せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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きらら系を目指しています(大嘘)
 
 


12.内気なあの娘はベーシスト

 

 

 我らが母校である花咲川女子学園一年A組は、女子の集団とは思えない程にほのぼのとしていて仲良しな雰囲気に包まれているんだよね。元男からすれば小学校や中学校とかでの女子グループって、何かピリピリとしていて怖い印象があったのだけれど優しい世界ってやっぱり素敵だわ、女子の怒った顔が堪らないとかいう性癖も持ち合わせていないので、どうせ見るのなら素敵な笑顔を見ていたいものですからね。

 そんなスクールカーストとは無縁な空気のクラスにおいてさえ、わたしと香澄と沙綾がよく一緒に居るように、クラスの中でも小規模な仲良しグループというものが新学期早々には自然と出来てしまうものなのです。

 そして次のターゲットである『牛込(うしごめ) りみ』ちゃんはどうかというとその引っ込み思案な性格が災いしてかクラスでも目立たないグループ、端的に言えば半ボッチなポジションに収まってしまっているようです。

 実はA組に振り分けられた時から、後にpoppin'party(ポッピンパーティー)のメンバーになる沙綾を入れた三人を常に横目でチェックしていたのでまぁ間違いはありませんね。

 因みに有咲は隣のB組ですが、さぞかしわたし達が居ない事で寂しい思いをさせているかと思うと心苦しい限りですよ。

 

 

「有咲、クラスが隣だからって寂しがらないでね」

 

「はぁっ?」

 

 

 もの凄く冷たい視線を送りながら有咲はB組へと入って行きました。

 さてと気を取り直して今はりみちゃんだ。やはり自然と仲良くなるには無理矢理にでもお昼休みで一緒にお弁当を食べながら過ごすっていうのが一番だよね。無理矢理っていう所が全然自然じゃないけれど、そこは陽キャラっぽく振る舞って強引に引っ張り出そうかなと思っている。

 騒めく廊下から香澄と一緒に挨拶をしながらクラスに入ると、みんなも普通におはようと気軽に返してくれる。とりあえず自分の席に座り鞄を置いてひと心地つくと、いきなり後ろから手をまわされて抱きしめられた。

 

 

「ひゃう⁉︎ 沙綾?」

 

「おはよう、ゆり」

 

 

 今日は頭を撫でるのではなく、わたしの頭の上に顔を載せて挨拶をしてきた。なるほど新しいパターンですか、しかしこれでは沙綾の顔は見えないし椅子の背もたれのせいで胸の感触もわからないしで、わたしにとっては何ひとつ良い事がないので勘弁して頂きたい形ですよ。

 荷物を席に置いた香澄もわたしの席に寄ってきて、どうやらいつもの雑談タイムに突入の雰囲気です。

 

 

「さーや、おはよう」

 

「香澄もおはよう、CiRCLE(サークル)はどうだった? ギターは弾く事が出来たの?」

 

「ううん、スタジオが空いていなくてギターは弾けなかったの、でもその代わりにライブを観たんだよ。同い年くらいの女の子達がしてるバンドで凄くキラキラとしてて興奮したなぁ、わたしもバンドやりたいと思った! ねっ、さーやも一緒にバンドしようよ」

 

 

 わたしを抱きしめている腕の力が少し強くなったのがわかった。バンドに誘われるというのは音楽を諦めた沙綾にとってはトラウマを刺激される事であり、それと共に音楽が好きだという本心との葛藤を産み出してしまう行為なのだろうとも思う。

 

 

「ほら私は家の手伝いとかもあるしバンドは無理かな、ゴメンね」

 

「そうかぁ、それなら仕方がないのかなぁ、残念」

 

 

 心から残念そうに香澄は肩を落とした。今ここでわたしが沙綾に口出しをしたりする事はしない、もしも口出しをした所で拒絶されるだろうし最悪わたし達と距離を取ってしまう事もあるかもしれない。心の中を覗き見るには、知り合ったばかりであるわたし達の絆はまだまだ弱すぎるのだ。

 

 

 あのそれよりも沙綾さん、わたしをロックしている腕に力が入ったせいでショボーンな胸を押し潰してしまっている事に早く気が付いて頂きたいものですよ。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 わたしが転生をして新たな人生を歩むうえで、せっかくの原作知識チートを無駄にしないようにみんなの背中を押す役目をしていこうとは思っているのだけれど、いかんせんゲームの中での知識しかなくそれもエンジョイ勢だったが為に細かい設定までは把握していないという中途半端具合、まったくどうせならちゃんとしたチートをくださいよ神様。女の子から理由もなく無差別な好意を向けられるとか気が付いたら女の子に囲まれてハーレムが形成されているとか色々あったでしょうがマジ許すまじ、ってよくよく考えたら女子高もある意味でハーレムか、まわりは女の子ばっかりだしね。

 自己完結をさせて勇気を奮い立たせる。明日のハーレム、じゃなくて未来のバンド結成の為にもまだまだ頑張らないといけないからね。

 

 休憩時間になったところでわたしは彼女の席へと歩み寄る、まるで虎が獲物に気付かれないように足音を消して忍び寄るように、己の目的を悟られない為に背後から眼光だけは鋭く息を殺しながら粛々と。

 りみちゃんの横まで歩いて行って足を止める。急にクラスメイトが立ち止まった事に驚いてこちらを向いたところで彼女の方へ向き直り左手を掴んで自分の顔を近づけた。

 

 

「はわわ⁉︎ みっ、美月(みづき)さん⁉︎」

 

優璃(ゆり)でいいよ、りみりんって何か楽器をやってる?」

 

「いきなり渾名(あだな)呼びなん⁉︎」

 

「まぁまぁ、この指の硬さは何か楽器をやっているっぽいと思って」

 

 

 口から出まかせである。指が硬くなるのなんてスポーツをしていても普通に起こり得る事だしね、りみりんがベーシストだという事を知っているわたしの原作知識持ちを生かした立ち回りに過ぎないけれど、かまをかける事には成功したようで瞳を見開きながら何でわかるのという顔で驚いてくれている。

 黒色のショートボブはふわりと柔らかそうな形を描き、小さな顔に驚いて見開かれた瞳はくりっとしていてまるでリスみたいに小動物的な可愛いらしさがある。身長はわたしと同じくらいだから多分150cmくらいかな、そして何よりもですね……仲間だね、その控えめな胸にシンパシーを感じざるを得ないよ、香澄とか沙綾とか普通にボリュームがあるから間に挟まれたわたしはずっと寂しかったのですよ、まぁ有咲とかはツンデレ金髪ツインテールのロリ巨峰持ちとかチートキャラ過ぎてお話になりませんけれどね。

 

 

「ゆ、優璃ちゃんよくわかったね、ベースをちょっとだけしているよ」

 

「りみりんの事はずっと気になっていたんだ。いつかわたし(達)と一緒に歩んで欲しいと思っていたからさ」

 

「はわわ、い、一緒にってどういう……き、急にそんな事を言われてもまだ優璃ちゃんの事をよく知らないし……」

 

 

 りみりんがもじもじと体をくねらせながら顔を真っ赤にして俯いてしまった。本当に引っ込み思案で恥ずかしがり屋さんなんだろうね、女の子らしい仕草がわたしには無い部分でとても微笑ましい気分になるよ。

 

 

「うち、こういうのに慣れてへんからまずは友達になってね、それから……」

 

「あれっ牛込さん? ゆり何をしているの、牛込さんが困っているじゃない」

 

 

 いつの間にか沙綾が隣に来ていたので事情を説明しようと顔を向けると、いつものしょうがないなぁという困り顔をしているのだけど視線が何処か一点を見つめているようなので視線の先を追っていくと、どうやらりみりんの手を握り締めているわたしの手を凝視しているようですね。なる程これでは不審者扱いをされても仕方がないかもです。

 

 

「いや山吹さんこれはちゃうんよ、そういう事じゃなくてね」

 

「牛込さん関西の人なの? 何か凄く可愛い」

 

「あ、あのね、中学生の頃にこっちに越して来たからまだ時々ポロッと出てきてしまうの」

 

 

 一瞬だけ沙綾の方を向いたけれど、また直ぐに顔を紅くして俯いてしまう。りみりんの引っ込み思案も可愛いとはいえ、自分を前面に曝け出す事になるバンドをやっていくには中々に高い壁になりそうだね。

 

 

「それより沙綾、りみりんベースをやっているんだって」

 

「りみりんって牛込さんの事なの?」

 

「えっ⁉︎ りみりんベースが出来るの、凄い!」

 

 

 沙綾の背後から突然に湧き出した香澄がわたしと反対側の方へ座り、りみりんの右手を取って強く握り締めた。

 

 

「りみりん、バンドをやっているの?」

 

「ううん、バンドはやっていないよ」

 

「それならわたしとバンドやろう!」

 

「はわわ⁉︎ 戸山さんちょっと」

 

 

 こういう時の香澄は本当に有無を言わせないキラキラとした目力を発揮する。この雰囲気に大人しいりみりんが逆らえる筈もないのだけれど、一応駄目押しをしておくとしますかね。

 

 

「わたしからもお願い、香澄とバンドをしてあげて欲しい」

 

「優璃ちゃんまで……わかった、みんなとバンドするね」

 

「やったぁ! りみりん有難う!」

 

 

 香澄が喜びのあまり万歳をしてから抱きつき、抱きつかれたりみりんは更に顔を紅くして慌てふためいた。

 

 

「はわわ、みんなよろしくね」

 

「あっ、りみりん言い忘れていたけどわたしと沙綾はバンドをやらないんだ」

 

 

 わたしの言葉を聞いたりみりんは、こちらを向いてまた瞳を見開き小動物のような可愛い顔で驚いてくれた。

 

 

「な、なんなんそれぇ」

 

 

 うん、りみりん良きツッコミでございますよ。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 放課後は有咲家に立ち寄って蔵の片付けを手伝う予定です。沙綾は家の手伝いで今日は不在なのだけれど、何か今日はりみりんと勧誘話をした後くらいからみんなで居る時にやたらと頭を撫でられたり抱きしめられる事が多くなった気がする。

 割とボディタッチの多い娘なのでわたしは心配ですよ、例え沙綾にその気は無くとも男の子なんてちょっとボディタッチをされたら直ぐに勘違いをしてしまう単純な生き物なのです。えぇわたしも男の子のままだったなら『こいつ……』とか絶対に思ってしまう事でしょうよ。これはやはり沙綾の純潔はわたしが護らなければならないようですね、沙綾に言い寄る男は全て闇に葬りますのでどうか大人になるまで大人しく待ってあげてくださいな。

 

 そんな事を考えながら市ヶ谷邸に到着してみると、有咲は既に蔵の片付けを始めていた。

 

 

「ありさー、会いに来たよぉ」

 

「どうせギターにだろ」

 

 

 香澄が声を掛けると素っ気ない返事が返ってきた。

 もう有咲も捻くれているなぁ、ギターも当然だけれど香澄もわたしも有咲と仲良くなりたいのが真の目的なのに。

 三人で片付けを始めると、有咲もあんな捻くれた事を言っておきながら香澄と二人でわちゃわちゃと楽しそうに荷物を運んでいる、その姿がとても可愛いくて尊いのでこれだけでも手伝いの報酬としては充分でございますよ。

 わたしも小さい荷物を運びながらふとりみりんの事を思い出す。ここまでフラグを建てれば次のイベント発生は確実だろう、りみりんがバンドに本気で打ち込む決意を固める為に必要な事とはいえ、なるべくなら穏便に済ませておきたいところではある、その為にもわたしに出来る事は……。

 

 

「ふう、あらかた片付いたな」

 

「あのありさ、その……」

 

「ギターだろ、約束だからどうぞ」

 

 

 満面の笑みで喜んでいる香澄を見て有咲も嬉しそうにしている。香澄はランダムスターの入っているギターケースに近寄って取手を掴み勢いよく持ち上げると、ガキっという金属音がした後に腰の辺りまで持ち上がっていたケースが取手だけを香澄の手に残したまま激しく床に打ち付けられてしまった。

 

 

「大丈夫か! 怪我はしていない?」

 

 

 蔵の中に有咲の叫び声が響く、わたしも慌てて香澄の元に近寄り様子を伺うとあまりの出来事に取手を握っている手は震え、顔は色を失ったように青ざめて瞳からは涙が今にも溢れ出しそうになっていた。

 

 

「わ、わたし、ごめん、ごめんなさい、ギターが……」

 

「怪我をしていないなら良い、取手が駄目になっていただけだし」

 

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 

 座ってギターケースを開けてみてランダムスターの状態を確認する。弦は切れていたけれど本体は大丈夫そうに見えた、それよりも茫然自失とした香澄のショックの方が気がかりだ。

 

 

「ごめんなさい、わたし、わたし」

 

「香澄……戸山香澄(とやま かすみ)!」

 

「はいっ!」

 

 

 有咲の大声に香澄も我に返ったみたい、わたしもこのイベントを思い出してきたけれどここは有咲が主役になるべき場面だ。

 わたしと有咲は顔を見合わせて頷き合う、言葉は交わさなくてもそれだけでお互いの意思が通じた気がした。

 

 

「香澄、行くよ!」

 

「そうだね、まだこれは死んでいないものね」

 

「ど、何処に行くの?」

 

 

 取手はもう外れてしまっているからわたしと有咲でギターケースを抱えて持ち上げる。再び顔を見合わせてから香澄の方へ顔を向けて声を揃えて叫んだ。

 

 

『楽器店! ギターを修理するよ!』

 

 

 蔵の入り口で靴を履き直して今度はわたしと香澄でギターケースを抱え上げ薄暗くなった外へと歩きだす。有咲は後ろに続きながらスマホで楽器店の場所を確認し始めた、香澄を見ると泣き出しそうになるのを必死に堪えてギターケースを落とさないようにしっかりと掴んでいる。原作では無事に修理する事が出来るのだけれど、この世界でもその通りになる保証なんて何処にもないから信じるしかない、香澄と相棒であるランダムスターの絆が運命で結ばれている事を。

 

 

「大丈夫だ香澄、きっと直る」

 

 

 有咲の言葉が頼もしい、疲れてきた腕に少しだけ気力が戻ったよ。

 雲が厚く敷き詰められた空に星は見えない、普段より沈んだ景色の中でギターケースを抱えた奇妙な女子高生三人組は楽器店へと向かう、わたし達の大切な相棒を生き返らせる為に、未来を自分達の意思で手繰り寄せる為に。

 

 

 

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