時は後漢末期、都は宦官の醜悪な欲望により、権威は不安定なところまで堕ち、山間部に行けば忽ちに賊共にその身を蹂躙されるだろう……。
 世はまさに、乱世と化していた。

 そんな中、後に人徳の王と称される者……劉玄徳。彼女は生まれの地である幽州啄郡で、この乱世に名乗りをあげた。
 その彼女の傍らには、自らを“バケモノ”と称し、彼女の影となり、その武勇と知恵で何度も彼女を救った龍の申し子がいた。
 その者の名は劉雷、字は仁桜。その活躍から“龍神王”と畏怖される存在になってしまった男。

 これは、慈愛の少女と本当は臆病な龍の落とし子が紡ぎ出す物語である。

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真・恋姫無双 ~“龍神王”と呼ばれた男~

洛陽に住むある占い師が以下の予言を世に放った。

 

“醜悪蔓延り、魑魅魍魎と化したこの国に、天の龍神様が人とまぐわい、2人の子を落とすであろう。一人は慈愛溢れ、琥珀を首に提げし女子を、一人はその女子を支えるために、自らの姿を妖に堕とした男子。二人は離れ離れに生まれいづも、いずれ出会い、この国を変えるだろう”

 

その予言に感化された人々はその女子と男子を探し始めた。

されど、未だ見つからず……2年の歳月が経とうとしていた。

 

 

 

 

 

~幽州啄郡 とある村~

 

 

 

「オギャアァァッ!オギャアァァッ!オギャアァァッ!オギャアァァッ!」

 

 ある村に一人の元気な赤ん坊が生まれた。桃色の髪が生えている女子だ。

 その女子は奇妙な事に、右手に“何か”を握り締めて生まれた。

 その“何か”とは、鶏の卵より一回り大きい程の琥珀色に光る宝玉。

 その宝玉の中には黒い龍が中に彫られている。

 女子の両親は天の授かり物と思い、女子同様大切に保管された。

 

 

 彼女はとても幸運だった。もしこの両親が、この村の人々が都の予言を知っていたのなら、彼女の運命は大きく変わっていただろう。

 幸運にもも都の予言はここ幽州啄郡の村まで、届いていなかった。

 

 

 

 それから16年の歳月が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は劉備、字は玄徳。年は数え年で16です。今はここ幽州啄郡の村に住んでいます。

 友達のぱいれ……公孫瓚ちゃんと私塾に通っていたんだけど、お金を稼がないといけなくなっちゃって、今は母と一緒に筵を編んで大きな町に行ってそれを売り、生計を立てています。

 そんな中、町でよく色んな話を聞きます。『役人が賄賂を要求してきた』とか、『あそこの村が賊に襲われて壊滅した』とか、『あの山は盗賊団の巣穴だから行くんじゃない』など。

 みんながみんな苦しんでいる。せっかく働いて得たお金が賄賂になって消えて、ちっとも生活が楽にならない。

 そして私は思った。“苦しんでいる皆を助けたい。力のない人を救って、みんなが笑顔になれる世を、この手で作りたい”と。

 でも、今の私じゃそんな事は出来ない。他の皆と同様、力がない。私塾も途中でやめちゃったから知恵もない。

 世を創るってことはきっと、人を殺すこともある。私には、そんな度胸がまだない。

 私に出来る事は、ただ“優しく接する”事なだけ。

 

 

 

 

 

 

「今日も売れたし、もう帰ろうかな」

 筵がそれなりに売れた。売り上げは……いつもより好調だ。

 空が若干赤みがかってきた。この町から村まで一刻(約二時間)ほどかかるから、そろそろ帰ろうかな。

 そう考え、帰り支度をして始めた。

「な、なぁ君。もしかして、あの“龍雷山”を通って来ているのかい?」

 と、私の後ろから男の声が聞こえた。

 振り向くと、そこには槍を持った男の人が立っていた。

「は、はい。そうですけど……?」

「な、ならば!私をそこまで連れていってほしい!」

「…………」

 私は心の中で『またか』とため息をついた。

 

 

“龍雷山”私が済む村のすぐ近くにそびえ立つ山で、6年前までは普通の山だった。

 しかし、ある日、村の木こりのお兄さんがその山へ木を切りに行った際、見てしまった。

 猪を殴り殺し、皮を剥いでいる、全身純白の妖の類を。

 その後も何度か目撃情報があがった。その人たちの話をから、筋骨隆々の肉体で、背中には鳥でもコウモリでもない翼があり、全身白の鱗で覆われ、男の胴体並みに太い尻尾があり、頭はまるで龍のような顔をしていた。

 目は空と同じ蒼で、髪の毛は腰まで届く純白の毛だったらしい。

 そして最大の特徴は稲妻。目撃情報によると殴り殺した猪を食すため、くべた薪に手から稲妻を発生させ、火を付けたというのだ。

 にわかに信じがたいが、他にも何人もの村人が『全身に稲妻を纏っていた』など、目撃証言があったのだ。

 それ以来、稲妻を操る姿と龍が人になったらこういう姿なのだろう、という点から人によく似た龍が棲む山として“龍雷山”と名付けられた。

 

 

 そんな龍雷山に用がある人と言えば“あれ”なのだが、一応聞いておこう。

「……もしかして、挑むんですか?あの龍人様に」

「そうさ!そして俺は有名になって軍に入れてもっと有名になるんだ!」

「……ハァ」

 予想通りの答えに、一応男性に気づかれないようにしたが、思わずため息を吐いてしまった。

 去年の……たしか木々が赤や黄色に色づき始めた季節に、噂を聞きつけた一人の武人が村にやってきた。

 どうやら妖怪退治のためにやってきたそうだが、私を含めた村の人々はそれを静止した。

 あの龍人は無害。それどころか友好的だったのだ。

 ある日、龍人さんを複数人で観察していた村人のうち一人が、誤って足場を滑らせて崖下に落ちそうになったことがあった。

 死を覚悟した村人の青年だったが、悲鳴を聞いた龍人さんが目に留まらぬ速さで駆け寄り、青年の腕を掴んで引き上げて助けた事があった。

 その時にどうやらその龍人さんが喋ることが分かり、その後も何度か交流したらしい。

 

 私はまだ会ったことはないけどね。

 

 話を戻すけど、その武人さんは私達が妖怪に操られていると思い、私達の静止を振り切って一人突貫していった。

 その翌日の朝早く、村の入口に彼の得物だった槍が半分に折られ、身体の至る所にアザやたんこぶが出来るほどにボコボコにされた武人さんが、植物の蔓を編んで作ったらしい縄で簀巻きにされて転がっていた。

 その日は朝からお天道様は雲に遮られ、近くの龍雷山から何度も何度も雷が落ちていた。

 

 

 その後、龍人さんの元へ何人もの武人さんがやってきては村の入口に簀巻きにされて返り討ちに遭っていた。

 中には私達の隙を狙って村の子供を攫い、それを人質に狩ろうとした悪い武人さんもいたが、そういう輩はいつも以上にボコボコにされ、中には片腕を切り落とされた武人さんもいた。

 そんな龍人さんに助けられた子供達はみんな揃えてこう言う。『龍人様に助けてもらった』と。

 気が付けば皆、龍人さんの事を“龍人様”と呼ぶようになった。

 

「……やめといたほうがいいよ。挑んだ人達、みんな返り討ちに遭ったり、中には片腕を切り落とされた人もいるんだよ?」

「それは彼等の運が悪かったにすぎん!俺はいつも運はいいからな!っはっはっはっはっは!」

「……」

 そういって返り討ちにされる人を私は何度も見た。

 そして私は思う。その思いを、なんで力のない人々に使うことが出来ないのか、と。

 

 

 

 

 

~龍雷山と呼ばれるようになった山~

 

 10年前。僕はあの人、志柳さんに会った。

 気づいた僕は暗い所で倒れていた。

 志柳さん曰く、そこは“洞穴”と呼ばれる所だったらしい。

 志柳さんはここを歩いているうちに僕を見つけ、近くの小屋まで僕を運んでくれた。

 それ以来、僕は志柳さんの元で色んなことを教わった。

 “字の読み書き”や“言葉の発音の仕方”、そして敵との戦い方とか色々。他にも生きる上で必要な火の起こし方、刃物の扱い方、水の確保の仕方、気配を隠す方法、状況を見定める方法など色んなことを教えてくれた。(あの人曰く、“さばいばる”?技術って言っていた。……なんだろ、さばいばるって?)

 そして志柳さんに名前と真名を付けてもらった。

 真名と言うものは、“自分”そのものを表現し、本当に心を許した者でしか呼ぶことを許してはいけない名前っぽい。

 そんな真名と付けてもらった。

 名は劉雷(りゅうらい)、字は仁桜(じんおう)。真名は“海”(かい)

 

 そういえば志柳さん曰く、僕と志柳さんは全然違う種族らしい。

 志柳さんは僕みたいに“全身に鱗が生えていない”し、“尻尾が太くないどころか付いていない”。

 色も僕みたいに“全身真っ白”じゃない。

 志柳さんに聞いたら、『海みたいなヒトは君だけかもしれない』って言われた。

 僕はおかしいのかとあの人に聞いたら直ぐに『違う!君はおかしくない、君は姿が違うだけの……俺の義子供だ』と言ってくれた。

 その時、僕は何故だか身体の中心から暖かくなった。そして目から何故か水が出てきた。

 この時、僕は初めて涙を流した。

 

 

 

 こんな日が長く続く、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

~幽州啄郡・楼桑里:入口~

 

「ありがとう玄徳さん! ではこれから私は龍人に挑んでこよう!」

「は、はぁ。そうですか」

 武人さんを村まで連れてきた私は、力強く宣言するこの人に冷めた目で見る。

 武人さんは幸か不幸か、私の視線には気づいていないようだ。

「そ、そうだ。玄徳さん、龍人に勝てたら、貴女に言いたいことがあります!」

「言いたいことですか……」

「はい! 今言ってもいいですが、楽しみは後にとっておきます! では!」

 変な感じに意味深な言葉を言った武人さんは、最後まで私の冷めた視線に気づかず、出発してしまった。

「“また”、か。……ハァ」

「おや、桃香ちゃん。また“告白”されたのかい?」

 私がため息をつくと、背後から誰かが私に話しかけてきた。

 後ろを振り返ると、私より背が高い女性がそこにいた。

 その女性は炎のような色をした、整っていない長髪で、眼は紫。この村の皆が着ている麻の服を着ている。

「あ、簡雍ちゃん」

 彼女の名は簡雍(カンヨウ)。私より年が2つ上の、公孫賛ちゃんと同じ幼馴染だ。

「告白じゃないよ簡雍ちゃん。あの人が変な事言ってるだけだよ」

「そうかいそうかい。あと、あたいの事は理栖丁(リステイ)でいいって言ってるだろ?」

「そう、だったね……ごめんね理栖丁ちゃん」

「イイってことよ。アッハッハハハハハハハッ!」

 理栖丁ちゃんは笑うときはいつも男っぽく豪快に笑う。

「流石“元山賊”の理栖丁ちゃん。笑い方が男っぽいね」

「うっせうっせ! どうせあたいは女の魅力がない大雑把な人ですよーーだ!」

 そう言ってそっぽを向く理栖丁ちゃん。

「……ホント、ぶれないよね貴女は」

「っへ、まあな!」

 そんな感じに彼女と雑談をしていると、どこからともなく、誰かが殴られた轟音が響く。

「! 今の音は」

「あ~。さてはさっきの男、やられたな」

 すると……。

 

 

 ズドォォォン!

 

 

 突如、轟音と共に私と理栖丁ちゃんの傍に何かが落ちてきて、その衝撃で土埃が舞う。

「ゴホッ! ゴホッ! ま、またなの!?」

「ゲホォッ! ガホォッ! おいおい勘弁してくれよ……」

 暫くすると土埃が消え、そこには頭から地面に突っ込んだ男性。先ほどの武人さんが突き刺さっていた。

「…………」

「…………」

 何度も見た光景。何人もの武人さんが龍人さんに挑み、そしてこのように殴り飛ばされてくる。

 最初見たときは死んでいるんじゃないかと思ったけど、何ヶ所か痣や打撲ができる程度で済んでいる。

「……いつもの所に運ぼうぜ」

「……うん、そうだね」

 そして私と理栖丁ちゃんは、地面に刺さった武人さんを引っこ抜き、この村のお医者さんのいる家へ運んだ。

 




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