せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
何やら香澄は非常にやる気のようです。
バンドを始めると決めた香澄は、有咲を説得する為に何故か毎朝迎えに行くと言い出し始め、そしてもはや当然のようにわたしも引き摺り出される事になってしまいました。応援すると言ってしまった手前まぁ自縄自縛なのだけれど、朝が弱い身体には地獄のような展開となって参りましたよ、早起きが得意な人とかは本当に自慢しても良いと思うのです。
朝が早くなるという事でお弁当作りも大変だろうからと瑠璃姉さんにはお昼は学食でいいよ、と言ったのに優璃のお弁当は必ず作ると言われてしまいました。こんなに大切にしてもらって本当にうちの姉は女神です、最高です、もう大好きです、でも裸を見られるのは嫌いなので一緒にお風呂に入るのは勘弁してください。
何か裸を見られるのって隠す所が無いから相手からしたらもう完全に女性な訳でして何の躊躇も見せてくれないのです。それが元男からしてみるとちょっと複雑な心境になるんだよね、自分が女の子だとは理解しているけれど自我ではまだまだ男だと思っていたいというか、女の子が恥じらう姿が見たいというか……。
おっと間違いなく見る方は好きですよ。なんなら姉さんの下着姿はいつもガン見していますからね。
はぁ早起き嫌い、体が重いと嘆きながら玄関を開けると、香澄が待っているのかと思いきや花咲川女子学園の制服を着たショートカットの女の子が玄関先の道路に立っていた。
「おはようございます、優璃さん」
ブラウン色のショートカットを柔らかな風で揺らし、甘えん坊なイメージを抱かせる少しだけ目尻の下がった瞳。そんなイメージとは対照的に鋭角的なフェイスラインでクールな雰囲気をも併せ持つ美少女、ひと目見てわかったよこの子は香澄の妹の『
「もしかして、あっちゃん?」
「記憶を失ったって聞いていましたけど本当だったんですね」
「そうなんだよ大変だったんだよ。だからあっちゃんとも久しぶりというか初めましてな気分なんだよね。あれっ? それよりも香澄は?」
「お姉ちゃんならもうすぐ来ると思いますよ」
明日香ちゃんにとっても優璃は幼なじみの筈なのにやけに素っ気ない。それもそうか、自分の事を忘れられたらそりゃ気分が悪いものね。
「もしかして怒ってる?」
「怒ってはいませんよ、拗ねているだけです。お姉ちゃんの事は覚えているのに私の事は忘れているんですからね」
上目遣いで様子を伺うと、明らかに怒っている雰囲気が感じられる。香澄より身長の低い明日香ちゃんだけど、それよりも更に少しだけ身長が低いわたしに年上の威厳を求めるのは難しい状況に追い込まれてしまった。
対処に困って薄ら寒い作り笑いを浮かべていたら、緊張で体が動かなくなっているわたしに明日香ちゃんは真顔のまま近寄って来て耳元に顔を寄せてそっと小声で囁いてきた。
「私のファーストキスを奪ったのも忘れちゃったんですか?」
「はいぃぃぃ? きっ、きすぅぅぅ?」
香澄とは違う甘いフルーツのような体臭に意識が酔いしれそうになる。予想もしていなかった言葉に思わず大声を出してしまったけれど、耳元から体を離した明日香ちゃんはわたしの反応を予想していたのかちょっぴり舌を出してイタズラっ子のような微笑みを浮かべた。
「まぁ幼稚園の頃の話なんですけどね」
「幼稚園……なんだそうか、もうあっちゃん驚かせないでよ」
「でも私の初めての人は優璃さんと思っていますから」
物凄く語弊がありそうなセリフなんだけれど、瞳を細めながらの挑発的な笑顔がとても魅力的に感じられる。でもなんだろうこの小悪魔系な感じ、ゲームでは素朴で素直な印象くらいしかなかったんですけど。
「ゆりー、あっちゃーん」
隣の家から出て来た香澄がこちらに手を振りながら駆け寄ってきた。はぁ、まったく天使のような無邪気な笑顔に癒されますわ、しかし天然系の姉に小悪魔系の妹とはなかなかに強力な美少女姉妹だねぇ。
「お待たせ、それじゃ行こうよ」
「うん、行こう優璃お姉ちゃん」
えっ? いま優璃お姉ちゃんって。
戸惑うわたしを見てまたイタズラっ子のようにクスリと笑った明日香ちゃんは、してやったりと言わんばかりの表情で歩き始めてしまった。
ちょっとなにこの小悪魔系妹、無性に可愛い過ぎて困るんですけど!
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「でもあっちゃん今朝はどうしたの? 部活の朝練でもあるの?」
わたしを真ん中に挟み三人で並んで駅に向かって歩く。今日は曇りで日差しが弱いせいか、下半身がスースーとして少し肌寒く感じるのでまだまだタイツは手放せそうにもありません。しかし香澄もあっちゃんも素足だけど寒くはないのかね、男でさえこの時期にハーフパンツだと寒くて堪らないだろうに女の子って本当に凄いわ。
「受験勉強に集中したいから部活は早めに引退したけど、気分転換にたまには顔だけでも出そうかなって思ったの」
こちらを見ずに素っ気なく答える明日香ちゃん、やっぱり嫌われちゃっているのかなと思うと切なくなる。もうちょっと上手く立ち回れていたら結果も違ったものになっていたのかもしれないと思うと悔しいや、ライトノベルによく居るハーレム系主人公は何であんなに周りから好かれまくるのかね、お願いですから好かれる方法とかあったら教えて欲しいものですよ。
「あっちゃんはね、ゆりがちっとも家に遊びに来ないっていっつも怒ってたんだよ」
「ちょっと! もう、お姉ちゃん!」
「今日だってね、ゆりに会ってたまには遊びに来いって文句を言う為に普段より早く家を出たんだよねぇ」
「そうなの? あっちゃん」
明日香ちゃんの顔を覗き込むと頬を紅く染めながら目線を逸らしてしまった。なんだ寂しかっただけなんだ、どうやら嫌われた訳じゃなさそうで安心したよ。
「だって優璃お姉ちゃんがお姉ちゃんばっかり構って、私の事はすっかり忘れっぱなしなんだもの」
ニヤニヤとした顔の香澄にからかわれた明日香ちゃんは先程までの素っ気ない態度は何処へやら、口を尖らせながら拗ねた口調で文句を言う姿がいかにも妹っぽい可愛らしさに満ち溢れていて堪りません。
「ゴメンねあっちゃん、今度ちゃんと遊びに行くからね」
明日香ちゃんの手を握って応えると、キュッと手を握り返して頬を紅く染めたまま伏し目がちにコクンと頷いた。はうっ、何ですかこの可愛い生き物ヤバイです、それにしても妹の破壊力って凄まじいものだね、瑠璃姉さんの気持ちがちょっとわかった気がするよ。
「もう、妹の事を忘れないでよね」
「そうそう、嫁の事も忘れないでね」
いや明日香ちゃんはわかるけれど、香澄はいったい何を言っているのかな?
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登校に使っている電車を降りて一息つく。有咲を迎えに行く為に明日香ちゃんとはここでお別れとなるのだけれど、電車に揺られている間に今度戸山家にお泊まりで遊びに行く約束を明日香ちゃんにさせられてしまいました。なかなかの素早い交渉術でかなりのやり手ですよこの子は、というか単にわたしがチョロイだけなのかもしれない。
軽く手を振る明日香ちゃんに対して全力で手を振り返すわたしと香澄、もしかしたら似た者同士なのかなとも感じるけれど、いやいやわたしは香澄程に天然系ではないと思うのですよ。
いつもの通学路から外れて通い慣れていない道を二人で歩く。曇天の空が景色を少しだけ薄暗い色に染めているけれど、道端に咲く名前も知らない花が色とりどりの原色で世界に彩りを与えてくれていた。なんだろうね、男の頃は道端の花なんか気にも止めていなかったのに、今は素直に可憐だなって思えてしまうよ……。
やっべぇ、これって乙女化が進行してしまっているんじゃないのか?
いやいや待て待て、確かにわたしは女子高生だ。女の子である事も受け入れていこうとも思っているけれどそれにしても変化が急過ぎない? このままの速度で乙女化が進行してしまったら、そのうち香澄と温泉とか行って二人で素っ裸を見せ合ったって別に何とも思わなくなるって事でしょ。
いやいやいや待ってくださいよ女の子が恥じらう姿も尊きものですよ、『わぁ香澄って胸が大きくて羨ましいなぁ』とかそんな台詞に尊さの欠片も無いでしょうが!
許すまじ、許すまじですよ自分、及び神様。
何としても尊いは護らなければなりません、まぁそれ以前に香澄と一緒にお風呂に入る勇気なんて今はこれっぽっちも無いのですがね。
「さっきから何をブツブツと言っているの?」
「いや気にしないでいいから、それよりも香澄、迎えに行くって有咲とは約束とかしているの?」
「約束なんかしないよぉ、みんなで学校に行けたら楽しいもん、ゆりだってそうでしょ」
鞄を振り回すように一回転しながら香澄は微笑んだ。間一髪で鞄を避けれたけれど、有咲が素直に『うん! みんなで行こう』とは言ってくれる訳が無いんだよねぇ。まぁそうなれば香澄の為にこの優璃さん、実力行使もやぶさかではございませんがね。
「あははははは……」
ちょっと香澄さん、さっきからグルグルと回り続けて何やら完全にヤバイ感じになっちゃっていますよ。
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市ヶ谷家の門から中を覗くと、かっぽう着を付けた有咲のおばぁちゃんらしき女性がホウキで庭を掃いているのが見えた。どうやらこちらの姿に気付いてくれたようなので軽く会釈をすると、微笑みながら右手で手招きを始めたので二人で顔を見合わせてからおばぁちゃんの元へ歩み寄った。
「おはようございます!」
二人で揃って挨拶をすると、有咲のツンケンとした感じとは似ても似つかぬ温和で品のある微笑みを浮かべてくれた。
「有咲の友達かい?」
「はい! 友達です」
「そうかい、迎えに来て貰ったのに悪いけど有咲はまだ寝ているんだよ、そうだねぇ部屋まで行って起こしてきてくれるかい? あたしが言っても中々起きてくれなくてねぇ」
「わかりました! わたしに任せてください!」
胸を張って拳で叩く香澄、絶対に嫌がられるだろうけれど有咲って押しに弱い所があるから、こういう押しが強い時の香澄とはなんだかんだ言っても相性が良いんだよね。
玄関から家の中に入っておばぁちゃんに教えてもらった部屋の前に立つ、障子戸を音が鳴らないようにゆっくりと開けて部屋の中へと侵入すると、女の子の部屋特有の甘い香りが充満していた。瑠璃姉さんの部屋も良い香りがしていたけれど、女性の部屋って何であんなに良い香りがするのだろうね。自分の部屋がちょっと心配になってきたよ、まさか汗臭いとかだったら流石に泣いちゃいますよ。
部屋を物色しているとベッドで安らかな寝息を立てている有咲を発見したので、香澄と顔を見合わせて頷き合いベッドの傍らに二人で座って有咲の様子をそっと伺う。
横向きで眠っている姿は、まさか侵入者に監視されているとは想像もしていないであろう程に油断しきっているご様子。当然ながら髪型は普段のツインテールではなくストレートで、無造作に流れている金色の髪が少し頬にかかっているのが何とも魅惑的です。しかし美少女の寝顔をこうして拝めるなんて本当に女の子になって良かったですわ、もう神様ありがとうございます。
香澄が有咲の頬を指先で軽く突ついてみると、うーんと唸りながら掛け布団で顔を隠してしまった。なんだか楽しくなってきたので布団をゆっくりと剥ぎ取って有咲の顔に近づき、わたしも頬を軽く突いて遊んでみた。
「んー、ばぁちゃん寒い」
あっ、と思う間もなく布団と勘違いしたのか有咲がわたしの体を掴んで布団の中に引きづり込んでしまい、そのまま自分の身体に強く押し付けてくるように抱きしめられてしまった。
パジャマ一枚を通して感じる有咲の暖かい体温と甘い香り、そして息が出来ない程の柔らかな肉の感触。なんだこれ、胸にしては柔らか過ぎるし何より本当に呼吸が出来なくて苦しい。このままだと胸の圧力に負けて色々な意味で昇天してしまいそうだよ。
苦しくて唸る事しか出来ないわたしの異変を察知したのか香澄が有咲の身体を揺すってなんとか起こそうと奮闘を始めてくれた。
「ありさー、朝だよぉ、起きなよぉ」
香澄さんそれじゃ優し過ぎますよぉ、有咲が目覚める前にわたしが窒息してしまいますよぉ。
真面目に苦しくなってきたので許してくださいよ。急いで有咲の脇腹に手を這わせて思い切り鷲掴むと、『あひゃあ』と何処から出したのかわからない奇声を発して抱きしめていた腕の力をようやく緩めてくれた。
胸の圧力から解放された事で慌てて顔を上げると、キョトンとした表情の有咲と目が合ってしまった。
「あっ、おはよう有咲」
「おはよう……って、はああああぁぁぁぁ? 何でお前が此処に居るんだよ!」
有咲さん、寝起きにそんな大声を出したら喉に良くないと思いますよ。
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「不法侵入に傷害未遂、犯罪のオンパレードじゃねぇか!」
「おばぁちゃんにね、有咲を起こしてきてってお願いされたんだよ」
有咲に責められても笑顔でサラリと流す香澄さん素敵っす。
無事に起きてくれた有咲を加えて仲良く三人で登校です。えぇ、家を出てからずっと有咲に怒られていますが傍目から見れば仲が良さそうに見えている筈なので多分大丈夫です。
「だいたい朝から何の用事で来たんだよ」
「せっかく
「いや
何やらモジモジと体を揺すり始めてしまいましたよ、どうやら有咲は『友達』というワードに弱いようです。人見知りでプライドも高いからきっと上手く友達が作れなかったのだろうなと思う。
それにしても二人の雰囲気を見ていると、やっぱり香澄と有咲は相性が良いみたいだ。これは暫く有咲の事は香澄に任せておいても大丈夫そうだね、ならわたしは次なるターゲットに狙いを定めるとしますか。
次なるターゲットはpoppin'partyのベース担当にしてバンドの主な作曲も手掛ける縁の下の力持ち、『
人見知りだけれど根は社交的な有咲とは違って、りみちゃんは内気で引っ込み思案という内向的な性格だった筈だ。これは攻略には中々に手強い予感がしますが尊い光景の為に挫ける訳にはまいりません。何としてでもりみちゃんにはバンドをやってもらいますからね。
「おーい、優璃」
「何? 有咲」
「お前まさか私に変な事をしていないよな?」
「いや何もしていないよ、ただ有咲の胸は柔らかいなって」
「傷害! いや強姦未遂だ!」
いやいや有咲さん、むしろわたしが窒息させられそうになった被害者なのですけど?