ハイスクールD×D×R 転生者たちはイレギュラーズ   作:グレン×グレン

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 神様転生ってあれだなぁと敬遠しつつも、しかし屑転生者でも出さないと書けない展開も存在することは事実。

 そんなとき、ふと思いついたアイディアにそって、書いてみました新作を!!


プロローグ

 

「はーい! 君は今回死んじゃったけど、人生強くてニューゲームができるぜい!」

 

 と、壮大なことを言われたのを覚えている。

 

 そしてこれは夢ではない。事実、俺はこの世界に転生した。

 

 その時目の前にいた神様――とは言ってなかったけど、たぶんそうだろう――は、俺を問答無用で転生させたのだ。

 

 そう、俺は断った。

 

 なろう系小説じゃあるまいし、俺は大学入学の試験に合格し、人生の節目を迎えたことをきっかけに富士登山第二ラウンドを敢行。見事高山病でリタイアすることなく山頂まで到達し……帰りに足を滑らせて死んだ阿呆ごときだ。なぜそんな特典が得られるというんだ。

 

 まして「チートを三つか四つほどつけて転生できるよ! できるかどうかは要相談だけど」とか、優遇されすぎにもほどがある。何かあるんじゃないかと裏を疑うのが普通だろう。俺は中二病なんてこじらせすぎてコスプレ一歩手前の痛い格好で試みた富士山第一ラウンドを、見事高山病で緊急搬送という残酷すぎるトラウマで敗北した男だ。とっくの昔に卒業してると自覚しているのに、そんなことで調子に乗れるか。

 

 冗談抜きで怪しい。何か裏がありそうで怖い。普通に頑張る程度のことに何年もかけた俺みたいな男が、普通じゃない特別ができたり与えられたりするとは思えない。買ってもいない懸賞で一億円の金が当たったといわれて、やったラッキー等と思ってはいのこのこと個人情報を差し出すような馬鹿な真似はしない。

 

 それに、その内容も内容だ。

 

 ハイスクールD×D。ライトノベル業界において短編集や外伝含めて30冊は出ている大ヒット作品。アニメも4期まで作成されるという、この手の業種ならかなり大成功を収めている作品だ。

 

 俺はアニメだけ見て、興味をもって三冊ほど買った程度だけど、それでもなんていうか面白かった。

 

 昔古本屋で買った少年漫画みたいな主人公ってのが、そういうのに縁があまりない俺達には新鮮だった。最近は一周回ってエロ本かっていう類が多いけど、そういうのとも違って、面白かったと思う。

 

 なんていうか、気持ちがいいっていうのかな。ああいう男友達がいたら、たぶん毎日楽しいんだろうなって気がしたよ。まあ、変態すぎて頭痛もしそうだけどさ。

 

 そんな中に、ぽっと出の俺が入った挙句、引っ掻き回して英雄になれってか? それも、魔王の末裔や英雄の子孫や、神すら出てくるインフレバトルに?

 

 二重の意味でごめんだ。どんだけすごいチートがあったって、神や魔王を相手に、富士山だって三回もぶっぱすれば跡形もなくぶっ飛ばせる、京都でぶちかましたイッセーの砲撃ですら確勝が保証されない戦いなんて、自分がするなんて思っただけで足がすくむ。それに、俺が割って入ることがまず無理だろう。

 

 よくご都合主義とかでアンチがいるって聞くけど、そりゃ創作物の主人公ならご都合主義ゼロの方が無理だろ。それに、昔の少年漫画でもそうだけどさ、それだけじゃないだろ、あいつ。

 

 主人公だから当然だけど、あいつは持ってる。俺たち普通の連中なんかとは違う、何かっていうべきものを。

 

 だから、断った。「いや、俺みたいな性根が関わっても禁手に至って大活躍とか、ない」って言ったよ。いいましたよ。

 

 なのに、気づいたら転生してたんだよ。

 

 ちなみに日本に住んでいる魔法使いの家で、俺もまあ、普通に義務教育を受けさせてもらいながら魔法を少しずつ教えてもらってたよ。

 

 どうやら、どっちも実家の魔法じゃなくてニッチな研究をしていたらしい。それで実家を出て縁切り状態で、そんなこともあってか。俺も基本的な魔法だけ教えられていて、本格的な指導はまあ後程って感じだったな。

 

 まあ、人並み以上に大切にされてきたと思っている。それに、俺も中二病の果てに高山病で搬送された経験から「普通の努力もできないやつが、特別なことをできるわけがない」と痛感してる。だからまあ、予習復習感覚で授業を受けたよ、ほとんど完全にわかってるから、すごい退屈だったけどがんばった!

 

 で、中学卒業とともに本格的に魔法使いの道に進もうと俺は決断。

 

 なにせ、この手の順当パターンで行けば、高校生の間に三大勢力の和平に始まり、激動の時代が始まるわけだ。それなりに実力者になっておかないと、この手のパターン的に死ねる。巻き込まれていきなり力に目覚めて、覚醒して大逆転とか、そんな命がけの博打なんか前提条件にできるか!!

 

 っていうかね? 原作でもイッセーたち努力してるじゃん。たいてい日常生活も入れる巻なら、当然のごとく訓練シーンとか入ってるじゃん? そんなところに巻き込まれる可能性があるなら、鍛錬なれしとかないとだめじゃん?

 

 これでも頑張ったんだぜ? 中学校は陸上部に入って、とにかく体力中心でつけようと長距離走中心。その結果マラソン大会で中学生でありながらそこそこの記録を出して賞を取ったし、時間さえ問わなければフルマラソンを走り切れるぐらい鍛えた。当然のことだけど短距離も頑張ってるから、運動会の100m走はほぼ一位。そしてこんなことに魔法つかって悦に浸るような下種な根性はしてません。

 

 さすがに戦闘用の魔法は怪しまれてもなんだから覚えてないけど、身体能力の強化や防御関係は結構頑張った。防御だけなら同年代の上級悪魔にケンカ売れるとほめられております。

 

 それでまあ、義務教育を終えたのをいいことに本格的に荒事対策を覚えておこうと思ったその時―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―両親が殺されるところを目にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 下手人は旧魔王派だと思う。いや「シャルバ様」とか言ってたし間違いないだろ。アニメでぽっと出でやられてたのが逆に印象に残ってる。

 

 そして俺もまた口封じに殺されそうになり、然し何とか奇跡的に生き延びた。

 

 というのも、ここにきて神様っぽいのが気を利かせたのか、チート能力の説明画面っぽいのが出てきたからだ。

 

 その結果、俺はとっさにその力で反撃。親父とお袋が善戦して相手方もボロボロのが一人だけだったこともあり、奇跡的にも俺は不意打ちで戸惑ったそいつを殺したわけだ。

 

 そして、俺は一年ほど流浪の生活を送っている。

 

 パニックを起こしてそのまま町を出たのもそうだが、同時に俺は怖くなった。そして泣いたし吐いた。

 

 両親は俺の事情を知らない。だけど両親は俺を愛してくれていたと思う。少なくとも、大事に育ててくれた。

 

 その両親が殺されたことが悲しい。それは当たり前のことで、本気で泣いた。

 

 そして俺は、人を―少なくとも人と同じ似姿をしたものを殺した。普段食べている食肉の原料である家畜の屠殺を見ただけで、肉が受け付けなくなるものもいる。それぐらい、一般市民にとって生物を殺すというのはきつい。

 

 だから吐いた。衝動的とはいえ、人を自分の手で殺した感触と、その光景を思い出して吐いた。

 

 それからは、半ば衝動的に放浪した。

 

 チート能力についてはいろいろ説明が出てきたが、本来ならチート能力を欲した瞬間にわかるようになっているらしい。あの時は緊急避難的な非常システムだったようだ。

 

 それはつまり、俺が転生特典を考慮して立ち回っていればとっくの昔に力を手にしていたということだ。そして、それがあれば――――――いや、それは言い切れないな。

 

 そも、俺がついた時にはすでに戦闘は終わってたんだ。俺が神器に目覚めていたとして、チート能力を使っていたとして、それを事前に察知して防げていたと思うのは、傲慢が過ぎる。

 

 正直チート能力の中には、「それ単体でなんか意味あるの?」ってものもあったから、使っていてどうにかなったとは言い切れない。それに使ったところで、そのあと大騒ぎになってややこしいことになるかもしれないし、チートの中には間違いなくそうなる類もある。

 

 下手に使えば確実にさらなる騒ぎを生む。そうなったとき、俺はもちろん両親がこれ以上の苦難に襲われないなんて言えなかった。

 

 だから、俺は放浪する。

 

 自分が人にかかわることも、俺自身が誰かにかかわることも恐れている。少なくとも、原作の流れが終わるまでは積極的に動きたくなかった。

 

 ここは人が生きている世界だから、原作が終わってからも物語は続くとわかっている。だけど、ライトノベルとかはたいてい一年ぐらいで決着がつく。どっちにしても連続で大ごとが起きるから、それが静まれば原作の流れは終わるだろう。

 

 そんな言い訳にしかならない安全策。それでも、俺はそれに頼らなければ耐えられない。

 

 くそ。恨むぜ神様。

 

 普通の努力だって割と大変だった俺が、特別な何かを成し遂げられると思ってるのかよ。

 

 それも、いろいろあるけど基本ハッピーエンドなハイスクールD×Dをそれ以上によくするなんて、俺なんて一般人にできるわけないだろうが……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで流浪して、流れ着いたはどこなのやら。俺は何となく夕暮れ時の公園を見かけて、何となく座りたくなったんでそこに向かうことにした。

 

 そして自販機で缶ジュースを購入してプルを開けたとき、俺はとんでもないものを察知した。

 

 具体的にいうと、人払い・遮音・風景の欺瞞といった効果を持つ結界が張られたのを感知した。

 

 そしてたまたまいた一般人がその影響で外に出ようとしていることに気づいて、俺はまずいと思って即行動。

 

 そして俺はとっさにトイレに直行。即座にトイレのドアを開けてドアを閉めて鍵をかけて便座に座る。

 

 和式じゃなくてよかったと思いながら、とりあえずパニックになってるだろう心を落ち着かせようと缶ジュースをあおり、俺はパニックになりすぎたことに気づいた。

 

 ……いや出ろよ! 出て人ごみに紛れろよ!!

 

 こんな結界張られてるところでのうのうと残ってるやつがいたら、一発で関係者だとばれる。しかも街中で結界張るような真似をするなんて、割とヤバイことが起きているとしか思えない。気づかれたら、死ぬぞ!?

 

 っていうかなんでだ? 俺の存在がばれたのか? いや、断定して自爆したら元も子もない。ほかの可能性も考えろ。

 

 可能性1。この地区を管轄している異形側に対する挑発。それで相手をおびき出して、袋叩きにする。

 

 可能性2。管轄していない異形が、別の目的で人目を避けるために結界を張った。

 

 どちらかっていうと、可能性2のほうか?

 

 そんなことを思いながら、俺は可能な限り全身を覆うように防御態勢を取りながら、ちびちびと缶ジュースを飲みつつ様子をうかがうと、結界の気配が急激に弱体化していった。

 

 ……よし、どうやらもういなくなったらしいな。

 

 こりゃ本当に可能性2のほうだな。管轄している異形を相手にするなら、もっと時間がかかるかここからなら余裕でわかるぐらい騒がしくなってたはずだ。

 

 なのでほっと一息つきながら、俺は一応慎重に外の様子をうかがって―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―そこに、血まみれになっている男を発見した。

 

「っておいマジかよ!?」

 

 俺は慌てて駆け出すと、すぐに様子を見る。

 

 どてっぱらに穴が盛大に空いている。どう考えても内蔵が大打撃で、普通の人間なら問答無用で致命傷だろう。どう考えてもあと数分で死ぬ。

 

 くそ! そりゃそうだよな、こんなところで人払いまでしてる上、短時間で事が終わってんだ。やるとするなら一般人の始末レベルじゃないと早すぎる。

 

 くそ! ってことは堕天使、それも神の子を見張るもの(グリゴリ)当たりの、神器保有者の始末か!

 

 どうすんだ。暴走の危険があったりすでに既に別の意味でやらかしている神器使いの暗殺は、事実上どの勢力も黙認というか汚れ仕事の押し付けというか、とにかくどの勢力だって積極的に責め立てたりしない内容だ。

 

 なにせ暴走するとややこしいことになるからな。ここで下手に助けたら、こいつの人生にハードな第二ラウンドを押し付ける。そしてもちろん、俺も堕天使側ににらまれる上、ここを管轄している勢力も何かしてくるかも!?

 

 くそ。目覚めも後味も悪いが、ここは見捨てるしかない。ないけど……っ

 

―脳裏によぎる両親の死体が、見捨てるという選択肢を押しつぶそうとする。

 

 今の俺にはどうにかする手段がある。二つの手段を併用すれば、ワンチャンあるはずだ。それは断言できる。

 

 だが、それをすれば下手をすると俺と彼で神の子を見張るものから逃げ続ける逃避行だ。

 

 俺はどうにかなる。そういうチートを持っている以上、逃げるだけならどうとでもなるだろう。

 

 だが彼は?

 

 たぶん異形なんて何も知らない少年だろう。そんな少年に、「君は特殊能力を持っているけど、それを暴走させかねないから殺されたんだ。これからも堕天使がおってくるし、他の勢力もよほどのことがないと助けないよ」なんて言えってか!?

 

 ……無理だ。そんな過酷な運命を、普通に生きてた高校生に押し付けるだなんて、そりゃ善意じゃない、偽善だ。

 

 物語の主人公じゃないんだぞ! ハイスクールD×Dの主人公は、兵藤一誠は確かにあっさり乗り越えてたけど、ああいうのは主人公とかそういう冒険野郎の特権なんだぞ!?

 

 ……でも、だからって、このままむざむざ死なせろって……

 

 俺はどん詰まりになっていると、その少年は、唇を動かした。

 

「……ぃ…」

 

「!? お、おい、しっかりしろ!!」

 

 ああくそ! 俺は何やってんだ!!

 

 助けようがないんだぞ!? 助けても地獄なんだぞ!?

 

 俺なんかが、親父とお袋もろくに助けられなかった俺が、堕天使の大半を敵に回すような真似をして、彼どころか自分の身だって守れないってのに……っ

 

 俺がこぶしを握り締めていると、俺の存在にも気づいてなさそうな少年は、声を出した。

 

「お……っぱい、さわ……り…た……かった……」

 

 ……………

 

 ん?

 

 俺は、一瞬今命がやばいことになっている事実を忘れて、その少年をよく見る。

 

 ……ああ、私服だったから気づかなかった。制服なら特徴的だし、一発でわかったんだけどなぁ。

 

 はっはっは。

 

 はっはっはっは。

 

 ああ、そうか。今四月だし、タイミング的にはピッタリかぁ。

 

 ああまったく。余計なお世話してくれたから、たぶん俺が高校二年生の時に始まるような仕込みだとは思ってたぜ。そうだな、俺も普通に進学してれば、高校二年生だったな、うん。

 

 ……こいつ。

 

「兵藤一誠じゃねえかぁああああああああああ!!!」

 

 主人公じゃねえか! まさにこの次の瞬間、ポケットに入れてたチラシの召喚陣からリアス・グレモリーが召喚されて、悪魔になっちゃう主人公じゃねえか!!

 

 ああくそ、心配して損した。うん、損だよ損!

 

 だってもう助かるもん。まず間違いなくリアス・グレモリー来るもん。

 

 ああ、ならここから急いで逃げた方がいいな。

 

 何せ俺は両親を悪魔に殺されて、悪魔を殺したんだ。旧魔王派だとは思うけど、それでも悪魔側が問題視している可能性が一ミリぐらいはあるかもしれない。

 

 うん。だからここはすぐに離れるべきだ。もしくはトイレに駆け込んで、生リアス・グレモリーの姿でも拝むべきか。

 

 いやいや。ここは冷静になれ。

 

 うん、万が一にでも姿を見られたら危ないからな。余計なトラブルを回避するためにも、ここは速攻で脱出するべきだろ。

 

 ふぅ、と俺は汗をぬぐう。そして鼻歌でも歌いながら離れようと足を進め―

 

 ぴちゃり、と。

 

 足が、血だまりを踏みつけたその時。

 

「……なんて―」

 

 あほか俺は。

 

 リアス・グレモリーが来るのが()()だから?

 

 この()()はそうだから、だから死に瀕しているやつを見捨てていいって?

 

 違うだろ。バカか俺は。

 

 ここにいるのは、目の前で死にかけてるのは―

 

「―三流以下の理由で、生きてる人間を見捨てていいわけないだろうがぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ」

 

 そして、その一週間前の記録映像を見て、ひとりの女性が涙を流す。

 

 その眼には、感動が、感謝が、そして心からの希望があふれ出していた。

 

 そしてその様子を見ていた男性は、その様子を興味深そうに見てから、静かに息を吐いて告げる。

 

「と、君の言っていた少年については安心してくれ。あの後()が間に合ったので、記憶などを処理したうえで、家に戻させておいた」

 

 その意味を理解して、女性は涙をぬぐうと、表情を切り替える。

 

 その顔に新たに浮かんだのは、苦悩。

 

 ただ風が吹いた結果で桶屋がもうかったのならいい。そういう希望的観測を思いながら、しかし彼女はその可能性はほぼ無いと確信していた。

 

「……つまり、リアス・グレモリーは現れなかったのね?」

 

「それに、彼女の兵士はその日のうちに埋まっている。()()()()が全部……だ」

 

 その言葉に、女性は深いため息をついた。

 

 そして力が抜けたかのように腰を落とすと、額に手を当てて力なく首を横に振る。

 

「タイミングを見計らったとしか思えない。この調子だと、ライザー・フェニックスとリアス・グレモリーが揉めたとき、レーティングゲームの結果はライザーの敗北でしょうね。それも、おそらく神滅具によって敗けると思うわ」

 

 その言葉に、男性は一瞬だけ考え込む。

 

 リアス・グレモリーはライザー・フェニックスと関係がある。当人は納得していないが、ライザーは彼女の婚約者だ。

 

 一応、リアスが大学を卒業するまでは婚約はしないことになっている。だから、まだ彼女が高校三年生でしかないこの状況下でそこまでもめることはないはずなのだが―

 

「……それで、ペナルティ報告や警告は出ているかね?」

 

 そう聞く男性に、女性は苦笑を浮かべて手をひらひらと降った。

 

 意味不明ともいえるその言葉に対して、女性は慣れたものだといわんばかりに苦笑を浮かべる。

 

「あなたがその辺に気を使ってくれるおかげで、だいぶその辺の扱いはなれたわ。おかげで、あのゲームメーカーの仕込みにも対応がだいぶできたもの」

 

 その意味不明な言葉を交わしながら、二人は視線を画面に映す。

 

『ぬぉおおおおおお!! ふぉおおおおお!! やっちまったやっちまったやっちまったぁあああああ!!! けど助かってよかったぁああああ!!!』

 

 そういいながら走り出す男を見ながら、女性は顔を男のほうに戻す。

 

 左目を眼帯で覆った長い黒髪の女性は、魔性の笑みとでも言えるだろう、色気のある笑顔を向ける。

 

「それで、彼の居場所はつかめているのかしら。……まあ、かの超越者であるアジュカ・ベルゼブブがそんなへまをするわけないと思うけど」

 

 その冗談めかした質問に対し、男―現魔王アジュカ・ベルゼブブは微笑を浮かべる。

 

 彼の種族である悪魔という種族のイメージに合った、これまた魔性の笑みと形容すべきものを向けられながら、女性もまた悠然と微笑みを返す。

 

 それを促しと受け取って、アジュカは告げた。

 

「安心してくれ。多少意外な手を使われたが、彼の位置は大体わかっている。まあ、接触そのものは少々面倒なようだがね」

 

「OK。まあ、本格的に動くのは球技大会の後でいいわ。そのタイミングに合わせる形で、三大勢力での和平提案の件、煮詰めておいた方がいいわよ」

 

 その言葉から即座に情報を推測しつつ、アジュカは告げる。

 

 十年ほど前、ある意味で自らの不手際によって発生した悲劇に一筋の救いをもたらした女性。そしてアジュカ自身が動転した彼女の言葉から推測した、埒外極まりないこの世界の異分子で唯一の協力者。

 

 制限があるがゆえに要領を得にくいその情報から、アジュカはより効率的な情報提供の手段を与え、彼女自身の聡明さから、情報共有はだいぶ楽になった。

 

 そしてそれゆえに、アジュカは準備を怠らない。

 

 最悪敵の敵として足並みをある程度揃えられる大王派に、あえて王の駒を補充させてやったのだ。そのカウンターウェイトじみたこちらの切り札込みで、異分子たちに立ち向かう準備を、まがりなりにもやってきた。

 

 だから、駒王学園高等部の球技大会が本格的な始まりなのだけはわかる。そして三大勢力和平はほぼ確実にできるという確信も得た。

 

 だからこそ、協力者について告げることは一つだ。

 

「……任せてくれ、櫛橋(くしはし)幸希(さいき)。タイミングはこっちで測るから、その時は君の相棒となる彼を、必ずこちら側に迎え入れてくれ。……俺としても、サーゼクスの妹に悪い虫がついたままってのは困るからな」

 

 その言葉に、幸希とよばれた女性は、しっかりとした動きでうなづいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年は知らない。彼以外にも幾人もの転生者が存在するということを。それが、神も魔王も滅すことができる力の具現にあやかった数与えられたことも。

 

 そいて女性も知らない。目の前の少年はただの希望ではなく、最強の希望だということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、兵藤一誠だけの物語ではない。

 

 これは、一人の少年、無想(むそう)和正(かずまさ)の物語でもある。

 

 本来あるべき縁を奪われた少年と、本来いるべきではない青年だった少年の、世界を揺るがす波を乗り越える物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし血まみれの少年を、助けなくてもいいのに助けずにはいられない少年とは、拙者が婦女子なら発狂大歓喜ものでござったな。危ない危ない」

 

「……幸希。落ち着け」

 

「……ゲフンゲフンゲフン!! ゴホンゴホン!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……物語である。




さて、本格的な話はエクスカリバー編からになります。

初手からいろいろすごいことになるので、そこら辺をお楽しみください!!
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