~~????視点開始~~
やあ、俺神に愛された男……ってのは確かに間違って無いけど、改めて、転生者です。名前は
ある時気付いたら、俺は前も後ろも上も下も右も左も、全てが白い世界にいた。そこには見渡す限り何も無く、ただ俺と、俺の理想を体現した白い女がいた。女神を自称する彼女は開口一番に問い掛ける。「アナタ、転生します?」と。
聞けば女神は、転生してくれる者を三人ばかり選んでるらしい。予てより興味のあった俺に、当然断る理由なんて無かった。特典も人数に併せて三種類と言うなら、チートが一番多い奴で頼む。
そんな訳で女神に愛された転生者だから、当然イケメンで高身長、そして何でも卒なく
だけどそれだけじゃあ無い。友達想いで誰にでも優しくて、正義感が強く真面目で、そして才能に胡座をかかず努力を惜しまない。自慢じゃあ無いけど。
お陰で黙ってても老若男女問わず周囲の羨望を集め、声を掛ければそれだけで女は堕ちる。自慢じゃあ無いけど。
勿論、バックの設定もぬなり無し。俺をサポートする所属企業は世界有数の大企業で、時間さえ惜しまなければどんな物さえ産み出してしまう。
あと何か、事前に想定した人物像と実際の行動が乖離するとペナルティーとか言ってたけど、俺は女神に愛された転生者様だ! チートの前にはそんなもの関係ねえ!!
戦う前から勝つ! 誰にも負けない!! 俺こそが正義!!!
今は作中最大最胸そして作中唯一の良心な童顔眼鏡副担任が来て、ほぼ女の園と言って良い事実上の女子校で二度目の高校生活が始まるのを待っている……のだ…………が………………。
「一夏さーん、参考書の進捗は如何ですか?」
「…………内容を理解してるって意味なら、大体ページ換算で2パーセントくらい……?」
「凄いじゃねえか一夏! 入試で偶然に動かしてからだから……使える日数何て五十日あったかどうかだろ? なのにそこまで進めたなんて。流石オレ達の弟子、そして弟分。なあ、紫織」
「そうですね、紅葉。あたくしも師の一人として、また姉として鼻が高いですよ、一夏さん」
俺の一つ前の席に集まり、原作主人公こと織斑一夏……通称ワンサマ……を挟んで称賛を送るは、記憶する限り原作には居なかった正体不明の、見た目を構成するパーツが真反対な美少女二人。
紅葉と呼ばれたオレっ娘は、色こそ薄いながらも日に焼けたのとはまた違う褐色肌に、見る角度や光の加減で色味が虹色に変わる白銀の長髪。そして、猛獣を思わせる吊り上がり気味の眼は鮮血の様な紅をしている。
対して紫織と呼ばれた方は、紫の垂れ目をあらあらうふうとニコニコ更に細め、肩口で切り揃えられたミドルの黒髪とまるで透き通るかの様な病的に蒼白い肌だ。
見た目の共通点なんて、白主体の申請が通って許可が下りる限り改造自由な制服を今にも内側から破壊しそうなおっぱいくらい。因みに下は、紫織がロングの巻きスカートで紅葉がワンサマとお揃いのスラックスだ。
俺の視線は、クラスメートの他の女子と比べて桁違いにたわわなその膨らみに吸い寄せられていた。君達その身体、出る作品間違えて無い? 見比べた訳では無いから断言出来ないが……もしかして箒以上か?
誰だよこの二人、本編開始前のこの時点で既にワンサマにISの勉強教えてる奴が二人も居るとか、こんな爆乳美少女二人を既に師弟関係の名目で侍らせてるとか……俺、聞いてない!!
そもそも転生者は俺含めて三人って聞いたぞ。一人は本来なら原作主人公のワンサマが座ってるべき最前列&真ん中、俺の二つ前に座るおりむーならぬオリむーだろう。奴が俺と同類の転生者なのは確定的に明らかだ。
後一人はモブの巣窟三組にでも逃げたか? 確かにそこなら暴力系ヒロイン並びに原作絡みの騒動とは距離を置けるが、チートで約束された勝利と活躍の場面も少なくなるぞ、三人目。まさか学園外にとも思ったが、どちらにしても数が会わない。
…………とそこまで考えたところで教室の出入り口が開き、童顔に眼鏡そして低身長と、ある一部を除き俺達と差程見た目年齢の変わらないスーツ姿の女性が姿を現す。
「お、もう時間か……。またな、一夏」
「それでは一夏さん、あたくし達はこれで」
自分の席に戻る謎の爆乳美少女二人を視線だけ向けて追えば、けしからん処が重々しく揺れてる。身の程知らずで大口ほざくだけのワンサマには勿体無いから寝取って俺のモノにしてやると心に誓い、今は不審に成らない範囲でガン見して脳裏に焼き付ける。
「全員揃ってますねー。それじゃあSHRをはじめますよー」
~~恵斗視点終了~~
~~????視点開始~~
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「………………」
IS学園一年一組の教室、入学式の朝のSHR。転生者のぼくにとっては二度目となる新しい世界の幕開けを、真の主人公である神童のぼくは真の主人公に相応しい中央最前列で受けていた。周囲の反応は事前に知っての通り、変な緊張に包まれていた為に無かった。
「「「はい、宜しくお願いします山田先生」」」
「!!!!」
……なんて事は無く、ついさっきまで背後の席で良いのはぼくと同じ顔だけの屑……不本意だけど双子のぼくの兄……を仲良く称賛していた紅葉と紫織、そして屑の三人が声を揃えて返事を返す。
全てが黒の世界で出逢った黒い衣装の女神と名乗る女。彼女に転生を持ち掛けられたぼくは全てを悟った。ぼくは、選ばれたのだ。
ぼくが選択した特典は「主人公織斑一夏の双子」。歳不相応にスタイルの良い幼馴染みを始めとする美少女達との同居が約束されていて、IS世界最強の姉ブリュンヒルデと同じ武器を備えた高性能な機体が貰えて、その他にも主人公の立場を専用機として貰えるとか、控え目に言って最高かな?
飽くまでも「IFの一夏」とか言ってたけど、僕は真の主人公。口先だけで弱くて無能な、自分の事を好きなヒロイン達の好意が解らない屑とは違うんだよ、屑とは。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、順番はこのクジで」
山田先生が徐に何処からともなく取り出したのは、アニメの誕生日回でみたあのガチャガチャだった。
「皆さん自己紹介が終わったら、自分の席に戻る前にこのダイヤルを回してクジを引いて下さい。出てきた数字と同じ出席番号の子が次に自己紹介して貰います」
一通りの動作説明を終え、先ずはお手本とばかりに自らの自己紹介を終えた山田先生がダイヤルを回す。
「えー、私の次は…………」
~~秋春視点終了~~
~~恵斗視点開始~~
ある意味、学園生活最初のイベントと言える自己紹介も、山田先生が今は亡きソシャゲでお馴染みだったクジを取り出したり、結果として出席番号順じゃあ無くなった以外は恙無く進み、残すは俺やもう一人の転生者、そして例の二人に原作主人公含む五人と成った。
「では次は……織斑秋春くん」
「は、はいっ!?」
残る五人の中で最初に呼ばれたのは、件の転生者オリむーだった。既に冬と夏が遣われてるから残る春と秋を、どちらか一方に決められず纏めたか、安直な。
「えー……えっと、
席を立ち、皆の方を向いて自らの名前を名乗り頭を下げるオリむーこと織斑秋春。併せて印象付けの為か、輝く様な笑顔も忘れない。確かに第一印象は大事だよな。
が……同類の俺は見逃さなかった。何だよ、あの一瞬見せた周囲を値踏みするかの様な他人を見下した視線。少しは場違いな自分を申し訳なさそうにしている原作主人公のお兄さんを見倣え。
さて、どう出るオリむーもとい秋春。
「名字で察してる人も居るかもだけど、ぼくの姉はかのブリュンヒルデ……織斑千冬だ。だけど、ぼくがISについて勉強を始めたのは男のぼくでもISを動かせると判った二ヶ月前からだから、神童のぼくに何でも訊いてくれ……とはいかない。寧ろ何でも訊かせてくれ」
うわ……コイツ自分の事指して「神童」とか呼んでますよ。オリむーってイタい人かな? 回りの女子はナニが良いのか黄色い歓声を挙げてるけど、俺はダメ。退くわー。同じ転生者としても、同じ男としても。
俺? 俺は分別ある転生者だから口には出さないよ。神に愛された男なのは事実だけど。
それを止めたのは、一発の打撃音だった。噂をすれば影。IS界隈の世界女王、ブリュンヒルデ織斑千冬お姉様の降臨である。
「もっとマトモな挨拶は出来んのか、お前は」
「いや、千冬姉、ぼくはーー」
「織斑先生と……」
再び秋春の頭部目掛けて振るわれる出席簿を止めたのは、俺の前、秋春との間に座る原作主人公……そう、ワンサマだった。
「何のつもりだ、織斑兄」
「それはこっちの台詞ですよ。貴女、職にも就かずこんな処で何やってるんですか? 幾ら可愛い弟が心配だからって……今日は授業参観の日じゃ無い。まさか、過保護が過ぎて不法侵入ですか?」
出席簿を受け止めたのとは反対の手で頭を抱えるワンサマ。そう言えばワンサマは、IS学園に入学するまで千冬の職業を知らなかったな。無職という認識なのか、この時点では。
「えーと、織斑さ……織斑くん? 織斑先生はIS学園の教師で一年一組の担任ですよ? お二人はその……ご姉弟なんですよね? その辺りの話とかしないんですか?」
「事後報告と無配慮と暴力の常習犯ですから、この自活力ゼロの依存性非常識ズボラ傍観者は。葉月達からIS学園で教師してるって聞かされた時はまさかと思ったけど……世も末だな」
転生先を選ぶ際に女神は、ワンサマの双子オリむーはチートの数こそ少ない……と言うか、原作主人公と同じ基礎スペックと主人公補正と原作知識しか無いものの、事前干渉が可能だと言っていた。
その結果があの、原作では良い歳してベッタリだった姉の千冬を、公然と扱き下ろして毛嫌いして他人扱いしているワンサマか……ホンと、何があったらそうなるんだよ?
それよりも、葉月って誰? まさかあの二人以外にも既に女が居るのかよ、お盛んだなおりむー。
「大体、人を指導する立場に在りながら公の場で、それも生徒の前で自分より立場も力も弱い者に軽々しく暴力を振るって……貴女に憧れて真似するファンが現れたらどうするんですか? ここで扱う代物が剣や銃なんかとは比較に成らない位物騒だってのは、知らない訳じゃあ無いでしょ!?」
周囲のギャラリー女子からは「お姉……じゃ無くってお兄さんの方の織斑くんって……」とか「何だか千冬様の弟って言うよりお母さんみたい……」とか「これがオカン系男子……」みたいな声が次々と挙がる。
「教師に手を挙げるだけでは飽き足らず、挙げ句目上の者に対して説教か? お前は何時からそんなに偉く成った」
三度振るわれる鬼教師千冬必死の出席簿。但し、次なるターゲットは秋春では無くワンサマの頭部。速度も三割増だ。
「一夏さーん!」
「一夏!」
半ば吹き飛び頭から崩れ落ちるワンサマ。それを、ほぼ同時に電光石火の勢いで飛び出してきた紫織と紅葉の二人が文字通り身体を張って受け止め、教室の床への頭部の強打を阻止する。
美少女二人の爆乳におっぱいダイブとか、男として実に羨ま……しくねー!! IS世界の生きた伝説織斑千冬に出席簿アタックされるリスクとか、割にあわねーよ。
「織斑くん!!」
遅れて山田先生もワンサマ達に駆け寄る。
「織斑くん、お怪我は有りませんか? 伊吹さん達も……」
「は……はい。しお姉ともみ姉の二人が受け止めてくれたお陰で、特に痛みとかは……」
「こちらも特には……」
「鍛えてますから、オレ達」
ファ!? しお姉にもみ姉だと!? SHR前のダベりでもあの二人はワンサマの姉を自称してたが、ホンともう、この世界線はどうなってるんだよ…………。
~~恵斗視点終了~~
~~秋春視点開始~~
屑と紅葉と紫織の三人が各々自分の席に戻り騒動が一息吐いたところで、山田先生が「織斑先生」と千冬姉に向き直る。2オクターブ低い声で。流石にたじろぐ千冬姉。
「や……山田くん?」
「先程織斑くん……一夏くんも言っていましたけど、何の落ち度も無い生徒に勧告も警告も無く私情でいきなり手を挙げるなんて、貴女それでも教師ですか!?」
「何を言ってるんだ山田くん。私の言う事をよく聴きよく理解出来ない者は指導する。何の問題も無いだろ?」
「指導の仕方に問題しか在りません。最初から暴力だなんて……生徒達のお手本となるべき私達教師が、自制心と良心を忘れてどうなりますか?」
「同じ教師である私より、たかが生徒である織斑兄の味方をするのか、山田くんは!?」
「私は教育者です。その自覚も誇りも有ります。教え子の味方をする理由なんて、他に必要有りますか?」
うわぁ…………あの、胸以外全く歳上には見えない山田先生が、世界の頂点千冬姉とメンチ切りあってるよ…………。
「さあ、自己紹介を続けましょう」
仕切り直しとばかりに教壇に戻った山田先生が告げる。後光が観えたのは目の錯覚だよな? 眼鏡キャラが輝いてしまうのは眼鏡のみと昔から相場が決まってる。
さてぼくの次に呼ばれたのは、あの唐変木と朴念仁が合わさった屑に告白なんて酔狂な真似をした一人にして、それを知って独占欲と嫉妬を暴走させた箒の木刀と竹刀の二刀流に纏めてボッコボコにされて病院送りにされた一人、伊吹紫織だった。
まあ、屑の顔が良いのは認めるよ。なんせ、仮にも真の主人公にして神童のぼくの双子なんだから。でもあの屑は顔だけだ。剣道はぼくよりも弱いし、勉強だって頭悪い脳足りんだ。そんな奴が何で……!?
「皆さんごきげんよう、あたくし
次は伊吹紅葉。コイツもかつて屑に告白した違いの解らない愚かな一人にして、箒にボコられて病院送りにされた一人……あの屑を選んだのだから当然の報いだ。そして、大会連覇をして欲しいが為に屑の誘拐を報されてなかった千冬姉に代わり屑を助けるなんていう余計な事した一人だ。
あの誘拐事件で屑だけが拐われたのも、日本の代表団が決勝戦を無視して不戦敗しない様に千冬姉に報せない事を選んだのも、代わりにと派遣されたIS操縦者達が女尊男卑で男の屑を助けるのをボイコットしたのも、全てぼくにとっては嬉しい誤算だった。
これで労せず邪魔者を排除出来ると思った矢先に、決勝が終わり勝敗が付いたところで屑誘拐は千冬姉の知るところとなる。誰だ、余計な事を!!
「オレ、
最後はぼくと同じ転生者の彼だ。何だよ、モブ処か異物の分際であの背の高いイケメン。真の主人公は神童のこのぼくだぞ。
「
「はい、ありがとうございます。では最後に織斑一夏くん、自己紹介をお願いします」
あ…………どうでも良いから忘れてたわ、屑の事なんて。
「織斑一夏です、宜しく。本来なら有り得ない男のIS操縦者という事で、特にクラスの皆にはこの先色々と、迷惑掛けたり世話に成ったりすると思う。それと……一応、法的には先に紹介のあった二人の織斑の兄で弟だけど、あいつ等の為にもそこには余り触れないであげて欲しい」
~~秋春視点終了~~
~~箒視点開始~~
五年と十五日ぶりに再会した二人の幼馴染みは、一人は大きく成長した身体と凛々しくなった顔付き以外は昔と変わらず、もう一人は見た目以上に纏う雰囲気というか中身がまるで別人だった。
弟の方、秋春は、相も変わらず謎の自信に満ち溢れていて、先程の自己紹介でも意味不明な自称「神童」を未だに使っていた。確かに小学生の時分の秋春は、実は中学生なのではと思わせる程に頭が良かった。だが秋春、そろそろそう言うのは卒業しろ。
それより兄の方、一夏貴様! 何だその女どもは!? 幾らここが女子しか居ないIS学園とはいえ、学園内で新たに友達を作ろうと思えば必然的に女の子に成らざるを得ないとはいえ、神聖な学舎で初日から早々に複数の女性を侍らせるとは何事だ!!
しかもあろうことか、そいつらはかつてお前に揃って告白した五人組の、私から幼馴染みのお前を掠め取ろうとした泥棒猫戦隊のうちの二人ではないか!? そんな奴らが、そんな奴らを、しお姉にもみ姉だと…………!?
奴らを病院送りにして以来、何だかんだで幼馴染みの私を優先していたのは、眼が醒めたからでは無く私の油断を誘う為か。私が保護の名目で引っ越しに次ぐ引っ越しの日々だった間に、泥棒猫共に誑かされ骨抜きにされてしまったか……成敗せねば!!
私が意を決して一夏の元へと席を立つより先に、教室のドアを開けるや一夏に声を掛ける者が……否、駆け寄り一夏に抱き付く不届者がいた。デカい、身長とか胸とか色々な意味で……。
「兄さん!」
に……兄さんだとぉ!! 一夏が座ってるのを良いことに、一夏の後頭部に無駄にデカい脂肪塊を押し付けるな。直ぐに離れたからと許されると思うな。誰だ、そのピンク頭は!? と疑問に思った矢先に、記憶にある顔だと思い出される。…………まさか!! またなのか?
「お……
「それは儂の台詞ですよー。研究所で生きたまま解剖か、このIS学園という名のゲージでモルモット暮らしかで、半ば無理矢理放り込まれた兄さんの方が大変でしょ? 予備知識なんて無いも同然で……」
「まあ、その辺りは皆のお陰で何とか……。処で吹雪と綾花はどうした? 雪月花は何時も三人セットなのに……」
「あはは……大勢で押し掛けても迷惑かと思いまして、脚の速い儂が代表です」
確定だ。私達が離れ離れになっていた間に私の幼馴染みは、泥棒猫戦隊の五人組に掠め取られ、誑かされ骨抜きにされていた。早急に事態を収拾せねば!
「…………ちょっと良いか?」
私が決意を胸に話し掛けると、二人は会話を中断して揃って反応する。
「あら?」
「箒……」
「やあ、箒。六年ぶりかな? 久し振り」
一つ前の席の秋春もそれが当たり前とばかりに、極自然と私に挨拶をする。出鼻を挫かれた気分だが、一夏の弟である以上こいつも私の幼馴染みには違いないのだ。無下にする理由は無かった。
「兄さん、では儂はこれで……」
「ああ、二人に宜しく伝えといてくれ」
邪魔者が自ら一夏の下を去ったのは良いとして、去り際に私にだけ聴こえる様に告げられた台詞は……「頑張って下さい」とはどういう意味だ!?
~~箒視点終了~~
~~一夏視点開始~~
IS操縦者の育成を主な目的に創られたここIS学園は、肝心要と成るISの……より正確にはISの頭脳にして心臓部とでも言うべきコアの絶対数の少なさと、本格的なIS関連の教育機関が世界にここにしか無い事、そして何よりも女子にとっては華の職業と言う事もあって、倍率一万超えの超絶難関だと聞く。
その針の穴の如く狭き門を潜るべく、同級生達や先輩方は小学生半ばの幼い頃から、遅くとも中学に上がる頃にはISの勉強を始めるのだとも。そんなエリート達に追い付く事を、せめて置いて行かれない事を俺は、何故かISを動かしてしまった俺達野郎三人組は強いられていた。
俺の命の恩人でもう一つの家族で……ISを動かせると判ってからはコーチでもある吹雪達に勉強を観て貰って無かったら、きっとちんぷんかんぷんだっただろう。
現に双子の実弟の秋春は、「ほとんど全部解りません」と山田先生に泣き付いている。
「…………」
だから言ったんだ、葉月達の好意に甘えさせて貰ってISの事を教えて貰おうって。秋春は「屑のお零れに預かるなんて……」と意地張ったり、「大丈夫だ、問題無い。何せ、ぼくは神童だから」とか言ってたが……大丈夫じゃ無いな、問題だらけだ。
「山田せんせー。織斑は二ヶ月前の入試でISを動かせると判ってから無理矢理入学させられたんですよー」
「ここIS学園に入学する事前提で予てより勉強してきたあたくし達と同列に扱うのは、些か酷かと……」
「そ……そうでしたね。え、えっと、織斑くん。解らない処は授業が終わってから放課後教えてあげますから、がんばって? 勿論、神野くんや一夏くんも……」
「は……はい、是非に」
「それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」
もみ姉としお姉の忠言を受けた山田先生の提案に、渡りに船とばかりに嬉々して乗る神野と秋春の二人。俺は……止めておこう。確かに山田先生は教える専門家だけど、俺のコーチなら既に綾花達がいる。なら、これ以上山田先生の負担を増やすべきじゃ無い。
~~一夏視点終了~~
~~セシリア視点開始~~
先程までの山田先生に代わり教壇に立たれた織斑先生は、早速「そう言えば……」と授業を中断されました。何でも、再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者、所謂クラス長を決めるのだとか。
それは、授業の時間を割いてでも早急に決めるべき案件なのでしょうか? とか、放課後のHRでもよろしいのでは? といった疑問の海に沈むわたくしを他所に、みなさん次々と名前を挙げられます。
「はいっ。織斑くんを推薦します! お兄さんの方!」
「私もそれが良いと思います!」
「なら、私は弟くんを推します!」
「じゃあじゃあ、私は神野くんで!」
戸惑いながらも満更でも無さそうな神野さんと、困惑と共に拒否の意を示す弟さんの方の織斑さん。お兄様の方の織斑さんは、後ろにあるわたくしの席から窺う限りでは無反応でした。
「俺? 期待されても困るよ?」
「ちょっ、ちょっと待ってよ! ぼくはそんなのやらなーー」
「他薦された者に拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟をしろ」
弟さんの抗議は即座に無慈悲に却下されました。当人の意思と意見を許さぬ横暴な物言いに、生徒の……それも御自分の弟さんの権利を認めないなど、これがわたくし達の担任ですの? ああ、これ以上はIS操縦者として、何よりも淑女として我慢が成りませんわ!
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
「その通り。当人の意思と人権を無視した、そんな選出は認められん!」
「学友を、物珍しい男と言うだけで己の欲を、渇望を充たす為の道具扱いとは……同じ女として恥ずかしいです!」
憤りを押さえられなかったのは、わたくしとほぼ同時にお立ちに成られた紅葉さんと紫織さんも同じだった様です。わたくし達三人は一瞬互いに視線を交わし、無言で同時に再び席に着かれる紫織さんと紅葉さん。先手は譲る……と言う意味でしょうか? では……。
「実力から行けば入試首席のこのわたくし、イギリス代表候補生セシリア・オルコットがクラス代表に成るのは必然。ISの操縦にしても、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですし」
「ぼくも倒したよ、教官なら」
「あ……俺も」
「は……?」
折角の良い処で、どうしてこのわたくしが水をさされなくては行けませんの!? しかも、庇って差し上げている方達に。
「貴方方も教官を倒したって言うの!? わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチだろ?」
「ま……当然かな」
以外な盲点を突いてこられる神野さんと、何処か見下した物言いの弟さんの方は、今は捨て置きましょう。これは、残るお一人にも問い質さなくては!!
「お兄様の方の織斑さん! 一夏さん? 貴方は、貴方の入試の結果はどうでしたの!?」
「お……俺か? 確かに俺は入試で勝てなかったけど、俺の場合は確か……『本当なら動きを観るだけで倒さなくても良い試験で、俺の前の奴等がことごとく教官を倒すもんだから使える学園の機体が無くなったから』とかで、どっかの国の代表してるって会長さんが専用機で相手してくれたから……先生が乗る訓練機相手にした他の皆と同じに扱って良いのか?」
「まあ……!!」
そう、これこそが正しい形ですわ。本当なら動きを観るだけだったとか、教官は倒さなくて良かったとか、使える機体が無くなったから専用機持ちの会長さんが代わりにととかは、最早些細な問題ですわ。
「代理相手とはいえ、試練を越えた事に代わりは無い。誇って良いぞ」
「それにしても凄いですね、皆さん。あたくし達なんて、時間一杯逃げて防いで凌ぐだけで精一杯でしたよ」
「ああ、乗ってたのが量産の訓練機とはいえかのブリュンヒルデに勝つなんてな……オレ達倒されない様にするだけ限界だったぜ。なあ紫織?」
「はい。これは、あたくし達もうかうかしてられませんね紅葉」
「「「はい…………?」」」
ど……どういう事ですの!? 今の会話から類推するに、紅葉さんと紫織さんの入試のお相手は織斑先生で、お二人は訓練機に搭乗する織斑先生と闘い負けなかったと……!?
「じゃあ、オルコットさんは俺が推薦するとして……どうやって決めます? 投票形式だと一人だけ女子で珍しく無いオルコットさんが圧倒的に不利ですよ? どうします、織斑先生」
このわたくし、セシリア・オルコットを推薦とは……!! それに留まらず男の希少性からくるわたくしの不利を危惧して下さるとは。先程から常々思っていましたが、お兄様の方の織斑さんは……ミスター一夏は本当に話の解る、そして出来た殿方ですわ。
「かと言って決闘と言う名の試合形式では、皆さんを侮辱する訳ではありませんが、イギリス代表候補生にしてエリートの証たる専用機を持つわたくしがIS初心者の一夏さん達をお相手しては、それは最早素人虐めですし……」
「おう、良いぜ。四の五の言うより判りやすい」
「男だからって侮らないでよ。真剣勝負で手を抜くほど腐って無いからね」
正気でしょうか、決闘を受ける気の神野さんと織斑さんは。同じポーズで頭を抱える一夏さんとわたくしを他所に、紫織さんが提案して紅葉さんが真意の確認を取ります。
「なら、折衷案は如何でしょうか? 先ず試合を行い、その結果を観て投票する……と言うのは?」
「既に心に決めた奴が居るならそいつに、実力者こそと言うなら勝った奴に……か。そういう事ならオレ、自薦します」
「では、あたくしも自薦させて戴きます。紅葉には負けてられませんもの」
「俺もそれで」
一夏さんも同意して話が纏まりそうなところで、又もや織斑さんが口を開かれるので、わたくしも確認の為に問い返します。
「ハンデはどれくらい付けようか?」
「あら、早速お願いかしら?」
「なら山田先生、試合の日に訓練機を、可能であれば二機確保して下さい。男子三人のお相手、あたくしと紅葉はそれで出ます」
「代表候補生で実力を認められた証の専用機を持つセシリアが相手なら兎も角……専用機を使った素人虐めが許されるのは、代表候補生予備か企業にバイト採用されてる間までだもんな」
「いや、俺達がどのくらいハンデ付けたら良いのかなーと」
自信の現れか、殿方三人のお相手を訓練機でする気の紫織さんと紅葉さん。そこに待ったを掛ける神野さんは、そしてそれに追随して自信に満ちた顔で「うんうん」頷く織斑さんは、果たして本当に正気なのでしょうか?
「同じIS乗り同士の戦いだよね。ハンデは良いよ」
「俺や秋春とお前ら、条件は五分だろ?」
「経験値が圧倒的に違うだろ、常識的に考えて!!」
ツッコミと言う名の咆哮を上げる一夏さん。一夏さん、わたくしは貴方の味方ですわ。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑兄と弟に神野、それからオルコット、伊吹紫織と伊吹紅葉はそれぞれ用意をしておくように」
~~セシリア視点終了~~
感想や誤字報告、お待ちしています!