せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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15.お昼休みって楽しみな時間だよね

 

 

 学生だろうが社会人だろうが、きっと誰もが大好きに決まっているお昼休みの時間となりました。

 学校の中庭にある新芽も柔らかな芝生の上に輪の形で座って、わたし達五人はそれぞれお弁当やパンなどの包みをいそいそと広げ始めます。

 朗らかな日差しが差し込んできて包み込まれるような暖かさの中で、可愛い女の子達と仲良くお弁当をつつき合えるとはなんと幸せな事でしょうか、思わず自然と笑顔になってしまいますよ。

 

 

「あれっ? 市ヶ谷さんも一緒なんだね」

 

 

 沙綾が実家である『やまぶきベーカリー』の紙袋を膝の上に乗せながら声をかけると、何故か有咲は自身満々のドヤ顔を見せ付けてきた。

 

 

「まぁ香澄と優璃に誘われたからな」

 

「えぇっ⁉︎ ありさがお昼御飯を一緒に食べたいって言ったよ」

 

「記憶にねぇな」

 

 

 香澄が瞳を見開きながら反論をすると有咲はわかりやすく視線を逸らしてしまった。

 いやわたしの記憶でも確かに有咲が言い出したのは間違いないのですが、これも照れ隠しかと思えばなんだか可愛いらしく思えてしまうのが不思議です。

 有咲とわちゃわちゃと言い合っていた香澄が、ふと沙綾の方を見て小首を傾げた。

 

 

「さーやはいつもパンだよね、流石はパン屋さん」

 

「パンは好きだし朝はバタバタと忙しいから手軽だしね、私もだけれどそれを言ったら牛込さんも同じだよ」

 

「ひゃうっ!」

 

 

 黙って座っていたりみりんが急に名前を呼ばれた事で跳ね上がる程の驚きを見せ、彼女がその手に持っている『やまぶきベーカリー』の紙袋がガサッと音を鳴らした。

 りみりん、その袋の中に貴女の大好物のパンが入っているのをわたしは見なくとも知っているのですよ、くるくるっとしていて甘いパンだよね。

 

 

「だって、やまぶきベーカリーのパンが凄く美味しいから」

 

「牛込さんは常連さんなんだよ、毎度有難うございますだよ」

 

「はわわ、やめてよ山吹さん」

 

 

 沙綾が座りながら感謝の意味で頭を下げると、顔を真っ赤に染めたりみりんは、慌てて袋を横に置いてから沙綾の方へ向かってわたわたと両手をバタつかせた。

 はぁしかし何ですかねこの光景は、とっても可愛らしいし和むのです。

 

 

「優璃ちゃんも生暖かい微笑みしないでぇ」

 

 

 りみりん、生暖かい微笑みをしているのは香澄と有咲もなので、決してわたしだけの話ではないのですよ。

 

 

「しかし牛込さんは優璃だけ名前呼びなんだな」

 

「あのそれはね、優璃ちゃんから名前で呼んでって言われたの、それに私のお姉ちゃんも『ゆり』っていう名前だから親近感が湧くのかな」

 

 

 有咲がお弁当の玉子焼きを口に運びながら問いかけると、りみりんは大好物であるチョココロネを両手で持ちながら恥ずかしそうに答えた。

 

 

「お姉ちゃんは三年生でね、『Glitter☆Green(グリッター グリーン)』っていうバンドをやっているんだよ」

 

「じゃあ牛込さんはお姉さんの影響でベースを始めたの?」

 

「そうだよ、お姉ちゃんは私の憧れだもの」

 

 

 沙綾の問いに笑顔で答えるりみりんの姿に深く何度も頷いた。素敵なお姉ちゃんに憧れる気持ちは非常にわかるよ、わたしも瑠璃姉さんにはあらゆる面で敵わないと思っているからね。

 

 

「へぇ、それじゃ香澄にはあらゆる意味で大先輩だな」

 

「はいはーい! わたしからひとつ提案があります」

 

 

 有咲の弄りを聞き流した香澄が勢いよく右手を上げた、別にクラス会ではないのだから普通に発言すれば良いと思うのだけれど、そんな行動が却って香澄の可愛いらしさを際立たせていたりするから始末が悪いのです。

 

 

「合コンとかは却下だからね」

 

「もう! ゆり、そんな事じゃないよぉ」

 

 

 こちらを向いて唇を尖らせながら反論してくる、一応とはいえ念を押しておかないとこの世界の神様は信用ならない存在なのですよ。

 

 

「わたし達の間では名字呼びは無しにしたいと思います!」

 

 

 おっ、中々に建設的な意見だと思いますよ、予めそう取り決めておけばお互いに恥ずかしさも薄れるというものですからね。

 

 

「確かにもう友達なんだし名前呼びの方が親しみが湧くよね」

 

「私も別に問題は無いかな」

 

 

 わたしと沙綾が賛同する横で、有咲とりみりんは恥ずかしそうに顔を伏せてしまう、その様子を見ていたら何やら悪戯心が湧いてきましたよ。

 

 

「確か有咲は、沙綾とりみりんを名字呼びだったよねぇ」

 

 

 有咲の肩が反応してビクッと動く、ヤバい何かゾクゾクとしてきましたのでお次はりみりんを弄るとしましょうか。

 

 

「そしてりみりんもわたし以外はまだ名字呼びだよね、さぁりみりん、早くみんなを名前で呼んであげて」

 

「はわわ、恥ずかしいよ」

 

 

 りみりんは顔を更に紅く染めて俯いてしまった。いやぁこのリアクションが可愛すぎて堪りませんな。

 

 

「ちょっとゆり、みんなが困っているじゃない」

 

「いや沙綾さんや、これは儀式みたいなものなのですよ、二人が早く名前呼びに慣れてくれるようにわたしが心を鬼にしているのです」

 

 

 表情が自然と緩んでしまいますがそんな事は気にせずに二人を弄り倒していると、有咲が無言でお弁当の蓋を閉めて、沙綾とりみりんもパンを袋に仕舞ってしまった。

 

 

「優璃、お前調子に乗りすぎだかんな」

 

「優璃ちゃん、意地悪し過ぎだよ」

 

「ちょっとお仕置きが必要だね」

 

 

 あれっ、皆さん笑顔が怖いですよ、そして何で段々とにじり寄っているのですかね、これはちょっと危ない予感がしますよ。

 慌てて香澄に助けを求める視線を送ったら、何が起きたのかがわからずにキョトンとしていた顔をこちらに向けた後に、何かを思いついたかのように両方の口角を上げた。

 

 

 あっ駄目だこの子、楽しそうな方に付きやがった。

 

 

 優璃、優璃ちゃん、ゆり、フッフーン、と言いながら四人がにじり寄ってくる。まるで気分は断頭台へと向かうマリーアントワネットだ、更に死刑執行人の四人全員が半目のまま薄ら笑いを浮かべているところが余計に怖い。

 

 

 四人が塊となってわたしを押し倒してきた。下から見上げると逆光のせいで表情がよく見えないけれど香澄が笑っているのだけは何となくわかったわ。

 

 

「さぁお仕置きの時間だよ」

 

 

 あの神様、都合の良い話なのですが少しは助けてくれてもいいのですよ?

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 生命力に溢れた芝生の上で無惨にも横たわる少女の瀕死体がひとつ、見開かれた瞳には光は無く、断末魔の叫びを誰の耳にも届ける事が出来なかったかのように口は半開きのままとなっていた。蹂躙され尽くしたその様はこの世界が如何に力が無き者に無慈悲かという事を如実に物語っている、まぁその瀕死体はわたしなのですけどね。

 

 

「ひ、酷いと思います……」

 

 

 泣きたい気持ちを抑えて抗議の声を上げても、この鬼っ娘共は聴こえない振りをして昼食を再開しやがりましたよ。

 先程は謝るまで四人がかりで毎度お馴染みのくすぐり刑に処されました。しかしこれはいわば集団リンチであり現代社会の闇とも言える行為なのです、可憐な乙女にこの様な非道な仕打ちをする事は決してあってはなりません、したがって呪詛の言葉をひとつくらい心の中で呟いたところで天罰が降る事はありませんよね。

 

 

 ちょい香澄! どさくさに紛れて胸を触って遊ばないでください、それはわたしの役目なのですよ!

 

 

 心の中で叫んだ事で少しだけ気分が晴れたので、わたしも輪の中に戻ってお弁当の蓋を再び開ける、せっかく瑠璃姉さんが作ってくれたお弁当を残すなど妹としては有り得ませんのでね。

 

 

「ゆり、髪に葉っぱが付いたままだよ」

 

「ふにゅ、ありがと沙綾」

 

 

 隣に座っている沙綾がわたしの髪に名残惜しそうに付いていた古葉を払ってくれた。その優しい姿からは、先程までわざわざ靴を脱がせてから嬉々とした表情で脚全体をくすぐり続けた鬼っ娘と同一人物とはとても思えませんよ。

 

 

「ところでさ、みんなはどんな人がタイプなの?」

 

 

 沙綾の唐突な質問にわたしを含めた四人全員が吹き出してしまった。

 

 

「はあ? 何を突然に言い出すんだよ」

 

「んー、わたしは一緒に居て楽しい子かなぁ、さーやは?」

 

「私は一緒に居て安心できる人かな、意外と甘えたがりなんだよね」

 

 

 照れているのか頬を紅く染めた有咲が入れたせっかくのツッコミを軽く流して香澄と沙綾は平然と会話を続けた。別に好きな男のタイプなど聞きたくはないのだけれど興味が無いと言えば嘘になります、なにせ色々と対策が建て易くなるというものですからね。

 

 

「りみりんと有咲は?」

 

「私は、王子様みたいな人かな」

 

「私はその……優しい人」

 

 

 ヤバイです、照れながらタイプを告白する二人が可愛い過ぎです。しかしそれはそれ、この『恋愛破壊者(ラブコメブレイカー)』の称号を持つわたしの目の黒いうちは野郎との恋愛などさせませんので。

 

 

「それでゆりはどうなの?」

 

 

 沙綾が前屈みで覗き込むようにして訊いてきた。ポニーテールに束ねた髪が下に垂れ下がって綺麗なうなじが丸見えですよ、その健康的な首筋にかぶり付いても良いのですかね?

 しかしこれは困りました、男の子との恋愛なんて百年後の日本の人口は何人だろうというくらい興味が無いのでなんと答えたものですか。

 

 

「うーん、タイプは特に無いんだけど、強いて言うならわたしが好きになった人が好き」

 

「なんだよその哲学的な返答、もっとハッキリと言えよな」

 

 

 有咲に怒られたけれど、野郎に興味などある訳がないでござるなんて言ったら引かれそうだし、恋愛よりも尊いの方が至高でしょうとか理解されそうもないしなぁ。

 

 

「うーんつまり、わたしはみんなの事が大好きだよ」

 

 

 あれっ、何でみんな顔を紅くして俯くの? これはやっぱりドン引きされてしまったのでしょうか、やはりガールズトークというものは中々に難しいと痛感です。

 

 あのね神様、こういう時こそ助け舟(話術スキル)を寄越しやがっても良いのですよ。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 放課後に有咲家の蔵に立ち寄った後に、夕陽に照らされた帰り道を香澄と並んで歩く。

 少しづつ陽が長くなって春の終わりを感じるけれど道路に映し出された二人の影は長くて色も淡い、髪を揺らしながら通り過ぎてゆく風もこの時間だと少し肌寒く感じて、まだまだ夏の訪れは遠そうな雰囲気だ。

 時折通り過ぎる車のエンジン音と遠くから微かに聴こえてくる虫さん達の合唱、ふと横を見れば背中にギターケースを背負ったまま優しい表情で歩いている香澄の姿がある。

 とても不思議だけれど香澄と一緒に居る事が今の自分の中では当たり前になりつつある事がなんだか気恥ずかしくて嬉しいとさえ思えた。

 

 

「りみりんのお姉さん達のライブ楽しみだね」

 

「うん、きっと大人なバンドで格好良いんだろうなぁ」

 

 

 りみりんのお姉さん達のバンドが今度ライブをするというので沙綾を除いたみんなで観に行く事になった。

 あまりにも沙綾が頑なに固辞するので香澄も流石に諦めたのだけれど、寂しそうな笑顔を作った沙綾の姿をただ見ているだけというのはやっぱり違うのかなと思う、彼女の閉じきった心の扉に触れる為にもわたしがもっと主体的に寄り添う事が必要なのかもしれない、例えそれが独善的や偽善と言われようともだ。

 

 

「あっ、それより香澄?」

 

 

 小首を傾げながら笑顔を向けてきた香澄にわたしも満面の笑顔を返す。

 

 

「お昼休みにさ、どさくさに紛れてわたしの胸を制服の上から触っていたよね?」

 

「えっ⁉︎ なんの事かなぁ」

 

 

 ほほう露骨にしらばっくれますか、ならば宜しい目には目を胸には胸を、復讐するは我にありですよ。

 通学鞄を肩に掛け直してから両手でニョキニョキと何かを握るポーズを取った。

 

 

「えっ? 嘘だよね? こんな往来の場所でそんな事はしないよね」

 

 

 ほほう先日に往来の場所でわたしをくすぐりの刑に処した貴女がそれを言いますか。

 無事に罪悪感のハードルを超えて笑顔のままにじり寄る、香澄は何とか逃げようと算段している様ですがその重いギターケースを担いだままではわたしから逃げる事は叶いませんよ。

 

 

「めちゃくちゃ揉み尽くす!」

 

「いや、こんな場所で……」

 

 

 顔を真っ赤に染めて腕で必至に胸を庇っている姿に思わず鼻息も荒くなってしまいますよ、それではそろそろ頂きますのでお覚悟を。

 

 

「二人とも何をしているの?」

 

 

 ニョッキニョキのポーズをしたまま声がした方へ振り向くと、いつの間にか怪訝そうな表情を浮かべたあっちゃんが立っていた。

 

 

「あっちゃーん、ゆりに襲われるよぉ」

 

「えっ⁉︎ どういう事?」

 

 

 わたしが固まった隙をついてあっちゃんの背後に香澄が隠れてしまう、しかしこれは不利な状況に陥りました、これではわたしが只の不審者みたいじゃないですか。

 

 

「いやあっちゃん聞いてくれるかい、そこの被害者のように隠れているお姉さんがお昼休みにわたしの胸を嬉々として触っていたのですよ、その復讐の為に致し方なくこのようなですね」

 

「お姉ちゃんそんな事をしているの?」

 

「冗談でだよ、幼馴染みの胸なら少しくらい触るよ」

 

 

 えっ⁉︎ 何ですかその謎理論は?

 

 

「もう、仕方がない人達だなぁ」

 

 

 しっかりとした足取りで目の前まで歩み寄って来たあっちゃんが突然わたしに向かって胸を突き出してきた。

 

 

「はい、お姉ちゃんの替わりに触っていいよ」

 

 

 えっ⁉︎ 何ですかこの謎展開は?

 

 

「いやあっちゃん、わたしは胸が触りたい訳じゃなくてね」

 

「優璃お姉ちゃんなら触ってもいいよ、でも優しくしてね」

 

 

 香澄程ではないけれど程良い制服の膨らみについつい目が奪われてしまう。

 いやいや何を言ってんのこの娘は、確かに胸は触りたいですけれどそんな……あぁやっぱりこの娘はやり手です、対女性経験値が低い者の弱点である『グイグイ来られると逆に引いちゃう』を的確に突いてきましたよ、これでわたしは情けない事に金縛りに遭ったように動けなくなってしまいました。

 

 

「くっ、あっちゃん……」

 

「どうしたの? いいよ、優璃お姉ちゃん……」

 

「こ、これで勝ったと思うなよぉ!」

 

「何処に行くの? 帰る方向は一緒でしょ」

 

 

 年下に完全敗北の惨めさから走って逃亡しようとしたら冷静に呼び止められてしまいました。

 

 

「さっ、みんなで帰ろう」

 

 

 仲良く並んだ三個の長い影を揺らしながら茜色に染まった道を家に向かって歩く、真ん中で平然として落ち着いた顔を見せている勝者にわたしと香澄はこう思うしかなかったのでした。

 

 

 イモウトツオイと……。

 

 

 ちなみに帰ってからやっぱりあっちゃんの胸に触ってみたかったとベッドの上で身悶えした事は言うまでも無い話です。

 

 

 

 

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