深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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囮の時間

「……時は満ちた。今こそ、俺の力を示す時──!!」

 

 ────────

 

 異常のありそうな箇所に加えて、殆ど全ての部品の取り換えに成功。これにより連装砲ちゃんの修理を完了させることに成功した少女。連装砲ちゃんはまだ寝ているものの、比較的状態がよくなったからなのか少女は先ほどと比べてそこまで気にかけている様子ではない。

 

「………」

 

 修理開始からおよそ7時間。途中戦艦棲姫襲来というハプニングがあったものの、完遂することが出来たようだ。普段よりも集中して取り掛かっていたためか非常に疲労が溜まっているのか椅子に腰かけて目を瞑っている。寝ている……のだろうか。休んでいることは確かではあるようだが。

 

 すると、部屋の戸が静か目にノックされる。

 

『姫サマ、リ級デス』

 

 リ級のようだ。最初修理を始めた際に少女の邪魔をしないようにと、長い時間近づかないようにしていたが、そろそろ時間も経ってきた頃なので一度確認の意味も込めてきたのだろう。

 勿論少女は返事などしない。できないのかもしれない。それを理解してか少ししてリ級が部屋に入ってくる。ただしいつもよりも出来る限り音を立てずに。

 

「──ッ!」

 

 入ってきて早々、休んでいる少女を見て驚くリ級。長い間少女に仕えてきたがこのように寝ている様子を直接見るのは初めてだったからだ。

 

「姫サマ……ナント……!」

 

 目の前で気を抜いて休んでいる姿に愛おしさや美しさを見出し感極まって口元を押さえてしまうリ級。いずれ見れたらいいなと密かに思っていた少女の姿の一つをこうして拝見できたのだ。言ってしまえば、いきなりめちゃくちゃ刺さる推しの供給が行われた状態だ。こうなっても仕方がないといえよう。

 

「──ハッ、イケマセン。休マレテイルナラバ、早ク出テイカナケレバ……」

 

 少女を心配する忠誠心からなんとか持ち直す。言葉の通り出ていこうと行動をしようとするが、『ソノ前ニ』と一瞬辺りを見渡し連装砲ちゃんを探す。すぐに発見。預けたときから様子は変わっていないように見えるが、少女がこうして休んでいることから絶対修理してくれたはずだと結論づける。

 

「(島風サン達が任務カラ帰還スルノハ四日後。アノ集中サレテイタ姫サマノ様子カラ帰還サレル頃ニ終ワルカト予想シテイマシタガ……流石姫サマデス!)」

 

 リ級の中で少女に対する尊敬度がぐんぐん上昇。元より上限のないメータのためどこまで上がるのかはわからないが。

 それはともかくとして、邪魔をしないために一度少女へ頭を下げることを忘れずに行い、再び静かに部屋から出ていった。

 

 残された少女と連装砲ちゃん。いずれ起こる二つの大きな厄災に向けての、束の間の休憩といったところだろう。なおそれを少女が知るのは、少し先の話ではあるのだが。

 

 ──────

 

「──ュー!! キュー!!!」

「……」

「! キュ、キュー!!」

 

 リ級が訪ねてからおよそ3時間後、起床。目覚めた少女の瞳に映るは大きい起きている連装砲ちゃん。手(ひれ?)で少女の胸のほうを叩いて起きたことに喜んでいる様子。起きたというよりもどちらかといえば起こされたといってもいいこの状況。普段の少女なら絶対そこで朝いちばんの怒りを見せるところではあるが、怒りの様子を見せない。きっと連装砲ちゃんだからだろう。

 

 出来ていると確信はしていたがこうして意識を取り戻し完治した連装砲ちゃん。改めてそれを認識した少女は一回息を吐き、優しく連装砲ちゃんを抱きかかえてゆっくり床に下ろす。そして立ち上がり、腕を天へやり身体を伸ばす。ゴキベキバキという鳴ってはいけないような音を鳴らしつつ身体をほぐしていく。連装砲ちゃんはそれをまね始めた。

 

 日課のほぐしを済ませたその後は基本的に少女の気分次第。本を読んだり装備の手入れをしたり、はたまた食事に出ることもしばしば。さて今日はどうするかという時に、視線を連装砲ちゃんに向ける少女。

 

「キュ?」

 

 いつものフキンをどこからか取り出し、手入れを開始。連装砲ちゃんは早速の手入れに驚いたものの装備である連装砲ちゃんにとって手入れは嬉しく気持ちの良いことなのでその身を少女に任せる。

 

「キュー……」

「…………」

 

 職人のように集中して手入れを行う少女。時に強引に、しかし時に優しく手入れ。完全に連装砲ちゃんの顔は蕩け切っていた。

 先のリ級の言葉が真なら島風帰還まではまだ時間がある。それまではこうして気まぐれにやってきた連装砲ちゃんの手入れをしたりして過ごしていくのだろう。

 

 ──その、はずだった。

 

「────キュ」

「……?」

 

 突然、少女から距離を取った連装砲ちゃん。そのままどこかへかけていく。

 

「……」

 

 先ほどの様子とは異なり、ただの機械になってしまったかのような様子。あれが先ほどと変わらず元気いっぱいなものであったら気に留めなかったが、明らかな不具合。とりあえず、追いかけることに。

 

 早朝のようで誰も目覚めていない。そのため誰もいない基地の中を全速力で駆ける連装砲ちゃん。思っていた以上の速さで進む連装砲ちゃんに対し、少しギアを上げて連装砲ちゃんに追い付こうとする少女。

 

「キュ──」

「…………」

 

 全力を出すと基地に損害が出てしまい大事な装備や連装砲ちゃんが傷ついてしまうことを恐れてか全力ではないにせよ、並大抵の深海棲艦の速度よりは速いものを出している少女であるが、どういうことか連装砲ちゃんとの距離がわずかながらしか縮まらない。

 簡単な改装をしたもののあそこまで速くなるための部品の導入はしていないはずなのだが、あの速度。元々の艦の速力の関係もあるのだろうか。何にせよさらにギアを上げて追いかける少女。

 

 ついに基地の外──海に出た。このことで少女はぐんとスピードを上げて連装砲ちゃんに接近。基地から大分離れて結構進んだある地点で──突然連装砲ちゃんの速度がガクンと落ちた。

 

「!」

 

 少女も速度を落として連装砲ちゃんを捕まえた。確認すると意識を失っている様子。

 

「……」

 

 突然の暴走。加減があったとはいえ少女に匹敵するほどのスピード。いずれかに思うところがあったようで思考を始める少女。そこに──。

 

 

「よぉ。死んでくれ」

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