真面目なヘレナさんと、かなり適当な提督が、チュロスを食べるお話。


ヘレナさんの提督LOVEです!
まだお会いできてないので、ドロップ祈願。書けば出る。

(7/14追記)
ヘレナさん来ました。

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初めましての方は初めまして。瑞穂国と申します。

艦これ夏イベ、なんとなんと推し艦のヘレナさんが実装されたということで、書かずにはいられませんでした。

作者はまだE4攻略中なので、ドロップ祈願を兼ねています。


UW

 私――ヘレナの提督は、どうにもこうにも、適当が過ぎると思うのだ。

 彼の口癖といえば、「こんなもんだろう」。どう見ても不備のある書類を、コーヒー片手に流し読んで、「こんなもんだろう」と判を押す。大雑把な作り方の、焦げたり生焼けだったりするパンケーキを、「こんなもんだろう」と笑って差し出す。演習で他艦隊に負けても、「こんなもんだろう」と慰めて、シャワーを促す。よく言えば大らか、なんだろうが、それも度が過ぎれば、だらしないという評価になる。仮にも軍隊なんだから、だらしないのはいただけない。

 そんな提督に、横から釘をさすのが、秘書艦である私の役目だと、思っている。

 

「もう、提督っ。どうしてこの書類、認可したんですかっ」

 

 朝食のベーグルをかじり、コーヒーを片手に執務室へ戻ってきた提督に、認可のサインがされた書類を突きつける。きょとんと、「なんのことだ?」みたいな表情で、首を傾げる提督に、頬へ空気が溜まって来るのを感じた。

 

「何か問題あったか?」

「問題大アリですっ」

 

 まず、書式が違う。整理するこっちの身にもなってほしい。それから、必要事項の記入漏れ、書類番号の取り忘れ、責任者のサインがない、等々。

 指摘したところを、もぐもぐとベーグルを咀嚼しながら眺める、提督。しかし、私の懸念は理解してもらえなかったらしく、彼は親指を立ててウィンクを一つ。

 

「こんなもんだろ」

「却下です却下っ」

 

 ヘレナはおこですよ、おにおこですっ。

 これでは埒が明かない。

 

「もういいですっ。アトランタに直接お説教してきますからねっ」

 

 幸い、この基地では、秘書艦の裁量が大きい。私がダメだと言えば、書類は通らない。

 穴だらけの書類を携えて、執務室を出る。件の防空巡洋艦は寝坊助だから、今頃は食堂でクロワッサンをかじっているはずだ。

 

「お手柔らかになー」

 

 執務室の扉から顔だけを覗かせて、ベーグル片手に手を振る提督に、私は益々、自分の頬へ空気を送り込むことになった。

 

 

 

「もうっ、本当に提督はっ」

 

 友人の奢ってくれたバドワイザーを一口煽り、私は日頃から溜まっていたものを吐き出した。食堂のバーカウンターに、管を巻いて座る私は、どこからどう見てもめんどくさい奴だ。そんな自覚はあるけれど、久しぶりに会った友人の前でくらい、愚痴を吐くのを許してほしい。

 

「元気そうね、ヘレナ」

 

 隣に座る友人――ヒューストンは、そんな私を、優しい苦笑いで見つめていた。緩いブロンドヘアーの美女は、同じビールのビンを片手に、私の話へ耳を傾けている。暖かな友人のいる幸せを噛み締め、私はもう一口、バドワイザーを煽った。ビールの王様(King of Beer)ののど越しが、今は体中に染み入る気がする。

 そうすると、また、ふつふつと不満が湧いてくる。口の戸締りが緩くなった今の私は、それをとめどなく、吐き出した。

 

「――どうして、こう、あの人は適当なのよ」

 

 一通り言葉を募らせた頃には、バドワイザーのビンが空になっていた。今夜のバーテンダー、ヴェスタルが、すかさず二本目の栓を抜いて、交換してくれる。ありがたく受け取って、早速一口、口にした。

 そんな私に、まだ一本目を空けきっていないヒューストンが、確認するように問いかける。

 

「ヘレナの話を聞くと――ちょっとダメ男っぽいわね?」

「提督はいい男よっ。ダメ男は撤回してっ」

「わぁー、見事に面倒くさいわ、この子」

 

 眉をハの字に下げて、ヒューストンは穏やかに笑った。琥珀色の目に映る、唇を尖らせた自分がなんだか気恥しくて、私はバーカウンターに突っ伏した。

 

「いいところは、たくさんあるんだから。尊敬もしてるし。でも、あの適当さだけは、どうにかしてほしいの」

 

 何とも言えない感情を、上手く言葉にできなくて、もやもやが喉の辺りにわだかまる。それは、ビールの熱だろうかと勘繰りながら、ぼんやりと、バドワイザーのラベルを見つめていた。

 ヒューストンの手が、そんな私を、優しく撫でる。

 

「ヘレナは、提督のこと、よく見てるのね」

「……そりゃあ、まあ。目を離すと、何をするかわからないし」

「――ふふ、そういうことでは、ないんだけれど」

 

 頭から手を離して、ぐいっと、ヒューストンはバドワイザーを煽った。刺激的な液体を嚥下して、その白い首筋が動く。大人な雰囲気の照明を反射するブロンドヘアを、綺麗だなと、ぼんやり見ていた。素敵なその髪色が、羨ましい。彼女を真似て、明るく髪を染めているけれど、結局のところ私は、ありふれた、茶髪でしかない。

 また、胸の内に、感情がわだかまる。どういうわけか、提督の顔が、照明の色に重なった。

 やっとの思いで体を起こして、頬を張る。バドワイザーを掴んで、また煽った。爽快なのど越しが、ほんの一瞬、もやもやを洗い流してくれた。

 

「ヘレナは、提督が好きなのね」

 

 けれど、折角の爽快感は、微笑まし気なヒューストンの言葉に、全て吹き飛ばされた。戦艦の主砲弾もかくやという衝撃に、脳天を揺さぶられる。飲みこみかけのバドワイザーが食道でありえない動きをして、私は乙女にあるまじき(むせ)かたをした。

 

「うぇっほっ、げほっ……んなっ、何を言ってるの、ヒューストン!?」

「ふふ、図星?」

「ち、違うからっ。ありえないって」

「でも、素敵な方、なんでしょう?」

 

 意地悪な問いかけ方をする、ヒューストン。琥珀色の瞳は、私のことなんてお見通しみたいで、こちらを静かに窺うばかりだった。

 なんとか、否定の言葉を並べようと、口を開く。でも、ビールに心地よく浸っていた頭は、上手く働いてはくれない。そのうち思考は、自分の心を、振り返り始める。

 本当に。もしかして。私は、提督のこと――

 

「どうして、そんなに、提督のことを見ているの?」

「そ、それは……何をするか、わからないから」

「それは違うわ。それだけじゃ、ないでしょう?」

 

 微笑むヒューストンに、やっぱり、何も言えない。けれど、なんだか認めてしまうのは癪で、私はまた、カウンターに突っ伏す。半分ほどになった二本目のバドワイザーを、ころころと弄ぶ。

 ヒューストンはまた、私の頭を、撫でてくれた。

 

「いいわね、初恋。初々しくて、ピュアで」

 

 こちらを覗く友人に、口を開きかけた時だった。

 

「ヘレナ、いるか?」

 

 毎日毎日聞いてきた、聞きなれた声が、私の名前を呼んでいた。思わず背中が跳ねて、声の方を向く。食堂の入り口から、提督の顔が覗いていた。

 

「ひゃいっ」

 

 素っ頓狂な返事をする、私。どこか慌てた様子の彼は、私の顔を見つけるなり、安堵したように破顔した。その表情に、いつもの、よくわからない、キュンという音が胸の辺りでする。

 

「よかった、いた。――すまんが、すぐに出てもらえないか。付近で深海棲艦の目撃情報だ」

 

 確か今夜は、輸送船団の入港予定があった。それが襲撃されるのを、提督は懸念しているんだろう。

 体の酔いが、一気に醒めていくのを感じた。

 

「ええ、わかったわ。すぐに行きます」

「頼む」

 

 短いやり取りを終えて、提督は去って行く。彼自身も、私の(ふね)へ乗り込むつもりだろう。

 彼の背中が見えなくなったところで、私は友人を振り返った。

 

「ごめん、ヒューストン。行ってくるね」

「ええ。気をつけて」

 

 友人はそう言って微笑んだ。

 立ち上がった私は、全身を見回す。制服に乱れはないか。髪は整っているか。彼の隣に立って恥ずかしいところはないか。毎朝と同じように、確認する。

 ヴェスタルの差し出したコップ一杯の水を流し込んで、頬を張る。

 

「おかしなとこないかな、ヒューストン」

「ええ。今夜も素敵よ、ヘレナ」

 

 彼女のお墨付きなら、安心だ。

 

「行ってきます」

「ご安航を祈ります」

 

 食堂から、工廠を目指して走り出す。今頃一番ドックでは、〔ヘレナ〕の緊急出港準備が進んでいるはずだ。

 

 

 

「いやぁ、助かった。何事もなくて、一安心だ」

 

 真夜中の執務室に、豪快な声が響く。その声に、安堵の色が混じっていることに、私は気づいていた。

 私たちが接敵したのは、「はぐれ」と呼ばれる深海棲艦だった。駆逐艦が三隻だけで、大した戦力ではない。〔ヘレナ〕が六インチ砲を叩きこんだら、そのまま反撃することなく、一目散に退散していった。それを追撃することもなく、船団は先程、無事に入港作業を終えている。

 出撃と入港作業に関わる数枚の書類を作成し終わり、私は提督と、彼の淹れてくれたコーヒーで、一息を入れている。

 お揃いのマグカップに、口をつける。提督のコーヒーは、やっぱり大雑把で、当たりハズレが激しい。今夜は、当たりの日みたいだ。

 満足そうにコーヒーをすする提督を、マグカップの縁と、立ち上る湯気越しに、見つめる。夜でも変わらず、キラキラした瞳を、見つめる。

 思い出すのは、ほんの少し前の、ヒューストンの言葉ばかりだった。

 私が、提督を、好き?それは、本当だろうか。その真相が知りたくて、彼の顔を、見つめている。

 ふと、そんな彼と、目が合った。

 顔の温度が上がる。頬が熱を帯びる。血液が全て顔面に集まってくる。急に気恥しくなって、私は目線をマグカップへ落とした。艶やかな黒い液面に、真っ赤な私の顔が、映っていた。

 

「どうした、ヘレナ?」

「な、なんでもないですっ」

 

 ごまかそうとして、一層怪しい口調になっている。提督も、そんな私に、首を傾げていた。しかし、それ以上を詮索してくることはなく、彼は再び、コーヒーをすする。

 また、ちらりと、彼の顔を窺った。マグカップを傾けながら、何かしらを考えていた提督は、思い立った様子でカップを置き、立ち上がった。悪戯っぽく細められた目が、私へ向けられていた。

 

「そうだ、ヘレナ。甘い物が欲しいだろ」

「甘い物?何かあるんですか?」

「まあ、ちょっと待ってな」

 

 ウィンクを一つ決めて、提督は執務室の隣にある給湯室へ、入っていった。しばらくガサゴソと音がしたかと思うと、オーブンの動く音がし始める。何かを温めているんだろうか。

 覗こうとした私の視界を、「企業秘密だ」と大きな体に塞がれてしまう。やることのない私は、ソファに身を預けて、提督が戻るのを待っていた。

 数分すると、提督が戻ってくる。右手には大きな平皿、左手にはソースでも入っていそうなミニカップ。

 皆には内緒だぞ。そう言って、提督はお皿とカップを、私の前に置いた。

 

「これ、って……」

 

 お皿の上に並んだものへ、目を見開く。

 こんがりキツネ色の、細長い食べ物。パラパラとまぶされたお砂糖が、熱で少し溶けて、キラキラしている。出撃後の、小腹が空いた体を刺激する、見た目と香り。

 

「チュロス。ヘレナ、好きだろ?」

 

 口角を吊り上げた提督の言葉に、私は唾を飲みながら頷いた。彼の言う通り、私の大好きなお菓子だ。

 渡されたフォークを、早速、チュロスへ伸ばす。銀色の先端が、さくりと、爽快な音を立てて、衣を突き破った。作り置きを温め直したというが、それでも十分すぎるくらい、食欲を刺激してくる。

 カップに入ったチョコレートのディップを見遣って、つけるべきかどうかを、少し迷う。でも、まずはこのまま、一口食べてみようと、そう決めて、チュロスを口へ運ぶ。

 温めたばかりの表面に、唇が触れる。歯を立てると、フォークの時と同じ、さくりと心地の良い音がして、香ばしさが口一杯に広がった。お砂糖の甘さが、舌を覆っていく。幸せ過ぎる歯ごたえを堪能しながら、自然と頬が綻んだ。

 うん――おいしい。

 そんな私を、提督は満足げに口角を吊り上げて、見つめていた。その目線に気恥ずかしくなって、口の中のものを飲み込み、コーヒーをすする。ほろ苦い液体に、舌の上に残ったお砂糖が、流されていった。

 提督もチュロスに手を伸ばす。体に毒なんじゃないかってくらい、たっぷりディップをつけたチュロスを、大きな口でかじる。口元の砂糖を指先で拭いながら、彼はとても満足した様子で、「こんなもんだろ」と呟いた。

 提督に倣って、私も、たっぷりとディップをつけてみる。とろりと、チュロスの表面を覆う、チョコレート。それを、一口で頬張った。

 濃厚なチョコレートの匂いが、鼻腔を突き抜ける。暖かいチュロスの、サクサクという食感が、また堪らない。お砂糖だけのシンプルな味付けもいいけど、この暴力的なまでの甘さも、いいものだ。

 

「いけるだろ?」

 

 してやったりと言わんばかりの提督に、頷く。おいしいものは、おいしいんだしね。

 

「これだけは、練習したからな」

 

 呟く彼の目が、嬉しそうに細められた。

 舌の上の甘さをリセットしようと、マグカップを傾ける。中身のコーヒーは、随分と少なくなっていた。残りのチュロスのことを考えると、おかわりが欲しいところだ。

 

「コーヒー淹れ直すわね。おかわり、いるでしょ?」

「ああ、お願いする」

 

 飲み干した彼のマグカップも受け取って、今度は私が、給湯室に立つ。電気ケトルのスイッチを入れて、ストックしてあるコーヒーの粉をドリッパーの上に敷き詰めた。お湯が沸くのを待ちながら、ふと、提督を窺う。二本目のチュロスを頬張る彼は、やっぱり、嬉しそうに微笑んでいた。

 ……チュロスといえば。思い出したことがある。私が、チュロスを好きになった理由。彼の言う「こんなもんだろ」に、救われた日のこと。

 着任したてで、秘書艦の経験も浅かった頃。出撃で大失敗をして、艦隊に大損害を受けてしまったことがあった。旗艦だった私も、大きな損傷を受けて、怪我をして、しばらく入院していたことがある。

 ある日、提督が病室にやって来た。自責の念に駆られていた私は、とにかく、彼に会うのが怖かった。申し訳なさで、消えてしまいそうだった。でも、提督は病室に入って開口一番、「甘い物が欲しいだろ」と笑って、紙袋を取り出したのだ。中身は、彼が自作したという、チュロスだった。

 病室で、彼のチュロスを、かじった。今夜みたいに出来は良くなくて、焦げてたり、生焼けだったり、砂糖が多すぎたり。まるで提督みたいな、大雑把な、でも暖かくて、優しい、チュロスだった。

 あの日も、提督は、自分のチュロスをかじりながら、「こんなもんだろ」と、苦笑いしていた。その横顔に、どうしようもなく、笑みが零れてしまったのを、憶えている。

 その日から、だろうか。提督のことが少しずつわかるようになってきた。どうにも、適当が過ぎるところがあるようだと、気づいた。その姿から、目が離せなく、なっていた。

 

――「どうして、そんなに、提督のことを見ているの?」

 

 彼が何をしでかすか、わからないから。そんなのは、後付けの、言い訳だった。

 彼を見ていたかった。何をするのか、何を考えているのか、何が好きで、何を愛して、何に笑うのか。

 彼のことを、知りたかった。

 ねえ、ヒューストン。教えてくれる?これが――恋、なのかしら。

 そんなことを問いかけても、きっと友人は、優しく微笑むだけだろう。ヒントはくれても、基本はいつも優しく、見守っているだけだから。

 この感情の正体は、自分自身で確かめなさいと、彼女はきっと言うのだろう。

 淹れ直した、二人分のコーヒー。マグカップから漂う匂いを確かめて、給湯室を出た。待ちわびていたように、提督はマグカップを受け取る。

 いつも通り、嬉しそうに私のコーヒーをすする、提督。チュロスとコーヒーを、交互に楽しむ彼に、胸の辺りが暖かくなる。

 二つ目のチュロスを平らげて、私はようやく、口を開いた。

 

「……ねえ、提督?」

 

 チュロスを頬張る彼は、マグカップへ手を伸ばしながら、「うん?」と顔を上げた。海写す群青の瞳に、胸の高鳴りを自覚する。

 

「私が……あなたのことが好き、って言ったら、どうする?」

 

 途端、コーヒーをすすっていた提督が、盛大に咽た。ごほごほと口元を覆って、咳こむ、提督。ソファに身を委ねて、悶え苦しむ彼が落ち着くのを、私はじっと待っていた。

 ようやく持ち直したらしい提督が、何とも言えない表情で、私の方を見た。言葉にならない声をしばらく発した後、やっとそれらしいセリフが出てくる。

 

「そ、れは……どういう意味だ?」

「……私、ね。提督のこと、好きみたい」

 

 改めて言葉にすると、強いお酒を飲んだ時みたいに、顔が熱くなる。全身の血液が頬に集まって、朱色に染めているのがわかった。でも、口にした「好き」の言葉は、自分でもびっくりするくらい、ストンと腑に落ちた。唇の刻んだリズムが、しっくりと馴染む。

 この感情に、初めて、名前を与えられた、そんな気がした。

 

「……酔ってるのか、ヘレナ」

「失礼ね。もうすっかり、醒めてるわよ」

 

 今朝とは別の意味で、頬へ空気を溜める。酔ってたら、きっと、もっと、恥ずかしいことを呟いていた。

 三つ目のチュロスを、たっぷりのディップとともに、口に入れる。初めての「好き」の余韻に浸りながら、彼の作ったお菓子を噛み締める。今は、私だけが独占できる、その味を噛み締める。

 そんな私を、提督は言葉を継げない様子で、見つめていた。動揺に泳ぎまくる瞳が、何だか無性に、可愛らしく思えた。

 チュロスを飲み込んで、コーヒーをすすり、私はまた、口を開く。

 

「こういうの、初めてだから、まだ確信はないのよ。だから――これからゆっくり、確かめるわ」

 

 零れて初めて、自覚した感情。あなたのチュロスに、恋をしたこと。溢れる感情を、それを乗せた言葉を、止める術なんて知らなかった。

 お皿に残った最後のチュロスを、自分のものにする。指に付いた砂糖を舐めとって、もう一度、提督の顔を窺った。

 ぽかんと、間の抜けた表情の、提督。隙だらけの額を、指で小突く。精一杯、余裕ぶって、笑ってみせる。

 

「明日から、覚悟しててくださいね。私、遠慮を知らない、軽巡洋艦ですから」

 

 私の「好き」を確かめて。そしてあわよくば、それまでに、あなたにも私を、「好き」にさせてみせる。そんな、私の初めての、宣戦布告。提督は、どう、受け取っただろうか。

 目を見張っていた提督が、ゆっくりと、眦を下げる。見たこともないほど優しい微笑みに、キュンと、何度目になるかわからない、胸の高鳴りがする。

 

「お手柔らかに頼む」

 

 その要望に応えるのは、難しそうだと、私には思えた。

 

 

 

 

 

 

「ヒューストン!」

 

 朝陽に照らされる中、出港準備を進める〔ヒューストン〕に、友人の名前を呼ぶ。埠頭でしばらく待っていると、ほどなく、甲板にブロンドヘアの美女が現れた。海風に髪を抑えながら、ヒューストンは微笑む。

 

「おはよう、ヘレナ」

「おはよう。順調そうね」

「ええ。整備もばっちり、よ」

 

 親指を立てて頷くヒューストンに、頬が緩む。同時に、ちょっとした寂しさも感じていた。日本へ派遣中の彼女は、輸送船団の護衛で、この基地に立ち寄っただけだ。これからまた、日本へと――今の彼女の母港へと、帰っていく。

 

「今度は、ヘレナが会いに来てね」

「ええ。いつかきっと、ね」

 

 満足そうに笑う友人へ、私はもう一つの要件を、告げる。昨夜の、彼女と飲んだあとの、ことだ。

 

「ヒューストン。私、提督のこと、好きみたい」

「――そう」

 

 思った通り、彼女の返答は短かった。穏やかに笑うばかりで、それ以上の言葉はない。ただ、とても嬉しそうに、こちらを見つめている。

 今は、それだけだ。

 

「――ご安航を祈ります、ヒューストン」

「――ありがとう。あなたもよい航海を、ヘレナ」

 

 ヒューストンの姿が艦内に消える。数分後、主機のテストが終わった〔ヒューストン〕は、埠頭から舫を離した。タグボートに引かれて、友人の艦は、港外を目指す。

 やがてタグボートも離れ、みるみるうちに、〔ヒューストン〕は水平線へと遠ざかっていく。その艦影を、風になびく髪を抑えて、見送った。

 私の航海(恋路)は、始まったばかりだ。




いかがでしたでしょうか?

ヘレナさん、とてもしっかりしたお姉さんという印象ですね。それでいてとてもかわいい。お世話してほしい…
ちゃんと入手してから、またお話書くと思います。今度は提督がめちゃめちゃお世話されるお話とかもいいですよね。

このお話を読んでから、ヘレナさんいらっしゃったよーという方、ぜひ報告をよろしくお願いします。

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