深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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絶望の時間

 あのにらみ合いから一転。先に動き出したのは少女だった。

 

 再び右拳を振るう。今度は勢いをつけて。

 

「アラ、マタ比ベ合イ? 何度ヤッテモ無駄ヨォ」

 

 小さく殴るモーションを入れ、さっきと同じように拳をぶつけ合うような形で対応する。衝突時、一瞬拮抗状態になるものの、やはり少女が押されてしまう。

 

 ここで、少女は力を緩め拳を外した。

 

「!」

 

 対抗していたものが消え、勢いそのままに戦艦棲姫の身体が拳を突きだした方に傾く。

 その隙に少女は戦艦棲姫の背後に回り、全力で蹴りを入れる。

 

「カ……ッ!」

 

 堪らず飛ばされる戦艦棲姫。怯んだ様子をそのままにしておく少女ではない。間髪容れず右拳を構え追撃。

 勿論、戦艦棲姫もこのままやられっぱなしではなく、砲撃で注意を引いて立て直し、受ける。

 

「流石……ネェ、コーショ……ッ!」

「ッ……」

 

 再び拮抗状態へ。今度は戦艦棲姫が受けに回っているため、受け止めることに意識がいってるのか、現状態が維持されている。

 このままでも埒は明かない。今度は拳の形を変え戦艦棲姫の腕を掴み、そのまま背負い投げ。

 

 しかし投げた直後艤装によって少女の脚が掴まれ、反対方向に投げられる。これで互い距離を取った状態。少々ダメージを負ったものの振り出しに戻った。

 

「アッハハ! イイワネェコーショ」

「……」

 

 力では負けているにもかかわらず、どうして少女が戦艦棲姫に互角以上に渡り合えているのか。それは、艤装の大きさに他ならない。

 

 少女の艤装は他の姫級深海棲艦に比べ、非常にコンパクトに纏まっている。少女の戦闘スタイルはその身体能力を活かした肉弾戦。故に激しい動きが必要とされる。その際に他の姫級深海棲艦のように艤装が大きすぎると、まぁ言ってしまえば邪魔になる。

 

 加えて、少女の艤装は装備の改修、修理、開発(これは滅多にないが)の時にしか使われない。であればその時に必要な最低限のものだけがあればよい。そのような改造が少女によって施され、現在のサイズに至る。

 

 対して戦艦棲姫は艤装が大きい。そもそもの戦艦という性質上、速く激しい動きをするというよりは、どっしり構えて砲撃、肉弾戦の場合はやってきた敵を葬るスタイル。力こそはあるものの、その分スピードはそこまでだ。

 

 それならスピードで翻弄できる少女が有利と判断できるかもしれない。確かにそれは、少女と対峙してきた回数が少ない艦娘や深海棲艦もそうだろう。

 しかし戦艦棲姫などの、古くから少女と付き合いがある者は違う。完璧ではないものの、ある程度は対応が出来る。現にさっきの隙を作らせない追撃も、戦艦棲姫だからこそ立て直せた面もある。

 

「久々ヨォ。コンナニ楽シイノハ」

「……」

「本当ナラ、モットコウシテイタインダケドネェ」

 

 少し不満げに呟く戦艦棲姫。これがただの演習であるならば、こんな呟きもなかっただろう。

 

「(──ソウ、今回ハ『生ケ捕リ』トイウ目的ガ明確化サレテイル。戦闘ヲ長引カセルコトハ、組織ニトッテノ利点ハナイハズ。サッサト終ワラセナイト)」

 

 一度深呼吸が挟まれる。そして、目が切り替わった。

 

「……!」

「今度ハコッチカラ行クワヨォ!」

 

 連続砲撃をされながらこちらへ突撃してくる。砲撃は顔が狙われていて、視界を狭めて注意を逸らす意図が読み取れる。

 もちろん少女もそれに気が付いている様子で、しゃがんで回避行動。勿論視線は戦艦棲姫に向けたままで。

 

 距離が近づき、戦艦棲姫の構えた拳が少女へと向かってくる。それに対して少女は受け止める──ではなくこれも回避。回り込んで隙が大きいサイドから拳で一撃。

 

「クゥ……ッ!」

「……?」

 

 妙に入った感覚がしたことに違和感を抱きつつも、追撃態勢に入る。

 さっきみたく立て直されることを想定し、それも込みでの行動をしているのだが、なぜかその様子が作られない。少女が攻撃して、戦艦棲姫が吹っ飛ばされ、それを少女が追撃して──という繰り返しが出来上がりつつある。

 

 立て直す余裕がなくやられっぱなしになってしまっているとも受け取ることはできる。だがこの現状に違和感がないわけではないようで少女はどこか納得していない様子。

 けれども、このまま押し切れば撃破に繋がるチャンスであることには違いない。何度かループをしたところで、轟沈寸前へ至らせることが出来るであろう一撃を放つため、右拳を構えて最後の追撃を行った────その瞬間。

 

「ッ!?!」

 

 左の脇腹が何か鋭いもので刺され、そこから何かが体内に入ってきた。思わず身を引いて距離を取る。

 

「──アラ、コレハ通ルノネ」

 

 起き上がった戦艦棲姫。何故かあまり傷は見られない。どうやらわざとやられていたらしい。

 そして手に持っているのは大型の注射器。中身はない。

 

 何かを打たれた。だとしても、戦闘態勢を崩す理由にはならない。再び構えをとって再突撃をする。

 

「──ッ?!」

 

 そしてすぐ、少女はがくりとその場に崩れ落ちた。

 

「──ナルホド、毒ハ効クノネェ。マダ耐性ヲ付ケテナカッタカシラ?」

 

 打たれた中身。それは超即効性の毒であった。ただし直接注射をしなければ即効性も毒性もないため、敢えてやられたように振舞い、止めの際に隙が出来る反対側に刺せる機会を窺っていたのだ。

 

「死ニハシナイシ、多分コノ程度ジャア貴女ハ殺セナイ。暫ク動ケナイダケヨ」

「──」

「……サテ、任務達成。アッチハドウカシラ」

 

 動けなくなった少女を尻目に、レ級たちの方へ顔を向ける。その光景を見て、戦艦棲姫はため息をついた。

 

「──全ク、ヤッパリマダマダネェ」

 

 パチンと、指を鳴らした。

 

 ────────

 

「──エ」

 

 差し出された手を弾いた張本人であるレ級は、誰よりも驚いていた。なぜこんな行動をしたのか、分からないからだ。

 

 そんな彼女の理解を置いていくようにして、身体が勝手に動き始める。

 

「ド、ドウナッテンダ! ナンデ勝手ニ動クンダヨ!」

 

 照準が合わせられる。対象は、この基地の者たち。

 

「止メロ! 止メテクレ!」

 

 自分が敢えて狙わなかった駆逐・軽巡にも照準が合わせられている。レ級ではないレ級は、本格的に全てを滅ぼそうとしていた。

 

「レ級……?」

「今スグ私カラ離レロ!」

「ドウイウコ──」

 

 もう、遅かった。肉体は完全に暴走し始め、目の前にいる少女側の深海棲艦全てを轟沈一歩手前まで追い込んでいく。

 これはレ級の意思ではない。止めろという悲痛な叫び声が辺りを支配する。

 

「最初カラ、コウスルベキダッタワネ」

「! 戦艦棲姫! ドウイウコトダッ!」

「アラアラ、遂ニ敬称スラ消エチャッタノネェ」

 

 くすくすと微笑。

 

「コッチハ片付イタトイウノニ、変ナノニ絆サレチャッテネェ」

「! 片付イタダトッ!?」

 

 その言葉に全員が顔を戦艦棲姫のほうに向ける。毒により、倒れ込んでしまった少女がいた。

 

「ソ……ンナ、ヒメ、サマ……」

 

 少女が倒れた。その事実で全ての者の戦意が喪失。そこに容赦なくレ級ではないレ級の攻撃が刺さり、倒れていく。

 

「! クソッ。止マレ、止マレェェェ!!!」

「無駄ヨォ。貴女ノ指揮権ハ私ニアルノダカラネェ。……ッテ、聞ク余裕モナサソウネェ」

 

 旗艦と任命された者は、随伴艦の者たちをある程度ではあるがコントロールすることが出来る。旗艦の命令こそが、全体の利に繋がるからだ。

 

「彼女達ハ放置シテオクト面倒ソウダカラ、ココデ排除シテモイイケレド……沈メルニハ惜シイ。ココデコーショヲ倒シウル手段ヲコッチガ持ッテイルコトデ、我々ニ従ウヨウニ仕向ケレバ、全体ノ利ハ大キソウネェ」

 

 まもなく、全ての少女側深海棲艦をほぼ轟沈に追い込むことが出来る。

 

「ジャア、撤収ノ準備ヲシマショウカ」

 

 そう言って、少女を連れ帰るための準備をしようとしたその時──突然レ級に何かが命中し水飛沫が舞い上がる。そのままその場にレ級は倒れた。

 

「! アノレ級改flagshipガ、一撃デ……?」

 

 一瞬、観察。そして導き出した。

 

「酸素魚雷……誰ガ? ──!」

 

 気配を感じ、振り向く。そこに──彼女はいた。

 

「戻ッテきて、正解だっタ!」

 

 左目から青いオーラ、全身から黄黒いオーラを放つ駆逐シ級──島風が。




島ちゃんもうちょい良いセリフあったと思うのに出てこなかった。悔しい。
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