ごめんね
「クッ…コノォ!!」
リ級、レ級、北方棲姫による対空戦。段々と数を増やしつつこちらを追い込んできている敵艦載機に対し、ほぼ燃料が9割ほど尽き掛けている深海棲艦陣営。全員が冷や汗をかきつつも引くに引くことが出来ない状態であった。
「ココママデハ…!」
最悪の展開になることを嫌でも察してしまうリ級。背筋が凍りつくような寒気が漂い、若干思考がパニックに陥りかける。
「グァッ!!」
「! レ級!!」
別方向から聞こえた仲間の叫び声、思わず振り返るとレ級が中破の状態になってしまっていた。
「──イタイッ!!」
「ッ…北方棲姫サママデ…!!」
本当にこのままでは不味い。姫サマがなんとかしてくれるまで耐え抜かねば───と、ここまで思考したリ級はとあることに気がつく。
「──姫サマ!?」
いないのだ。どこにも、自身の尊敬しているあの少女が。見渡すが、やはりどこにもいない。次に視界ではなく、気配を頼りに少女の居場所を探ってみると───艦載機の飛んできている方向…すなわち、敵が集まっているであろう方向にそれを感じた。
同時に、リ級は悟ってしまう。敵の本当の狙いは───少女であると。そして自分たちは少女と行動させないようにするためにここで沈める気であると。
「ソンナ………ハッ、ウゥ!!」
少女への心配からか脳内が真っ白になってしまい、油断してそのまま爆撃に直撃してしまった。浸水状況は赤。すぐにでも修理をしなくては不味い状態だ。
「(アァ…ワタシハモウ、沈ムノデスネ…)」
次にまた爆撃、もしくは魚雷を受けてしまえば沈んでしまうだろう。リ級は祈るかのように、その場に座り込んでしまった。
「リ級ゥゥゥゥ!!!」
「ダメェッ!!!」
レ級や北方棲姫がこちらに必死な表情で駆け寄ってきている。必死にリ級の方へ二人とも手を伸ばしていた。
しかしリ級はそれらを掴もうとはせず、ただ祈りを捧げていた。
「(ゴメンナサイ、レ級、北方棲姫サマ…ソシテ、姫サマ。ドウカ、無事デアリマスヨウニ…!!) 」
────途端、艦載機がこちらへの攻撃を止め、一斉にもとの方向へと撤退をし始めた。
「…エ?」
一つ残らず、全てがいきなり方向転換をして飛んでいく。その様子はどこか、何か焦っているかのようにも見えた。
その場に残されたのは、中破しているレ級と小破しかけた北方棲姫、大破で轟沈寸前のリ級のみであった。
「…助カッタ、ノデショウカ…?」
いきなりのことで実感の湧かないリ級に、少し小走りな様子で二人が駆け寄ってきた。北方棲姫に至っては、リ級に抱きついている。
「ヨカッタ…皆、無事!」
「全ク、沈モウトスルンジャネェヨリ級…心配シタジャネェカ」
「ス、スミマセン北方棲姫サマ、レ級……」
謝りつつも、リ級は思考する。何故いきなり撤退をしたのか。何故止めを差さなかったのか。敢えてそうしない理由があった…?
「(…イヤ、アレハ違ウ…)」
前提がおそらく違う。艦載機達は、きっとそうしなければならない理由があったはずだ。そうでなければあんな風に急いでは撤退をしないだろう。明らかに優勢であったのはあちらだったのだから。
ある方向へ消えた少女、そして同じ方向へ向かっていった艦載機達───この二つがリ級の脳内で混ざりあい、一つの答えを導きだした。
「マサカ……」
「ドウシタ? リ級」
「?」
疑問に思う二人に対し、リ級は不安な顔つきで提案をする
「…皆サン、先ヘ進ミマショウ」
「「!?」」
それは自殺宣言とも呼べる提案であった。折角撤退をしてくれたのにそれらを追うということは、自ら沈められにいくようなもの。呆気にとられている二人にさらに声かけをつづけた。
「マダ、戦闘ハ終ワッテマセン!! 姫サマガ…姫サマガ、マダ戦ッテイマス!!」
そこでようやく二人も気がついた。少女が完全にいなくなってしまっていることに。そして……その気配の方向と艦載機の向かっていった方向と完全に一致してしまっていることに。
そう、まだ戦闘は終了していない。続いているのだ。
────────────────────
──少し時は戻り、数分前。大和率いる戦艦軍団は、工廠棲姫の来るときを今か今かと待ちわびていた。
聞こえてくるのは控えめな波の音だけ。これからここが戦場になってしまうなどと誰も想像できないほど爽やかな海だ。
誰かがごくりと唾を飲み込む。ある者はまた冷や汗をかいていた。
失敗はできない。自分たち次第でこれからの戦況は大きく変わるかもしれないからだ。
「──皆さん砲撃よぉい!」
──見えた。工廠棲姫。写真は現存していなく、イラスト越しでしか存在を確かめられなかった最悪の深海棲艦。
「今ここで───討つ!」
照準、弾道計算、全てをズレなく完璧に合わせる。工廠が蛇行することなく一直線に進み続けていたとことも、こちらにとって好機であった。
「ってぇぇぇぇぇ!!!!」
全員による一斉射撃。工廠棲姫に雨のように砲弾が降り注ぎ爆発を起こしてか煙が発生してしまっている。
「全弾……命中です!!」
偵察機からの報告を受け、大和が全員に叫ぶように告げる。だがしかし警戒は解かない。相手は大本営最高警戒深海棲艦。大破で無力化が出来ているだなんて思いはしない。おそらく中破であろうが、中破であろうとこちらにとっては脅威であるので油断はできない。
「どうだ…?」
中々晴れない煙。相手の状況は確認しておきたかったため、追加攻撃を煙が晴れるまでは誰も行おうとはしなかった。
徐々に晴れて行く煙……そこには、全員が仰天するその姿があった。
「こ…工廠、棲姫……無傷…です…!!!」
「バカな…!」
よくよく見れば、無傷ではなく若干汚れている。白い肌が煙によって黒く汚れてしまっているのだ。だが明確なコレという傷は見えない。艤装も黒い煙を出している程度で損傷という損傷は窺えない。よって大和はこれを無傷と敢えて表現したのだ。
「………」
『!』
工廠棲姫が視線をバッと大和達へと向ける。やはり無表情で、大和達はそこからさらに恐怖感を感じていた。
──ブチッ、と何かが切れる音がした。
その表情は無から一転。瞳孔が完全に開き、眉間どころか顔全体にしわが寄り、怒ったような顔つきになる。
「っ、怯むなぁ!! うてぇぇぇ!!!」
一瞬だけ全員が怯むものの、長門の叱咤により全員がハッと意識を取り戻し、再び砲撃を仕掛けていく。
工廠棲姫はそれらを最低限の動きで回避。同時に二つほど砲弾を両片手でキャッチ。そのまま大和と武蔵にブン投げていく。
「なっ…!」
「うそっ!」
行動が予想外過ぎたのか、大和と武蔵は動けずに投げつけられた砲弾に直撃してしまい大破してしまい、武蔵に関しては当たりどころが悪かったのは気絶してしまった。
「もしや砲撃は効かないのか…ならばっ!!」
「ちょ、長門っ!!」
砲撃にしつつ工廠棲姫に接近。そのまま殴り合いを仕掛けていくのだが───簡単に拳が捕まってしまい、ギリギリと握り潰されていく。
「ぐ、ぐぁ…!!」
握ったまま、自慢の怪力で長門を片手で持ち上げ、陸奥目掛けてブン投げる。
「バカなぁぁ!!」
「キャアァ!!」
装甲が硬い戦艦ではあるものの、戦艦同士が猛スピードで衝突しては一溜りもない。両方大破し、そのまま二人は意識を失ってしまった。
「ぐ…赤城さんたちに、伝えなくては…!!」
大和が直ぐ様急いでは別の場所で役割を果たしている赤城や加賀に通信で状況を報告する。
「………」
未だ意識のある大和に対して攻撃を仕掛けようと、あの表情のまま構えていると───空から飛行機の音がし、工廠棲姫の目は空へと向けられる。
「流石一航戦の方々…早い…」
「…………」
再び表情を無へと戻し、大和への興味をなくしたのかじっと空を見続けている。
決着はまだついていない。
終わり雑でスミマセン…