深海のとある姫サマ   作:エンゼ

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正直今日は1800字程度で終わると思ってましたけど長くなりました。遅くなってすみません。ではどうぞ。


獲得の刻

「……」

 

 少女はその場から動かない。何か考え事でもしているのか、または何かを待っているのか、それとも探していたりするのだろうか。

 

 唐突に動きを止めた少女に対して大和は疑問に思う。自分含め艦隊はほぼ全滅。大破にまで追い込んでしまわれた。あと一撃でも食らえば沈んでしまうことは明らかであった。

 

 大和としては、自分が沈んでしまったとしてもリ級、レ級、北方棲姫に回していた艦載機の攻撃を工廠棲姫に集中させることによって、長い年月を掛けて岩に窪みをつくる雫のごとくダメージを与えられるだろうと思っていた。自分を沈める時に幾分か動きが止まるだろうから、そこを狙ってもらおうと思っていた。

 

 だが少女は大和を放置した。というかほぼ興味を失っているかのようだ。

 

 だからこそ大和は少女の思考が読めない。そもそも何故ここにきたのか。今にも沈みそうな私達に興味を失っているということは、何か別の目的がある…?

 

「(……もしや、工廠棲姫は既に戦争自体に興味すら抱いてないのでは?)」

 

 そう考えればこれまで工廠棲姫の行動に辻褄が合うと大和は思った。大和たちが捕捉したとき、また少女も大和たちを捕捉していたはずである。さらにリ級達との戦力分断にはある程度気が付いていたはず。だったならば待ち伏せされて攻撃されることも想定していたはずだ。

 

 しかし現実として工廠棲姫は何にも対策をしていなかった。する必要がなかったと言われればそれまでであるが…

 

 そして、こちらを攻撃してきた理由も艦娘だから、人類側だからではなくて、やられたからやり返しをしただけなのかもしれない。やられたことに対し、怒った。その怒りを私達はぶつけられただけ……

 

「(…いえ、まだ確信は持てません。だったら何故ここに来たのかの説明がつきませんから…)」

 

 どうせ我が身の運命は現在工廠棲姫によって委ねられているし考えたところで意味はあまりないのでは、と大和は悟りつつも、思考を止めることは出来なかった。

 

 ふいに、少女がある方を見つめる。その向きは追加の艦載機が次々に飛んできている方向。赤城と加賀がいるところであった。

 

「……」

 

 再び少女は移動を開始した。やはりその向きは先ほど向いた、赤城や加賀のいる場所。

 

「…まさか」

 

 もしかして工廠棲姫は顔には出てないものの、怒ってしまったのだろうか。さっきから少しずつ工廠棲姫を攻撃し続けている艦載機に腹を立ててしまったのだろうか。その向きに進んでいるということは───

 

 大和は赤城や加賀が沈められるという最悪の事態が浮かんでしまい、少女に聞こえない程度の声量で通信を行う。

 

「………」

 

 少女は無言無表情である場所を目指している。どうやら大和の予想に反し、そこまで艦載機の攻撃自体気にしていないようだ。それ以上に大事なことがあるとでも語っているかのように、少しスピードを出して進んでいる。

 

 その目には少しだけ……本当にほんの少しだけ、期待の感情がうっすらと見え隠れしているようであった。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

「大和さんから入電……工廠棲姫、こちらに接近中です!」

「大和さんたちを放っておいてこちらへ…? いえ、喜ぶべきなのでしょうが…疑問が残りますね…」

「確かにそうですが……」

 

 先ほどから行われている艦載機による攻撃。それらをものともせず、さらに追い払おうともせずにこちらに接近しているという報告も二人は受けていた。

 

「…しかし、どうして工廠棲姫は今になって…」

「……」

 

 今回の工廠棲姫の襲撃には不可解な点が多いと二人は感じる。前回のようなバーサーカー気質ではなく、かと思えばあっさりと大和たちを撃破してしまう実力を出している。大和同様、別の目的があると踏んでいた。

 

「────! ………加賀さん」

「…赤城さん?」

「…工廠棲姫に対し、対話を試みましょう」

「!!」

 

 自分たちが、そして艦載機たちが本気を出しても大した影響が出ていない工廠棲姫に対して、今回戦闘では無理なのではないか、自分たちだけでは戦力不足ではないのかという考えに至っていた。

 

 質はこれまでの戦闘経験や、他者からの評価にて保証はされている。だが量が足りなかった。工廠棲姫に打点を与えるにはそれこそ連合艦隊レベルの…いや、それ以上の数で押しきらないといけなかったのかもしれない。

 

 しかしそんな大戦力をこの場でいきなり用意するのは不可解。事前の大きな準備が必要だ。今は無理なのだ。

 

 そして結局このまま抵抗しようがしまいが、敗北には変わりない。凄く情けないが、この場では工廠棲姫の目的を満たし帰ってもらうことがこちらにとってのある意味での勝利になる。

 

「…しかし、それを指令部が許すかどうか」

「……これは、元帥方の判断です。謝罪と共に、命令を受けました」

「!」

 

 大和がやられた辺りから、指令部のほうでは空気が殆ど死んでいた。誰もが無言になってしまっていた。

 

 しかしそんな中ある者が言う。彼女たちの強さは我々が一番よく知っている。だが工廠棲姫には敵わなかった。足りなかったのは何か? それは数である可能性が高い……と。

 

 この意見に次々に周りが賛同。自分たちは慢心していたのだと。もう少し工廠棲姫を強く見ておくべきであったと誰もが言い始めた。

 

 少女が赤城のほうへ向かい始めてから、元帥達は赤城に連絡を取った。だがこれは艦娘である君たちのプライドを傷付けかねない。無礼だということは承知だがこの案を託す…と。

 

「……一航戦の誇りは大切です…しかし」

「赤城さん……」

 

 苦渋の決断。二人は顔を見合せ覚悟を決めた。これは対話に応じてくればの話。問答無用で攻撃をされて沈むかもしれない……それらも承知の上だった。

 

 概要を飛ばした艦載機達にも告げ、攻撃を止めさせ少女の様子を伺うことに徹させることに切り替えさせた。

 

「…」

 

 少女のほうは突然攻撃が止んだのか一瞬周りを見るが、再びすぐに直進をし始めた。

 

 何事もなくおおよそ二分後。赤城と加賀は少女を視認。ゴクッと唾を飲み込むと、向こうも気が付いたのかものすごいスピードにて接近をしてきている。思わず警戒態勢をとってしまうも、少女は目の前でキュッと停止した。

 

「…工廠棲姫。あなたの目的は何ですか?」

 

 意を決し、赤城が一つ少女へと語りかける。少女はそれに反応し、持っていたバッグの中から本を取り出してあるページを開き二人に見せる。そこには北方棲姫が示した『烈風』の写真があった。

 

「…『烈風』ですか?」

「まさかこれを求めて…?」

「……」

 

 次に少女はバッグを開き直す。するとどういうことかそこには燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト各資源一万程度の量があった。

 

「こ、これほどの資源をどうやってその手提げバッグに…!?」

「赤城さん、確かにそこも気になるけれど……これらを提示したということは、これらと交換してくれってことかしら…?」

「……」

 

 正解なのか加賀をじっと見つめる。ここで工廠棲姫を怒らせる理由はない、ということで取引に応じることにした。

 

 それぞれの資源を艦載機をにも手伝ってもらいながら受け取り、代わりに加賀が矢筒の中から一本矢を取り出し少女へと渡された。すると渡された瞬間、矢が烈風へと変化した。

 

「………」

 

 ほんの一瞬、赤城や加賀にも気が付かれないほど時間、少女の目がキラキラと輝いた。色んな角度から烈風を眺めながら、いつの間にか取り出した布巾でキュッキュッキュッキュッキュッと烈風を磨いている。その様から、工廠棲姫は思ったよりも幼いかもしれないと二人は考えていた。

 

 用が済んだのか、少女は大切そうにバッグへ烈風を仕舞いこみ、自分の基地方面へまた移動をし始めた。

 

 赤城や加賀はその場に立ったまま、少女が見えなくなるまで見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ア、姫サマ! ヨクゾゴ無事デ!」

「コーショー!!」

「…マァ、無事ダヨナァ」

 

「…………」

 

 少女の目の前にはボロボロのリ級とそれを支えながら進んでいた北方棲姫とレ級がいた。

 

「……」

 

「アノ、姫サマ?」

「エッ」

「……イキナリドウシタ?」

 

 少しその場に止まった少女はバッグ開けロープを取り出したかと思えば、グルッと全員をロープで縛り、そのまま引っ張ってまた航海をし始めた。

 

 燃料が残り少ないため着いてこさせたら、いつか動かなくなってしまうだろう。そこでなのかは分からないが、どうやら三人を基地まで引っ張っていくつもりのようだ。

 

「…優シク縛ッテルミタイデスネ」

「引ッ張ラレテモアンマリ痛クナイノ!」

「ナンカラシクナイナ…?」

 

 そう、らしくない。いつもの少女ならば三人など無視して勝手に一人で帰ってしまうのに、何故か今日に限っては帰るのを手助けしてくれている。

 

 少女にも仲間意識があったのか………それとも、気分がよかった故の気まぐれか。真意は少女にしか分からない。

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