「実ハデスネ……コノ基地ハ今行ワレテイル深海棲艦ト人類ノ戦争、ソレニハ
「──え?」
予想していなかった真実がリ級から伝えられ島風は困惑する。どういうことなのだと、そんなことがあるものなのかと言葉こそ違えど同じことに関する疑問は留まるところを知らない。
加えて、そんなことは聞いたことがない。リ級の今言ったことは、自分たちは人類側でも深海棲艦側でもない別の陣営であると言ったとも解釈できる。仮にそうだとしたら相当重要であり、多くに知られているはず。
なのに自分はそれを聞いたことがない。単純に自分のいた環境の問題もあるのかもと考えるが、それでも流石に耳にする程度には聞いていないとおかしいはず。
「……マァ、ソウデスヨネ。一応正確ニオ伝エスルト、実質的ニソウナッテシマッテイル、トナリマスガ。参加シテハイル事ニナッテイルンデスガ、一度モソウイウ戦闘ハシテイナイデスカラネ。……ソモソモ、姫サマガ戦争ニ乗リ気デハアリマセンシ」
「な、なるほど……」
少女が乗り気ではないと言う言葉にはこれ以上ないほどの納得をするものの、新たな疑問が浮上してくる。
他の深海棲艦からの催促とかは来ないのか、じゃあ何のためにこういった演習をしているのか、どうして────リ級たちはここにいるのか。
なんだか予想よりもかなり重たい話になってきていることにどこからか冷や汗が流れ出してくる島風。先ほどまではまだ普通の感覚で聞けることであったとしても、今湧き出てきた疑問達はかなりデリケートなものになっているかもしれない。そのため聞こうか聞くまいか悩んでしまう。加えて聞いてしまったことで変な空気になってしまったかもしれないとも思った。
表情にはそれは出さず、脳内でこれからどうするべきかを思考し続ける。だがその様子を見つめるリ級は思わずクスリと小さい笑みを浮かべた。
「気ニナッテイルノデショウ? 色々ナ事。特ニ、私達ト姫サマノ関係ニ」
「!」
責めるようではなく囁くように告げたリ級に島風はちょっと驚きつつ、考えを当てられたことにちょっとした恥ずかしさを覚えた。びっくりしてしまった表情の島風を見つつクスクスと笑い、リ級は続ける。
「──昔ノ事デスガネ。ココニイル深海棲艦達ノ殆ドハ皆、元々落チコボレダッタノデスヨ」
「……え?」
勿論私モ含メテ、と何故か笑みを浮かべて話すリ級にあり得ない、と島風は感じ取った。
この基地はもはやリ級がいなければ回らないに等しい。遠征や演習、食事や工廠の人員や整備などの指示、少女への報告などこの基地に必要なことのほとんどを担っている。もちろん何らかの用事でリ級が抜けるときには他の者がこれらを行うが、リ級ほど適切に回せる者はいないだろう。
それに、リ級だけでない。遠征時にお世話になった駆逐や軽巡の深海棲艦の先輩たち、こうして目の前で少女と戦っているル級、たまに絡んできて割と話を聞いてくれるレ級、『ヲ』ばかりで何を言ってるかあまりわからないが気にかけてくれているのはわかる優しいヲ級────等々、この基地のみんなが落ちこぼれであったなんて思えないのだ。
「今ハ違イマスヨ? シカシ──少ナクトモ私ハ、アノ時マデハ本当ニ落チコボレダッタンデス」
そう言ってリ級は視線を演習の方へ戻す。しかしまるで演習自体を見ていないような表情だった。すぐに島風に顔を戻して驚きが止まらない島風にさらに続けた。
「長クナルノデ多クハ話セマセンガ、色々アッテ姫サマニ居場所ヲ貰ッテココニイル、トイウ形デスネ。大体他ノ皆サンモソノヨウナ感ジノハズデスヨ」
「──そう、なんですね……」
ようやく戻ってきた島風。リ級の先ほどの言葉には特に気になっていた疑問のはっきりした答えがあったわけではないが、『居場所を貰った』という言葉から推測するに、少女に大きな恩義を感じているということはわかった。表面では怖がりつつも、他のみんなもそうなのだということも。
「タダ──レ級ニ関シテハ正直良ク分カリマセン。彼女ノミ落チコボレダッタトイウ話ハ聞キマセンカラ」
「……え、そうなんですか?」
「デスガマァ警戒ハシナクテモイイト思イマスケレドネ。初期ノ頃ハシテイマシタガ何モ無カッタノデ」
『蛇足デシタネ』と告げてさらにリ級は話す。
「他ノ疑問ニツイテハ、気ニナルノナラバ暇ナ時ニデモ私ノ部屋ニ聞キニ来テクダサイ。答エラレルトキハオ答エシマスノデ」
「あ、はい。なんだか色々すみません」
「オ気ニナサラズ。……オヤ、決着ガツイタミタイデスネ」
演習終了のサイレンが辺りに鳴り響く。勝者は勿論少女。いつの間にかその場からいなくなっている。対して敗者のル級は満身創痍、だがめちゃくちゃ嬉しそうな表情を浮かべている。島風は引いた。
「デハ、オ先ニ失礼シマスネ」
「あ、はい」
一声かけてからリ級が去っていき、その場に島風一人になる。先ほど言われた話を脳内で再び繰り返すため思考する。その際にある部分が引っかかった。それはかつてリ級も落ちこぼれであったということ。詳しいことは語ってくれなかったものの、あの場面で冗談を言うような人には見えないことから、本当なのだと思う。
「……」
今の自分はどちらかと言えば落ちこぼれに部類されるのだろうと島風は思う。だから鎮守府では捨てられたのだ。この基地にきてからも完全に歯車の一つとして回れているかと言われたらそうじゃないだろう。実際多く失敗しているのだから。そんな自分を周りは温かく慰めてくれていた。逆にそれが罪悪感を煽り反省に反省を重ねてしまうのだが。
対局の位置にいると思っていた自分とリ級。しかしかつてリ級もこちら側だったのだと聞いてしまった。そのおかげなのかせいなのか、島風はふと思ってしまう。
「……なれるのかな、わたしも……リ級さんみたいに」
なんでもバリバリこなせて頼れる存在。憧れを抱かないといえばそれは嘘だ。今まではどこか無理だと決めつけていたが────。
「……ねぇ連装砲ちゃん。わたし、リ級さんみたいになれると思う?」
「────」
「連装砲ちゃん?」
「キュゥ……」
「……寝てる?」
見れば、いつの間にかぐっすりな連装砲ちゃんが。話が長くて眠っちゃったのか、それとも単純にお眠だったのか。どっちでもいいかと島風は思わず苦笑。
このまま抱えっぱなしなのは寝にくいだろうと島風もその場を後にして、自身の部屋へと向かう。
「(……まぁ、まずは自分が出来ることをやらないとね!)」
まだまだ残っている疑問は、役に立ち始めたときの褒美として聞こうと決意。ということでまず目の前にある出来ること、連装砲ちゃんを寝やすい場所で寝かせることを始めるのだった。
ここまで平和