「失態ですね」
魔王領にある会談ルームで、グリゴリ副総督のシェムハザが開口一番にそう口にした。
まぁ仕方ないといえば仕方ない。魔王主催のパーティの日、悪魔達は禍の団の襲撃を受けた…とはなっているが、それはあくまで結果的に過ぎない。
俺には分かる。あの時のヴァーリ達には悪魔達を襲撃する気はなく、あくまでも黒歌の願いに沿った行動だろう。
若手含めた悪魔達へのアクションと言えば、使い魔を使って邪魔者が現れないか見に来ていた程度らしい。その後に俺、一誠達とタンニーンが接触して撃退した事で事態は大きくはならなかった。
…俺の重症を除けば、の話だが。
自身で選んだ判断とは言え、ヴァーリに腹に風穴開けられるわゼロ距離で砲撃もらうわで、正直それでもなんとか生きている辺りいよいよ俺の肉体も人間としてどうかしてきたのではないかと思う。
……まああれだけの力と命を喰らい続けてきて今更普通の人間のつもりは更々ないが、それでも本当に頑丈になってくれたものだ。そこは自身の肉体を労いたい。
それでも本来であれば大絶賛包帯まみれのミイラ状態……の筈だったのだが、今回のパーティにはフェニックス家が来ていたらしく、フェニックスの涙を譲渡してくれたお陰で致命傷であった腹の穴は塞がり、他の箇所も傷は治った。まあそれでも、ヴァーリとの本気の戦闘は腹以外の箇所にも少なくないダメージを与えた為、今は疲労回復という体で様子見に留まり、戦闘は禁じられている。
「相手は『禍の団』独立特殊部隊『ヴァーリチーム』のメンバーほぼ全員が集結……雄真君が警護に当たったからこそ今回はこの程度の被害で済んだと見るべきでしょう。大体悪魔の管理能力は―――」
シェムハザの小言が始まれば長いの長いの、喋らせておけば一晩中でも話してそうな人だ。
悪魔側の被害はほぼゼロ。部長さんと小猫の毒も黒歌がすぐに殺すつもりがなかった為軽傷で済み、赤龍帝である一誠は禁手に至った。これに関しては嬉しい誤算というやつだろう。
……まぁ、被害はヴァーリの最後の技によって森を含めたルシファードの領地が広い範囲でクレーターだらけになったことと、俺がボロボロになった程度だ。まぁ、それでしばらくヴァーリも動けないとなると、得はしたのだろう。
「アザゼル、長くなりそうだから俺は向こうに行ってるぞ」
「ああ、あんまりはしゃぐなよ?病み上がり」
「はしゃぐかっての……ガキじゃあるまいし」
俺は遠くの方でレーティングゲームの勝敗予想をしている連中の所に足を運んだ。そこにはミニマムサイズに変化したタンニーンとかが観戦していた。
「もう傷は良いようだな、逢坂雄真」
「まぁな、でも流石に腹に風穴開けられたから暫くは物食える気がしないんだよ……」
「しばらくは休むほうがいいだろう。で、お前はどちらを応援するのだ?
俺はリアス嬢を応援するさ。何せ俺とお前が直々に鍛えた赤龍帝がいるからな。改めて本当に面白い小僧だ、乳をつついて禁手に至るような奴だからな!!」
…ん?今のは俺の聞き間違いか?
「……なぁタンニーン、一誠ってどうやって禁手に至ったんだ?」
「リアス嬢の胸をつついてだ」
「???」
あっはははは……訳分かんねぇな。
幾ら己にとっての変革がトリガーとはいっても、禁手ってそんな感じに至れるもんなのか?そうだったっけか?
『ふっ、ドライグの奴ご愁傷様だな……くっふふふ』
いいのかゼローグ!?曲がりなりにもお前と戦った相手だぞ?俺は嫌だぞそんなん!?
俺が内心戦々恐々としている中、
「ふん。今時の若造共は老体の出迎えも出来んのか?」
扉が開かれそこに姿を現す人物に俺以外は度肝を抜かされた。…?誰が来たんだ?
古ぼけた帽子をかぶった隻眼の爺さん。白いヒゲを生やしていて、床につきそうな程に立派な髭だ。服装は質素なローブ。杖をしているが、腰を痛めているという様子もない。
……ッ!!??オーラを探ってみたがこの神威…ただの爺さんじゃねぇ!?
…ん?隻眼、長い髭、神のオーラ…もしかしてこの爺さんまさか……!?
「…北欧の主神、オーディン殿……!!」
誰かが呟いた、ってやっぱりか!?
この爺さんが北欧神話主神のオーディン……アザゼルから聞かされていたレーティングゲームの主賓の一人か。じゃあ、その後ろにいる鎧姿の女性が戦乙女のヴァルキリーってことか。
もう一人は如何にも現代の人間が普段から来てそうな服装だ……際どさを除けば。
ホットパンツに白のノースリーブシャツに、青と白のフード付きのノースリーブの薄手のコートにブーツを履いた金髪の少女がいた。髪には青いリボンがつけられている。そして眼は、引き込まれるような見透かされているような青い瞳。
「おーおー、久しぶりじゃねぇか、北の田舎のクソジジイ」
気づいたらアザゼルもこちらに来ていたらしく、オーディンの爺さんに悪態をついている。
「久しいの悪ガキ堕天使。長年敵対していた者と仲睦まじいようじゃが……また小賢しいことでも考えているかの?」
「はっ!しきたりやら何やらで古臭い縛りを重んじる田舎神族と違って、俺ら若輩者は思考が柔軟でね。煩わしい敵対意識より己らの発展向上だ」
「弱者共らしい負け犬の精神じゃて……所詮は神と魔王を失った小童の集いじゃろう」
うーわ……北欧の主神と悪態の付き合いをまともにやってるよアザゼルの奴。それ程に旧知(?)の中なんだろう。
話は更に続き、オーディンの爺さんはチラチラとセラフォルーのパンツやら足を見ている。……神話の例に漏れずスケベジジイの類だったか……そこへ介入する人影が一つ
「オーディンさま、卑猥なことは行けません!ヴァルハラの名が泣きます!」
「まったく、お前は堅いのぉ。そんなんだから勇者の一人や二人ものにできんのじゃ」
「ど、どうせ私は彼氏いない歴=年齢の戦乙女ですよ!私だって、か、彼氏が欲しいのにぃ!!」
「じゃあ、こいつはどうだよ?」
いつのまにか隣に来ていたアザゼルが俺の肩に手を乗せて宣う……ってはい?
「こいつは人間だが四天龍の一角、黒天龍王を宿している。白龍皇のヴァーリを退けているから強さなら折り紙付きだし、料理だって出来る優良物件だぜ?」
商品紹介みたいに俺を売り込むな!?北の主神と戦乙女の目の前で何言ってんだよ!?
「ほう、こやつが今代の黒天龍王か……うむ、かなり混じっておるようじゃが鍛えておるし、強さもその齢で中々のものじゃな」
「それはいいんだけどオタクの戦乙女、まだ凹んでるけど大丈夫なのか?」
「すまんのぉ。こやつはわしの現お付きじゃ。器量は良いんじゃが、いかんせん堅くての。男一つも出来ん」
「へぇ……それは難儀なことで。で、もう一人は誰なんだ?見た感じ戦乙女って感じじゃねぇけど」
アザゼルが疑問に思っていたことを言う。それは俺も気になっていたのだ。少女はこれまでの会話を聞かず、その場でキョロキョロとしてるばかりだった。
「ああ、こやつは……おい、こっちを向かんかアリシア」
「うん?どうしたのオーディンお爺ちゃん」
その場が固まる。
……お爺ちゃん?北欧の主神であるオーディンをお爺ちゃんと呼んだ!?
じゃあ彼女も神族なのか?
「こやつは、アリシア・フルーディル。儂等が育てた人間の子で、今代の『蒼天龍姫』じゃよ」
「……は?」
アザゼルも俺も固まる。は、じゃあこいつが、ヴァーリが北欧で戦った『蒼』ってことか!? でもそんな気配は全然……
「ふーん。貴方が今代の『黒』なんだ?」
「っ!」
声が掛かり、間近まで顔を覗き込まれる。驚愕したのは、ドラゴン特有の気配に気付かなかったことと、ゼローグが全く反応を示さなかったことだ。
「(おいゼローグ!気づいてたなら言えよ!)」
『(……否。我もこうしてオーディンに暴露されるまでは感じ取れなかったのだ)』
「(はぁ!?相棒が宿敵の気配に気づけなかったってのか!?)」
『(……どうやら今代のシェリアスの宿主は、相当な者らしいな。盟友よ、気を抜くでないぞ)』
『(……ッ!!ああ、わかってるよ)』
そして覗き込んできた彼女、アリシアの眼を受け止める。
「私ね、普段『無力な殻』って魔法使ってるんだ!力が使えない代わりに誰にも何も悟らせないってやつ!面白いでしょ!
この魔法にかかれば魔王でも堕天使総督でも、神様だって騙せちゃうんだから!!」
「アリシア!初対面の男性に近づきすぎです!」
戦乙女に首根っこを掴まれて引き剥がされる少女。ブーブー言いながらも大人しく従っている。
「すいません、アリシアが迷惑をかけまして」
「いや、気にしないでくれ。
俺は逢坂雄真、今代の『黒天龍王』をやらせてもらってる。普段は万事屋を生業にしてる身でもある、よろしくな」
「戦乙女のロスヴァイセと言います。こちらこそ丁寧にありがとうございます。アリシアも自己紹介を」
「えー…んー…分かった!
改めて、アリシア・フルーディル!今代の『蒼天龍妃』だよ!
これからよろしくね!ライバル君!」
明るく自己紹介をする……ヴァーリに聞いていた印象より明るいな。
そしてレーティングゲームが始まり、結果はグレモリー眷属が勝ったが、シトリー眷属は大健闘をした。匙…ヴリトラを宿す兵士が結果的に一誠を倒したのだ。勝負の世界なんて何があるか分からないもんだが…正直この結果は予想出来なかった。
「うん、うん、面白かった!!お爺ちゃんに無理言った甲斐があったなぁ。帰ったら楽しくなるぞ〜!!」
俺のライバルたるアリシアは、帰るその時までその人物像が掴めなかった。
……アリシア・フルーディル……まだ謎が多いな……少し調べて資料を洗ってみるか。
そして時は流れ、冥界を去る時が来た。
俺は帰りの列車で、残っている夏休みの宿題を速攻で片していた。それは俺だけではないが、特に俺と一誠は特訓の際に放り込まれた状況が状況だった為手を付ける暇がなかったのだ。
……ったく、宿題とか面倒臭ェ…学生やらされてる弊害がここにも……!!
そんな中、俺の席の隣に小猫が来た。
「……?どうかしたか?」
「いえ……もう傷は大丈夫なんですよね?ユウマ先輩」
「まぁおかげさまでな、フェニックスの涙様々だよ。
…試合見てたよ。仙術、格好良かったぜ?」
「ありがとうございます。
……姉様のことも、今回の私の事も、本当にありがとうございました。」
「気にするな……っても気にするだろうから聞くけど、どうだった?今のアイツは」
小猫は少し俯きながら
「真実は分かりませんでした……けど、ユウマ先輩の言葉は本当だったという事はわかりました。いつか……聞き出してみます」
それは決意表明に見えた。…そうか、小猫も今、過去を乗り越えようと戦っているんだな。
「ああ、事情を知る身として俺も協力してやる。黒歌の事で尋ねたいことがあったら言ってくれ」
「分かりました。ですが……無理はしないでくださいね」
「……まあ、善処はするさ」
…今一度、帰ってから依頼増やして鍛え直すか…
っとここでふと思い出したんだが
「なぁ小猫、アザゼルって今何両目にいる?」
「…今先生なら次の車両でお酒飲んでましたが……って何処に行くんですか?」
「いや何、ちょっと約束を守らないクソ総督をしばきにね笑」
とドアを開けて車両を移動、すると酒を煽っているアザゼルを見つけた。
「…んっんっぷはぁっ!!あー昼に煽る酒ってのはやっぱ格別だねぇって、どうした雄真俺の車両に」
「そういやアザゼル、俺に見合う対戦相手を見繕うって話、どうなったんだ?」
「何?……………あ。」
「何故、結局休み中に一度も来なかった?アンタ一体何してたんだ?」
「あーいや、それはだな?」
「問答無用!!」
アザゼルの襟を掴んで床にブッ倒し、腕ひしぎ十字固めをキメる!!
「アダダダダダダダダ!?おい雄真何しやが……あ、イテェイテェ!?お前『捕食』使ってるな!?力を吸い取るな抜ける抜ける力がぁ!?」
「アンタは!いつも!大事な時ほど!いい加減だ!!
そんなんだからヴァーリ達が離反すんだよ!!No人望が!!」
「人望は余計じゃ!!」
そんな風に話しながらも列車は人間界に向かい登って行く。
そして再び学園生活に戻ることとなるが、新たなる波乱の種は既に巻かれているのだった。
次回から体育館裏のホーリーです
おそらく年明けからですかね。
皆さん良いお年を!