新たに自身の目標を見つけ、努力を始めた島風。仕事として与えられた遠征から、今までは中々取り組まなかった(取り組む余裕がなかった、が正しいかもしれない)演習にも参加してみたり、直接リ級に教えを乞いに行ったりもした。
最初こそ少しやる気が空回りしたり、演習にてボコボコにされたり、失敗を何度も繰り返したりしていた。だが他の者がカバーしてくれたり、反省点を告げてくれたり、丁寧に教えてくれたりなど、他の者の力もあって着実に力を付けていた。
それはきちんと結果にも現れてきているため、努力することが楽しくなってきていた。
どれもこれも島風にとっては忘れたくないエピソードとなったのだ。……流石にル級が少女に対して挑発に挑発を重ねまくった結果、共闘とはいえ少女と戦うことになったときのことはもう思い出したくないようだが。
まだまだ基地の中では下の方とはいえ力を付けてきた島風。今日もまた一日頑張ろうと起き上がったその時、いつもとは違う変な感覚に気がつく。
「……連装砲ちゃん?」
いつも大体自分と同じ、もしくはそれより少し早く目を覚ます連装砲ちゃんの目が覚めてくれないのだ。
苦しそうな表情をしているわけではない。昼寝の時や就寝の時のようにすやすやと眠っている表情。
だったら今日は少しお寝坊さんなのかな、と島風はまずは自分自身の準備を始めることにした。着替えや身を整えなど、やることとしてはそこまではないが、ある程度の時間はかかる。それまでに起きてくるだろうと踏んでいた。
しかし目覚めない。ちょくちょく覗きにきても起きる気配がまるでない。
「連装砲ちゃーん、起きてー。ご飯食べにいこー」
軽く揺さぶってみるが、やはり起きない。ここまでになると少し嫌な予感もするが、考えないように頭を振って打ち消す。
「……先に行ってるからねー?」
一応声を掛けて、急ぎ足で食事へと向かう。帰ってきたら目を覚ましてるだろうと期待し、早足で帰ることと連装砲ちゃんの分の食事も持って帰ることを心に決めた。
道中、食事中、連装砲ちゃんのことが頭から離れず、どこか上の空だったのを他の深海棲艦の者、主に一緒の遠征部隊の者たちから心配をされていたが、自分は大丈夫と返すだけだった。いつも一緒の連装砲ちゃんが来てないことも心配されたが、それも今日は寝坊みたいでと濁して急いで食事を済ませ、連装砲ちゃんの分のご飯を持って自室へ戻る。
「ただいま、連装砲ちゃん!」
どこか不安な自分の心から目を逸らすために元気よく振舞って部屋の戸を開ける。
きっと大丈夫だと信じていた。起きたら自分がいなくて泣いてて、帰ってきたことに気が付いて駆け寄ってきて、それを自分は謝って、それで終わりのはずだと祈っていた。
しかし、現実はそうはいかなかった。
「……あれ?」
無音。起きてきた様子なんてない。島風がどこにいったのかを探していた形跡もない。行く前と同じ、何も変化してない。
慌てて向かうとまだ寝ている連装砲ちゃん。流石にこれはおかしいと考えざるをえなかった。
だけど考えすぎじゃないかという考えも捨てきれない。本当にまだ寝てるだけなんじゃないか、少ししたら何もなかったように起きて来るんじゃないかと。
「……どうしよう……!」
島風自身、今日やらなければいけない任務がある。いくら連装砲ちゃんのことが心配とはいえ、その任務に行かないわけにはいかない。だけど連装砲ちゃんは心配……。
「そうだ! リ級さんのところに行こう……!」
狭間で揺れに揺れた結果、今一番自分が信頼しているリ級に相談に行くことにした。幸い、任務開始時間まではまだ時間があった。
「ごめんね、連装砲ちゃん……」
優しく抱きかかえて、リ級の部屋のほうへダッシュ。今ここで抱かれてるのに気づいて起きてくれれば──なんて願いも届かずに連装砲ちゃんは眠ったまま。心臓がドクドクしてることを実感しつつ、助けを求めに行ったのだった。
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ここは、比較的本部からは遠い位置に存在するとある鎮守府。外観は綺麗ではなく、ボロボロといってもいいかもしれない。そんな鎮守府の執務室にて、提督らしき男が複数人の艦娘たちからの報告を聞いていた。
様子をみると、艦娘たちはどこか提督に怯えているように見える。
「──以上より、本遠征は成功。資源の獲得を完了しました」
「ご苦労」
男からはその一言が告げられる。それにどこかホッとしたような様子で艦娘たちが退室をしようと動こうとしたその時、男が動き出した。
「……だが、足りんなぁ。私は最低でもこの成果の倍を求めたはずだが?」
ギロリと遠征部隊の艦娘たちを睨む男。慌ててすぐさま頭を下げる旗艦。
「も、申し訳ございません、提督。……ですが」
「言い訳はいい。聞きたくもない。……あまり私の機嫌を損なわないでくれたまえ。そのままもう一度──」
「ま、待ってよ!!」
責める男に対して、部隊の艦娘の一人が大声で反抗する。その場の全員の注目を引いた。
「だって、提督全然補給させてくれないじゃん! 燃料とか数少ない中、なんとかやりくりしてきたんだよ! せめて補給くらいは──」
「黙れ」
どこからか取り出した拳銃をその艦娘に向ける。場の空気が再び男の支配下になってしまった。
「俺がここの鎮守府に着任した以上、お前ら艦娘は俺の奴隷だ。そんな成果しか出せてないお前らにくれてやる燃料なんぞここにはない」
今度は全員を睨む男。怯む艦娘たち。
「生きたきゃ、さらに俺のために働け。成果を出せ。そうすれば最低限度の衣食住の保障はしてやる。成果を期待以上に出せるのならば、相応の上乗せもしてやる。いつも言っていることだろ?」
銃をしまい、姿勢を整え続ける。
「今のことは不問にしてやる。だが──次はない。アレと同じになりたくなければ……分かってるな?」
「──は、はい! 申し訳ありませんでした!!」
冷や汗と身体を震えを抑えながら、謝罪。誠意が見えたのか男から威圧感が少し消え、ため息を一回。
「分かればいい。では、行け」
『はい!』
艦娘たちが退室。一人になったその場所で、先程渡された遠征報告書を眺め、再びため息。
「全く……まぁ、いい。計画に支障はない」
ぐしゃぐしゃに紙を力に任せて丸め、ゴミ箱に捨てる。その後パソコンを起動。色々と操作され開かれた液晶には海図と光る点が映っている。
「『地点ラの九』……ほう、『ラ九作戦』の場所から場所を変えてないとは驚いた。争いを避けるためとっくに移動をしているものだと思ったのだがなぁ」
にやりと呟くその男。そして再び拳銃を取り出し、構える。銃口が向けられた先には、工廠棲姫を捉えた写真があった。
「──深海棲艦には、どういうわけか元来我々が保有していた武力で傷をつけることができない。しかし、妖精とやらが作成した武器を艦娘が扱うことで、初めてダメージを与えることができる」
ふと、男が呟く。どこか苛立ちを含んでいるような雰囲気がある。
「──そんなの、認められるものかッ!」
瞬間、銃口から弾丸──ではなく、レーザービームが放たれ、写真の工廠棲姫の額部分に穴が空く。
「長い歴史を積み上げてきた人類の叡智が、艦娘や妖精などというぽっと出の存在にあっさりと超えられるなど……断じて許されないッ!」
視線は、変わらない。
「……私が証明してやる。私の開発した武器でッ! あの工廠棲姫をッ! 滅するッ!! ……そうすれば、上のバカどもも洗脳が漸く解けるだろう。艦娘や妖精のせいで停滞した科学は動き出し、何れそいつらは不要になる」
怒から喜へ、表情が変化。
「素晴らしい。あぁ、なんと待ち遠しいことか……。そのためにも、早く計画を進めなくてはならない」
窓のほうを眺め始める。方角は砂浜のあるほうで、見ればぐちゃぐちゃにされた駆逐イ級だった何かが大量に廃棄されていた。
「俺の武器が深海棲艦の肌に通ることは確認出来ている。姫級とはいえ、通らない道理はない」
机に向きなおし、キーボードのある箇所を押す。画面が切り替わって、今度は連装砲ちゃんの図が出てきた。内部一ヶ所部分が赤く点滅している。
「いいぞぉ、破損した様子はない。想定通り、連装砲を気に入ったようだな。流石俺の開発した装置だ。素晴らしいタイミングで動作してくれている。後は全ての準備が整い次第起動すれば……!」
そこから笑いが抑えられなくなり、一人笑い声を上げ始めた。
「工廠棲姫……お前の命ももうすぐだ。精々俺の糧になってくれよぉ?!」