深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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初めまして。よかったら読んでいってください。



新入りの刻


 ──ここは、世界の海のどこかに存在する基地のとある広々とした部屋。

 

 あたり一面の壁際には綺麗にされ丁寧に並べられた単装砲、連装砲、魚雷や艦載機、戦闘機などの道具の数々。きちんと種類ごとに区別されて置かれていた。

 

 しかしそれらは一度として使われた形跡はなく、まさしく鑑賞するためのものとしてそこに在った。

 

 その部屋の中心で椅子に座ってただ黙って本を読んでいる少女がいた。

 

 髪の毛や肌は真っ白で顔の左目を囲むようにして縫い目の痕。纏っている服装は基本黒で形成されていて、頭からは二本の角のようなものが生えている。体型は人間でいうところの高校生くらいだろうか。

 

 更に読んでいる本は先ほどにもあった装備品などに関するもの。目をそこから離すことはなくじっくりと読んでいた。

 

 その表情は完全な無。傍から見れば考えていることを読み取ることは非常に困難だと言っても過言ではないであろうほどの無であった。

 

「……」

 

 無音。たまに本のページをペラリと捲る音がする程度で、それ以外にこの部屋からは音は一切出ない。

 

 まるでこのまま永遠と時が進んでいってしまうような感覚に陥ってしまうのだが───ここで部屋の外から足音が聞こえてきた。

 

 その足音は丁度この部屋の戸の前で止まり、止まったタイミングで三回、戸が軽くノックされる。

 

『姫サマ。リ級デス』

「……」

 

 気が付いているのかいないのか、声に一切の反応を示さない少女。先ほどと全く同じ姿勢で本を読み続けている。

 

『…入リマスヨ』

 

 戸が開き、外から自らをリ級と名乗った少女が入ってきた。

 

 彼女もまた白い肌だが少女とは違い黒い髪。腕に当たる部分に謎の黒い生物のようなものを身に付けており、その様はまるで人間ではなく怪物のよう。

 

 ───そう、少女を含めた彼女らは人間ではなく『深海棲艦』と呼ばれる未知の種族である。

 

 突如として海に現れ次々に制海権を奪っていった謎の生物。人間の扱う通常兵器では全く歯が立たず、人類は窮地に立たされていた…のだが、ここで人類側に対深海棲艦の兵器となる艦娘が登場。ここから人類と深海棲艦の真の戦争が始まった───というのが通説だ。

 

 つまり、現在は戦争の真っ只中であり、本来少女は艦娘と戦わなければならないのであるが、少女の興味は本…もっと言えば、装備に関することで占められているようだ。

 

「姫サマ。本日ヨリ飛行場姫サマノ所カラ戦艦レ級ガ派遣サレマシタ」

「……」

「報告ハ以上デス。失礼シマシタ」

 

 出来るだけ少女の機嫌を損ねないように最低限のことだけを報告し、部屋から出ていこうとするのだが──部屋の入り口からまた足音がした。リ級とは別の者の足音だ。

 

「ココガコノ基地ノトップの部屋カ……」

 

 先ほど話題にも上がったレ級であった。

 フードを被っていて常に笑っているように見える表情で、そしてしっぽから生き物のようなものが生えているという人間とは乖離した特徴をやはり持っていた。

 

「レ級! 勝手ニ姫サマの部屋ニ入ッテハイケマセン!」

「堅イコト言ウナッテ。今日カラココニ所属スルンダカラ、ココノ姫ノ顔グライ見サセテクレヨ」

 

 けけけと笑ってリ級を一瞥した後、すぐさまレ級は視線を少女の方へと向けた。リ級のときとは異なり、それは相手を見定めるかのような目付きであった。

 

 そんな目付きに反応したのかチラッと一瞬目だけをレ級にやった少女。しかしすぐまた本の方へと視線を戻してしまった。

 

「…本当ニ周リに感心ガ無インダナ。飛行場姫サマの言ウ通リダ」

「モウ良イデショウ? ホラ、早ク出テイキマスヨ!」

「ダガ、強イノカ? コノ姫…工作艦ダロ?」

 

 工作艦。それは旋盤や溶接機、クレーンなどの各種工作機械を装備し、艦船の補修・整備などを行う艦船のことであり、事実上、移動工廠となっている艦船である。

 ここで一先ず言えることは、少女は戦闘用の艦ではないということだ。

 

 ちなみに工作艦とは艦種の一つであり、艦娘や深海棲艦はこの艦種のどれかに属する。例えば、リ級は重巡洋艦でレ級は戦艦である。

 

 艦種だけを見れば、圧倒的に戦闘ではレ級が強いということになる。

 

「モノハ試シカ………撃テッ!」

 

 刹那、レ級は自身の艤装と呼ばれる装備を展開、砲弾を少女のほうにむけて飛ばす。弾は驚くほどの速さで少女のほうへ飛んで行きそのまま着弾、そして爆発が起こり、少女は煙に紛れて見えなくなってしまった。

 

「レ、レ級! アナタナンテコトヲ!!」

「リ級、オマエモ知ッテルダロ? 深海ハ弱肉強食。強イヤツガ上ニ立テルンダ。コノ程度デヤラレルヤツノ下ニハ就キタクナイネ」

 

 そう語るレ級の言外には、これで少女はやられてはないだろうということが示唆されていた。

 

「(一応『姫』ナンダ。コノ程度デヤラレルワケガナイ。最高デ中破…最低デ小破ダロウ。最モ、コレデ中破ニナルヨウナヤツニモ付イテイキタクハナイケドナ)」

 

 レ級はこれまでの基地を含めてあらゆる戦線で艦娘たちと砲を交えている。その際にレ級単体で熟練の艦娘の艦隊のうち三隻を大破に追い込んだこともある。

 

 それ故艦娘側からも恐れられており、飛行場姫からもその実力を認められていたため、自他ともに自分に実力があることは分かっていた。

 

 だがこの煙が晴れた後、レ級は驚きの光景を目にした。

 

 

 

「ナッ……無傷、ダト…!?」

 

 

 

 少女の持っていた本は爆風などにより粉々に粉砕されてしまっていたが、肝心の狙った少女のほうは全くの無傷。攻撃は間違いなく命中はしていたのだが、0ダメージだったということだ。

 

 持っていた本が失われたが、そのポーズのままで表情を変えない少女。驚きで固まっているレ級に、少女がズズズッと今度は顔ごとレ級の方へと向けられた。

 

 ───瞬間、ブチッと何かが切れるような音がした。

 

 同時に少女は表情を一変、目の瞳孔が完全に開き眉間どころか顔全体にしわが寄り、怒ったような顔つきに。レ級がそれを認識した瞬間には既に間近に少女はいて───

 

 

 

 

 

 ───レ級は天井へ殴り飛ばされていた。

 

 レ級の上半身がめり込み、下半身が天井から出てきているという妙な光景になっている。気絶してしまっているのか、そこからレ級が動くことはなかった。

 

「……」

 

 少女は殴り飛ばした後、再び無表情に戻り、早足で壁際に飾ってある装備たちが先ほどの爆風によって汚れていないか、位置がずれていたりしてないかの確認に向かった。

 

 一つ一つ丁寧に見ていっている少女にリ級は一度謝罪の意味を込めた礼を行ってから、レ級を無理矢理天井から引っ張りだして、また挨拶をしてから少女の部屋から去る。

 

「………」

 

 少女一人となったその部屋からは、爆発によって汚れた装備をキュッキュッキュッキュッと拭いている音だけが響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 

 

 

「…リ級、何ナンダヨアノ姫」

「何ッテ……姫サマハ姫サマデスヨ?」

 

 その基地の食堂のような広間でリ級がこの基地についての説明を始めようとした際、レ級が唐突にこう告げた。

 

「ソウジャネェヨ。ナンダヨアノ強サ。絶対工作艦ナンカジャネェダロ」

「戦艦ノ癖ニ艦載機飛バシタリ、雷撃戦ニ参加シタリ、果テニハ対潜モ出来ルレ級ニハ言ワレタクナイト姫サマモ思ッテマスヨ」

 

 レ級の愚痴を一蹴し、リ級はヨシと基地についての説明を始めた。

 

「コノ基地デハ規則ガアリマス。タッタ一ツダケデス」

「一ツダケ…?」

 

 他の基地を経験してきたレ級にとって規則というものは結構多かったものであり、それらを煩わしいと感じてはいた。だが、艦隊運営上仕方がないことなのだなと割りきっている部分もあった。

 

 だが、この基地では規則は一つだけというではないか。そこに疑問を抱きつつレ級はリ級の言葉を待った。

 

「ソレハ────姫サマヲ怒ラセナイコトデス」

「アッ…」

 

 その言葉でレ級は全てを察した。そして納得がいってしまった。

 

 正直、未だに殴られ気絶してしまったことをレ級は信じられないところがあった。だが身体が憶えているのか、少女のことを思い出すと震えてしまっていた。

 

 ここで、レ級は一つ疑問を抱く。

 

「…ッテイウカ、同ジ深海棲艦ナノニ容赦ナイノカヨ。戦争中ダロ? 戦力ハ大事ニスベキダヨナ?」

「姫サマハ良クモ悪クモ平等デスカラ…自分ノコトヲ妨害スルヤツラハ徹底的ニボコボコニスルノガ姫サマデス」

「怖ッ…ソリャ飛行場姫サマモビクビクシテタワケダ」

「飛行場姫サマガ…?」

「アァ…ッテ言ッテモ、ソウイウ感ジジャ無クテダナ…」

 

 深くは思い出せないようで、その話は一旦置いておくことにして本題の話を進めることにした。

 

「トニカク、ココデハ姫サマヲ怒ラセサエシナケケレバ大体何デモイイデス。分カリマシタ?」

「…ジャアマタ質問。アノ姫、何ヲシタラ基本怒ルンダ?」

「エット…眠リヲ妨ゲル。姫サマノ部屋ノ装備ヲ汚ス。本ヲ破ク。上等デナイ燃料ヤ弾薬ヲ食ベサセラレル等々…基本姫サマノ身ノ回リノコトニツイテデスネ」

「自己中カヨ…コンナンデ艦隊ヲ指示シタリデキルノカ?」

「ソレガデスネ…指示ハカナリ的確ナノデス」

「無茶苦茶ダ…」

 

 こんな基地でやっていけるのだろうか。飛行場姫サマのところへ戻れないだろうか。というかそもそもあの姫以外戦力はいらないんじゃなかろうか。色々な思いが入り交じりながらレ級は一人、思い切りため息をつくのだった。




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