せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
今日の放課後は校門の外でりみりんのお姉さん達のバンドである『
残念ながら沙綾はお家に早く帰らなければならないという事で不在ですが、残りのわたし達四人組は少し浮ついた気分でその時を待っているのでした。
「りみりんのお姉さんてどんな人かなぁ、楽しみだなぁ」
「香澄は本当に浮かれ過ぎだろ」
香澄をからかう有咲ですが、人見知りの貴女が小刻みに脚を震わせながら緊張している事にはとっくに気が付いているのですよ、まぁそれでも帰らずに付き合ってくれているのですから本当に可愛いと言いますか、いじらしいと言うべきでしょうか。
そんな余裕な態度を見せているわたしなのですが、実はグリグリというバンドはあんまり記憶に残って無いのでちょっと緊張してしまっているのはみんなには気付かれていない筈です。
「あっ! きらきら星の美少女達じゃないかぁ、ボンジュース!」
かなりの緩んだ垂れ目の顔に新種の柑橘系飲料みたいな挨拶をするこの人は江戸川楽器店のやべぇ店員さんである『ひなさん』か、まさか同じ高校とは思わなかったですよ。
もしやひなさんが居るならばと思っていたら案の定といった具合に、ひなさんの後から少々キツネ目で固い印象を与えるぬいぐるみさん、いやいや『リィさん』が当たり前の様にぬいぐるみを抱えたまま校門から姿を現した。
「久しぶり、その後ギターの調子はどう?」
いや普通に喋るのかい! そこは逆にぬいぐるみで久しぶりだにゃとか言って欲しかったわ。
まぁこのままリィさん達とランダムスターの話で盛り上がりたいところですが、今日はお二人のお相手をする時間は余り無いのです、なにせこの後に大事な面会がございますのでね。
「ひなさん、リィさん、ボンジュース!」
「香澄、ノリノリじゃん!」
テンションも高めにひなさんとハイタッチをしている香澄に思わずツッコミを入れてしまう、もしもこんな個性的な人達と一緒の所をグリグリの人達に見られでもすれば、可愛い新入生であるわたし達の第一印象がフリーフォール並の勢いで下降しかねないのがそりゃ心配にもなるってものですよ。
「マイシスターりみちゃんも元気かい?」
「ひなちゃん、違うよ?」
いやひなさん嘘なのかい! 思わず一瞬だけ信じてしまいそうになったわ。
しかしりみりんもひなさん達と知り合いなのね、まぁ楽器をしているのなら楽器店の人と知り合いでも別に不思議ではないのですが。
有咲に抱きついたりわたしを振り回したりと暴れ回るひなさんをなんとか
二人はわたし達が騒いでいる方へ近寄って来て、ギターケースを背中に抱えた方の先輩が腰に手を当てながら声を掛けてきた。
「みんなお待たせ、それじゃ先に自己紹介をしておきますか、私はりみの姉でグリグリではギターボーカルをしている『
優しそうでありながらも意思が強そうな瞳を緩ませながら、肩先までの髪を柔らかく揺らして微笑む姿は
あの、それよりもみんなってどういう……。
「キーボード担当の『
長い黒髪をひとつ結びで纏め、教養を感じさせる切れ長の瞳を隠す眼鏡姿が理知的な雰囲気を醸し出しています。七菜さんは挨拶するなり美しい所作で深々と頭を下げてこられたので、それに釣られて思わず全員が深々と頭を下げて挨拶を返してしまいました。それにしても二人共に160cm超えくらいはありそうな身長でいかにも先輩といった貫禄がありますね。
「私はベースの『
「リィちゃん、ひーどーいー」
思わず瞳を見開いてリィさん達を見返してしまった。えっとまさかとは思うのですが、わたし達が騙されているという可能性は無いですよね?
「この娘、ちょっと失礼な事を考えてないかにゃ?」
リィさんがぬいぐるみの腕を使ってわたしを指差したけれどそりゃ仕方がないですよ、ゆりさん達に比べてひなさん達のキャラが異質過ぎますのでね。
とりあえずわたし達も自己紹介を済ませて顔合わせは無事に終了です。
「でも二人も『ゆり』が居るとややこしいわね、優璃ちゃんではゆりと区別をしづらいし」
七菜さんが顎に手を添えて熟考を始めてしまった、個人的には両方とも『ゆり』でも良いんじゃね、とは思うのですがきっと几帳面な性格をされているのでしょう。
「ユーリーとか格好良い」
ひなさん、それはただ語尾を伸ばして言い難くしただけですよ?
「りゆ、とか?」
リィさん、それはただ文字を逆にしただけですよね?
「ゆっちゃん?」
七菜さん、熟考した答えがそれですか?
「
ゆりさん、この流れで名字呼びは寂しいっす。
「いやもう『ゆっちゃん』でお願いします」
このままこの人達に考えさせていたらその内『ユリアームストロング』とか突拍子もない事を言い出してしまいそうなので、なんとか無難なところで手を打って頂きました。
「さて、それではドリルか」
「リィちゃん了解! さぁ美少女達よ、わたしに付いてくるがよい」
この後の予定としてはファミレスに移動してドリンクバー会、意訳して女子会です。ひなさんがわざとなのか毎回ドリルカイと言い間違えるらしいので、グリグリではファミレスに行く事をドリルという隠語で言う事が定着している様です。
前方をグリグリの人達が歩き、後方を私達が続く形でファミレスへと向かいます。香澄とりみりんが楽しそうに笑いながら歩いているのに対して、先程から全く喋っていなかった有咲は人見知りによる緊張の連続でまるで長距離走をした後の様に疲弊しきった顔をしています。
「有咲、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫でございますわよ」
おやおや完全に頭が熱暴走を起こしているみたいで何処かの令嬢みたいになっていますよ、少し落ち着いてもらわないとその内に緊張で意識を失いかねないですね。
有咲の頬を右手の人差し指でプニっと押すと、無言でわたしの腕を取った後に強く手を握ってきた。少し汗ばんだ
「落ち着いた?」
「別に焦ってねぇし、友達とファミレスに行けるの嬉しいとか思ってねぇし」
有咲さん、緊張のせいか心の声がだだ漏れになっていますよ?
「優璃にひとつだけお願いがあるんだけど」
ふにゅっと有咲の方へ顔を向けると、急に手を引っ張られて身体を引き寄せられた。
「ファミレスの席は隣に座って! もし両隣をグリグリの人に挟まれたら、多分緊張で私は死ぬ」
泣き出しそうな顔でお願いをしている姿が可愛い過ぎます、たまに見せてくれる有咲のデレは本当に何と言うか……色々と凶悪過ぎてヤバイですね。
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「それでみんなはどのパートを担当しているのかしら?」
七菜さんが温かい紅茶を口へと運びながら会話を切り出してくれました。その動作も優雅で品格を感じさせるものでしたが、いかんせん手に持っているのがドリンクバー用のコーヒーカップなのが少々残念な感じを醸し出しています。
「はいっ! わたしがギターでりみりんがベースです!」
香澄が元気な声で応えてからりみりんと顔を合わせて微笑んだ。
ここだ、このタイミングだ……。
「香澄はギターボーカルです、そしてりみりんがベースで有咲はキーボードになります、わたしは応援係といった感じです」
「ゆり……?」
「はぃ⁉︎ ゆ、優璃なにを……」
みんなが驚いた顔を見せている、それも当然で香澄はギターを演奏する事しか考えていなかったろうし、有咲に至ってはキーボードどころかバンドをやるとも言っていない。
「香澄ってとっても歌が上手いから絶対にギターボーカルに向いていると思うんです」
「じゃあ香澄ちゃんは私と一緒だね、てっきりゆっちゃんか有咲ちゃんがボーカルかと思ったよ」
ゆりさんが香澄に向かって微笑むと香澄も戸惑いながらも笑顔を返した。
香澄がボーカルをどうするのかなんてきっと考えてはいなかっただろうけれど、これで
「市ヶ谷さんはキーボードなのね、わからない事があれば私に遠慮なく訊いてね」
「いや……あの……は、はい……」
七菜さんの圧力に有咲も何も言い返せずに頷くしかなかった。
多少強引だとは思うけれど有咲は背中を押さないと絶対に動いてはくれないだろうから仕方がない、先程から隣に座る有咲に思いっきり太腿を抓られていて叫び出したいくらいに痛いけれど、何とか我慢をして笑顔を崩したりはしません。
しかし自分でも酷い事をしているなとは思う、二人に何も確認をせずに勝手にバンドの流れを作ってグリグリさんを証人のように利用した形にしてしまった。
少し弱気に思っているのかもしれない、有咲は背中を押すきっかけさえあればバンドを始めてくれるとは思っていたけれど、最悪のパターンは香澄がギターに専念して楽器の出来ないわたしをボーカルにしようと考えてしまうかもしれないという事だ。
優しい香澄ならおそらくそうしようとするだろうけれどそれはわたしの望む形では無い、ゲームで知っているけれど香澄の歌は周りに暖かさと希望を感じさせる太陽のような特別な物、それをわたしへの気遣いで埋れさせてしまうなんてとても認められないよ。
だから先手を打って香澄がギターボーカルという流れを作ったんだ、自分勝手で自己満足なサイテーの行動だとしても、尊いオタクとしてはポピパの形を崩す事はどうしても考えられないのです。
有咲は……後で謝るしかないかな、でも背中を押すには良いタイミングだったとは思うんだよね。
「ドラムは? ドラマーが居ないじゃん! ゆっちゃんドラムやろうよ、わたしが教えてあげるからさぁ」
「ひな、嘘を言うな嘘を、あんたはオモチャが欲しいだけでしょ」
立ち上がって力説するひなさんにリィさんが即座に否定の言葉を投げ掛ける、ひなさんのオモチャなんてもはや地獄絵図しか想像が出来ないのですがね。
「リィちゃん、可愛い女の子は全てわたしのものなのだよ」
拳を握り締めて鼻息も荒く高らかに宣言をする姿にはある意味感心してしまいそうですが、話している内容は只の『へんたいふしんしゃさん』なので尊敬は永遠に出来そうもありませんよ。
「それでどうかなゆっちゃん、マイシスターになってくれるよね?」
「えぇ是非、来世でお願いします」
残念ながら今世では縁が無かったという事で。
わたしも大概な尊い信者ですが、へんたいふしんしゃさんとは方向性が違うのですよ、ハーレムとは入るものではなく眺めるものなのです。
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ファミレスから出てグリグリの人達との別れ際にゆりさんからライブチケットを頂きました。絶対に観に来てねと笑顔で言われたのを香澄が喰い気味に絶対に行きますと返事をしたのが面白くて全員で笑ってしまいました。
いやみなさん良い先輩達でりみりんのお姉さんもしっかりとしていて頼りがいがありそうです、これからもりみりんとは妹コンビとしてお姉ちゃん話に色々と華が咲かせそうですね。
うまい具合に話も進み良い気分のまま家路につく筈だったのですが、只今わたしは有咲家の蔵で正座をさせられております。
「やってくれたなぁ、優璃さんよ」
「ふにゅ、御免なさいです」
蔵の地下にある秘密基地、そこに設置してあるソファーにお奉行様のような雰囲気で有咲が座り、わたしはその前で怯えた村娘のように震えながら尋問を受けているのです。
ツインテールに括った髪が今にも怒りで逆立ちしそうですが、それよりも身体の前で組んだ腕の上に二つの立派な巨峰が乗っかっている光景が気になって仕方がありませんよ。
因みにりみりんはゆりさんと帰ってしまったので蔵には有咲と香澄とわたしのみとなっております。
「いやそれよりも、何で私が楽器が出来るって知ってんの?」
「母屋にピアノがあったし、有咲に兄弟は居ないっておばぁちゃんが言ってたからきっと有咲がピアノを弾いていたんだろうなって」
「ちびっ子名探偵か! 親が弾いているとか考えなかったのかよ」
なる程そういう発想もあったのかと驚いてしまった。ゲーム知識があったからピアノは有咲用だと決め付けてしまっていたけれど、思い込みは判断を誤らせる事もあるからこれからは気を付けて動かないといけないね。
先程まで頭から湯気が立ちそうな勢いで怒っていた有咲が、何かを考えているように眉間に皺を寄せながらソファーに一緒に座っている香澄の方へ視線を向けた。
その視線に気が付いたのか、有咲に向かって香澄が柔らかく微笑んだ、飾り気もなく只々正直に言葉を紡ぐ。
「わたし、ありさと一緒にバンドしたいな」
いつもの力強い話し方ではなく、その姿はあくまでも優しく、有咲に向かって素直に自分の心根を伝えている。
有咲にも香澄の思いが伝わったのか、先程までの怒りは鳴りを潜めてしまい照れたように顔を伏せてしまった。
しかしこれが主人公
「優璃も私にバンドをやって欲しいのか?」
いつものツンとした話し方ではなく少し甘えた声色に乗せてわたしの気持ちを訊いてきた、ここは茶化すところでは無いから真摯に心の内を話そうと思う。
「わたしは見たい! 有咲がキーボードを弾いている姿を、香澄やりみりん達と一緒に輝いている有咲が観たいの! だからお願い、わたしに有咲を支えさせて」
有咲は観念したかの様に紅く染まりきった顔を上げてわたしと香澄を交互に見た後、身体の力を抜いて照れ隠しなのか不器用な笑顔を作った。
「友達にそこまでお願いされたら仕方ねぇよな、やってみるよバンド」
「あーりーさー!」
香澄が喜びのあまりソファーに押し倒すように有咲に抱きついた。わたしも有咲に抱きつきたかったのだけれど、正座のせいで足が痺れてしまい全く動けませんでしたよ。
「香澄! いちいち抱きつくなよなぁ、あっ、それと優璃!」
「ふにゅ?」
「ちゃんと私を支えろよ!」
足が痺れていて辛いですけどなんとか香澄に押し倒されたままの有咲に近付いて優しく額に手を添えた。
「勿論だよ、わたしも頑張るね」
「優璃……正座を崩して良いとは言ってねぇぞ」
神様! 鬼っ娘が此処に居ますよ何とか退治をして頂けませんかね。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
蔵からの帰り道、夕暮れに染まったわたしと香澄は気分も上々と足取りも軽く並んで歩いていました。
「良かったね、有咲がキーボードをやってくれるみたいで」
「ゆりのおかげだよ、ありがとう」
決め手は香澄だったと思うのだけれどまぁ感謝されるのは素直に嬉しい、気分良く横を向くと何故かそこに香澄の姿は無かった。
「ゆりぃ、ぎゅうぅ」
「ひゃっ⁉︎ な、何事?」
いきなり香澄が後ろから抱きついてきたので驚いて通学鞄を落としそうになりましたよまったく、それにしても香澄は顔同士を擦り合わせるのが好きなので化粧をしないわたしには遠慮なく顔を寄せて来てしまうので緊張が毎回半端ないです。
「ねぇゆり、わたしが歌うのを好きな事も思い出したの?」
「思い出したというか、口が勝手に言い出した感じ」
ゲームで知っている癖に、本当にわたしは嘘ばっかりだ。
だけどそれでもいいと思っている、例え嘘を吐くにしても騙して相手を不幸にしたい訳じゃないのなら、その嘘は優しさと言っても良いんじゃないかと。
みんなが笑顔になれるのならわたしはこれからも嘘に塗れよう、虚構がいつか現実へと成ってくれる事を願いながら……。
「やっぱりわたしの事を特別だと思ってくれているんだよ」
「そうなのかな、まぁ大切な幼馴染みだしね」
これは嘘じゃない、出来たばかりの幼馴染みという矛盾した関係だけれど、今のわたしにも香澄は大切な存在になってきているから。
「それより香澄、引っ付いていたら歩き難いよ」
「えへへ、やだぁ離れないよ、もうずっと離さないから」
香澄を背中に担ぐようにして家路を急ぐ、早く帰らないと瑠璃姉さんに怒られるし、何より背中越しに感じる香澄の胸圧といい漂う爽やかな香りといいわたしの心臓が大きく動揺して破裂しちゃいそうなのですよ。