深海のとある姫サマ   作:エンゼ

37 / 38
ということで、『弐』のエピローグです。


これからの時間

 戦艦棲姫という厄災が去り、いつも通りの割と平和な環境へと戻った少女の基地。本日も少女は部屋に籠り装備の手入れや読書をし、他の者は任務や執務などをこなしていた。

 

 まさに前の日常に戻ったと言えそうだ。しかし、完全に戻ったわけではない様子。

 特にその光景は演習場にて現れていた。

 

「ハァッ!」

「キューッ!」

「ッテェ!」

「甘イナッ!」

 

 現在ル級と島風(+連装砲ちゃん)のコンビvsレ級の状態。ル級やレ級は改flagshipへ、島風は出来る限りあの時に近いオーラを放出する姿へと、それぞれ自分の中で最強の姿になり激しい戦闘を繰り広げている。

 

 本来レ級は自身の指揮権を持つ者──飛行場姫、戦艦棲姫と渡っていき、現在は少女である──の許可や指令無しでは改flagshipに至ることはできない。

 理由は単純、強すぎるからだ。そこらの姫程度には制御することが難しいからだ。

 

 しかし少女はそれをほぼ完全に放棄し、レ級に一任させている。別に反旗を翻されてもやり返せばいいし、管理とか面倒……と考えてるのかは不明だが。

 

 対して島風。以前戦艦棲姫と戦闘を繰り広げた時の姿に似ているものの、完全に一致しているわけではない。オーラの純度は低く、十分速いが動きも前ほど機敏でない。つまり今の島風の全力は、あの時の島風に劣ってしまっているというわけだ。

 

 そのために、ル級と艦隊を組んで演習を行っている。現在では戦力としてレ級にこそ劣るものの、ル級も立派な強者だ。そこから戦闘をやり方を学ぶ、という意味合いもあるのだろう。

 駆逐艦と戦艦で戦い方は大分異なるとは思うが……本人たちは気にしてない様子だ。

 

 形勢は割と拮抗している。どちらが勝ってもおかしくない、という状況だ。

 

 島風のただの駆逐艦らしからぬ速さとル級の意地になって相手に食らいつく執念、そして全てにおいて能力がほぼ上限値であることに加え雷撃や航空戦といったレ級の多彩な手。

 

 人数こそ3人(+連装砲ちゃん)と少ないものの、まるで起こっていることは戦争。艦隊同士がぶつかり合っているかのような激しさがそこにはあった。

 

 ──ジリリリリ

 

 途端に鳴り響く演習終了を告げるサイレン。

 

「……ムゥ、コレデ終ワリカ。正直物足リナイノダガ」

「……流石ニ疲レタカラモウ勘弁シテクレ……」

「ソウカ? 意外ト余裕ソウダガ」

「ンナワケネーヨ」

 

 元の姿に戻る二人。まだ続けたそうなル級と、連戦が続いたからか若干辛そうなレ級。しかし息が切れてるといった身体の疲れはそこまで見られないため、ほとんどは精神的なもののように見える。まぁそりゃ戦闘狂ル級とほぼ休憩なしでずっと演習してたらこうなってもおかしくはないのかもしれない。

 

「ハァーッ! ハーッ!──」

「キュー……」

 

 少し離れたところで、島風は膝に手を突いていた。傍にいる連装砲ちゃんも疲労困憊といった様子。

 

「(ト、遠スギル……ッ!)」

 

 島風は、演習が終わってすぐなのにいつものように会話出来ている二人を見てそう感じた。

 

 元々島風はここに来る前も来た後も、練度向上のために何かをしてきたわけではなかった。強いて言うなら遠征程度。しかしそれだけで第一線級の実力を身に付けられるのかは当然否である。

 

 だが島風は、一瞬だけこの基地で少女の次に強くなってしまった。基準値が著しく高くなってしまったのだ。

 

「(アノ時、"アノ私"ノオ陰デ危機ハ脱セタ。ダケド、ソレデモ全然ダッタ……早ク、"アノ私"以上ニナラナキャイケナイノニ……ッ!)」

 

 戦艦棲姫自身が語っていたことを真とするなら、身を引いたのはあの島風がいたからとなる。さらに戦艦棲姫との戦闘の中で告げられていた練度不足という言葉。あの瞬間ではあの程度で許されていたものの、この先はあの戦闘時以上の練度が求められる可能性が十分に考えられる。

 

 もし、自分の練度不足のせいであの時以上の厄災が来てしまったら……?

 

 島風はこの割と緩くて温かいこの基地をかなり気に入っている。折角出来た居場所が自分のせいで崩れてしまうかもと思うところもあっただろう。練度向上のために自分の全てを費やしてもおかしくないほどだ。

 

 つまるところ、彼女は焦っているのだ。早く強くならないとという強迫観念に追われている真っ最中なのだ。

 

「ヨッ。オ疲レサン、シ級」

「ァ……ォ疲レ様、デス」

「中々良イ動キガ出来テイタナ。後ハ体力モ付イテクレバ、サラニ強クナルダロウ」

「コンダケ疲レテンノハメッチャ連戦シタカラダト思ウガ……マァ体力ハ大事ダナ」

 

 労いの言葉を掛けてくる二人。それに反応できるのがやっと。体力作りというワードはなんとか聞き取れたため、今後はそれを中心にしていこうと心に決めた島風だった。

 

「アリガト、ゴザイマス……」

 

 島風には二人が自身を責めている、というようには見えない。そのため、ある程度は認められているのだということは理解できる。だが同時に、"ある程度"では駄目なのだと自分を内心で責めた。

 

「(モット、モット、強クナラナキャ……アノ時以上ニ……ッ!)」

「……ナァル級サンヨ、チョットコイツニ話アルカラ先ニ帰ッテテクレルカ?」

「ン? アァ分カッタ」

 

 ル級が去り、二人きりに。しかし島風は思いつめすぎて気が付いていない。そんな島風に、レ級は背中を一発叩いてやる。

 

「ッタァ!?」

「焦ンナヨ、シ級」

「ハ、エ、レ級サン……?」

「マァ、一回裏切ッタ挙句アノ時オ前ニ一発デヤラレチマッタ私ガ言エタコトジャネーカモダケドナ?」

 

 一息吐き、真剣な表情で告げた。

 

「──アンマリ私達ヲナメルナヨ?」

「ッ!?」

 

 そこにいるのは、歴戦の猛者の戦艦。朗らかな表情ではなく、戦場だからこそ見られる戦士としての表情。

 

 決して数日程度じゃ追い付けないのだと理解せざるを得ない風貌が、島風の目の前に存在していた。

 

「コレデモ私達ハカナリ練度ハ高イ。加エテ色ンナ戦場ニ出テキテル。ソンナ私達ニ、元々タダノ駆逐艦ダッタオ前ガスグ追イ付ケル訳ナイダロ?」

「……デモッ! 強クナラナキャマタ──」

「ダーカーラー、ソレガナメテルッテコトナンダヨ」

 

 今度は優しく二回ほど背中を叩いてやり、落ち着かせる。

 

「強クナロウトスルノハ良イコトダ。実際、オ前ガ強クナレバ相当ナ戦力増強ニナルカラナ」

「ダッタラ」

「ダケド急イデ強クナル必要ハコレッポッチモネーヨ。私達ハ弱クネェ」

 

 ソレニダ、と続けた。

 

「オ前、戦艦棲姫ガ退イタノニ自分ガ関ワッテルッテ思ッテルダロ?」

「エ、デモソレハチャント言ッテタカラ」

「バーカ。アンナノ半分ハ嘘ニ決マッテルダロ。アンナニボロボロダッタノニソレガ100%ソウナワケナイ。ゼッテェ姫ニヤラレタカラッテモノ入ッテル」

「!」

 

 固定観念にとらわれてた島風に一つの風が吹く。そういう視点もあるのだということに気が付けたからだ。

 

 確かにあの発言は、戦艦棲姫の撤退のための言い訳とも捉えることができる。事実、少女はほぼ無傷だったのに対して戦艦棲姫は大破していたのだから。

 

「ダカラ、焦ンナ。仮ニ私達ガ突破サレテモ、姫ガイル。何カアレバアノ姫ガ絶対ナントカスル。少ナクトモ、私ガ入ッテカラハソウダッタカラナ」

「……ソッカ」

 

 少女のことを想像する島風。言われてみれば、確かにそうだということに気が付いた。

 

 今回の戦艦棲姫を最終的に退けた張本人であり、負ける姿が想像できない最強の深海棲艦。特にあのブチ切れモードに関しては、怖いと感じたものの誰も打ち破ることはできないだろうという謎の信頼感がある。

 

「姫サマガ、イルモンネ」

 

 段々と落ち着いてくる島風。あの姫サマがいるなら、そこまで焦らなくてもいいと思えたからだ。

 

「……チェー、本当ハ姫無シデ説得シタカッタンダガナー……内心私達ヲ見下シテタリ?」

「ソ、ソンナワケ!」

「冗談。実際姫ノ方ガ説得力アルカラナ」

 

 冷静になり、島風はレ級が自身を励まそうとしてることに気が付いた。現状は何も変わっていない。だが、もっとゆっくりでもいいのだと気が付くことが出来たのだ。

 

「ソノ、アリガトウゴザイマス」

「気ニスンナ。後輩ヲ導クノモ、先輩ノ勤メダカラナ」

 

 会話が一段落し、演習場から出る。最後にレ級は島風の頭を撫で、こう告げた。

 

「励メヨ、シ級。イツデモ付キ合ッテヤル」

「! ハイ!」

 

 それを最後にし、別れる。きっとこれからも島風は練度向上に励み高みへと至るだろう。そう、姫に相応しい深海棲艦へと。

 

 置いてかれないようにしないとなと一人考えている最中、物陰からリ級が姿を見せた。先ほどまでの出来事を見ていたのか、微笑んでいる。

 

「フフ、オ疲レ様デスレ級。スッカリココノ一員デスネ」

「見テタノカヨ……アーモウ、柄ジャネーコトハ恥ズイナヤッパ」

「似合ッテマシタヨ? センパイ?」

「……ウッセェ!」

 

 いつもはリ級にダル絡みをしたりするレ級だが、今回に限っては立場逆転。だが、嫌そうではない。それを分かっているのか、リ級も深くはしないが絡みを続けている。

 

 日常がもとに戻った。多少の変化は行われているが、本質は変わらない。少女が居続ける限り、この基地は何があってもこの日常に帰ってくる。

 

 それは、きっとこれからも──。




ちなみにあの厄災を引き起こしたのもご存知の通り少女である。まぁコーショちゃん他人に従うの嫌いだからね、仕方ないね。

何はともあれ、これにて『弐』は完結。

次回以降は『参』。
別名『少女 in 艦これ始めたて提督の鎮守府』でお送りいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。