深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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轟沈の時間

 避ける。向けられた銃口の射線上から。

 しかし完璧に避けるにはわずかに遅かった。頬にその攻撃を受けてしまった。ただし銃弾のかすり傷などではない。──直線上に肌が抉られた痕が出来ていた。ジュクジュクしている。溶けている、といってもいい。そこから熱も感じられる。

 

「ッ! は、ははっ……!」

 

 驚き、口角を上げる男。確信こそしていたものの姫相手に対する実行は初めてであったからだ。

 通じる。それだけで男の何かが湧き上がる。

 

「……」

 

 ぎぎぎ、と顔を男の方へ向ける少女。

 いるのは男だけでなく、男の護衛として位置しているような複数の艦娘たち。少女に対して向けられている視線は恐怖、そして驚愕。以前少女に対して敵意をむき出しにしてきた者たちとは真逆でそれらは感じられない。

 しかし、その男の近くにいる。それだけで敵であることを理解した。

 

 ──ブチっと切れる音がした。表情が怒りのものに変化する。

 

 一瞬で優しくその場に連装砲ちゃんを置いて男たちの方へ攻撃を仕掛ける。

 

「! おい、俺を守れ!」

 

 命令を下し自分の盾を動かす男。少女にとってはもうそこにいれば攻撃対象。前に出てきた艦娘に焦点を絞り拳を一撃。一瞬で轟沈寸前まで追い込む。

 

「ちぃ……!」

 

 男の持つ銃は男の手で改造したもの。少女に傷を与えるほどの威力を持つが、十秒のクールダウンがある。残り四秒。その四秒を稼ぐために再び別の艦娘に盾の役割を命じる。

 

 一撃大破。残り三秒。さらに一人に命令。動ける護衛残り一人

 

 再び一撃。残り二秒。さらに一人に命令。動ける護衛残り零人。

 

 一撃。残り一秒。次はお前だというように男のほうを向く。

 

 今少女の一撃が男に突き刺さる、その瞬間。

 残り零秒。

 

「効くことはわかった。さぁ、死ねッ!」

 

 銃口を敢えて少女の方に向けず下にやり、振り上げる。同時に攻撃。

 

 ──少女の腕、首、身体がきれいに分離した。 

 

 各切断部分から強く噴き出す青い液体。

 

 支えがなくなり、少女だった『それら』が海に落ち、沈んでいく。

 

「はは、ははは、ははははハハハハハハ!!!!」

 

 放たれたのは、光線。いわばレーザービーム。それによって少女を破壊した。

 

「俺が! 人の技術が!! 討ち取ったんだ!!! あの、工廠棲姫をッ!!!」

 

 歓喜。それが男を包む感情。

 しかしふと、少女が置いた未だ気絶している連装砲ちゃんが目に入る。

 

「あぁ、お前ももういらねぇな」

 

 クールダウン後に再び放ち、連装砲ちゃんを切断。少女と同様に沈んでいく。

 

「──ハハハ! これで証明できた! ようやく艦娘や妖精の時代が終わる!!!」

 

 嬉しくてたまらない。そんな表情が隠せない。

 

「アハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 しばらくの間、その場所は男の高笑いで包まれた。

 

 

 ──────

 

 

「──!!」

 

 瞬間、リ級は身体を起こす。切らしている荒い息。バクバクし続ける鼓動。異常な寒気。

 辺りを見渡す。自身の部屋だ。このような症状が出る理由が分からず、目覚めたばかりで頭が回らないが必死で考える。刹那突として気が付く。

 

「……姫サマ?」

 

 少女の気配が感じ取れない。深海棲艦同士で気配を感じあえることは以前に述べさせていただいたが、意識すればその存在が誰なのかを識別できる。実は毎日起床と同時に敬愛する少女がちゃんといるかをなんとなくで確認している。

 その気配が何故かない。感じられない。

 

「……落チ着キマショウ。思イ出スノデスリ級。以前ニモアリマシタカラ」

 

 基本的に自室でのんびり過ごす少女であるが、ごくたまに外出をしている時がありはしていた。用事は出歩くだけだったり資材資源採取だったりと多岐に渡るのだが。

 ただし前回は五年ほど前だったりする。それほど頻度は低い。

 

「……」

 

 しかし前回にはなかった妙な感覚を覚えるリ級。

 深呼吸をして自身を落ち着けようとするものの晴れることはない。

 

「……三時間以内ニオ戻リニナラナケレバ、捜索スルコトニシマショウ。エエ、ソウシマショウ」

 

 自分を納得させるためにわざと声に出すリ級。

 どうせそんなことにはなるはずがない。きっとなんでもないように帰ってこられるはずだ。強くそう念じ自身の仕事に取り掛かろうとする。

 

 ──しかしこの日、少女が帰ってくることはなかった。

 

 

 ────────

 

「──!?」

 

 任務の真っ最中、島風は『何か』を感じた。敵発見の感覚? 単純に体調不良? いずれでもない。島風自身なんと言えば良いのかわからない変な感覚なのだ。それも、今まで感じたことのないもの。ただ分かることは、この感覚は良い方向のものでは決してない、ということだけだ。

 思わず動きを止めて思考を始める島風。そんな様子に一緒に任務に来ていた他の深海棲艦が声を掛ける。

 

「あ、あぁうゥん、大丈夫。ごめんナさい」

 

 あれ、と自分の先ほど発した言葉に違和感を持つ島風。

 

「(私ってこンな話し方ダったっけ? ……って、こっチも?)」

 

 内心の声までも少し違和感を覚えるものとなっていることに気が付く。少し前まではこのようなことはなかったのにもかかわらず、だ。先ほど感じた『何か』と、話し方の変化。この二つは何か関連があるとして、任務をこなしつつ思考する。

 

「……アれ、こレってもしカして」

 

 すると、自分の今の話し方が若干他の深海棲艦のものに似ているのではないかという考えに至った。これまで自分が会ってきた者を挙げた時、その話し方が人間側なのか深海棲艦側なのかで微妙ながら違いがあることに気が付いたのだ。

 これを真としたとき、自分に何が起こっているのかを考えると次のようになっているとすることができる。

 

「(私、深海棲艦に近づイてル?)」

 

 寧ろ今までがおかしかったのかもしれない。外見だけが深海棲艦に酷似しているのに、まだ染まり切っていなかった状態。それが漸く進みだしたというところだろうか。

 この姿になった当初は深海棲艦側に対しては敵対する者という感情しかなかったため、非常に恐ろしい変化でしかなかった。しかし今では──それでもいいのかなと考えてもいた。

 

「(リ級さんニ近づけテるって考えれバ……それに、こっちのほウが温かイし)」

 

 とりあえずは納得。今のは自分が染まってきているよというだけのサインだったとするならば。

 ……だが島風の内心に未だに残る霧。おそらくその原因は『何か』。理由を自身で考え解明したと思ったはずなのに晴れない。

 

「(……なんでだロう?)」

 

 今思いつくあらゆる可能性を思考するものの、変わらない。変えられない。

 

「(……後で考エよう)」

 

 霧は薄くならないが濃くもならず一定。確かにこのままにしておくのは気持ちが悪いが、思いつかないのであれば仕方がない。それに、思考は帰ってからでもできるし、なんなら連装砲ちゃんをリ級から引き取りに行ったときにでも話を聞けるかもしれない。

 

「(そうダよね、連装砲ちゃんのコともあるし、はヤく任務こなさナきゃ。『速きこと、島風の如し』だカらね!)」

 

 残り任務期間は三日弱。まだまだ始まったばかりのことではあるが、再び気合を入れて取り掛かるのであった。

 

 

 

 ──────

 

 

 その日の午前九頃から、特定の海域のみにて嵐が発生。波が荒れに荒れており、雨も槍のように降り注いでいる様子。加えて海の中でも渦巻が発生しているため海上でも海の中からも近づくことが危険とされた。

 

 午前十時、リ級が指揮を執り少女の捜索を開始。幅広く探索を行うが発見できず。また、件の海域には近づくことが難しいとされ、一度嵐が止むまで待ってからその海域を探索することに。

 

 午後三時。例の海域以外の殆ど全ての探索を終了。発見できず。嵐も止まず。再び同じ箇所の探索を行うことによってすれ違った可能性を排除する方向に。

 

 午後九時。嵐は止まず。加えて他の場所にて成果無し。一旦ここで探索を断念。日を改めて探索を行うことに。

 

 

 翌日午前七時。嵐の存在消失を確認。探索開始。

 

 午後六時。成果無し。

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