キャラ崩壊注意です。
外はいつもと何も変わらない平和な海。いつもと何も変わらない基地の運営。だがしかし、基地内にはいつも通りではないものが一つあった。
それが我らが少女。いつもならば部屋に籠り自身の装備コレクションを手入れしたり、またはそれに関する雑誌を読んでいるであろうが、本日は違っている。
「……………」
いつもの無感情はどこへいったのか、無表情であるもののどこか不機嫌そうな顔つき。そして自らで基地内を歩いている。向かう先は言わずもがな医務室。
「キュ~♪」
そんな少女の後ろに続くのは、連装砲であろう動く何か。少女とは反して、どこか上機嫌である。
「───」
これを見ている基地内の深海棲艦たちは目の前の状況に言葉もでない。無と怒しか感情のバリエーションがないと思われていた少女が、目の前では感じたことのない不機嫌さを醸し出しているのだから。
普段の少女ならば、自分の思い通りにいかなければ自らの力を以ってしてその方向を自分の望む方へと変える。
しかし、今回の相手は自身の愛する装備。少女自身の中で割と気に入っている判定であったこの連装砲擬きの声になっていない主張を聞き入れられない少女ではなかった。
今の少女をかなり複雑な思いが支配している。まさに今の少女は爆弾。一歩間違えれば即キレて殴られ、轟沈すぐ手前に一瞬で追い込まれてしまうだろう程の圧力がある。
「オ、姫ジャン。ココニ来ルナンテ珍シ………逃ゲヨ」
あの割と怖いもの知らずなレ級でさえ、今の少女を目にした瞬間撤退。英断である。
「キュ~キュ~♪」
元凶はそれにまっっっっったく気がつかず、のほほんと少女の後を付いてきている。というか、ここまでの圧力の中でのほほんとしていられるということは余程の鈍感なのか、むしろわざとなのではないかと思ってしまうほどだ。
結局、そのまま何事も起こることなく医務室へ到着。中に入るとまだ眠っている女の子が一人。
「キュ、キュー!!」
女の子を見るやいなや、慌てて駆け出す連装砲擬き。まるで赤ん坊が親を見つけた時のように安心したような様子で女の子へと抱き付く。
「……キュー?」
「ぅう……」
だが女の子は起きない。安心した様子から少しずつその顔は雲ってゆく。ぺちぺちと手のような部分で顔を叩かれるも、やはり女の子は起きなかった。
「………………」
ドンッ!!!
「わぁあ!?!」
「キュ?!!」
ここで少女の不機嫌はMAX。少しキレ気味になりながら壁へ強烈な一撃。大きな音と共に基地全体が軽く揺れる。その衝撃で女の子は驚きながらも目を覚ました。
少しスッキリしたのか少女の顔がいつもの無表情に戻った。
「何!? え、地震!? ていうかここどこ?!?」
「キュ、キュー!!」
「あ、連装砲ちゃん! あれ、重いから現実……? って、そういえばここって──」
ふと、少女と女の子は目が合う。すると、女の子はぽつりと呟いた。
「──夕張?」
「……?」
しかし少女には聞こえず。
「じゃない、深海棲艦!!」
女の子は飛び起き、連装砲ちゃんと呼んでいたそれを抱き締めて、少女からできる限りの距離を取って睨み付ける。
「……?」
ここで、少女は疑問を抱いた。目の前の女の子はおおよそ深海棲艦。しかし目の前の女の子がやっている睨み方はどちらかといえば艦娘のしていたもの。同胞が自身に対してこのような睨みをすることに違和感を覚えたのだ。
「これ……やっぱり夢じゃない! 深海棲艦がここにいるってことは、ここは深海棲艦の基地。なら私をこんな風にしたのはお前たちしかあり得ない! 許さない……許さないっ!!」
「??」
女の子は鏡や目で自分の姿を確認。軽く絶望したような顔を作ったかと思えば、直ぐ様怒りの感情に切り替わって少女を強く睨み付ける。
一方睨み付けられている少女は何もかもが分からない。なんか知らないけど起きたら急に怒りだして睨んでくるとしかとれない状況なのだから。
「キュ、キュー!」
「大丈夫だよ連装砲ちゃん。連装砲ちゃんだけは絶対守るから…!」
「キュー!!」
温かく優しい顔つきで連装砲ちゃんを撫でる女の子。対して連装砲ちゃんの方は何やら慌てている様子だ。
「……艤装はもうないけど、連装砲ちゃんを逃がすくらいの時間は作るっ!!」
連装砲ちゃんを置いて、拳を作り再び少女を睨んでくる。
「行って! 連装砲ちゃん!」
「………」
全力を振り絞って少女へと攻撃を仕掛ける女の子。少女のほうはとりあえず直ぐ様反撃が出来る構えを取るようだ。
「はぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
今その攻撃が少女のほうへと届くというこの瞬間───
「キュー!!!」
──連装砲ちゃんが、少女を庇うようにして女の子の前に立ち塞がった。
「っっ!?」
「……!」
これには双方が予想外。動きを止めて、連装砲ちゃんの方を見る。
「れ、連装砲ちゃん!? なんで!!」
「キュ、キュ、キュー!!」
「……へ、勘違い?」
「……?」
どうやら、連装砲ちゃんと女の子は意思疎通が出来ている模様。
「キュー」
「え、連装砲ちゃんこの深海棲艦に修理してもらったの!?」
「キュウ!」
「しかもめちゃくちゃ丁寧だったなんて……嘘、じゃないよね」
「キュ、キュウ。キュキュキュ!」
「へぇ、そんなに優しかったんだー……」
まるで会話をしているかのようにスムーズに意思疎通が進んでいる。連装砲ちゃんの言っていることが理解出来てない少女は珍しく置いてけぼり。今日は本当に珍しいことが起こる日のようだ。
「でもそんなに優しくしてくれてたのなら、私をこんな風にはしないよね……」
「キュ、キュウ」
「そうだよね……。うん、謝るよ」
その言葉の後、女の子は少女へと顔を向ける。さっきまでのような敵対心丸出しのようではなく、悪いことをしてしまったという罪悪感が見て取れるものになっている。
「その……ごめんなさい。連装砲ちゃんを修理してくれたのに、ヒドイ態度を取ってしまって……」
「…………」
少女が目の前の女の子にヒドイ態度を取られたことによって不快になった、ということはない。というよりもそれ以前にまだいつの間にか移っているこの展開についていけていない。
頭を深く下げる女の子と状況をあまり理解出来てない少女。なんとも言えない光景が広がっている。
と、その時──
「ナ、何事デスカ!! ッテ、姫サマ!?」
この基地の数少ない常識人、重巡リ級が姿を現した。どうやら、先ほどの基地全体が揺れた謎の衝撃の原因究明に震源であるこの場所にやってきた様子。彼女はレ級やル級あたりがやったと思っていたようであったが、なぜか目の前には自身の敬愛する少女が。すぐにこれは少女がやったものであると判断する。
「ヒ、姫サマデシタカ……」
皆の視線がリ級へと向かい、リ級はそれに戸惑う。全員が無言になりつつその状態が少し続いてしまった。
「オ取込ミ中ノヨウデスノデ、ワタシハ失礼シマスネ……」
「……」
「ヒ、姫サマ!?」
退出しようとしたリ級、しかし肩をガシリと掴まれ逃げられない。
「アノ、姫サマ……?」
「……………」
「ア、ハイ。ワカリマシタ」
無言の命令をリ級は本能で捉え、そこの女の子の手をとり退出する。
「あ、あの!」
「スミマセン、貴女ガ何者ナノカトイウコトハ一旦置イテ、トリアエズココカラ出ナクテハナリマセン。ココジャナイ場所……ワタシの部屋ニデモ行キマスカ」
「キュー」
それに続くようにして連装砲ちゃんも出てゆく。残されたのは少女ただ一人。
「………」
誰もいなくなった医務室にて、少女は女の子が使っていなかった方のベッドに横になり、そのまま目を閉じる。以降少女が目覚めて出ていくまで、誰も医務室に入ることはなかった。