深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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前回、少女に対峙したのはあの戦艦棲姫!
片や睨み、片や不気味に笑みを浮かべるという不穏な空気の中、どうなってしまうのか──!!


将棋の時間

 パチン……パチン……。

 

 静かな部屋に鳴り響く叩き付ける音。規則的に鳴っているというわけではなく、ある時は鳴ってからすぐに、ある時は少し間を置いてからまた鳴る。

 それ以外には何も聞こえない。互いに向き合い正座をし、間に将棋盤を挟んで対局している。そう、今行われているのは将棋だ。戦闘でも討論でもない。あの殺伐とした雰囲気の中でどうしてこうなったと誰が見ても言うだろう。

 

「……久々ネェ。コウヤッテ将棋ヲスルノハ」

 

 ふと、戦艦棲姫が独り言のように呟く。

 

「鈍ッテナイカ心配シタケレド……変ワッテナイワネェ。嬉シイワ」

 

 真っ最中であるはずなのに、雑談に持ち込もうとしてくる。それに対して少女は反応を特には示さない。どうやらこのように将棋を通じてコミュニケーションを取るのは以前にもやっていたらしい。

 

「聞イタワァ。貴女、大本営ノ精鋭ヲホボ壊滅状態ニ追イ込メタソウジャナイ。ソコマデヤッタノニ、ドウシテ沈メナカッタノ?」

「……」

「……マァ、貴女ラシイトイエバソウネェ」

 

 傍から見れば戦艦棲姫が少女に一方的に語り掛けてるだけ。だがどこか通じ合っている。そうも見える。

 そこからまた無言での指し合いになる。しばらく駒を盤に叩きつける音が不定期に鳴り響くだけに。しかしそれがずっと続くわけではなく、時折戦艦棲姫が思い出したように少女に何かを語り、一言二言会話(とはいってもやはり戦艦棲姫が話しているだけなのだが)をすることを繰り返していた。

 

 こうして雑談をしつつ将棋を楽しんでいるはずの二人だったが、突然戦艦棲姫が明るくなってきた雰囲気に水を差すような低い口調で話し出した。手番が戦艦棲姫に回ってきたタイミングだった。

 

「……今日、ココニ来タノハコウシテ将棋ヲ指スタメダケジャナイワ」

「……」

 

 驚きの反応などは一切示さない少女。分かっていたのだろう。少しだけ顔を上げて戦艦棲姫の方を見る。早く言え、とでも言うように。

 これから話す、という流れを作り出しておきながら、どこか話しにくそうな戦艦棲姫。少しの沈黙の後、ため息をついて切り出した。

 

「──最近、貴女ヲ問題視スル勢力ガ増エテキテイル」

 

 間髪容れずに続ける。

 

「元々、声ノ数ハ少ナクナカッタワ。ダケド我々側、人類側共ニ不干渉トイウ形ヲ保ッテイタカラコソ見逃サレテイタ面モアッタ。デモ、ソウデハ無クナッテキタ」

 

 見つめ返す戦艦棲姫。

 

「サッキ話題ニ出シタ、アノ出来事。ソコデ艦娘ヲ一切沈メナカッタ貴女ニ不信感ヲ持タレテイル」

 

 確かにそうだ。大本営襲撃(初めてのお使い烈風編)時、ラ九作戦(少女ブチ切れ事件)時、両方とも艦娘たちを轟沈寸前には追い込んでいたが、それ以上のことはしていない。

 深海棲艦側の一般常識として、人類側についている艦娘たちは殲滅対象だ。沈めるために最大限の力を出すべきだ。言われなくても生まれ出でてから染みついている常識。それが少女には抜け落ちてしまっていたようだった。

 

「私ハナントナク分カルワ。付キ合イハソレナリニ長イカラ。ダケド他ノ連中ハ違ウ。深海棲艦デアルハズナノニ深海棲艦トシテノ使命ヲ果タセテナイ貴女ヲ排除シヨウトスル声モアル」

 

 パチンッと王手。対策をしなければ、そのまま取られてしまうところまで追い込まれた。

 

「コノママナラ、排除案ガ多数決デ可決サレル可能性モアル。私モ組織ニ属シテイルカラ、決定ニナッタラ逆ラエナイ。ソノ状況ハ貴女ニトッテモ面倒ナハズヨ」

 

 すると、戦艦棲姫はどこからか紙を取り出した。『所属証明書』と書かれたそこには、自身は深海棲艦側に属しており人類を殲滅させるために活動していく、などと署名をした者の立場が深海棲艦側にあるのだということ記載されていた。

 

「コレニ嘘デモイイカラ署名シテオクコトヲ勧メルワ。私ハ旧友デ将棋仲間ノ貴女ト戦イタクナイ。ソレニ貴女ニトッテモ、深海棲艦側ト主張シテオクコトニ不利益ハ無イト思ウケレド?」

 

 少女の手番。王手にしてきた駒を王の駒でバキィッと叩き割った。視線は戦艦棲姫。その目には明確な意思が見えていた。

 

「……二日、時間ヲアゲルワ。ソノ時ニ返事ガ変ワッテイルコトヲ期待シテオク」

 

 分かっていたようにため息をつき、視線を盤面へ。

 

「……ソレニシテモ、ドウシテナノカシラネェ」

 

 再びため息。理由は言わずもがな、目の前の盤面にあった。

 自軍はまさかの王、金のみ。それ以外は全て取られてしまっていた。さっき王手をかけられたのは辛うじて取ることが出来た歩で苦し紛れの一手のみ。

 まるでさっきまで対等な勝負をしていたような振る舞いをしていた戦艦棲姫であったが、そんなことはなく圧倒的大差で負けていた。ほとんど勝負はついているといってもいいほどだ。

 

「私モ色々特訓シテキタハズナノニネェ……。前ト全ク変ワッテナイ気ガスルワ」

 

 二人の付き合いは先ほど戦艦棲姫が言ったようにそれなりに長い。姫級深海棲艦の中でも超初期の頃から存在していた二人だったからこそ交流期間が長かっただけとも言えるかもしれないが、とにかく関係は深いほうであった。

 そこから二人はいつしか将棋をする仲になった。戦術の勉強になるという方便で深海棲艦の中で昔に流行ったことがきっかけである可能性はあるが、本当にそうだったのかは正確には分からない。

 これまでの戦績は少女の全勝。だが戦艦棲姫が弱いわけではなく、むしろ姫級深海棲艦の中では強い方だ。加えて勉強もしているため腕も上げてきている。実は以前よりはいい勝負になっているのだが、まだ圧倒的な差で負けてしまっているという事実に変わりはない。

 

「マダマダ足リナイ、トイウ訳ネ。……次ハマタ腕ヲ上ゲテクルワ」

 

 立ち上がり、出口の方へ。去る直前、振り向く。

 

「ソレ、書イテオイテネ。ジャアネ、コーショ」

 

 一人残された少女。渡された紙をじっと見つめ、掴む。そのまま──

 

 ビリビリビリッ! 

 

 細かく破き、その場に放り投げる。一仕事終えたかのようにぐっと背伸びをして立ち上がり、連装砲ちゃんの方に向かう。どうやら息抜きはできたようだ。再度艤装を展開して、修理へと取り掛かる。

 

 その目にはもう迷いはなかった。

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