何処に?」
「確かに俺と黒歌は知り合いだった。黒歌とはヴァーリのチームメンバーとして結構親交があったから、話した回数は数え切れないな。
そして今は何処にいるのかという質問だが、これは俺にも分からない。だが大方今もヴァーリチームとして行動を共にしているのは間違いないだろうな」
黒歌は今、ヴァーリチームとして彼と一緒に居るはずだ。けど、それは彼女が
「……小猫、俺は今からお前に真実だけを口にする。…ちゃんと聞いてくれ。」
「……なんですか?……これ以上何かあるんですか?」
まだ何かあるのか?と目でも訴えている。追い打ちをかけられているようにしか見えないだろう。しかし、これは黒歌の為にも話しておかなければいけない事だ。
「黒歌は……力に飲まれて主を殺したわけじゃない」
「っ!聞いた話では……」
動揺している。そりゃ昔から聞かされていたのだから仕方のない話だ。多分だけど黒歌本人も、小猫を前にしたら本音なんて語らないだろう。…妹思いのアイツなら尚の事、言うわけがない。
「誰かが騙っていたとかそういう訳じゃない。誰も真実を知る機会が無かった……ただそれだけのことなんだよ」
「じゃあ何故、黒歌お姉さまは……!」
声を荒らげる小猫に、俺は少し驚いた。短い付き合いだが、それほど表情の機微がないと思っていた彼女がここまで感情を出しているのは初めて見たからだ。俺は取り直して話を続ける。
「その時の話までは聞いてはいない。でも俺が知る黒歌は、力に溺れて狂い果てるような奴じゃない。
少しいい加減で隙あらば誘惑してくるようなお色気猫だったが、己の力を正しく理解し律する事が出来る、強い女だった。何より、」
これはきっと、アイツにとって余計なお世話なのだろう。しかし、俺は伝える。これは、伝えなければならない事だ。
「あいつはずっと後悔していたよ。お前を迎えに行けなかったことを……妹思いのいい姉だよ、アイツは間違いなくな」
「……」
これをどう受け取るかは小猫次第だ。これから進むかを決めるのは、小猫の意志一つなのだから。
「自分の力と存在を今すぐ受け入れろ…なんて難しいことは誰も言わない。信頼出来る仲間を、家族を持ち、その為に強くなりたいという想いは、何も間違ってないんだからな」
「ユウマ先輩は……」
何かを言いたそうにしているが、俺には何を言いたいかは分からない。察しが良い方じゃないんだ、俺は。
「……少し話題を変えようか。改めて、俺の身の上話でも聞いてくれないか?」
小猫は豆鉄砲を食らった顔をする。突拍子もないことを言い出したのは分かっている…だか、何故だか彼女には話したくなったのだ。
両親を失い、それでもまだ自身を愛してくれる家族が生きている彼女には、
その絆を失って欲しくなかったから。
「人の過去を盗み聞きしてしまったのは違いないからな。つまらない過去だろうが、聞いてくれ。眠たかったら寝て構わないよ」
前置きだけして話を始めた。何処にでも居た三人家族がとある悪魔達に襲われて、両親を殺されたその子供がたまたま神器に覚醒して、その悪魔達を皆殺しにしたと言うだけの話。そこからアザゼルに拾われてから万事屋として、傭兵紛いの仕事人として一人で生きてきたというだけの話。ただ、それだけである。
「ってことがあってだな……っと寝たか…まぁ今はゆっくり休んで、また頑張れよ」
俺はそれだけ言い残すと、頭を撫でて、部屋を出た。そう、この時を無駄にしてはならない
人は強くならなければ、生きてはいけないのだから。
アンケートはあと1週間です!
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