深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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説明会。そしておそらく初めて少女が出てこない異例事態です。

よろしくお願いします。


整理の時間

 さて、場所は移ってリ級の個室。割り当てられたその狭い部屋に二人と一匹……一体? の連装砲がいた。机を挟んで向かい合うようにして座っている。

 

 何から説明をしようかと考え黙っているリ級と、今のこの状況に不安を感じ口を開けない女の子。その二人の沈黙など知ったことかと言わんばかりに連装砲は女の子のほうにすり寄っている。

 

「……此方カラ一方的ニ説明シテイクノハ、其方モキツイデショウ。ナノデ、其方ノ疑問ニ思ッテイルコトヲ(ヒト)(ヒト)ツオ聞キクダサイ」

「疑問に……?」

 

 ここで、リ級がやっと口を開く。反射的に聞き返してしまう女の子。

 

「エェ。答エル事ガ出来ルモノナラバ、オ答エシマスヨ」

「……じゃあまずは──」

 

 ──あなたから見て私は何に見えますか?

 

 女の子は次のような質問を投げ掛けた。質問の意味がよく理解できなかったリ級は意図を理解しようと脳内で考えるが答えが出ず……素直に答えることにした。『深海棲艦』だ、と。

 

 その答えを聞き女の子はやっぱりかと思う反面、やはりそうなのかということを自覚してしまい気分が落ち込む。

 

 最初こそこの状態に至ったのはここの深海棲艦のせいであると考えてたものの、連装砲が庇った深海棲艦や、目の前の深海棲艦の様子を見る限りそのようには感じない。

 

 むしろこの人たちは、最初から自分のことを深海棲艦として接してくれていたのではないか。そうとすら考えてしまう。その場合ここに連れてこられる前にこんな風になってしまったんじゃないか。だったらどうして……?

 

「……アノ」

「! は、はいっ!」

「ソノ、大丈夫……デスカ? 何ダカ浮カナイ様子デシタガ……」

 

 心配そうに女の子を見つめるリ級。本来敵である相手なのにこちらを見つめるその姿は敵であることを忘れさせる。きちんと目の前の深海棲艦も生きているのだと感じ取らざるを得ない。

 

 その事で一瞬動きが止まるも、女の子は答える。

 

「は、はい。大丈夫、です。……ちょっと、混乱していて……」

「アァソウデシタカ。タマニイルノデスヨ、誕生シタバカリデ自分ノコトヤ状況ガ分カラナイ深海棲艦(同志)ガ。デスガ安心シテクダサイ。ワタシ達ガサポートシマスカラ」

 

 怖がらせないようリ級は笑顔で接する。彼女にとって、目の前の女の子はあくまで先程自分で言った類いの深海棲艦であると思っていた。

 

 少女との一悶着があって無事なことには少し驚いてはいるが、まぁ十中八九女の子の下にいる連装砲のお陰だろうと思っている。

 

 だが他の深海棲艦に比べて見たことのない姿をしていることには少し疑問を持っていた。深海棲艦というのは力を持つ姫や鬼を除いて大体同じ姿をする傾向がある。注意深く観察をすれば違いはあるが、おおよそ同じになることが多い。

 

 だがそこにいる女の子の姿は初めて見る。新しい姫や鬼なのではないかと一瞬考えたが、姫や鬼のような上位深海棲艦は他の深海棲艦が見たときすぐに姫や鬼であると直感的に気がつくものだと経験則でリ級は知っている。

 

 そうなればやはり飛び込んでくるのは、この深海棲艦は何者なのだろうというものであった。気配は深海棲艦であるのだが、そこにうっすら別のものが混じっているような気がする。

 

 しかし警戒こそされてはいるものの敵意はなさそうであるとリ級は判断する。この子をどうするのか非常に難しいところだと内心考えていた。

 

「(モシヤ姫サマモ此ノ件ヲ難シク感ジテオラレタタメニ私ニ託シテクダサッタノデハ……? ツマリ此レハ姫サマガワタシヲ信頼シテクレテイル証……!!)」

 

 あくまで面倒だから押し付けられたとは考えないようだ。

 

 一方、女の子のほうは迷っていた。その中身は、自分の経緯を言うかどうかである。少し前の自分ならばこんなことは考えなかっただろうが、優しく接してもらい言ってしまったほうがいいのかなと考えが改まってきているのだ。

 

 このまま内緒にして深海棲艦として過ごしていくほうが己の命の安全という意味ではよいのだろう。だがあくまで女の子の心はまだ艦娘のつもりだった。

 

 ならば敵である深海棲艦をここで無理やり倒していくのがいいのだろう。結果として他の深海棲艦にリンチにされるとしても一体でも道連れにできれば使命は果たせたことになる。

 

 しかし同じ志を持つ同じ艦娘に見捨てられた。協力して深海棲艦を倒すどころか、沈められた。ここで自分のこの在り方に亀裂が微量ながら入った。

 

 この亀裂が深まったのはこの基地で目覚めてからだ。連装砲ちゃんを直してくれたり、目の前の深海棲艦みたいに優しくされたり。

 

 勿論これは向こうが勘違いをしてるからという可能性もある。だが、敵が敵と思えなくなってきつつあった。

 

 だからこそ少し心を許してしまい、話してしまいたいという考えが出てきてしまったのだ。どことなく受け入れてくれるんじゃないかという根拠のない自信もないことはない。だが受け入れてもらえるなどの以前に話してしまいたいという欲求が強くなっていた。

 

 内心で首を振り、もう言ってしまおうと決意して女の子は口を開く。

 

「……あの、私……話したいことがあるんです」

「! 何デショウ」

 

 神妙な顔つきの女の子にリ級は真剣に、だが威圧感を与えない表情で向き合う。重要なことは下手に隠されるよりはある程度事情を知っている者がいたほうがいい。その考え方からである。

 

「……実は───」

 

 語り出す女の子。自分が元は艦娘であったこと、同じ艦娘に沈められたこと、気が付いたらここにいたこと、自分が深海棲艦であることが信じられないことなど……途中女の子の感情が強くなりながら言いたいことを吐き出していく。

 

 飛び出してくる数々の事柄にリ級は怯んでしまっていた。艦娘が深海棲艦になる。この事象に過去リ級は出会ったことはないし、考えたこともなかった。

 

 ならばこの子は深海棲艦ではないのか? いやしかし気配はしっかりと深海棲艦のもの。それに仮に巧妙にできたスパイだとしても、わざわざこちらに告げるメリットはない。

 

「フーム……」

 

 話を聞けばこの子にはもう戻るところがないという風にも聞こえる。ならば此方で監視という名目で置かせておくのはどうだろうか。最悪何かをやらかしたらその場で滅してしまえばいい。

 

 うん、その方針でいこう。

 

「……分カリマシタ。デハ本日カラ、貴女ノ事ハ此処デ監視ノ下イテモライマス。ソレデイイデスネ?」

「あっ……はい」

 

 監視という単語に少し曇った様子を見せるが、納得して返事。

 

「ソレデハ……オヤ、モウ夜デスカ」

 

 ふと時刻を見るともう0時を回っている。かなり長いこと話していたようだ。見ると、女の子のほうも少し眠たげな様子。

 

「明日姫サマニコノ事ヲオ伝エシマス。ナノデ今日ノトコロハ……コノ部屋デ休ンデ下サイ」

「えっ……いいんですか? その……ここは貴女の部屋じゃ……」

「マダヤルコトガアリマスノデ。ソレニ、監視スル事ガ決マッタ以上誰カガ見テイナクテハイケナイデショウ」

 

 遠慮する女の子の主張を弾いてさっさと眠らせるリ級。ここで、リ級はあることを尋ねた。

 

「ソウイエバ……貴女ノ名前ヲ聞イテイマセンデシタ。ワタシノ事ハ『リ級』ト呼ンデ下サイ。貴女ノ名前ハ?」

「私は……『島風』。『島風』です。よろしくお願いします、リ級……さん」

「エェ、ヨロシクオ願イシマス。ソシテオ休ミナサイ」

「おやすみな……さい……」

 

 こうして色々と面倒なことにあったものの、一応女の子──いや、島風がこの基地に加わることとなったのだった。

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