深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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一年ぶり


島風の時間

 瞬間、島風は基地のある方角へ振り向いた。少しの間、そのままフリーズ。

 

 その時、島風を含む深海棲艦数隻は遠征任務真っ最中であった。以前少女が見つけた遠くの資源供給場所目指して航行中の出来事。何事かと思い他の深海棲艦たちもフリーズしてしまった島風の方をみる。

 

「──行かナきゃ」

 

 途端、駆け出す島風。驚く他の艦たちに向かって動きは止めずに叫ぶ。

 

「ゴメン、デも行カナいとダメって強ク響いてくルノ!!」

 

 島風を突き動かしているのは、突然鳴り響いた直感。行きなり目覚めたものであった。

 具体的に何がどうしてこんな嫌な予感が働いているのか自分自身にもわからない。ただ、何かとんでもなくヤバいことが起きている、そんな気がして止まらないという状態。

 

「──間ニ合っテ……っ!」

 

 加速、加速、さらに加速。島風はこの時、この海で誰よりも速くなっていた。

 同時に徐々に出始めるオーラたち。目からは水色の、全身からは黒と黄色の。

 

 深海棲艦としての覚醒が、始まってしまった結果であった。

 

 

 ───────────

 

 

 静かなこの海上の舞台。立っているのは二人、戦艦棲姫と島風。

 まず島風は自分達の基地の人たちに向けて目を瞑り静かに謝罪。早く来れなかったこと、操られてそうとはいえ攻撃をしてしまったこと、諸々に対して。

 

 数秒後、目を開けて今度は戦艦棲姫を見据える。

 

「ネェ、あなタガやッたノ? 皆を」

「……フフ、ソウヨォ。ダトシタラ何? 貴方ゴトキニ何ガ出来ルノカシラァ」

 

 戦艦棲姫の近くには、膝をついて動けない少女。島風も少女のあの論外染みた強さを理解している。なら、それを倒した戦艦棲姫はそれ以上なのだと、簡単に推測出来る。

 

 だが、そんなことは関係無い。

 

「……ココの皆はネ、私ニ居場所をくレタの。捨てラれちャッタ私に、普通に扱ッテもラえたの」

 

 思い出す。ここで生活してからの出来事を。

 

「そんな温かい場所を、貴方は──オ前は、汚シタッ!!」

「!」

 

 オーラの純度が上がってゆく。先ほどまで暴れていたレ級改flagshipの放っていたオーラに匹敵──いや、それ以上かもしれない。

 

 これに驚いた戦艦棲姫。一瞬目を見開いた後、ニィ……と不気味な笑みを浮かべる。

 

「……ヘェ、マサカコーショガ……」

 

 まるでそれは、新しい玩具を見つけたような目付き。同時に戦闘態勢に入る。

 

「本当ナラ別ニヤル必要ハナイケレド……試シテアゲルワァ」

 

 少しだけ、ギアが上がった。先ほど少女を相手にしていたほどではないものの、そこらの艦娘や深海棲艦らを圧倒することが出来る程度には。

 

 しかし、島風は怯まない。じっと戦艦棲姫を睨みつけながら、一言叫んだ。

 

「……連装砲チャンッ!」

 

 途端、基地からドゴンと壁が破壊される音が響き、物凄い勢いで何かが接近してくる。現れたのは島風の相棒、たった一つの自立する連装砲ちゃん。

 

「──キュウッ!」

 

 主人の言葉によって呼び出され島風の傍にいき、敵である戦艦棲姫のほうを見る。先ほどまで全く動いていなかったことが嘘のよう。加えて島風と同じようにオーラを纏い、左目から青い炎のようなものが出ている。

 

「アラアラ、本格的ニソウッポイワネェ……ジャ、実力ハ──ドウカシラッ?!」

 

 瞬間辺りに轟くドゴンという一発の速く重い砲撃音。まともに食らえばすぐに大破してしまうだろう。

 

「──イクヨッ!」

「キュ!」

 

 しかし、二人は避けた。二手に分かれ、別々の方向から戦艦棲姫に接近していく。

 

 避けられたはずだが、戦艦棲姫は余裕の笑みを崩さない。そうこなくっちゃと言わんばかり。すぐに次弾装填、接近戦の準備の両方を開始する。

 

「五連装酸素魚雷、行ッチャッテッ!」

「キュゥゥゥ!!」

 

 駆逐艦特有の素早さを活かし、様々な方向からの魚雷発射や砲撃。加えて常に接近するのではなく、時折離れて捕らわれないようにすることもされている。その速さだけなら、少女に匹敵するのではないかと思えるほどだ。

 

 対して戦艦棲姫、砲撃はともかくとして魚雷は比較的脅威となり得るためそこは徹底的に避け、避けづらいものは一番被害を被ってもあまり関係ないところに着弾させるなどで対処している。

 

「アッハッハッハ! 凄イジャナイ!! コンナノヲ隠シテタナンテ、コーショモ酷イワァ」

 

 現状は島風が戦艦棲姫を圧倒しているように見える。事実、少しだけではあるが、戦艦棲姫はダメージを負ってきていたのだから。

 

 だが戦艦棲姫から焦りというものを一切感じない。

 

「──マァデモ、今ハココマデカシラネェ」

 

 刹那、接近していた島風の身体が戦艦棲姫の艤装によって掴まれた。

 

「エ、ナン──」

 

 驚きもつかの間、そのままぶん投げられてしまう。いきなりのことのため、島風は体の制御ができない。

 

「安心シナサイ。沈メナイカラ」

 

 同時に、その方向に向かって即砲撃。まともに食らえば大破は確実。島風は避けるどころではなくなっている。

 

 鳴り響く爆発音。辺りに発生する爆発による煙。結果からすれば、戦艦棲姫の完勝だった。

 

「筋ハ良イカラ、後ハ練度次第カシラネェ……ン?」

 

 ──ここまでは。

 

 煙が晴れていく。しかしそこには誰もいない。大破したはずの島風の姿はそこにはなかった。

 

「ドウイウ……ッ!」

 

 歴戦の猛者はすぐに気が付いた。主人が大破したはずなのに反応を示さなかった連装砲ちゃん、少女並みのスピードを得ていた島風。

 

 そうなれば──。

 

 

「気ガ付クノ、オッソーイッ!!」

 

 

 戦艦棲姫の後ろに回っていたボロボロの島風。気が付かれた瞬間に放たれる、今の島風の全力。

 

「イッケェ!!」

「キュウウウ!!」

 

 ありったけの魚雷と砲撃を、今度は一か所に集中砲火。

 

「クゥ……!」

 

 魚雷着弾による爆発と、ちまちまながら効いてくる砲撃。ここで初めて、戦艦棲姫から苦しみの声が出てきた。

 

「──ハァ、ハァ、ハァ」

 

 これが長時間続けば、戦艦棲姫を中破に追いこめたかもしれない。しかし割と島風は限界であった。

 

 深海棲艦としての覚醒。それを用いた初めての戦闘。あふれ出て来る力の制御。加えて戦艦棲姫から与えられるとんでもないダメージ。

 

 現在の島風は大破寸前の中破。あの砲撃のとき、無理やり身体を捻らせ直撃を避ける事が出来たため、こうして不意をつくことができた。

 

 これも覚醒によるパワーアップによるもの。だが、これが今の島風の身体、体力、集中力全ての限界。今同じことを要求されたとしてもおそらくできないだろう。連装砲ちゃんも大分苦しそうだ。

 

「……ハァ、ヤルジャナイ。惜シイッテトコロネェ」

 

 あの全力を食らってなお、ピンピンしている戦艦棲姫が魚雷爆発の煙から出現。被害状況は、小破といったところだろうか。

 

「面白カッタワァ。ダカラココハ──」

「マダ、終ワリ……ジャナイヨ」

 

 戦艦棲姫の言葉を遮り、島風が言う。

 

「……ドウイウコトカラシラ? モウ貴女動ケナイワヨネ?」

 

 そう、島風はもう限界。連装砲ちゃんも同じく。今にも倒れてしまいそうな勢い。それでもまだ終わっていないと零す島風に、戦艦棲姫は尋ねた。

 

「ウン……ソウダヨ。私ハ確カニ限界……"私"ハネ」

「……マサカ」

「デモ……アナタナラ行ケマスヨネッ! 姫サマッ!!」

 

ドゴォッ!

 

 尋常じゃない強さの蹴り。吹っ飛ばされる戦艦棲姫。結果、被害状況は一瞬で大破に近い中破へ。

 

「カッハ……ッ! マサカ、モウ動ケルナンテネェ……コーショォォ!!」

「GRUUUUU……」

 

 ──ブチ切れ寸前の少女、完全復活。

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