壊れた空の最果てへ   作:緒河雪

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三人目? の転生者登場

それに併せ、タグの追加変更


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~~箒視点開始~~

 

ここIS学園は文字通り世界中から生徒が集うという事もあって、国外からの生徒との差別化を無くすべく……かは一介の生徒である私には判らないが、全寮制を敷いている。故に私達IS学園の生徒は、放課後は用意された寮の部屋へと帰る事となる。

 

「…………!」

 

シャワーを浴びたばかりの身体を拭いていると、入り口の方から物音と共に人の気配がした。寮は二人一組の相部屋だから、きっと同室に成った者だろう。

 

「こんな格好ですまないな。シャワーを使っていた。私は篠ノ之ーー」

「ーー箒」

「篠ノ之さん!?」

 

白いバスタオル一枚を巻いただけの私が出迎えたのは、今日再会した幼馴染みの一人にして私の想い人と、私達一年一組の副担任の二人だった。

 

「何て格好をしてるんですか、篠ノ之さん!? 嫁入り前の娘がはしたない!!」

「箒!! 少しは吹雪や綾花を見倣って慎みを持て!!」

 

そして説教された。教師で同じ女性の山田先生はまだしも、同じ生徒で異性の一夏には言われたく無い。それよりも……だ。

 

「山田先生。俺、外で待ってます」

「はい。篠ノ之さん、さあ着替えて!」

「そこに! 直れ! 修正してやる!!」

 

部屋から逃亡すべく背を向けた一夏の後頭部に目掛け、誅を下すべく木刀を片手に踏み込み踏み込むも、一夏はこちらを観ること無く躱して魅せる。

直ぐ様追撃の突き上げを背後から放つも、一夏は完全な死角からの一撃を身を捻って避け、そこから横薙ぎに繋げる……前に山田先生が背後から私を羽交い締めにして宥める。

 

「織斑くん!? だ……大丈夫ですか? 篠ノ之さんも、落ち着いて下さい!!」

 

~~箒視点終了~~

 

 

 

 

 

 

 

 

~~一夏視点開始~~

 

報連相の不備により初日から寮暮らしに成ったらしいが、俺は当初聞かされた通り一週間は部屋には帰らない。

その事を同居人に伝えに用意された寮の部屋に帰ったら、俺達の幼馴染みで弟が想いを寄せる相手……箒が、シャワー浴びたばかりのバスタオル一枚だった。

何てはしたない、慎みを持て。事情の説明の為にと同行してもらっていた山田先生と共にお説教していると、いきなり木刀振り回して殺しに来た。

暴れ狂う剣道全国大会優勝者と、大人とはいえ女性を二人きりにするのは不安しか無いが、あの格好の箒の前に俺が居ては火に油を注ぐだけだ。心苦しいが山田先生に後を任せ、先ずは通路に逃亡する。

 

「兄ちゃん? やけに早いね?」

「どうした兄貴、話が済んだって訳じゃ無さそうだけど……」

 

部屋の外で俺を待っていた五人組の内二人、金褐色三つ編みに碧の瞳をした吹雪と、スティールグレーの猛禽の様な瞳と赤茶のロングサイドテールの綾花が声を掛けてくる。

 

「ああ、えーと……一言で言うなら、皆の予想と同棲する事になっただけだ」

「箒さんですか…………」

 

一週間後と言われた部屋割りが、前倒しで無理矢理に決まったと目の前の五人組に溢したら、俺と相部屋に成る相手は箒が最有力候補だと満場一致でその名を上げてきた。

昔、弟の秋春とつるんで俺を虐めてた事を思えばこの二人が相部屋に成るとばかり俺は思っていたが、皆の意見は違っていて、嬉しくない事にそれは当たっていた。

答え合わせを聞いて頭を抱える、男の俺より背丈の高いストロベリーブロンドの葉月。さっき俺を兄扱いした二人、綾花と吹雪も併せて雪月花三姉妹。

正確にはもみ姉としお姉のお祖父さんに引き取られた養子で、血の繋がりは無い他人なのだけど、きょうだい仲劣悪な我が家と違って本当に仲が良い。勿論その仲の良さはもみ姉としお姉も含めてだ。

 

ある事件を切っ掛けに一時期、俺が彼女達の元へ通いだし半ば居候していた頃からこの三人……綾花と葉月と吹雪は俺の妹分で、対してもみ姉としお姉の二人は俺の姉の様な存在だ。

 

そしてISを動かせてしまいIS学園に通う事に成った今は、ISが動かせるけど知識無しの未経験者な俺のコーチ兼、ISを動かした事で世界各国から文字通り身体を狙われている俺の護衛だ。

 

後この五人は、かつて俺に揃って告白してきた事があり、俺も解らないなりに気持ちに応えようとして、そのせいで箒に…………。

 

そこまで考えたところでドアが開き、剣道着の箒が「……入れ」と入室を促す。背後に並び立つ俺の護衛兼コーチ達を凄い怨めしそうに視ながら。最近に成って気付いたが、やっぱり箒は…………。

 

「仕事増やすなよ、全く……」

「一夏さん、お供しましょうか?」

 

しお姉の申し出は身の安全を考えれば有難いが、望まぬ引っ越しの連続で家族と離れ離れにされて情緒不安定で、更に俺を巡る恋敵を前に暴走寸前、かつ理性の鎖という自制心が育ちきっていない身体だけ歳不相応に育った未だ心が子供の箒を、俺のもう一つの家族に近付けるのははっきり言って不安しかない。

 

「否、俺一人で良い。もう少しだけ待っていてくれ」

 

~~一夏視点終了~~

 

 

 

 

 

 

 

 

~~秋春視点開始~~

 

「何故貴様がここに居る?」

 

渡された部屋番号が主人公の番号1025で無かった時点で嫌な予感はしていた。

それでもと一縷の望みを胸に寮の部屋に着いた僕を出迎えたのは、不機嫌顔な憎たらしい程のイケメン少年……僕と同じ男性IS操縦者で、僕と同じ転生者……神野恵斗だった。

 

「それはこっちの台詞だよ! 何で君が!?」

「俺の部屋だからだ。嫌なら寮長に部屋替え頼んだらどうだ?」

 

彼の言う寮長とは僕の姉だ。既に一度決まった事、特にルールを守らせる事に脊髄反射の域で取り憑かれたあの千冬姉が、弟とはいえ他人の頼みを聴くとは思えない。他人は自分に従って当然とでも思っているのか、他人が自らの意見や意思を示したりする事許さず、言い分や愚痴を並べると直ぐに殴る人だ。頼むだけ無駄だろう。

 

「本当なら今頃箒と……」

「お前、ああいうのが良いのか? 身体だけの暴力女が?」

「身体だけは最高クラスに良いからね」

 

過去の……前世からの原作知識では無い、織斑秋春として転生してから見知った……篠ノ之一家が諸事情で引っ越してこの街を離れた小四の終わり頃までの箒を思い返して、彼の言わんとしている事は解らなくもないと思った。

この幼馴染みは頑固で融通が効かず、そうかと思えば自分に都合良く拡大解釈して歪曲、妄想と現実をごっちゃにして取り違える。

僕が剣道で屑をコテンパンに負かした時も、一緒に鍛えてやろうとの誘いに乗って僕と二人掛かりで屑の稽古をしてたかと思えば、一方的なのは不公平だとか訳の解らない事ほざいて屑と二人掛かりで僕を虐めようとした事もあった。

その時は屑の取り成しで未遂のまま解散になったけど、何で神童の僕が虐められなきゃ成らない。あいつは屑を独占出来て屑と一緒に何か出来たらそれで良くて、その何かが剣道なのか? 

 

 

「その唯一の取り柄な身体すら転落しかけてるがな……」

「……否、まて。何で初対面の筈の君が、ろくに知りもしない箒の事を暴力女何て批判するのさ?」

 

すっかり忘れてたけど、彼と箒は今日初対面だ。

互いに言葉を交わした事も無く、僕が再会した箒と連れ立って教室から出ようとした際に、オマケの分際で足を止めた屑が彼に「男同士仲良くしよう」と声を掛け、それに対して彼が「気楽にとは言ったけど、気安く話し掛けるな。脳足りん」と返したのを箒が端から観ていたのが現状唯一の接触だ。

 

だけど、うん。あの大口叩きの弱い癖に身の程を知らない屑を現すのに実に適切な表現だ「脳足りん」。

 

兎も角、転生者でも無ければ、初対面の箒の人と成りを熟知しているのは不自然だ。

 

「貴様と同じだからだよ、俺も」

「同じ……か。男のIS操縦者って意味じゃ、無さそうだね」

 

~~秋春視点終了~~

 

 

 

 

 

 

 

 

~~箒視点開始~~

 

手早く剣道着に着替え、廊下に逃げた一夏を呼び戻す。勿論、一夏とイチャついていた泥棒猫戦隊を睨み付けるのも忘れないが、数の優位が在るからか涼しい顔だ。いつか啼かす。

何とか自分を落ち着かせ、着替え中に山田先生から聴かされた一夏が私の部屋に訪れたこの状況について、改めて当人に訊ねる。

 

「お前が、私の同居人だというのか?」

 

山田先生の話では一夏や秋春達男子は、IS学園が事実上の女子高という事もあるが、それ以上に入学が急だった為に部屋割りが中々決まらず、当初は入学から一週間、自宅なり最寄りのホテルなりから通学する様にと言われていたそうだ。

だが、状況が状況という事で、身の安全の為にと政府の命令で半ば無理矢理に入寮を進めたそうだ。

 

しかし、「学園で教師をしているお姉さんの方から連絡がいくだろう」と判断した政府と、「自分達が言い出したのだから政府が連絡しただろう」と憶測した千冬さんの共同作業の産物か、一夏が「初日の今日から寮暮らし」との連絡を受けたのはつい先程、10分程前だという。

 

勿論そんな連絡受けてなかった一夏は一週間自宅から通学する前提でいて、今日も日和が良いからと洗濯物を庭に干し、更には入学祝いの少し気合いの入った料理の準備をした状態で家を出たという。当然というか、一夏は激怒した。

次の休日に家へ帰るまで洗濯物干しっぱなし&新聞や郵便物溜まりっぱなしなんて警察案件待った無しだろとか、電気水道ガスのライフライン切り替え手続きしなきゃとか、この俺に折角の食材を無駄にさせるのかとか……次々と零れる愚痴の数々。

山田先生から又聞きした怒りのベクトルが一般的男子高校生のそれでは無い事は、この際聴かなかった事にしよう。

 

「秋春じゃ無くて残念だったな」

 

一夏が同居人で残念では無い、私としては寧ろ歓迎だ。と言うか、何故そこで秋春の名前が出てくる。奴は唯の幼馴染みだぞ。

 

「それで……山田先生から凡その話は聞いたが、一夏としては当初の予定通り一週間は自宅から通学する事にしたから、同居人に成った者に帰って来なくても心配しない様に話を付けに……というか、事情を説明しに来たら私が居てさっきの事態……と」

「おう」

「はい。すいません、お二人共。こちらの不手際で……」

「謝らないで下さいよ。山田先生だって巻き込まれただけ、ある意味被害者なんですから……」

 

「つまり、お前から希望した訳では無いのか。私の部屋にしろ……と」

想いを寄せる幼馴染みが男女七歳にして同衾せずの常識を忘れた訳では無さそうな事は喜ぶべきか否か。私が現実にガックリ肩を落としていると、それに気付いた一夏が「当然だろ」と鼻を鳴らす。

 

「確かに俺は馬鹿だ、そこは認めるよ。頭のデキはこの学園じゃあ一二を争ってるだろうな。下から」

 

そして、いきなり自らを馬鹿と言い出した。私が知る過去の、小学生時分の一夏は全てにおいて優秀でこそあったが、小学生の身でありながら中学生並の成績を叩き出し、故に「神童」と持て囃された双子の秋春と比べて普通の域を出なかった。

私自身のおつむの出来も天災の妹らしからぬもので一夏の事言えないのは置いといて、何を当たり前ではあるが後ろ向きな事を言ってるんだと訝しんでいると、一夏は「でもな……」と続ける。

 

「何処の世界に、自分が許せない受け入れたくない認めたくないからって簡単に暴力振るって、隙あらば弟と一緒に成って自分を殺そうとする程俺の事嫌ってる奴との同居を選択する馬鹿が居るってんだ。俺だってそこまで馬鹿じゃあ無いぞ」

「なっ…………!!」

 

ある日突如として失踪した世界中でただ一人ISコアを造れる人物……つまり私の姉を捜索する。その名目で政府からの命令と言う名の脅迫で引っ越しの日々が始まり、互いに離れ離れになるより前から常々、この幼馴染みで想い人の少年の瞳に自分はどの様に映っているのか、気には成っていた。

だがこれは……一夏は、私が一夏を殺したい程嫌っていると思っているだと……!? そんな筈無い!! 私は一夏が……一夏が好きだ!! 大好きだ!! だから一夏が私を好きで無いのが、一夏が私を馬鹿にしたのが許せない。

気付けば私は、再び木刀を手に一夏に振り下ろし、一夏は真剣白刃取り状態で止めていた。そして、大慌てで私を一夏から引き剥がそうと私の腰に腕を回す山田先生。

 

「し……篠ノ之さん!? 何してるんですか!! いきなり暴力振るうなんて!?」

「止めないで下さい、山田先生。コイツは私を馬鹿呼ばわりしたんですよ」

「さっき織斑くんが言っていたのは織斑くん自身の事を指していましたし、もし仮に篠ノ之さんの事を言ったのだとしても、いきなり暴力に訴えるなんて行けません」

 

正気に戻った私から木刀を取り上げた山田先生に、一夏は乱れた服装を直しながら疑問をぶつける。残る武器、竹刀は……一夏や山田先生を挟んだ向こう側。それは良いから、正気に戻ったから木刀を返して欲しい。でないと一夏を斬れない。

 

「俺を保護と監視する為に無理矢理にでも最優先で寮に入れろって政府特命、俺の事好きな癇癪持ちの幼馴染みに殺させてその死体を解剖しようって意図ですかね?」

「す……すいません、こんなことに成るなんて……」

 

自分の仕出かした悪行の数々を棚に上げ怒り心頭の一夏と、ひたすら平謝りの山田先生。とは言うものの、安全の為にと前倒しに成った寮暮らしで、平穏を約束された筈の部屋で早速初日から、それも二度も命の危機に見舞われたら堪ったものでは無い。

 

そしてそこで、私と山田先生は「あれ?」と違和感に気付く。

 

「一夏お前……」

「篠ノ之さんって織斑くんのこと……」

 

山田先生の確かめる様な台詞に被せ、「好きだそうですよ? 箒は俺の事」と告げる一夏。まさかと思ったがやはり、一夏は私の想いに気付いてくれている……のか? それは、親切心と良識を兼ね備えてはいたが男女の機微に一際、わざとらしい程に疎かったかつての想い人を思えば確かな成長ではあった。

しかし、自分を馬鹿呼ばわりして卑下していた時には、私は自分を嫌ってると認識していた様な発言をしていたが……? どうにも想い人の意外な成長は、私にとっては嬉しく無いものに成りそうだ。

 

「自分の好きな幼馴染みが……まあ、俺の事なんですけど……俺が他の女の子達に告白された時に、その俺に気持ちを告白してくれた女の子達を嫉妬と独占欲からくる癇癪が爆発して半殺しにしてしまう程には」

「なっ…………!!」

「ええ…………」

 

止めろ、思い出すな。たしかにそんな事もあったが、悪いのは幼馴染みの立場に甘んじて好きだという自分の想いを一夏に伝えようと、自分の気持ちを解ってもらう努力をしなかった私では無い。

悪いのは一夏に告白して自分の想いを真摯に伝え、その上で好きな人が大切にしたい人がいるなら振って欲しい、偽りの無い心を言葉に表してくれと一夏の意見を尊重した、恋人の座を得ようとした泥棒猫五人組だ。

 

半殺しと聞いて、隣で聞いてる山田先生がドン引きしているじゃあ無いか。酷い風評被害だ。引き攣った表情で「お……織斑くんって、昔からモテモテだったんですね~」と苦笑を浮かべる山田先生に対して、一夏は「そうでも無かったですよ」と返す。

 

「親バカ成らぬ兄バカかも知れませんけど、秋春は小学生の頃はホンと凄い奴でしてね。箒の実家で習っていた剣道も抜きん出て強かったし、学校の勉強も常に皆の一歩先を行ってました」

 

一夏の弟自慢を受けて、今日初めて秋春と出逢った山田先生は、さっきまでの授業内容を振り返ってか「え……?」と意外そうな表情を浮かべる。まああれだ。入学前に必読の参考書をまだ読み終えて無かったり、既に知っていて当たり前の内容を「殆んど全然解りません」と答えた奴だ。無理も無い。

 

「当然と言うか、女の子からの人気も凄くてですね……。対して弱かったり頭悪かったりは無かったですけど普通で、料理と掃除と洗濯しか取り柄の無かった俺は、どうしても比べられたりしてました」

「一夏……」

「織斑くん……」

「でも、あいつらだけは……もみ姉と吹雪と綾花としお姉と葉月の五人だけは俺の事、認めてくれて頼ってくれて褒めてくれたんです。自分の間違いを素直に受け入れて変われるのは凄いって認めてくれて、何度敗けてもどんなに不利でも最後まで諦めないのは強いって頼ってくれて、自分から率先して家事をするのは偉いって褒めてくれて……」

 

嬉しそうに沁々と語る一夏。面白く無い……。

初志貫徹、男子たる者安易に己れを曲げるべきでは無い。周囲に流される信念の無い者など、認められるものか。

剣道は、勝負は結果こそ全てであり、結果を出せない奴は頼りに成らない。そして良い奴は強い奴で、弱い奴は悪い奴だ。

そもそも家事なんてして、何処に褒める要素があるのか?

 

「その五人って確か、織斑くんが通学中の護衛を頼んでるって言う……」

「はい。実力も教養も良識もあって頼りになりますし、何より人として信用出来ます」

「ちょっと待て一夏。貴様、入学早々に女子を家に連れ込もうというのか?」

 

かつて一夏を掠め取ろうした、否、今も一夏を狙う泥棒猫戦隊が、護衛にカッコつけて一夏の家に招かれるだと!? そして一夏も年頃の男子で、女子の身体に興味が尽きない筈だ。変な気を起こさないかと心配する私に一夏は「安心しろって」と笑みを浮かべる。

 

「俺だって普通の奴らみたいに人並みに女の子に興味持ちたいし、良い歳なんだから普通の奴らの真似していい加減彼女くらい創るべきかとは思うけど、お前を人殺しにしてまであいつらをモノにしたいとは思わないぞ。箒お前、俺が誰かと付き合ったら絶対殺すだろ。俺とその誰か?」

 

確信的に言わないでくれ。私とお前の、幼馴染みの仲を妨げ割こうとする仇敵を排除して何悪い。それに何ださっきから、その自分が普通の奴らとは違うみたいな物言いは。

 

「織斑くん、お風呂場の話になったとき女の子に興味無い所か女の子を避けようとしてるみたいでしたけど……織斑くんってもしかして、女の子に興味が無いんじゃ無くて、女の子に興味を持てないんですか? その……昔の事がトラウマになって」

「まさかそんな……事無い…………筈………………ですよ? 多分、おそらく、きっと」

「「……………………」」

 

過去の一夏を知らないからこそ、だろうか。一夏の異常性に勘づき心配する山田先生。即座にそれに反論して笑い飛ばそうとする一夏だったが、早速言葉に詰まり、最後には疑問系と成る。

この時、私と山田先生の心は一つに成った。そんな事ある、一夏は女の子に興味持てない異常者だ。

そしてその異常性の元凶はと言えば、集団で一夏を誑かした、否、今も一夏を狙い徒党を組んで誑かしている泥棒猫戦隊だ。

 

~~箒視点終了~~

 

 

 

 

 

 

 

 

~~恵斗視点開始~~

 

女の園IS学園で、今日から同級生の女の子達と共に寮暮らし。しかも部屋までの道中すれ違った娘達は、だれもが美少女かつ可愛く、加えてかなりラフで際どく色々と無防備だ。ここは正に、桃源郷か楽園か。

……迄は良かったが、寮の同居人が野郎……自称「神童」のオリむーこと秋春だったのが俺的には唯一の不満点だった。神に愛された男な俺としては、同級生を始め先輩達や先生方、この学園の皆にも均しく愛をお裾分けする為にも一人部屋の方が色々と都合が良いんだけどな。

だが不満は相手も同じ様で、幼馴染みの暴力女の名前を挙げてブツクサ言い出した。だからそれをネタにカマを掛けて見れば、暴力女唯一の取り柄を挙げながらも、直ぐ様俺の異常に気付く。自称神童は伊達では無いらしい。

 

矢張と言うか、織斑秋春は俺と同じ転生者だった。そして煽てて聞き出した所に依れば、小学生時分には前世の知識を駆使して成績優秀な学校の人気者に成り、剣道で箒と一緒に二人掛かりでワンサマ(曰く屑)をボッコボコにしてストレスの捌け口にしていたとか。

それはそれで良いんだ。知識保持以外のチートは無いが、主人公と同スペックのボディと物語開始前の干渉が可能。それがオリむー……ワンサマの双子に転生した者に与えられる特典だ。それよりも大事なのは……。

 

「何なんだよ、あのワンサマ囲ってハーレムしてた三つ星おっぱい美少女しか居ない五人組は!? しかもワンサマはうちのクラスの紅葉と紫織の二人をもみ姉呼びにしお姉呼びで、対して別クラスから来た三人……吹雪に葉月と綾花だったか? ……からの呼び方は、兄ちゃんに兄さんに兄貴!? 俺、聞いてない」

「…………ガキの頃揃って観てくれだけの屑に告白した、違いの解らない物好きだよ。まあ、そのせいで箒に半殺しにされたけどね。自業自得って奴さ」

「そして優柔不断で覚悟の無いワンサマは、フって傷付けるのが嫌だとか戯言抜かして誰一人選べず、そのまま身体目当てに全員と付き合ってると。確かに屑だな」

「だろ? 君も解ってるじゃないか!」

 

俺の率直だが対象がワンサマなら正しさしか無い意見に、秋春も嬉々として同意する。あの三つ星おっぱいしかない伊吹家の五人姉妹を独り占めして、選ばなかった相手も漏れ無く義姉或いは義妹として着いてくる。そんな羨ま怪しからんモノ、赦して良い筈が無い。ワンサマなら尚更に。

 

「それはそれとして、あのワンサマの千冬に対する他人扱い同然な態度は何だ? 関係図が原作と逆転してないか? 弟離れ出来ないブラコンお姉ちゃんに辟易している弟……って訳でも無さそうだな」

「それが……話すと少し長く成るんだけど……」

 

どう説明したものかと顔に書いてる秋春の話を要約すると、大体こんな感じだ。

 

第二回モンドグロッソ決勝戦の日に過去イベントの一つワンサマ誘拐が発生するも、今後の発言力確保の為にも千冬を連覇させたい日本政府はこれを知った千冬が暴走し試合放棄する事を懸念、ワンサマ誘拐を千冬に知らせず独自に解決しようとしていた。

 

「誘拐されたのはワンサマだけか? 貴様、一応は同じブリュンヒルデの弟なのに、良く無事だったな」

「ま、屑と違ってぼくは日頃の行いが良いからね。言っておくけど僕は何も手なんか回して無い、これは天命だよ」

 

だが、事態解決の為に派遣される筈だったIS操縦者達は熱心なブリュンヒルデ信者でかつ特に過激な女尊男卑思考だった事から、何時かのインタビューでの憧れの御方千冬様の台詞「私には出来た弟と手の掛かる弟が居る」を盲信。誘拐されたワンサマ=男の分際で上位者たる女様の中でも選ばれた存在であるIS操縦者の自分達の手を煩わせてる=手の掛かる方の弟と脳内変換。手の掛かる方の弟なら寧ろ居ない方が千冬様もお喜びになる筈と、ワンサマを誘拐犯に殺させるべく見棄てる。

そんな絶体絶命なワンサマを助け出すべく何故か紅葉達……例のワンサマに告白したとかいう五人組が強襲、不利を悟ってか目的を果たせないからか犯人一味逃亡。一方の千冬も決勝戦を終えた後でワンサマ誘拐を知り押っ取り刀で現場に駆け付け両者遭遇、すっかり頭に血の昇った千冬が、吹雪達五人組をワンサマ誘拐の犯人と勘違いし殺そうとする。

 

「否待て、何であいつらワンサマ誘拐を知ってたりするんだよ? 助けたのは惚れてるからとしても、それ以前に知る術が無いだろ。確か三人目の転生特典が「僕の考えた理想のヒロイン追加。二人目以降は代償としてチートの数が減る」だった筈だが、それで追加されたヒロイン使って恩を売りに来たか?」

「ぼくも最初はその線を考えたけど、あれから三年半、未だに三人目からの接触は無し。大体五人掛かりなんて数流石に多過ぎるし、一人一人の戦闘力が子供で弱いから集団戦法をとったんだとしても、全く同じ五人がガキの頃揃いも揃って屑に告白した理由は?」

「告白したのはスパイする為の回し者だからで、正確には三人目に告白させられた? ……だとしても、だ。同じ五人が同時かつ一斉にな理由は何だ? 普通の奴らには唯のモテ少年でも、俺達転生者からしたら怪しんでくれと言ってる様なものだ」

「それ以前に、あの五人全員に共通する男が屑以外に無いんだよ。勿論仲の良い野郎は居たけど、誰も彼も友達の域を出てないし、それぞれバラバラの別人だし」

 

さて戦闘の結果はと言えば、当初こそ流石はブリュンヒルデと言うべきかそれとも相手がまだ子供だったからか1対5とは思えない程一方的だったものの、自らのエネルギーで相手のエネルギーシールドを削る自殺武器一つで決勝戦の激闘を終えた直後に補給無しで飛ばしてきた千冬のエネルギー切れで幕引き。

 

その後、千冬は原作通り日本代表を引退。但し原作と違いモンドグロッソ二連覇を達成して。そしてワンサマは千冬に対して、自分を助けてくれた恩人に勘違いから襲い掛かり怪我をさせた件で綾花達五人への謝罪を求めるが、対する千冬からの返答は「その事か。ドイツに行って軍で一年程ISの教官をする事に成った」とワンサマ的には関係の無いもの。

その事で姉弟の間に亀裂が入り掛けるも、当の紫織達に「あれは見境が無くなる位に大切だからこそ、同じ親無しとして羨ましい」と説得され更に「既に謝罪と感謝は受けてる」と説明され怒りの矛先を納めるワンサマ。

それはそれとしてワンサマは受けた恩を返すべく、事情はどうあれ姉の付けた傷が癒える迄と介護と家事手伝いの為に伊吹家に頻繁に入り浸り通い詰め、中学時代は半居候の通い妻成らぬ通い旦那状態していて、この頃から同じクラスの二人からは弟扱い、別クラスとなった三人には兄扱いされだしたのだとか。

 

そして月日は流れ現在、高校入試の試験会場でISを動かしてしまいIS学園に通う様になった今では、葉月達伊吹家の五人……ワンサマが言うにはもう一つの家族……は当人の希望もありワンサマの護衛兼コーチをしている。

 

…………と言うのが、秋春の語るこの世界線の原作前。

否待て、色々と変わりすぎて無い? 特に朴念仁と唐変木が融合合体した無自覚鈍感ワンサマに告白する物好きが居て、精神疾患疑うレベルで女に興味無かったワンサマが女と付き合ってるなんて……それも五人も。

 

「つまりは何だ、アレか? もっと近くで護衛する為とか言って同じベッドに入って来たり、そのまま大人の授業とか言ってヤりまくってるのか……何て羨ま怪しからん!?」

「完全同意。ここは、屑との違いを解らせなきゃと思うんだ。具体的には主に身体に」

 

神に愛された男の俺と神童の秋春君は、打倒主人公という共通の目的の為に手を組む事にした。

 

~~恵斗視点終了~~

 

 

 

 

 

 

 

 

~~箒視点開始~~

 

伝えるべき事は伝えたと、既に退室した山田先生に続いて部屋から出て行こうとドアの前に立つ一夏だったが、ドアノブに手を掛けた所で僅かに躊躇った後、こちらに振り向き「それとも……」と私に言葉を投げ掛ける。

 

「俺が「普通に成りたいから先ずはあの五人と付き合ってみる」って言ったら、俺が普通に成る手助けしてくれるのかな? 俺の幼馴染みは?」

 

実に神経を逆撫でする問い掛けだが、だが待つのだ私。一夏は既に私の好意に気付いてる。そして五人という数の問題は兎も角、異性に興味を持てる普通人に成りたいからこそ、あいつらと付き合う気でいる一夏。

逆に考えればこのシチュエーションはもしや、千載一遇の遇機にして好機、所謂チャンスなのでは無いか?

 

「く……どうして私じゃあ駄目なんだ!? 一夏、お前だって私のお前に対する気持ちにはもう知ってるのだろ? 大体、私はお前の幼馴染みだぞ!?」

「幼馴染み同士で一方は相手の事が好き、もう一方も相手の事を嫌ってない、だから付き合うって……その理屈で言ったら箒お前、お前は秋春と付き合う事に成るぞ? 秋春は俺の弟だからあいつもお前の幼馴染みだし、あいつはお前の事好きみたいだし……お前だってあいつの事嫌ってないだろ?」

「な…………!! 相手を選ぶ権利が私にはあるぞ。大体、告白もされて無いのに幼馴染みだから付き合うとか、何故そうなる?」

「俺も告白されてないし、俺にだって相手を選ぶ権利はあるよ」

 

意を決して一夏を問い詰めるも、ぐうの音も出せない三段論法と、正論を正論で返すコンボで返された。秋春の奴が、私の事を好き……だと? 何時も私と一緒にいたのは幼馴染みだからだとばかり思っていたが……。

そんな事より今!! まだだ! 諦めるな私!! それでも……!!

 

「わ……私は、私はお前の事が好きだ。一夏、私と……あいつらでは無く私と付き合ってくれ」

「その「付き合ってくれ」ってのが「恋人同士に成りたい」って意味なら、頑張った箒には悪いけど駄目だな。確かに俺も箒の事は嫌いじゃ無い、友達としてなら誰よりも一番好きだけど、直ぐ暴力に訴えるから苦手だ。それに器が違う」

「な……貴様は胸で付き合う女性を撰ぶのか!?」

 

フラれるのは、過去の己の所業を思えば何となく予測出来た。私には他人の想い人を掠め取ろうとするあの泥棒猫戦隊と違って何処にも悪い所も間違った所も全く無かったが、それでも死にかける所まで奥義を打ち込んだのは流石に少々やり過ぎたかもと、あの優しい一夏が本気で怒りを(家族の中で私だけを名字さん付けに敬語丁寧語で対応の他人扱いという形で)ぶつけて来た事で後に成って悔やんだ。

いかに己の行いを省みた上で正道とはいえ、それは私だけの道理であり、自分より弱き者が傷付くさまを見て悦に入るのは、私が目指す剣の道では無い。優勝を飾った剣道の全国大会でも、相手が怯えるまで追い詰めてしまった。こんな醜い私なんか、嫌われて当然だ。

 

だが、その選定基準はあんまりだ。あの五人に魅了され心奪われるにしても、せめてかつて一夏に言われ渋々謝罪した私を、一切の躊躇も無く笑顔で許したその寛容さとか、もっと他に無いのか!?

 

「わ……私だって9じゅ……「胸の話じゃ無い」……!」

 

私の抗議を、一夏にしては珍しく途中で遮る声に私は謎の安堵を覚える。今までの流れで胸で無いとするなら……そうかそうか、人としての器か。確かに同年とは思えない不思議な貫禄が、あの若年寄り五人衆にはあった。

 

「まあ、胸と言うならあいつら皆三桁超えてるんだけど」

「…………!?」

 

~~箒視点終了~~

 

 

 

 

 

 

 

 

~~????視点開始~~

 

いよいよ始まってしまった……。

それがこの場に、原作主人公こと織斑一夏に貸し与えられた部屋の前に集う五人の総意だった。

 

 

 

全ての始まりは、周囲と同色の髪に同系統の衣装を纏った、転生を薦める女神を名乗る不振人物だった。我ながらおかしな夢を見るものだ。

前世と言うモノに未練が無かったと言えば嘘になる。むしろ、憧れ自らも二次創作に手を出した身としては、折角の機会だおかしな夢に入るのも悪くないと思った。

一方的に圧倒的なのは気持ちいいけど、努力も覚悟も無意味な、結末が決まっている物語は楽しく無い。可愛い女の子に囲まれハーレムするのは夢ではあるけど、原作ヒロイン達は原作主人公と組んでこそ輝くのであり、何より自制を知らない暴力系はそもそも遠慮したい。

だから選んだ特典は、女神の推しもあり「オリヒロイン追加。チートの数を減らせば代償に更なる追加も可能」。この特典であれば、かつては思い描くだけだった幾つか創り上げた二次創作に登場させたオリヒロイン達を、本来独立して別々だった世界線を越えて集わせ自分だけのハーレムを作れるよ……とは女神の談。おかしな夢なら、男の夢ハーレム目指すのも悪くない。

 

そして目覚めたら、病院のベッドの上で、女の子だった。途端に湧き出す、当時の年齢的にあり得ない記憶と知識。後、性別的にも。

何やら転生とか言ってたが、元より女の子なのだから前世を思い出したと言うべきか? はたまた、ある程度身体も自我も成長した処に割り込んだのだから憑依か? 

アレは何だったんだと痛む頭を抱えながら上半身を起こすと、病室には自分を含めて五人の女の子。

 

知っている。直接の被害こそ無かったものの、過去に類を見ない大規模な混乱が全国規模で発生、多くの犠牲者を出した白騎士事件。その混乱に巻き込まれ家族を喪い、旧くからの知り合いである一人の老人に引き取られた義理の姉妹達だ。自分もそうだ。

知っている。転生特典で追加したオリヒロイン達。自分の理想を詰め込んだ、かつては二次創作の彩りとして思い描くだけだった、自分だけのハーレムを構成する五人の恋人達。

 

…………………………自分だけのハーレムを作れるって、中心では無く囲う側って意味なのか? 転生したら性別も転じてたとはありきたりな流れだが、その先がまさかの分裂。そして肝心の中心だが、皆で一斉に一人の男の子に、もっと言えば原作主人公の織斑一夏に告白した記憶がある。

以前の記憶が確かにあって、性自認に違和感も無い以上は前世を思い出したと言うべきか。それとも女神の言う様に転生したのかは定かでは無いが、姉妹仲良く同じ少年へと抱いたこの恋した想いが、揃って一夏に告白したのが設定だとは考えたく無い。

後に判った事だが、姉妹五人の前世は共通で一人の記憶と知識を持っていた。だからだろうか、好きな男の子が同じと判った時以上に姉妹の仲が良くなった。

 

取り敢えず方針としては、一夏の選択を尊重して、彼が誰か一人と添い遂げる事を選ぶなら、相手が誰であれ門出を祝福する。だが待ちの姿勢の原作ヒロイン達に譲る気は無い。かつての男だった記憶と知識の残滓も総動員して、皆で好意を伝えよう。

あの家事万能で文武両道の超優良物件になら、全てを持って攻略する価値が在る。

 

 

 

「やあ君達」

 

声を掛けられた事で、意識が過去から現実へと戻る。胸のせいで周囲の注目を集め目立つ集団なのは昔からだが、同性からのものとは違う視線は先程から感じていた。声の主はいわゆる三人目で、傍らには一夏の弟もいる。本来ならあり得ない織斑一夏以外の男性操縦者。共に自分達と同じ転生者、神野恵斗と織斑秋春だ。

 

「お前……気安く話し掛けないで下さいな」

 

つっけんどんに突っぱねたのは、肩口で揃えた黒髪に紅眼と白皙の伊吹紫織だ。常に柔和な笑みを浮かべている紫織だが、その実、主に一夏や姉妹絡みで一度怒ると排他的になる。

まさかこう返ってくるとは思わなかったのかたじろぐ恵斗へと、隣立つ秋春も巻き込んで、ピンクの髪と長身が特徴的な伊吹葉月が更に追い討ちを掛ける。

 

「何ですか、さっきからじろじろと厭らしい。儂のこの身体は、兄さんのモノです」

 

これも転生特典の影響か、少なくとも肉体の特徴とスペックは設定値通りの、男なら意識せざるを得ない肉感的なモノとなっている。故に視姦されてるのは想定できたから、一夏以外の異性からのそんな視線に対する葉月の怒りは想定の範囲内。

だが紫織のあの態度は? 展開に着いていけず疑問符を浮かべる二人に、白銀の長髪に浅い褐色肌の伊吹紅葉が答える。ここにいる伊吹家の五人は皆、一人の老人に引き取られた義姉妹だが、紅葉と紫織だけはそれ以前からの親類、父を同じくする異母姉妹であり母が双子同士の従姉妹だ。

 

「あー……休み時間に一夏が声を掛けたら「気安く話し掛けるな」と返してな。直前の自己紹介で「気楽に声を掛けてくれ」と言ってたにも関わらず」

「大体察した。それだけじゃ無くてその…………神野さん? 兄貴を馬鹿にしたでしょ? 紫織ちゃんが初対面相手にここまで怒る何て、よっぽどだし」

 

それでほぼ全てを読み解いた伊吹綾花は、猛禽のそれを連想させる灰色と言うより鉄色と表現すべき瞳を恵斗に向けた。遅れてロングのサイドテールに結わえた赤味がかった茶髪が微かに揺れる。己の所業を言い当てられたのも気にせず、また一切臆する事無く、寧ろ己の義務とばかりに綾花に笑みを返す恵斗だが……。

 

「恵斗で良いよ。俺も……「神野さん」……」

 

自分の愛する人を……兄貴と慕う一夏を馬鹿にした神野を、綾花は一刀両断、実に御立腹だった。別に確たる証言も無く、一夏と同じクラスの紅葉と紫織の反応から見ての憶測だが、この手の正解を導き出す事に綾花は長けていた。

そんな綾花の態度に苦笑を浮かべるは、金と呼ぶには色濃く茶と呼ぶには色素の薄い髪色の三つ編みに、蒼とも翠ともつかない瞳をした伊吹吹雪。韻を踏んでいて中々に呼び辛い、そしてまた同じ文字が連なり書き辛い名前だが、本人は気にしてなかったりする。

 

「兄ちゃんてアレ。他人の言葉を文字通りに直訳して、オマケに行動が極端過ぎるからねえ。身内以外に存在しないものと思っていた同性の存在に対する嬉しさから、「気楽に」と「気安く」の境界が掴めず突貫したのか」

「全く……だから屑なんだよ」

 

吹雪の言葉に同意する秋春だが、そこに思わぬ処から声が掛かる。声の主は目の前のドアを開けて部屋から出てきた少年、紅葉と紫織の弟分にして吹雪と綾花と葉月が兄と敬い慕う、五人の想い人、原作主人公こと織斑一夏だ。

 

「俺が屑なのは認めるがな……人前でそういう事口にするな。自分の評価も下げるぞ」

 

己の問題点を認めながらも、秋春の発言を嗜める一夏。二人は実の兄弟だが、常に一夏の上に立とうと前世からの知識を駆使してマウントを取る転生者オリ弟の秋春と、主夫としては完璧以上ながらオカン気質で小言の絶えない原作主人公の一夏。兄弟仲はあまりよろしく無かった。

 

「チッ…………」

 

顔をしかめて舌打ちする秋春に、どうしたものかと頭を掻く一夏。

織斑家の面々は歳の離れた二人の姉千冬もだが、幼少期を親と成る大人無しに育ったストレスからか、或いは常識を躾ける保護者が居なかった影響か、自活力が欠落していて家事の全てを一夏に依存しながらも一夏に対して暴力的だ。

一夏としても弟離れ姉離れする歳だとは思ってるらしいが、荒療治と称して家族の繋りを完全に絶つのは、物心つく前に金以外の痕跡を遺さず消えた両親みたく家族を見棄てるみたいで嫌だとか。

 

「一夏。今度こそ、出発だな?」

「ああ、待たせたなもみ姉。それに皆も」

「誤差と想定の範囲内だよ、兄ちゃん」

「って言うか、兄貴が家から一週間は通学するって言い出した時点で根本から外だけどね」

「誤差って……何処まで予測してたんだよ、吹雪? 綾花は読みを外した割りに嬉しそうだな」

「それはもう……あの自分を護る事に無頓着な一夏さんが、偉いさんの指示だからと流されず、我が儘に意見を固持する何て……立派になったねえ」

「しお姉、誉めてくれるのは嬉しいんだけどさ、近所のお年寄りが知り合いの小さな子供に向けるみたいな視線は止めてくれ。俺達同い年で高校生に成ったばかりだろ?」

「では兄さん、子供扱いされたく無いなら、彼女の二人や三人連れてきて紹介して下さい。誰が来ても兄さんの選んだ相手なら心から応援しますけど、儂達の事は忘れずフって下さいね」

「あー……そう言えば皆に告白されてそのままだったな。俺は葉月をフる気は無いぞ、勿論皆の事も。好きだし」

 

いきなり好きとか言うな。希少な男子を一目視ようと集まったのだろうか、周囲で聞き耳立てて野次馬してる女子達が、この世の終わりみたいな絶望してるじゃ無いか。

後、転生者野郎二人も、憎しみで人が殺せたらと言わんばかりの視線を一夏に向けている。血涙が怖え……。

 

 

 

とは言え、この流れは願ったり叶ったりだ。

始まりは設定された創り物だったのかもしれない。でも一夏が好きだという気持ちは五人の中に、愛してるという気持ちは共通して確かに在る。

一夏の為なら、一夏が望むなら、姉妹皆何だってしよう。この身体だってもう全てが一夏のモノだ、皆一夏の好きにして良いんだよ。

 

 

 

気付けば一夏の家に着いてた。差し当たっては次の試合、クラス代表決定戦に向けて一夏を、知識と技術、そして何よりも精神面で鍛えよう。

これまで待たせたんだ、覚悟は出来てるんだよな?

 

~~伊吹姉妹視点終了~~

 

 

 

 

 

 

 

 

~~一夏視点開始~~

 

「のわっ!!」

 

一通りの家事を終え、自分の部屋に向かうと、そこでは俺のもう一つの家族が……今日からは出来たばかりの彼女達が、俺にISの事を教えるべく待っていた。ISスーツ姿で。

 

「兄さん、何ですかその反応は?」

「オレ達、何かおかしい所あるか?」

 

葉月達のISスーツはそれぞれ形状に改良を加えたものだが、もみ姉に限らず揃って言える事は、大きすぎる母性の象徴が隠しきれて無いのだ。具体的には四割程肌が見えてる。おかしいと言うよりかはおいしいが、健全な男子にそれは毒だ。

葉月は比較的オーソドックスなハイグレワンピースに近いが、袖ぐりから脇に掛けてが大きく開き、対して胸元正面幅は反比例して狭く細く小さく、中身の大きさもあって横から大半が溢れてる。

もみ姉はタンクトップと丈無しスパッツの組み合わせで、IS開発最初期の試行錯誤中に産まれた、上下一体型が主流の今ではかなり珍しい型だ。上半身のスーツとの釣り合いがとれてないせいか、中身の下半分が丸見えに成ってる。

 

「おかしいってか、俺にISの事教えてくれるんだよな? それが何でそんな格好する流れに成るんだよ!?」

「一言で言うなら、一夏さんの精神鍛練の為です。クラス代表対抗戦を終えたら実技が始まるそうですが、学園の機体を使った実技は基本二クラス合同ですよ?」

「授業の度に今みたくだらしないニヤケ顔してたとか、視線をさ迷わせた末にあからさまに明後日の方へ向けたとか、そんな話が耳に入るのは、恋人としては避けたいんだよ兄ちゃん」

「兄貴に耐えれるかな~? ここに居る数の十倍近い人数の可愛い女の子に囲まれて、大小千差万別な母性と接触して、隙在らば迫られて……」

 

俺の疑問と抗議の混ざった叫びに答えるしお姉は、首元と胸腹部の二ヶ所がぽっかりくり抜かれたデザインで、上下二ヶ所に肌が顔を覗かせている。辛うじて繋がっている胸元が今にも千切れないか、弟分としても彼氏としても心配だ。

今の俺の状態をむくれ顔で指摘する吹雪は、首回りや肩に掛かる部分の無い、もっと言うともみ姉とは逆に上半分が無い。まるで着崩し開けた着物を思わせる造りは、肌色の渓谷が凄い事に成ってる。

戯けた口調で俺に問い掛ける綾花は、五人の中では唯一肩まで覆われたデザインで、しかし胸元が大きく縦に割れ左右に開き、葉月とは対照的に外では無く内が溢れそうになってる。

 

「しお姉達の言いたい事は解ったけど、い……色々大事なとこが見えそうな恋人を前にニヤけるなとか無理言うな吹雪。そして綾花は不安を煽るな。心配しなくたって、俺は葉月としお姉と綾花と吹雪ともみ姉一筋だぞ」

「五人も居る一筋とは一体……」

 

胡乱げな視線を向けるもみ姉を、吹雪がまあまあと宥める。

 

「自分を好きな娘をフって、見えない処に消えない傷を付ける男に成りたく無い。そんな兄ちゃんの身勝手な残酷さに付け込んで、五人同時に恋人にして欲しいと迫ったのは私達だよ?」

「勿論、五人同時に恋人に成ったのだからと、終始五人を同時に相手する必要は在りませんよ。兄さんは一人ですからね。ですが、順番になら兎も角、仲間外れ何て許しません」

 

葉月の発言は五人と付き合う事に成った俺の限界を心配してか、前半は純粋に嬉しいけどな、後半のそれは俺に取っ替え引っ替えしろって事か?

 

「と……取り敢えずは、若い女の人を診察する時の医者を目指せば良いのか?」

「そうそう、兄貴がISスーツ着た女の人を前にしても平常心の自然体で居られる様にね。じっくり時間を掛けられないから、スパルタで行くよー」

 

綾花の言う様に、時間が無いのも事実だ。目のやり場に困るとか言ってられない。身体張って協力してくれてるのだから、俺も頑張って早くて慣れなくては。

 

 

 

そして、二時間を超える苦行の時間は終わった。正直に言う。座学なのだから座ってるだけ、集中力が途切れる前に休憩もある、元はもう一つの家族なんだ見慣れてしまえばと侮っていた。

身振り手振り動く身体に併せ揺れる母性の象徴に、時に両の腕に挟まれ潰れる肌色の双山に、そして、時折触れるか触れないかで微かに当たっては直ぐに離れる柔らかい感触と女の子特有の香りが、俺の理性を徐々にだが削り着実に奪っていた。

 

「良く耐えたな、俺」

 

先程とは逆に、部屋には俺一人。何時までもあのままの格好で居る訳にはいかないからと、皆別の部屋で着替えてる処だ。さて、気晴らしも兼ねて皆の分の来客用の布団でも用意するかとベッドから立ち上がると同時、葉月を先頭に五人が続々と入って来た。

 

「何だ? 皆して忘れ物か? それなら、俺は皆の布団を用意してるからその間に……」

「忘れ物と言えば忘れ物ですね。兄さん、入学祝いしましょう。折角恋人同士に成ったんですから、らしいのを」

 

部屋に入って来た勢いのままに俺に迫り、俺の両肩を両手で押さえる葉月。恋人同士らしい入学祝いって言いたい事は解るけど、俺の手料理だけじゃ今までの延長みたいで物足りなかったか?

 

「事情はどうあれ、アタクシ達のせいで一夏さんのお身体が大変な事に成ってますからね。始末して差し上げます、正しいやり方で」

 

いつの間に接近してたのか、耳元から聞こえるしお姉の声。そして気付いた時には、右の腕を取られていた。否、腕に胸を押し当てられ挟まれていた。柔らかい……。

 

「恋人だからって、無理強いしたら駄目だよ。その……兄ちゃんのモノにされたいのは私もだけど……」

「その辺りは兄貴にお任せかな? ね、誰からヤる?」

 

嗜める様な口調から一転、顔を真っ赤に染めてとんでもない事言う吹雪と、飄々とした態度でとんでもな事を訊ねる綾花。俺のモノにされたいとか、女の子がヤるとか、正気だろうか?

 

「逃がさないぜ、一夏。今日までオレ達がフってもらえず、生殺し状態で待たされ燻ってた分、ぶつけてやるから覚悟しろよ」

 

俺の左腕を絡めとり、自らの胸と腕で包み込むもみ姉。どうやら、小学生の時の告白への答えが今日まで延びた事に、かなり御立腹の様子だ。

 

「えーと、だな。彼氏彼女の仲に成ったからって、焦ってその日にする必要あるのか? 俺も興味あるのは否定しないけど……」

 

嘘だ。俺位の歳の男子なら、普通は女の子の事、特にエッチな事に興味を持つものと親友に言われてるから、気にしてみただけだ。

真似事でも女の子に興味を持てば、俺も普通に成れるだろうか? そんな事に俺の恋人を、もう一つの家族を巻き込む訳には……。

 

「なら問題無いな。一夏、君はもっと自分を伝えるべきだ」

「ここまで言って、兄貴にはまだ伝わらないかな? 兄貴のモノにされたいあたしらの気持ちと覚悟」

「言葉にしても駄目となると、後は行動で示すしか無いのかな? まさか兄ちゃん、解ってて無視して無いよね?」

「一夏さんですからねー。お前、相手を追い詰める時は、思わぬ反撃を想定しておきましょう」

「では兄さん。オハナシしましょうか、肉体言語で」

 

その後逢った事は、よく覚えていない。幾度と無く気絶させられ、理性を喪い、目を醒まして正気に戻った時には、壊れた人形みたいな状態の葉月としお姉と綾花と吹雪ともみ姉の五人が、産まれたままの姿で転がっていた。

 




三人目と言ったな、あれは嘘だ

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