深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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艦これ久々に始めました。面白いですねやっぱり。



点検の時間

「連装砲サンガ……デスカ」

「そうなんです……」

 

 リ級の部屋に突撃し、話をした島風。当初朝早くということもあり断られるかと考えていたが、そんなことはなく快く迎え入れてくれた。

 

「あの、考えすぎじゃないかって思うところもあるんですけど、ちょっと怖くて……」

「……」

 

 リ級は装備について詳しくない。自身のに近い装備──重巡、または軽巡ならばまだそれなりに知識はあるが、それ以外の艦種の装備に関しては見たことあるなという程度の認識のものしかない。

 加えて持ち主から離れて自立する連装砲ちゃんのような装備などこの基地にはない。だからこの症状が何を意味してるのか、どうすれば治る(直る?)のか、島風の言う通り考えすぎなのかなど、全く分からない。

 

「(ウーン、困リマシタネ……)」

 

 だからといってここで知りませんと返してしまうことなんてリ級には出来ない。折角自分を頼ってくれたのだからどうにかしてあげたいと思う。

 

 考える。この基地で一番装備に詳しく、連装砲ちゃんをなんとか出来そうな存在は誰かと。一瞬で答えにありつけた。

 

「(ソリャア、姫サマデスヨネ……)」

 

 リ級以外が考えても全員が至るであろうこの結論。勿論少女以外に装備を直せる設備がこの基地にないわけではないが、それは既存の装備に限る。構成などが知られるそれらを機械的に直してるだけに過ぎない。

 対して少女ならば、色々見てきた経験なども相まってこの原因を理解してくれるかもしれない。さらに少女は一度海水によって動かなくなった連装砲ちゃんを修理した実績があるため、修理もできるだろう。この件は少女に任せることが最適解のはずだ。

 

「(デスガ……)」

 

 しかしまたここでリ級の忠誠心がその考えを阻む。姫サマのお時間を邪魔することはできない、と。極力はこちらだけで解決したいと。

 だが案が出てこない。このままずっと考えていても時間だけが過ぎてしまう。早くしなければと焦って考えるほど余裕がなくなり何も思いつけないという悪循環。

 

「(……仕方アリマセン)」

 

 悩み考えた末、リ級の導きだした結論は……。

 

「……一度、連装砲サンヲオ預カリシテモヨロシイデスカ? スミマセンガ、コチラデ手ヲ尽クシテミマスノデ、貴女ハ任務ノ方ヲオ願イシテモイイデスカ?」

「……わかり、ました」

 

 任務があるため仕方がない。それは納得しているが、どうしても気になってしまうようだ。

 

 最後によろしくお願いします、と頭を下げて任務のほうへと向かっていった島風。これを見送った後、受け取った連装砲ちゃんを優しく机の上に寝かせる。

 

「……サテ、ヤリマショウ」

 

 リ級は自身が蓄えている資源を確認し始める。装備の修理を頼むため相応の対価を用意しなくてはならないからだ。よって、数も質もよいものを揃えていかないといけない。

 

「……ヨシ、コレダケアレバ……」

 

 かき集めたそれらをカバンに詰め込み、再び連装砲ちゃんを抱き抱えた。部屋から出て少女の部屋の方へと向かい始める。

 それから感じる動悸。やはり慣れないなと感じつつも、逃げることなく歩みを続ける。

 

「……オ、リ級ジャン」

「オヤ、レ級」

 

 道中、レ級と遭遇。抱き抱えられている連装砲ちゃんとバッグを見て色々と察したようで、苦笑いのようななにかを浮かべる。

 

「アー……ソレ、アイツノダロ? 壊レタノカ?」

「マダ分カリマセン。ソレヲ含メテ診テ貰オウカト」

「フーン、ナルホドナァ」

 

 少女の強さを知っているレ級からの回答としては、おかしなところなんてなさそうなその言葉。そのはずなのに、妙な違和感を覚えるリ級。

 

「(……元気ガ、ナイ?)」

 

 言い方を変えれば生気を感じられない、だろうか。心ここにあらずといった様子。いつものレ級らしくない、とすぐさま感じ取れた。

 

「オ、ドウシタリ級? モシモーシ?」

 

 それに気がつけてから、無理矢理にいつものように振る舞おうとしていることに気がついた。

 比較的新人側であるとはいえ、既にもうレ級はこの基地にとっては掛け替えのない一人。何か抱えているならば力になりたいと、リ級はじっとレ級のほうを見る。

 

「……レ級、何カ悩ンデル事ガアルナラ、遠慮ナク私ニ──」

「オット、ココニイルヨリ早ク姫ノ所ニ行ッタラドウダ? ホラ、行ッテコイ!」

「エ、チョ、レ級?!」

「ジャ、私モ行クカラ!」

「アノ、マダ話ハ──!」

 

 話すだけ話して去ってしまったレ級。周囲を振り回すそれは確かにいつものレ級と言えるのかもしれない。しかしやはり違和感が消えない。その証拠にリ級は見たからだ。

 ──改めてリ級が見つめたとき、レ級がほんの一瞬だけ怯んだような表情になったところを。

 

「……デスガ今ハ、コチラヲ優先シマショウ」

 

 後程時間を取って向き合おうと決意し、一旦今はやるべきことを優先して少女の部屋の方へ向かう。

 

 ──この時、レ級を追いかけていれば違った結果になったかもしれない、と後悔することなど知らずに。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 場所は移り、少女の部屋。島風襲来から時間がそれなりに経ったこともあり少女は既に混乱から回復しており、本を読んだり装備の手入れをしたりといつもの日常を送っていた。

 お気に入りの烈風含めて現在は完璧に手入れを済まされており、その輝きは美しいの一言に尽きる。

 

 そして現在、椅子に座って本を読んでいる少女。無音とも呼べるその空間に、ノックが響く。

 

『姫サマ、リ級デス。失礼シマス』

 

 部屋に入ってきたのは当然ながらリ級。少女は一瞬だけリ級の方を見てから再び本の方を見ようとしたが、抱えられてる連装砲ちゃんを目にすると、視線を固定して固まった。しかしすぐに戻り今度はリ級の方をじっと見る。

 

「……」

 

 説明しろ、と無言の圧で告げている。連装砲ちゃんは少女の部屋にこそ飾られてないものの、お気に入り装備の一つであったため、今の連装砲ちゃんが状態異常なのだと理解した。

 それに対して少し怯むリ級であったが、なんとか立ち直って言葉を紡ぐ。

 

「──ハイ。説明サセテ頂キマス」

 

 何がどうしてこうなったのかを出来るだけ簡潔に、漏らさず伝えていく。

 

「勿論姫サマノオ時間ヲ取ッテシマウコトハ理解シテオリマス。デスノデ、コチラノ方ヲ用意サセテ頂イタノデスガ──」

「……」

「……ヒ、姫サマ?」

 

 艤装を展開。連装砲ちゃんをリ級から回収し、近くに寝かせた。差し出された資材の入ったカバンになど見向きもせず、早速修理に取り掛かり始める少女。

 

「……失礼、致シマス」

 

 念のためカバンをその場に置いて、頭を下げて退室する。これ以上ここにいれば少女の邪魔になってしまうという判断からくる行動であった。

 さらに、今回少女は時間を提示していなかった。今回は手入れではなく修理だからということも考えられるが、いつ終わるのか見通しが立てられないということも示していたのではないだろうか。それほど厳しい問題である可能性もあるということだ。

 

「……」

 

 実際、少女はこれ以上ないほど集中しており、修理を行っている。

 まずは点検。悪い箇所の特定作業に入っていた。ここから原因発見、修理と順に進んで行くのだが、ここで少女の手が止まった。

 

「……!」

 

 原因箇所の発見が出来ない。正常に稼働しているとしか思えないのだ。

 連装砲ちゃんそのものの開発経験無し、修理経験はダメになった部品を取り換えただけでしかないことも関係しているのかもしれないが、深海棲艦の装備、部屋にある装備は全て触ってきている。普通の連装砲もそれに含まれているし、構造もそれに近いことも部品の取り換えのときに理解している。経験則、知識に基づいて判断した結果は、異常なしになった。

 

「……」

 

 これには少女は驚き、一瞬だけ表情に出る。まさかの機器に異常があったわけではなかったのだから。

 だとするならば、後考えられるのは、別のなにかが異常を発生させているとか。

 

 全く想定とは違うこの状態。このアプローチが状態を知るという面から見れば全く意味が無かったというわけではなかったが、直接的に修理に結び付いていたわけではない。これを受け、少女は───一旦、連装砲ちゃんを元の状態に戻した。

 

 戦略的撤退を図った少女。一度休憩をし、その間に冷静になって次のアプローチを考えるようにしたようだ。

 

 椅子に座り、軽く息を吐く。そのまま目を瞑り、脳内にてどうすれば連装砲ちゃんが完璧に修理できるのかについての思考を巡らせていった。

 

 そんな時だった。

 

「邪魔スルワネ」

 

 思考が止められ、ノックもされることなく入ってきた侵入者に対して怒った目付きで睨む。

 

「アラアラ……久々ナノニ、ソコマデ睨マナクテモイイジャナイ」

 

 くすくすと余裕のある笑みを浮かべる侵入者。睨まれているにもかかわらずそこに恐れは見えない。

 

「今日ハ貴女ニ話ガアッテ来タノ。嫌デモ聞イテ貰ウワヨ?」

 

 侵入者──戦艦棲姫はそう言いながら、笑みを浮かべつつ少女のほうをじっと見るのだった。




字空け忘れてましたので修正

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