深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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 平和な時間は続く。


強さの時間

 演習ルームの観戦場の一つ。島風はとりあえずそこへ足を運んでいた。予想外の展開になったとはいえ、実際気になっていた少女の強さ。そしてそんな少女とル級はどんな戦闘を行うのかを見てみたかったのだ。

 

 まだ演習の準備を執り行っているのか、開始はまだなされていない。おそらく先ほどまで演習をして整備中だったル級の装備を引っ張りだしているからだろう。

 

 少女がポツンと待機している場所から遠くにある観戦場から一人でそれを見ている島風。連装砲ちゃんもこれから行われる演習に興味津々なのか、ニコニコしながら島風に抱き抱えられながら今か今かと待っていた。

 

 ここで島風は、ふと思う。

 

「(……もしかしたら、何か分かるかもしれない。この演習から、何でこの基地が基地としてやっていけているのかが)」

 

 少女に対して周りが寄せている謎の敬意や信頼。逆にこれらがなければこうやって基地の運営は出来ていないはず。

 それが強さだけで成り立っているとは到底思えない。対価さえ用意すれば装備を手入れしてくれるらしいが、それだけだったとしてもそれまでにいかないだろうし、何より対価が必要という時点でそれによるものでないことは分かる。

 

 ならば今まで見たことなかった演習でそれが掴めるのかもしれない。例えば、その者の欠点を教えつつ能力が向上できるようにアドバイスとかをすることだったり、工作艦ということで様々な種類の装備を作成してそれを用いて色々な戦況を再現して経験をつけさせたりなんて。

 

「……いや、さすがにそれはないかぁ」

 

 装備の開発ができるとは言っても使えるわけではないかと思い至り後者を否定する。だが、前者に関しては強くあり得るかもと感じていた。

 

 というかむしろあとはそれくらいしか残ってないのではとも感じる。ここで他の者たちの信頼度を集めていなければ本当にこの基地がわからない。

 もしかしたら知らないだけで、姫級深海棲艦というだけで無条件に服従をするものとかがあるのかもしれないが……。流石にそれはあってほしくないなと島風は感じた。これまで考えてた時間が全て無駄になるからだ。

 

「うーん……?」

「オヤ、ドウサレマシタ? 首ヲ傾ゲテ」

「あ、リ級さん。お疲れ様」

「ハイ、オ疲レ様デス」

 

 やってきたのはリ級。演習が行われると噂にはなってたためここに来たこと事態はおかしくはないものの、ただ演習を見に来ただけではないような雰囲気を纏っている。

 

 島風の真横に立つ。そのままリ級は顔を向けて話しかけてきた。

 

「貴女ガ来テ一週間デスネ。何カ困ッタトコロトカハアリマセンカ?」

「ううん、特にないよ。むしろ快適」

「ソレハ良カッタデス」

 

 どこか今日のリ級はやわらかいし温かい。今のリ級ならば、自分の疑問に答えてくれるかもしれない。

 なんとなく島風はそう思った。そのため一声かけてみた。

 

「……あの、リ級さ──」

 

 途端に鳴り響く演習開始直前を知らせるサイレン。互いに準備ができた時に鳴るものだ。よく見ればすでにもうル級はスタンバイしている。

 

 一旦ここは目の前の演習を見ることに集中することにしたようだ。

 

「オヤ、始マルミタイデスネ。サテ、ル級ハドレダケ姫サマニ食ライ付ケルノデショウカ……」

「え、そんなになの姫様って」

 

 一度だけではあるが、島風は偶然ル級が演習をしてるところを短時間だが見たことがあった。その短時間でもル級の強さが嫌というほど伝わってきていたのだ。

 

「……ソウイエバ、貴女ハ姫サマノ戦闘ヲ見ルノハ初メテデシタネ」

「うん」

「ソレナラ良イ機会デスネ。姫サマノ勇姿ヲ存分ニ堪能シテクダサイ」

「あ、はい」

 

 瞬間、演習開始を告げるピストルが放たれる。目をリ級からそちらに移せば既にル級は動き出していた。

 

 さらに黄色いオーラを全身から放ち目の辺りからは青いオーラが見える。戦艦ル級flagship改の登場である。

 

 思わず島風は息を呑んだ。遠くにいるはずのル級のオーラが伝わってきたからだ。

 

 これに対して少女は変わらず無表情。特にその場から動かずのほほんとしている。

 

 次の瞬間、二回の砲撃。移動をしながら色々な場所から一点に放たれている。まるで艦隊のようだと島風は感じ取った。

 

 速さを武器としている自分ならばおそらく頑張れば避けられるだろう。しかし、それだけだ。そこから反撃してあのル級を倒せる考えが浮かばない。それに持久戦に持っていかれたら不利になるのは明らか。

 

 姫様ならどうするのだろうと、少女の動向に注目する。

 

 すると少女は放たれた砲弾をキャッチし圧縮してその場に落とす、これを繰り返していた。

 

「──はぁ?!」

 

 避けるでも被弾するでもなく握りつぶす。見たことないそのやり過ごし方に島風は思わず叫んでしまった。

 

 それからもその場から全く動かずにやり過ごしている。加えて驚いてるのは自分だけのようで、リ級やル級はそれに怯む様子すらない。

 

「……姫様って本当に工作艦……?」

「ソウデスヨ。工作艦デス。……マァ、初メテナラソノ反応モオカシク無イデスネ」

 

 言外に少女が化物扱いをされているにもかかわらず、リ級は怒るどころか苦笑しながら答える。尊敬しているとはいえ多少そう思うところがあるみたいだ。

 

「アレデマダ本気ヲ出シテイナイノデスカラ、恐ロシイモノデス」

「え、あれでもしかして手を抜いてるとか……?」

「積極的デハナイノハ事実デスネ」

 

 変わらずル級の攻撃を何でもないように払い除けている少女と懸命に続けるル級。防戦のみの少女であるはずなのに状況は少女が有利になっていた。

 

「──ソレデ、何カ私ニ聞キタイ事ガアルノデスカ?」

「ふぇ?」

「アァ、視線ハソノママデイイデスヨ。演習開始前ニ何カ言イタゲデシタノデ、何カアルノカナト思イマシテ」

 

 すると突然、リ級が島風に話しかけてきた。これに対して島風は考える。

 

「(……どうしようかなぁ。でもチャンスだよね、知りたいことが知れる。……姫様の演習からそれっぽいことも感じ取れないし……。もしかしたらタブーなのかもしれないけど……その時は仕方ないか)」

 

 考えた結果、聞いてみることにしたようだ。

 

「……少し、聞きたいことがありまして───」

 

 ここから、島風はゆっくりと言葉を紡いでいく。出来るだけ簡潔に、そしてあまり不快にさせないように気を付けて。

 

 リ級はこれを静かに聞いていた。島風が懸念していたような難しい表情を作ることはなく、どこか納得をしたような顔つきになっていった。

 

「──ナルホド、ソウダッタンデスネ」

 

 島風が全てを話し終えた後、リ級は顎に手をおいて考える仕草をとった。

 

「……ソウデシタネ。貴女ハ元々艦娘ミタイデスシ、知ラナイノハ仕方アリマセンネ」

 

 次の瞬間、リ級は信じられないことを島風に告げた。

 

「実ハデスネ……コノ基地ハ今行ワレテイル深海棲艦ト人類ノ戦争、ソレニハ参加ヲシテイナイ(・・・・・・・・)ノデスヨ」

「──え?」




 なんとなく知ってたって方もいたかな?
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