ということで平和回。
「……そういえば、姫様ってどれくらい強いんだろう」
ある日、自由な時間が出来たがすることがなく呆けていた島風がボソリと呟いた。連装砲ちゃんは今回ここにはおらず、自由にさせている。他の者たちもそれを許しているようだ。
敵であるはずの深海棲艦たちに快く迎え入れてもらえてから気が付けば一週間、やるべきことにもあっという間に慣れてきて気楽に過ごしていた。ここの規則かかなり緩いことも関係しているのだろうか、出来ればここに居続けたいなと島風は考えている。
その規則の中心にいるこの基地のトップである少女。怒らせるなというところから、少女の強さがこの基地を作り上げているのだということは想像できる。
「でも……うーん」
だけど実際どれほど強いのかは知らない。どんな風に戦うのか、というかそもそも普段何をしてるのか、どうして連装砲ちゃんを直してくれたのか、そして……どうして積極的に出撃をさせないのか。
「…………」
強さから始まった疑問があらゆる方向へと拡散していく。次々に湧いて出てくる疑問は留まるところを知らない。
「(前にいたところ……思い出したくもないけど、あそこも一日一回は確か誰かが出撃をしていた。なのにここは遠征ばっかりで全然出撃してない。……そういえばだけど、戦争してるはずなのに)」
島風も今思い出したように、現在人類と深海棲艦は戦争をしている状態。なのにもかかわらずそれを知ったことかというようにここではみんな平和に暮らしてる。
それが嫌ということは決してない。むしろここにいたいとは思いはするが艦娘と敵対できるかと言われればすぐには答えられない。ただ、気になるのだ。
「んー……」
少女がこの基地の皆に対して何かしてきていたかと聞かれたら何もしてなかったのではと思う。島風のいた時間は決して長くはないが、それでもある程度の全容を掴むのには十分な時間だ。
まだ自分の知らないどこかで何かしているのかもしれないが、少なくとも自分が見えるところでは何もしていなかった。
なのにもかかわらず基地の皆は少女に対して恐怖心以外の何かを抱いてた。恐怖政治の一言では片付けられない何かが、この基地にはある。……一体それは、何なんだろう。
「うーん……」
「何ヲソンナニ悩ンデイルンダ? シ級」
「ひゃあ!?」
突然後ろから声をかけられて驚く島風。振り向くとそこには戦艦ル級がいた。演習のあとなのか少し顔や身体に軽い傷や汚れが見える。
「えっと、お疲れ様?」
「ン? アァ。マァコレダケ汚レテイタラ分カルカ。アリガトウ。ソレデ、サッキ何ニツイテ悩ンデイタンダ?」
「えっと……」
島風は考える。新参でしかない自分がこんな踏み入った話を振っていいものかと。さらに相手はこの基地の強者の一人であるル級。反感を買いたくはない。いや戦闘以外についてはまともだから買うにしてもそこまで買わないだろうけど。
色々考えて……とりあえず最初に思った疑問を投げることにした。
「その、姫様って実際どれくらい強いのかなって……。物凄く強いのはなんとなく分かるんだけど、実際見たことないから」
「フム、確カニ。見タコトガナイナラ自然ナ疑問ダナ」
顎に手を置いて思考を始めるル級。少しすると衝撃なことを告げた。
「ナラ、見テミルカ?」
「……え? 何を?」
「決マッテイルダロウ。姫ノ戦闘ヲダ」
「……あの、どうやって?」
「? 直接ニ決マッテルジャナイカ。当然ダロウ? コレカラ演習ヲ申シ込ミニ行クノサ」
「い、いやいやいやいや!」
島風がまだここに慣れていない頃、忙しい合間を縫って色んなことを教えていたリ級の、嫌になるほど何回も言われたあの言葉が島風の頭をよぎる。
『良イデスカ? 姫サマハ普段姫サマノ部屋デ過ゴシテオリマス。決シテ邪魔ヲシテハナリマセンヨ!』
ル級の提案したことはリ級の教えてくれたことに反する。つまり、少女を怒らせることに直結する。それは避けるべきではないのかと思ったのだ。
「心配スルナ。最近ハ平和過ギテイル。姫モ退屈ダロウ。キット乗ッテクレルサ」
「いやいやいやいやいや! それに演習って誰が?!」
結局は相手依存。確実に上手くいく保証はない。なのにル級は自信ありげだ。
加えて演習するにしても島風は姫級深海棲艦と戦えるほど強くはない。ル級は先ほど演習をしたはずだから疲労も溜まっているはずだ。いくら戦闘狂とはいえ続けての演習などいけるはずが、
「無論私ダ! ソコハ譲ラン!!」
……いけるみたいだ。
これには島風も引いた。戦闘狂いであることは知っていたがここまでとは……という風に。
「オ前ハ姫ノ戦闘ガ見レル。私ハ姫ト戦エル。姫モ私ト戦エル。全員ガ幸セニナルジャナイカ!」
「どう考えても姫様が幸せにはなってないと思うけどなぁ……」
そのままずるずると引き連られるようにして少女の部屋のほうへ歩いていく。途中すれ違った他の深海棲艦から同情するような目で見られていたことに少し悲しくなった島風であった。
「トイウコトデ、失礼するゾ姫!」
「し、失礼します!」
ノックもせずにバーンと扉を開けて中に入るル級と、反射的に背筋を伸ばして丁寧に挨拶をする島風。後者のはリ級の教育の賜物だろう。一応少女は上司であるのでせめてノックくらいはすべきだとは思うが……まぁこのル級には難しいのかもしれない。
対して少女は────連装砲ちゃんの手入れをしていた。
「キュッキュー♪」
「あ、連装砲ちゃん!」
「キュ!」
「わぁすごい、めちゃくちゃ綺麗……」
ピッカピカに輝く連装砲ちゃん。島風に気が付いたのかすぐに島風のほうへ行き自身を見せびらかしている。綺麗になったよ、見て! とでも言っているかのようだ。
そんな彼女らをスルーして、ル級はずんずんと少女のところへ進み声をかける。
「サァ姫! 演習ヲシヨウジャナイカ!」
「……」
少女は直ぐ様本を読み始めてこれを無視。いつもの光景だ。
だがこんなところで折れるル級ではない。何度も何度も申し込む。
「最近ハ暇ダロウ? ナラ演習ヲシヨウジャナイカ!」
「平和過ギテ退屈ダロウ? ナラ演習ヲシヨウジャナイカ!」
「運動ガシタイダロウ? ナラ演習ヲシヨウジャナイカ!」
少女、これを全て無視。いつもの光景である。
島風はチラチラとその光景を眺めつつ連装砲ちゃんと戯れている。すぐ怒ると思っていたため意外と短気ではないんだなと感じた。
ル級は声をかけ続けるが少女はやはり無視している。数分経っても変わらないため、流石にもう無理だろうと島風がル級に一声かけようとしたその瞬間、ル級が渋々かなり大きい箱を取り出した
「フム……ナラバ仕方ガナイ。姫、対価ダ」
中身を開いて少女に見せる。そこには鋼材があった。
「……」
数は少ない……だが、質はよい。少女は本から目を移してそれらを見たあと、本をしまって箱を取り鋼材の質の確認を始めた。
島風は驚きフリーズする。少女が動いたからだ。
「……」
確認が終了したようで、少女は箱を閉じて自分の椅子の近くに置く。加えて艤装を展開して部屋から出ていった。
「オオ、ソウデナクテハ!」
意気揚々としてル級も出ていった。行き先は当然、演習室であろう。
誰もいなくなった少女の部屋にて、ようやくフリーズから解けた島風が思わず突っ込んでしまった。
「いや、そんなのあるんなら何で最初から出さないの?!?!」