せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
作者がまたふざけた物を書きたくなったら続きを書くやもしれません。
……あー、死ななかったのか、俺。
いやいや、そんな事は無いハズだ。俺は確かにトラックに跳ねられたのは間違いない。
しかも相手は大型トラックだぞ、助かる訳がない。
まさか齢十六にして、この世界に別れを告げる事になるなんて思ってもみなかった。
最近になって生まれて初めて出来た彼女にも振られていたし、楽しい事なんて何もなかったのは確かではある。だからといって、この結末はあまりにも悲しすぎやしないか。
だってまだキスもした事が無いんだぞ。
元カノとは手を繋ぐ程度で終わってたし、こんな事ならもっとあんな事やこんな事をだな……。
その日も特に楽しい事も無く、下校時に下を向きながら横断歩道を渡っていたら、自分に向かって一直線に向かってくる大型トラックに気付いた時にはもう真横だった。
あっという間に世界は暗転し、俺の意識は暗黒の、漆黒の、暗闇の、まぁいいや、とにかく死んだんだろう。
他に悔いが残るとすれば唯一の趣味だった音ゲー、『バンドリ! ガールズバンドパーティー』が、もうすぐ周年イベントだったという事だけだった。
結構ガチャをまわす為に
もうそれは仕方がない。とにかく俺は死んだんだ、あの世に行くのか生まれ変わるのかは知らないが、次に生まれ変わる時はもう少し長生きしたいものである。体験していない事もまだまだ沢山あるもんね。
さぁ、とりあえずあの世に『Dreamers Go!』、のハズだったのに、どうやら死なずに済んだようだった。
力を込めてゆっくりと重い目蓋を上げると、眩い光の洗礼を受けた後に段々と焦点が定まってくる。しばらくすると白い天井がハッキリと見えてきた。
目だけを動かして周りを見ると、白衣に身を包んだ看護師さんの姿が見える。どうでもいいけれど、俺は看護師さんのナース服はピンク色が好みだ。まぁ、本当にどうでもいいんだけれどね。
状況から言えばここは病院のベッドの上、つまり命が助かってしまった事が理解できた。
あっ、よくよく考えるとガルパのガチャも引ける。生きててよかったのかもしれない。
「
俺に縋り付きながら、涙を流し続けているこのお姉ちゃんは誰?
見た感じ俺よりは少し年上に見える。二十歳をようやく迎えたといった所だろうか。
しかしそれよりもなによりも、この人はなかなかの美人さんだ。
ツヤツヤの長い黒髪に、優しそうな印象を与えるすこし下がった目尻がとても癒される。身長も160cmを超えていそうだし、何よりその豊満な双丘に目を奪われる。ハッキリ言ってデカい。
いやいや落ち着け俺、いまこのお姉ちゃんは俺に向かって『ゆり』と呼んでいたぞ。もちろん俺の名前では無い、ではいったい誰の名前なんだ?
「
看護師さんが俺に問いかけてくる。
まさか、いやまさかだとは思う。そんな事はアニメか漫画かネット小説だけの話だろ。
体は動かないが、とりあえず頭だけを動かして点滴の管がアホほど繋がれている腕を見る。
はぁっ? 嘘だろ! 夢か、死後の夢か何かか?
以前の面影は微塵もなく、俺の腕は異常に細くなっていた。
いや違う、細くなっているんじゃない、これは……。
これは、女性の腕だ……。
視線を体の方へ動かす。シーツが掛けられていたが、胸部の辺りがほんの少し、ほんのちょっぴりとはいえ盛り上がっている。
麻酔が効いているのか体中が痺れていた。逆に言えば痺れている感覚があるという事は、これは夢ではなくて現実だという事を示している。
「わ、わたし……」
うわっ、声のキーが高いな! それよりも何だよ、普段の俺は一人称で『わたし』なんて使わないだろ。
もう間違いないこれはアレだ、転生ってやつだろ。しかも憑依転生で他人の体に入っちゃった感じのヤツだ。というか『ゆり』と呼ばれているこの子にいったい何が起こったんだ?
もう訳がわからない。えっ? 何? 俺はこの先、『みづき ゆり』さんとして生きていかなければならない感じなのか?
こういう時って、神様が出てきて親切にいろいろと説明してくれるものじゃないの?
「わたしは、ダレなの……?」
途端に病室がざわめきだす。看護師さんは医師を呼びに病室を出て行った。
あぁもう、心から言いたい。
だから、一人称が何で変換されてしまうの!
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「
「
わたしが『
わたしの体は車に激突されたとはいえ、そこまで酷い怪我はなかった。俗に言う打ち所が悪かったというやつだった。
瑠璃は、わたしが満足に動けなかった頃には体を拭いてくれたり、食べ物を食べさせてくれたりと、甲斐甲斐しくわたしの面倒をみてくれるとても優しくて大きな女の人。うん、まぁ色々な意味でね。
昔のわたしなら迷わず交際を申し込みたいくらいに優しくて素敵な女性ではあるけれど、しかし今や俺はわたし、しかも瑠璃の妹らしい。
神様、本当にもうちょっと考えてくれませんかね。
瑠璃の剥いてくれた林檎を口を開けて、あーん、と食べさせてもらう。うん、妹も悪くないね。
入院している間に色々と瑠璃から話を聞いて、自分が置かれている状況が段々とわかってきた。もちろん話を聞き出しやすくする為に名目上は記憶喪失になったという風にしている。実際に優璃が生きていた頃の記憶は持っていないので嘘ではなかった。
生きていた……。そう、わたしにはわかる。優璃と呼ばれていた子はたぶん死んだ。
瑠璃の話によれば横断歩道を渡っている時に、わたしと同じように居眠り運転の車に激突されたそうだ。
まったく、年頃の女の子を轢くなんてその運転手は万死に値するね。
病院に運ばれた優璃は懸命の処置もむなしく病室で息を引き取った、と思いきや急に息を吹き返したらしい。多分その時に、わたしの魂が優璃の体の中に入ってこの体は生き返ったんだと思う。だから今はこの体に優璃の魂は居ないはずだ。
そしてそれはもう一つの真実を意味していた。わたしの魂が優璃の中に入ったという事は以前の俺、つまり男だった頃の自分は死んでいるという事だ。
それはわたしを酷く絶望させた。何故ならガルパのガチャがもう引けないかもしれないという事を示唆していたからだ。
パスワードとかアドレスとか覚えきれなくて、メモに書き置きをしていたんだよね。
元カノ? 学校? そんなの知らないねぇ。
細かい事は気にしないようにして相変わらず瑠璃にあーん、をしてもらっていると、個室のドアをノックする音が聞こえてきた。
ちなみにわたしは立派な個室に入院している。事故を起こした相手が結構な資産家らしく、保証は手厚いみたいだ。
それよりもふと気付いたけれど無意識にわたしって言ってしまっている事に気が付いた。このまま段々と女の子化してしまいそうで、なんだか怖い気分になる。
「失礼しまーす」
寝ていた体を起こして来訪者を迎え入れる。
扉が開き、遠慮がちに病室に入ってきた女の子は……美少女だった。
紺色のセーラー服を身に纏い、肩口まである明るい髪色のストレートヘアにパッチリと見開かれた大きな瞳、すっと通った鼻筋に程よい厚みの唇。なにこの美少女、優璃の友達か何かか?
いやそれよりもこの顔、どこかで見た事があるような……。
「いらっしゃい、
瑠璃の言葉で思い出した。そうだ、香澄だ。バンドリの
……えっ?
香澄と呼ばれた女の子は、涙目でわたしの手を取りながら今にも押し倒してきそうな距離まで近づいてきた。やばい、なんかいい香りがする。
「ゆりぃ、無事で良かったよぉ。ゆりに何かあったら、わたし……」
今にも泣き出しそうな香澄の肩に、瑠璃が優しく手を添えた。
「大丈夫だよ香澄ちゃん。優璃ね、もうすぐ退院できるみたいだから、ちゃんと一緒の高校に通えるよ」
瑠璃から優璃はこの春から女子校に通う予定だったとは聞いていた。しかしまさかこれは、いや間違いないだろう、ここは……。
「香澄ちゃん、高校って?」
「ゆり、私の事をちゃんと覚えてくれてるんだ! そうだよ、春からわたし達は花咲川女子学園に一緒に通うんだよ」
やっぱりここはバンドリの世界なのか。ゲームの世界に転生って、ゲームか漫画かネット小説の話だけかと思ってたわ。
しかしこれは良いぞ。バンドリといえば、女子高生達が青春を謳歌しながらキャッキャ、ウフフする世界じゃないか。それを間近で見られるなんて凄い役得じゃないか。
「えへへ、高校生になったらどっちが先に素敵な彼氏を作るか競争だね。ゆりは可愛いからすぐに彼氏を見つけちゃいそうだなぁ」
……はあっ⁉︎
いやいや戸山香澄。キミは何を言っているのかね?
バンドリの戸山香澄といえば、可愛いバンドメンバー達に囲まれてキャッ……もとい、キラキラドキドキしながらバンドライフを満喫しなくちゃいけないだろ?
彼氏とか何を言っているのかな? そんな暇があるならキャッキャ、じゃなくてバンドで青春を謳歌しなくちゃダメでしょ。
何より、わたしが尊い雰囲気を眺められないじゃない。
『
ふむ、よし決めた! わたしが香澄を正しい道に導く。
「ねえ、香澄ちゃん?」
「んっ? どうしたの、ゆり」
香澄の瞳をじっと見つめる。キラキラした瞳で本当に可愛いなぁ、この子。
「高校生になったらさ、とりあえず髪型を変えてみない? 雰囲気を変えたらもっとキラキラドキドキすると思う」
「キラキラドキドキも覚えているんだ。じゃあ、ゆりがわたしの髪型を考えてくれる?」
「まかせて! 香澄ちゃんに似合う、最高の髪型にしてあげるね」
よしよし、香澄といえば星髪ヘア。これが第一歩、絶対に香澄にはバンドを始めてもらって、その美しい青春を『ガールズバンド』に捧げてもらうからね。
違うものを彼氏に捧げたりなんかさせないよ。
いや、そもそも彼氏とか作らせないから。
わたしは負けない。絶対に女子高生達の平和を守って、キャッキャウフフを側から眺めてみせるんだから!