せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
誰だって苦手な事はあるし、誰だって不安に駆られる事もある。
そんな不安定さが自然で、それが人間らしいという事なのかもしれない。
「有り得ねぇな」
「ありさもそう思うよね」
「優璃ちゃんせっかく可愛いのに」
ライブハウス
りみりんは膝丈までのワンピースに可愛らしいジャケット姿、有咲も膝丈までのプリーツスカートに上着は長袖とはいえフィット感が強くて妙な色気を感じてしまう服装で、よもや香澄に至ってはいくらタイツを穿いていると言っても中が見えちゃうんじゃねっていうくらいのミニスカートにパーカー姿で、もう色々な部分が気になって気になって仕方がないのです。
制服姿には多少見慣れていたのですが、私服姿というのも新鮮な物で改めてやはり美少女達だよなぁと思ってしまいますね。
「香澄、お前ちゃんと言ってやれよな」
「だってゆりが男の子避けにはこれが良いって言うんだもん」
「優璃ちゃん、今度一緒に服屋さんに行こ?」
「いや皆様お気持ちは理解出来ますが流石に酷くないかな?」
確かにほぼ部屋着のジャージ姿ですけれど意外とこれが暖かいのですよ?
そもそもなのですが決して自ら望んでこの様な私服姿という訳では無いのです、女子の服装などまだよく解っていないので瑠璃姉さんに服のコーディネートを頼んだら、ふわりと広がる花柄の膝上ミニスカートに何の意味があるのというくらいに袖が爆発したような形をしている上着を着せられてしまいました。
姉さんが可愛い可愛いと言うので姿見で確認をすると確かに似合ってはいるのですが、ちょっとこれは無理でございます、こんな女の子然とした服装は気恥ずかしくてとてもみんなには見せられません。
散々写真を撮って満足した姉さんが部屋から出て行ったのを確認してから、素早くジャージに着替え直してこっそりと家から抜け出したという次第です。
以前の優璃は割と可愛い服が好みだったのかもしれませんが、流石に元男のわたしには少々ハードルが高いと言わざるを得ませんね。
女の子を見る事は好きなのですが、女の子の自分が見られているという感覚は中々持てそうにもありませんよ。
「みんながナンパとかされないようにわたしがラフな格好をして威圧するのですよ!」
「はぁ? ここでナンパしてくる男なんか居ねぇだろ」
「優璃ちゃん心配し過ぎだよ?」
「そうだよゆり、ガールズバンドを観にくる男の子はあまり居ないよ?」
はいっ? みんな何を言っているのかな?
ガールズバンドや女性アイドルのライブなんて観客の殆どは男性なのが当たり前ですよ?
「ガールズバンドは女の人に大人気なんだよ」
飾り気の無い香澄の笑顔を見れば真実を語っている事は容易にわかる、慌てて周りを見渡して見ると数少ない男性達は見せつける様に恋人同士で来ているようで確かに女性の人数の方が圧倒的に多い。
何だろうこの心の中を掻き回されるような不安感は、この世界の常識と自分が持っていた常識との微妙なズレを体感する事がこれ程までに心の動揺をもたらすなんて思いもしなかった。
やっぱりわたしは違う世界に来てしまったんだと実感してしまう、まぁナンパをされる心配が少なく済むのは願ったり叶ったりなのですがね。
「まっ、私くらい可愛い女の子ならナンパとかされても不思議じゃないけどな」
「あー、そーですねー、かわいいもんねー」
「何で棒読みなんだよ!」
有咲が腰に手を当てドヤ顔を見せつけてきましたが、あえて素っ気ない返事をすると香澄とりみりんがクスッと笑ってくれました。
確かにみんな可愛いから声を掛けられても不思議ではないけれど、それはもう許すまじな事態ですので全力でぶっ潰して差し上げましてよ。
「ゆり、他の娘に声を掛けられてもホイホイと付いて行ったら駄目だよ」
「あぁ優璃なら有り得そうだな」
「優璃ちゃん、気を付けなくちゃ駄目だよ?」
何の心配ですかね、わたしは飴に釣られるお子ちゃまではありませんよ?
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
店内に入ると今日は数バンドが演奏する合同ライブらしく以前に来た時よりも観客らしき人の数が多い事に驚いてしまった、もしかしてわたしが知らないだけで意外とグリグリって知名度が高いのかもしれないね。
まだ慣れない店内で人を避けながら三人でカウンターに向かうとボーダー柄のシャツでお馴染みのまりなさんが笑顔で出迎えてくれた。
「おやっ、また来てくれたんだね、いらっしゃーい」
「わたし達の事を覚えているんですか? 凄い!」
「制服姿の女子高生は好きなんだよ、いやぁ懐かしいなぁ青春だよねぇ」
まりなさんは香澄の驚きを受けて感慨に耽る様に瞳を閉じて物想いを始めてしまった。
いやしかし良かったですよ、女子高生が好きと聞こえた時点ではまさかこの人もやべぇタイプなのかと少々警戒しそうになりましたからね。
「月島! 何を呆けているんだ」
「ひゃいっ! もうオーナー、ちゃんと真面目にやっていますよ」
奥の通路から現れた人に一喝されて思わず変な声をあげたまりなさんは、白髪に片脚が悪いのか杖をついた妙齢の女性に向かって誤魔化す様に笑顔を向けた。
白髪の女性は見た目から言えばもうおばぁちゃんと言っても差し支えない年齢に見えるけれどその眼光は鋭く、睨まれたら冷や汗でも掻きそうな程の威圧感がある。
でも初対面なのにわたしはこの人を見た事がある気がする、確かゲームにも出ていたような……?
「なんだい私の事をじっと見て、顔に何か付いているとでも言いたいのかい」
「あっ、いえ、すみません初対面なのに」
思わず咄嗟に頭を下げて謝ってしまった、はぁ真面目に怖いです何ですかこのラスボス感は、明らかに只者ではない雰囲気ですよ。
下げた頭を上げると何故かラスボスさんはわたしの目の前まで近寄って来ていて、杖を持っていない左手をわたしの方へと伸ばしてきましたけれどこれはまさか死亡フラグですか? アニメでよく見る顔にアイアンクローをされたまま持ち上げられちゃう例のあれですか?
恐怖で動けないでいると、ラスボスさんは優しくわたしの頭の上に手を置いて柔らかく微笑んだ。
「目当てのバンドでもあるのか」
「はい、グリグリさんと知り合いなので」
「そうかい、ライブは一期一会の出会いだ、その時にしか感じられない想いを楽しみな」
わたしが頷くとラスボスさんは満足したのか頭から手を離してくれました、固い掌だったけれどとても暖かくて……あれっ? 意外や優しい人なのかもしれないね。
「月島、しっかりやるんだよ」
「オーナー、今日はずっと居てくれないんですか?」
「私はもう引退した身だ、しゃしゃり出る気は無いね」
片手を上げながら奥の通路へと消えて行くオーナーさん、いやぁラスボス感たっぷりで格好良いと思うよね、ねぇみんな……。
「そっかぁ、香澄ちゃん達もバンドするんだね、初ライブはウチで宜しくね」
「はい! 絶対にライブしますから」
「香澄、その前にメンバー集めだろ」
「えへへ、そうだね」
ちょいちょーい、今のラスボス登場の流れは完全に無視ですか?
微笑ましい会話の最中に悪いのですが、わたしだけが怖い思いをしたみたいで何だか納得が出来ませんよ。
「あのまりなさん、さっきの人は?」
「あぁ詩船オーナーね、此処が改装をする前は『
まりなさんの言葉の端々からオーナーへの畏敬の念が感じられる、今でさえあの迫力なら昔はそれこそ何人か闇に葬っていそうな気はするのですが。
「でもゆりに声を掛けた時は凄く優しそうだったよね」
「本当だね、普段はもっと近寄り難い雰囲気なのに」
あっそうか、りみりんはお姉さん達のライブを観る為に
「それはあれじゃないかな、小学生のお孫さんに良く似てたとか」
まりなさん、いくら身長がちょっぴり低めとはいえ華も匂い立つ女子高一年生に向かって何を言っているのですかね?
まったく失礼極まりないですよって、何でわたしは女子高生である事を誇っているの? 何かもう男であった意識が段々と薄れていくのが本当に恐ろしくなってきましたよ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「りみりんのお姉さん達、もう最高にキラキラしてたね」
「やっぱり場数だよな、堂々としてるっていうか」
「わたし達も早くライブとかしてみたいよねぇ」
ライブを観終えた香澄と有咲が興奮も醒めやらぬといった顔で感想を述べ合う横で、りみりんはその姿を微笑ましそうに眺めていた。
一見すると和やかな光景だけど、わたしはりみりんの笑顔に一抹の違和感を感じてしまった。その笑顔はどこか力が無く、まるで他人行儀に遠目から眺めている様にも見える。
やはり避けられないのかな、原作では自らの内気さと自信の無さからバンドをする事から逃げ出そうとしたりみりんだけれど、わたしが居てもやっぱり流れは変わらないのかな。
「そういえばライブの後に、お姉ちゃんが控え室に顔を出してって言ってたよ」
「えっ⁉︎ 本当に⁉︎ わたし行きたい!」
「マジかぁ、何か緊張してくるわ」
ふふっと笑ったりみりんを先頭にして先輩達の待つ控え室へと向かう、スキップをしながらはしゃぐ香澄を、下着が見えそうだからと有咲が何とか抑え付けようと奮闘をしている姿が可愛らしいのですが、わたしはりみりんの様子がどうにも気になって仕方がありません。
りみりんが控え室のドアをノックしてから室内へと入ると形容し難い熱風のような物がわたし達の間を擦り抜けていった、ライブ後の残った熱というかライブに出演していた人達の想いというかそんな熱さを感じさせる空気が控え室の中を満たしていて少し緊張感が増してしまいます。
椅子に座っていたゆりさん達が手を振ってくれたので、側まで近寄ってお疲れ様でしたとみんなで声を掛ける。
「楽しかったぁ、みんなライブはどうだった?」
「はい! 皆さんとっても輝いていて、凄くキラキラドキドキしました」
ゆりさんの問いかけに香澄は両手を体の前で組み瞳をキラキラと潤ませながら喜びを伝え、わたし達もそれを見ながら何度も笑顔で頷いた。
「それなら私達も頑張った甲斐があるというものだわ」
どうやら七菜さんはライブの時は普段の眼鏡姿と違ってコンタクトにするようで、今は雰囲気が凄く大人っぽい美人さんと化していますね。
「ゆっちゃーん、わたしも褒めておくれ」
何とか耐えましたが思わず女の子みたいな悲鳴を上げそうになりましたよ、ほのぼのとした雰囲気に油断していて後からひなさんが迫っていた事に全く気がつきませんでした。
「少し物足りないけど、まぁこれはこれで」
あの何でお尻を鷲掴みにしているのですかねこの人は?
呆気にとられて動けないでいると、ひなさんはリィさんに頭を叩かれてから引き摺られる様に連行されて行きました。
「もうひなさん、ゆりに触るのはわたしの特権なんですよ」
「どんな特権だよ!」
香澄の冗談にツッコミを入れようとしたら有咲に先手を打たれてしまいました。流石は天然のツッコミ係、素晴らしいタイミングです。
まぁ確かにそんな権利を売り出した記憶は無いのですが、最近おかしいとは思っているのです、わたしは触られるよりも触る側の筈なのですよ。
「りみも早くライブが出来たら良いね、絶対に観に行くから」
「あっ……うん……」
りみりんは下を向いて弱々しく頷いた、いつもの恥ずかしがってという感じでは無くて心ここにあらずといった様子だ。
「りみ……?」
ゆりさんもりみりんの異変に気付いたのか心配そうに顔を覗き込んだ。
「あ、あの……わ、私……」
「りみりん!」
次に続く言葉をわたしは知っている、なるべくならそれを言わせたくはなくて無意識にりみりんの手を掴んだ。
その瞬間、閃光が走ったかの様に視界が白く染まり何も見えなくなってしまった。あまりの眩しさに思わず瞳を閉じてしまったけれど徐々に閃光が収まってきた段階で恐る恐る瞳を開けてみた。
なに? 何が起きたの?
目の前に広がる光景を表現すればそれはお菓子の森、木はフランスパンの様な見た目をしていて切り株はまるでバームクーヘン、遠くに見える山はチョココロネのようにぐるぐるとした形をしている。
視線を移すと輝くパン粉が敷き詰められた砂場に、りみりんがまるでお姫様の様な純白のドレスを身に纏って力なく座り込んでいた。
理解する事が難しい状況だけれど、とりあえずりみりんに声を掛けようとしたその時、頭の中に声の様なものが響き渡った。
『怖い、怖い怖い、誰かに観られるのが怖い』
それは確かにりみりんの声の様に聴こえる、だけど決して口から発せられた声じゃない、これは多分……りみりんの心の声だ。
『無理だよ、私には出来ない』
その声色は迷いと諦めに満ち溢れ、今にも押し潰されそうな悲しみの色に染まってしまっていた。
悔しいけれどやっぱりこの流れは避けられないのか、だけどりみりん、それでも敢えてわたしはこう言わせて貰うよ。
知ってた!
だけどわたしは諦める事はしない、例え
この世界線ではSPACEは既に存在していないのでSPACEのオーナーはオリジナル設定での出演になります。
当作品はオリジナル設定も多く原作を知っている方には少し混乱させてしまう事もあるかとは思いますが、パラレルワールドという逃げ道で許してくだされ。