深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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決戦の時間

 突然の妨害行動。少女の元へ行かせないようにして前に陣取るその振る舞い。裏切りと呼んでもいいこの行為に一同動けない。そんな彼女らに目もくれず、俯いたままのレ級。

 

「《改flagship》覚醒……」

 

 呟く。そして起こる突風。風に包まれ、次に姿を現したレ級は大きく見た目を変えた。左目が青く光り、全体的に黄色く、しかしどす黒いオーラを纏っている。見た目が変わった。だがそれだけではないのだということがその場にいる者全員が直感で悟る。姫たちを除き、今この場で一番強い深海棲艦は、彼女であると。

 そして絶望する。そんな彼女が、自分たちの敵として目の前にいることに。

 

「ッ! レ級! 説明シテ下サイ! ドウイウ事デスカ?!」

「……ドウイウ事、ネェ?」

 

 ニィ、と笑みを浮かべた。さっきまでの無表情が嘘のように。まるでいつものように。

 

 顔を上げる。笑っていた。しかしそれは、見たものに恐怖しか与えない。

 

「見リャ分カルダロ!? 私ハオ前達ノダッ!! 姫ヲ援護シタキャ、私ヲ倒シテミヤガレ!!」

 

 本人からのはっきりとした裏切り宣言。これで決定した。少女陣営にとっては、レ級は敵なのだ。

 これを受けての、他の者たちの反応は様々だ。

 

「……面白イジャナイカ」

 

 驚きつつも、新たなる強敵の発見に心が躍ってしまう者。

 

「ヲ……ォ……?」

 

 裏切りのショックで怯んでしまい、まだ信じることができてない者。

 

「……レ級?」

 

 ──どこか、違和感を覚える者。

 

 しかし、どんな反応であっても彼女らのこれからの行動は決まっていた。

 

「……ソウダ、ソレデイイ」

 

 艤装展開。成れる者は成る。最初から全力状態。そうしなければ対抗すらできないからだ。

 レ級に対して情がないわけではないし、むしろ全員があるほうだろう。けれども、彼女らの主は少女だ。少女がその道を選んだのならば、ついていくしかない。レ級が向こうに行ってしまった時点で、この戦いは避けられない。

 

「……ヘ、来ネェノカヨ。ダッタラ、コッチカラ行クゾォ!!」

 

 今、こちら側の火蓋が切られた。

 

 

 ────────

 

 

「アラ、始マッタミタイネェ」

 

 首を鳴らしながら告げる戦艦棲姫。相対する指を鳴らしてその時を待つ少女。

 

「ジャア、コッチモ始メマショウカ」

 

 再び空気が変わる。瞬間、両者後ろに下がり少し距離を空ける。

 

「ハァッ!」

 

ズドンッ!!

 

 戦艦棲姫の艤装から放たれる砲撃。予備同化などなしに速さに特化したもの。

 

 突然放たれた一撃。並大抵の相手なら怯み、対応できず、当たってしまうかもしれない。

 

 しかし、少女は歴戦の深海棲艦だ。

 

ガシィッ!!

 

 容易く見切り、片手でキャッチ。そのまま圧縮。勢いよく投げ返した。

 

 自分が撃った弾がそのままの速さで返ってきたと言ってもいい。これも者が者なら対応できず、被弾してしまうだろう。

 

 だが、戦艦棲姫も歴戦の深海棲艦であり、少女のことを長く知っている者でもある。そんな行動など予測済みだった。

 

 右手の甲で弾く。斜め後ろからの爆発音と、爆風。

 

 戦闘開始から僅か数秒。両者無傷だ。

 

「……マァ、ソリャ効カナイワヨネェ」

 

 くすっと笑う戦艦棲姫。効かないこと分かっていたはず。なのにどうしてこんな行動に出たのか。こうして両者がぶつかり合うことは久しい。実力が鈍ってないかを試したとも言えるかもしれない。

 

「ヤッパリ貴女ニハ、コッチジャナイト駄目ミタイネェ」

 

 拳を握る。そう、少女と同じ近接戦。戦艦の攻撃である砲撃が効かないということを戦艦棲姫は知っている。

 

 今回戦艦棲姫に課せられた任務は、少女の生け捕り。多少なりともダメージを与えなくてはならない。そこで、近接戦闘だ。

 

 互いに、駆ける。互いの得意な拳を握りしめて。

 

 近づく。同時に繰り出す。己が持つ、その拳を。

 

 衝突。威力がすさまじく衝撃波が海面にも伝わっている。

 

「──ネェ、忘レタノカシラァ? コーショ」

 

 しかし、拮抗はすぐ崩れた。

 

「……!」

 

 徐々にではあるが、押される少女。

 

 身体を捻り戦艦棲姫の拳に蹴りを入れ、競り合いを止め、そのまま下がり距離を取る少女。自分の拳と戦艦棲姫を順に見る。

 

「フフフ……久々ダモノネェ。イイワァ、ソノ表情」

「……」

 

 少女の艦種は工作艦。戦艦棲姫は言わずもがな。双方、最強格の姫級深海棲艦であることは間違いない。しかし、艦種というこの差は超えられない。

 

 現状の純粋な力比べでは、戦艦棲姫が上であるということが、たった今証明された。

 

 

 

 ──────

 

 

 

「ソンナ、姫サマガ……ッ!」

「ヨソ見シテンジャネェ!」

「ッ!」

 

 戦闘開始からわずか一分程度。戦況は荒れていた。

 状況として多対一。多少個々の力が低かったとしても、それを数で補うことで拮抗、または圧倒するはずだった。

 

 戦争とは数である。数が多い方が征することが基本である。しかし、圧倒的な実力を持つ個を相手にしている場合は話は別だ。

 

 駆逐艦、巡洋艦などの《改flagship》に成ることが出来ない艦は、殆どがあのレ級を前にして動くことが出来ず航行不能。現在戦闘行動を行えている成れる艦や成れないが勇気を持つ艦も全員小破以上の損傷。なお、対象はかすり傷未満の損傷しか見受けられない。

 

 加えて、優勢なのはレ級である。理由は単純、個が群を超えていたからだ。

 

「戦闘狂ノル級サンヨォ、コノ程度ナノカァ?!」

「クッ……! ──イイゾ、イイゾレ級ゥゥ!!」

 

 基礎となる速さ、火力。加えて戦艦にあるまじき雷撃や戦闘機発艦。レ級eliteの状態で既に他の深海棲艦の改flagshipに届くか届かないかの位置に居たのを、flagshipをすっ飛ばして改flagshipに成ってしまった。並の深海棲艦ならば、勝てない。届かない。

 

 それが分かっているからこそ、リ級はレ級に対して疑問を抱いていた。

 

「(コレホドノ強サヲ持チナガラ、何故マダ戦闘ガ続イテイルンデショウカ……?)」

 

 できないわけではないはずだ。今のレ級の動きからそれは見て取れる。

 現在ヲ級の艦攻や艦爆に対処しつつ、ル級を圧倒しながら、リ級と砲火を交えている。三人を完全に翻弄しているにもかかわらず、必死さが感じられない。当たり前のようにこなしている。すなわち、本気を出していないということ。

 

 時間を稼いでる、と見る事も出来なくはない。リ級らを少女と戦艦棲姫の戦いに入らせないように戦闘をしているわけであるので、敢えて長引かせていると判断する事も出来る。

 しかしレ級は少女の強さを体感したり、見たりしてきたはずだ。何か目的があっての戦闘ならば、少女を制圧することが目標のはず。いくら戦艦棲姫とはいえ一対一で少女を完封することは厳しいだろう。

 

 それなら、リ級達全員を撃沈寸前の航行不能状態か、それ以上にして戦艦棲姫に合流すれば、目標達成は早いはずだ。

 しかし、それをしていない。加えて小破以上の損傷を誰にも負わせていない。

 

 やはりおかしい。リ級はそう感じ取らざるをえなかった。

 

「──レ級、ドウシタンダ! 何故本気ヲ出サンノダ!」

「……ヲ?」

 

 他の者も薄々同じことを感じ取っていたらしい。全員その場で動きを止め、レ級を囲むようにして位置する。

 

 ル級は手加減されてることに憤りを感じて詰め寄り、ヲ級はどこか不思議そうにレ級を見つめる。そのほかの者たちも、全員同じところに至ったのだろう。三人と同様に、遠目ではあるがレ級を囲んだ。

 

「──ナ、ナンダヨオ前ラ? 私ハ、敵ダゾ? 今マデココノスパイヲシテタンダ。今日コノ日ノタメニナァ。ホラ、サッサトカカッテ来イヨ」

 

 はがれてきている。少しずつ。

 

「──レ級」

「ッ! ソンナ目デ見ルンジャネェ!」

 

 砲撃。しかし、当たらない。

 

「……ラシクナイ。オ前ラシクナイゾレ級! 演習ノ時ノオ前ト戦ッテイタトキハモット気ママダッタ。ダガ、今ハ?! ツマラン戦イ方シカシナイジャナイカ!!」

「……ェ」

「モシ本当ニ敵ニ回ッタノナラバ、私ハ敵トシテ受ケ入レテヤッタサ。ダガソノ目ハナンダ! 敵ノ目ヲシテナイジャナイカ! 何カ、アルンダロウ!?」

「ヲヲ!!」

「……ルセェ」

「……話ナラ、イクラデモ聞キマスヨ。私以外ニモ、ココノ皆サンハ全員──」

「──ウルセェンダヨォ!!」

 

 再び、発砲。やはり、誰にも当たることはなかった。

 

「オ前ラハナァ、私ヲ敵トシテ迎エ討テバイインダヨ!! 覚悟ハ決メタンダ!! 敵トシテ、ココニ立ツッテ!! ……ナノニッ!!」

 

 思いの丈を叫ぶレ級。

 

「ナノニ……ナンデ……」

 

 段々と声がしぼむ。頬を伝る水滴。

 

「ナンデ、優シクスルンダヨ……ッ!」

 

 苦しかったのだ。裏切ることになってしまうことが。

 最初は任務と割り切っていた。だが、そのうちここでの生活が楽しくなってきてしまったのだ。同時に、ここにいたいと思うようにも。ラ九作戦時、基地の防衛を積極的に務めるくらいには。

 

 今まで見てきた基地は、無機質だった。機械のようにタスクをこなし、それが当然とするものだったから。

 しかしここは温かみがあった。元々落ちこぼれ集団であったことの名残りなのかもしれない。だがそれがレ級にとって、妙に居心地が良かったのだ。

 

「……レ級」

 

 手を差し出すリ級。レ級のこの反応を見て、もう誰も自ら進んで敵になろうとしたなどと思っていなかった。何か、理由があるんだと。

 

「────」

 

 レ級は思わず、手を伸ばして────。

 

「全ク、ヤッパリマダマダネェ」

 

 そして、弾かれた。




めっちゃ時間かかったのにこれで3000字? うせやろ?

あ、アンケートなんですけど、もしかしたら本編として使うかもしれません。
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