せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
「神様、もしも私に魔法が使えたのなら、この窮屈な世界から羽ばたき自由に大空を舞う事が出来るのでしょうか?」
貧相な身なりに箒を携えた美しい少女は、漆黒に染まった空を眺めながらそう呟いた。疲れを宿した顔に寒さで微かに震える身体、終わる事のない労働に精神は徐々に疲弊していき、口から漏れるのは弱々しいため息のみとなっていた。
(この箒に跨って空を飛べたなら……)
魔法の才能に恵まれなかった少女は、自身の弱さに歯痒い想いを抱きながらも箒の柄を力無く握り締める事しか出来ずにいた。
(天空から光が、これって……)
漆黒の空から眩いばかりの光が少女を照らす、少女は思わず膝を着き両手を胸の前で組みながら祈る様に瞳を閉じた。
(もしかしたら天に私の願いが届いたのでしょうか、信心深く毎日のお祈りを欠かさなかった私をいつも見ていてくださっていたのでしょうか、あぁ神様お願いでございますどうかこの憐れな娘をお救いくださいませ)
その想いに応えるかの様にひとつの人影が歩み寄って来る、弱々しく座り込む少女はそれを天からの御使いかと瞳を輝かせ期待を込めた眼差しで迎えた。
「優璃ちゃん、片付けは終わった?」
「あっ、まりなさん掃除はだいたい終わりました」
薄暗い照明の中で
丁度気持ちが乗って来た辺りでスポットライトに照らされたので、恥ずかしげも無く物語のヒロインに成り切ってしまったみたいな演技をしてしまいましたよ。
「本当にすみませんでした、我儘を聞いて頂いて」
「いやぁ丁度この時期は週末しかライブイベントは無いし、それに何か面白そうじゃない?」
今回の計画をまりなさんに相談したら思っていたよりも簡単に了承をして頂けました、まぁ当然の事ですがそれなりの代償は有るのですがね。
魔法のホウキ扱いにしていた床拭き用のモップを掃除用具置き場に片付けてからまりなさんに近付くと、そっとわたしの肩に右手を置いてにこりと微笑んでくれました。
「それに使用料なら、ちゃんと優璃ちゃんが体で払ってくれるみたいだしね」
優しい笑顔が怖いです、いやしかし本当にまりなさんが女性で良かったですわ、もしも今の台詞を男の人から聞かされたら間違いなく泣きながら交番に駆け込むところですよ。
片付けも終えて二人で談笑をしながらスタッフルームに入ると、まりなさんの同僚で黒髪のポニーテールに優しそうなくりっとした瞳の『
ふわりと優しげな雰囲気にCiRCLEのロゴが入ったエプロンもよく似合っているとても綺麗なお姉さんなのです。
お礼を言ってから椅子に座り、柔らかな湯気と心が落ち着く芳香を放っている紅茶にゆっくりと息を吹き掛けてから口を付けます。
転生後に知ったのですが優璃ってかなりの猫舌なのです、以前に気付かず熱いスープに口を付けて漫画の様な叫び声を上げた苦い経験がありますので、流石に同じ失敗は出来ませんよ。
「あちゅ」
どうやらまだ熱かったみたいですね、再び数回程ふー、ふー、してから改めて紅茶を喉に流してみます、しかしこの鼻を抜ける香気はやはり紅茶の醍醐味ですね、とても美味しゅう御座いますよ。
ふとまりなさん達を見れば何故か二人共にわたしの方を見ながら笑顔で黙っています、しかも咲紀さんに至ってはまるで母親の様な慈愛に満ちた表情になっていますね。
「どうかしました?」
「いやだって、ねぇ?」
二人で顔を見合わせて笑っておられますがわたしには何が何やらといった気分です、もしかしたら額に肉という文字でも書かれているのですかね?
「いよいよ明日だね、優璃ちゃんの方は大丈夫なの?」
「準備は整いましたので、後は癪ですが神様に祈るしかないです」
まりなさんの問いに苦笑いで応える、いよいよ翌日に迫った『オペレーション・チョココロネ』を前にわたしの心は不安だらけだ。
無敵の主人公なら結末は全てハッピーエンドなのかもしれないけれど、わたしはどちらかと言えばモブキャラの立ち位置ですのでバッドエンドを迎える事も当然に有り得る話ですからね。
「しかし
「自分でも頭おかしいって思いますけれど、お祭りは派手な方が面白いじゃないですか」
咲紀さんが紅茶を飲みながら興味津々といった声色で訊いてきた、まぁ確かにライブハウスじゃなくても有咲家の蔵や学校を使うという手段もありますがそれでは足りないのですよ、優璃的に劇的成分が物足りないのです。
「愛する男の為に、って言うのなら少しは理解が出来るけれど友達の為にここまでするのは驚きだわ」
「咲紀ちゃんも私の為ならここまでしてくれるよねぇ?」
「まりなさんの為にですか……まぁ無いです」
「当たり前の事なんだけれど、何だかちょっとお姉さん悲しいよ!」
まりなさんのボケに年下であろう咲紀さんが無慈悲にツッコミを入れていくスタイルは中々に面白いですね、流石にCiRCLEの看板娘なお二人です。
ライブステージの使用料を甘く見ていたわたしに、まりなさんは此処でアルバイトをしながら返してくれたらいいよと提案してくださいました。
オーナーでもないのに何という豪気な方でしょうか、流石は皆のお姉さんと呼ばれるだけはありますよ。
「でもわたしみたいな音楽知識も無い高校生が、ライブハウスのアルバイトをしても大丈夫なのでしょうか?」
「それは大丈夫だよ、優璃ちゃんに求めているのはそういう事ではないから」
「では何を……?」
それはねぇと言いながら顔を見合わせた後に、お二人はとても良い笑顔でわたしを指差しました。
「CiRCLEのマスコットとしてだよ!」
「ご冗談は三十路を過ぎてから仰ってください」
「ちょっと咲紀ちゃん、優璃ちゃんが毒舌だよ」
「いえ、私にはまだ遠い話なので」
「私だってまだまだ未来の話ですぅ」
まったくもう、わたしがマスコットとは何を考えておられるのでしょうか。
良いですか、マスコットと呼ぶに相応しいのは可愛らしい見た目に愛くるしい仕草、そういったトニカクカワイイ存在なのです。
元男に愛くるしい仕草を求めるとか何の冗談ですかね、想像しただけでも鳥肌が立ちそうになりますよ。
「まぁ殆ど片付けとか掃除とかがメインだけれど心配しないで、慣れていくまでお姉さん達が手取り足取り優しくその体に教えてあげるからね」
あのぅ、やっぱり泣きながら交番に駆け込んでも宜しいですかね?
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
帰宅して食事を済ませてから翌日の打ち合わせの為に香澄の部屋に寄ったのですが、お恥ずかしい事にわたしにとっては初めての訪問になるのでかなり緊張してしまっているのを誤魔化す為に、如何にもリラックスしているかの様にカーペットにうつ伏せの姿勢で有咲とりみりんにメールを打っております。
香澄の部屋は女の子らしくカラフルで甘い香りが充満していて何だか心が自然と沸き立ちますし、カーテンやベッドシーツが全て星柄なのが如何にも星好きの香澄らしいですね。
「わたしにもアルバイトの話をして欲しかったなぁ、ゆりとアルバイトがしたかったなぁ」
「
うつ伏せの体の上にパジャマ姿の香澄が掛け布団の様に覆い被さりながらわたしの髪を弄って遊んでいます。
本来ならとても嬉しいシチュエーションの筈なのですが、わたしは香澄より体が小さい事もあって体重が伸し掛かるのがかなり息苦しいので勘弁して欲しいです。
「あぁ! お姉ちゃん優璃お姉ちゃんに何をしているの!」
扉を開けてこの光景を目撃したパジャマ姿のあっちゃんが、素早く動いて香澄を背中から剥ぎ取ってくれました。
ふぅ、呼吸も楽になりましたし助かりましたよあっちゃん、でも先程は扉をノックもせずにいつの間にか部屋に入って来てたよね、香澄もでしたが戸山家ではノックの習慣が無いのですか?
「もう、お姉ちゃんばっかりズルい」
香澄を剥ぎ取った勢いで何故かわたしも仰向けに転がされ、更に何故か丁度お腹の辺りにあっちゃんは頭を乗せて横になってしまいました。
「ちょっと違うかも」
何かが気に入らなかったのか体勢を立て直してわたしの左横にもそもそと移動してからわたしの腕を伸ばして腕枕の体勢で寝転んでしまい、おまけに伸ばした腕を自分の首に巻きつけて固定するという完璧さです。
満足したのかその姿勢のままあっちゃんは携帯を弄り始めてしまいました。
何ですかね、お風呂上がりで淡く漂う髪の香りといい温もりの色濃く残る体温といい、この妹は間違いなくわたしを殺しにきていますよ。
「ゆり、明日は頑張るからね」
「頑張らなくてもいいよ、りみりんとバンドがしたいっていう想いが出せたらそれで」
「りみりんの為に頑張っているゆりの思いに応えたいもん」
「りみりんだけじゃないよ、有咲の、香澄の為に頑張れるの」
「もう、格好良すぎだよ」
居場所を取られた香澄がベッドの縁に腰を掛けながら気合いを口にしてくれる、それにしてもこんな尊いオタクの無茶振りにみんなが優しく乗ってくれている事には感謝しかない、だからりみりんの為になる事を信じて、明日はきっと……。
「優璃お姉ちゃんは相変わらずお姉ちゃんの為に頑張るんだね、私にはあまり構ってくれないのになぁ」
「あっちゃん、大事な妹の事は忘れていないよ」
わたし達のやり取りを横目で見ていたあっちゃんが、拗ねた口調で不満を露わにしていますが可愛い妹の事をもう忘れたりはしません。
ただあっちゃん、首に廻してある腕を時折甘噛みするのは止めてくださいね、その度に心臓がドキドキとしてしまいますのでね。
「じゃあ優璃お姉ちゃん、今日は私の部屋で一緒に寝てね?」
えっと何を急に言い出したのですかこの妹は?
体を動かして上目遣いでお願いとか、わたしが男だったら確実に昇天してしまう台詞ですよ小悪魔系にも程があるってものですよ。
「あっちゃん駄目だよ、今日は久しぶりにわたしの部屋に泊まる予定だもん」
香澄が腕を組んでお姉さん風に言っていますが、そもそもそんな約束はしていませんよね?
「いっつもお姉ちゃんの部屋じゃん、たまには私も優璃お姉ちゃんと一緒に寝たい」
「お姉ちゃんも久しぶりだからね、これは譲れないよあっちゃん」
わたしを挟んで姉妹が火花を散らしておりますがどちらの部屋にも泊まったりはしませんよ、明日が本番なのにそんな事態になったら緊張して安眠など出来そうにもありませんのでね。
「いや明日の為に今日は帰るよ、お泊まりはまた今度ね」
二人が同時にえー、と不満気な声を上げる、こういうところは息がぴったりと合っていて流石は姉妹だなぁと思ってしまいます。
良いタイミングなので立ち上がり帰ろうとしたら、何故か香澄が自分の枕を抱えて一緒に立ち上がりました。
「もうしょうがないなぁ、それじゃ行こうか」
「ちょっと待ってお姉ちゃん、私も枕を持って来るから」
「いやいやお待ちなさい、そこの美人姉妹はいったい何をする気なのかな?」
二人は同時に首を傾げて不思議そうな表情を見せてくれていますが、まさか、まさかですよ。
「ゆりが帰るって言うから仕方なく泊まりに行こうかなって、ねぇあっちゃん?」
えっと二人共、わたしの話をちゃんと聞いてくれていたかな?
あっちゃんもこくこくと頷いていますけれど香澄の天然とは違って絶対に確信犯でしょ、駄目ですよひとつのベッドに川の字で寝るなどわたしの心臓が爆発して死亡確定の未来が見えるので絶対に無理です。
「わたしの部屋はシングルベッドだから三人で寝るとか無理だよ、明日の為にも今日は諦めようね」
わたしの説得を受けて香澄が眉間に皺を寄せて枕を強く抱きしめました、何とかこれで諦めてくれたら良いのですが。
「確かにゆりのベッドだと三人は無理だね、仕方がないからやっぱりわたしのベッドでみんなで寝よう」
「それしかないよねお姉ちゃん、優璃お姉ちゃんには私の枕を貸してあげるから私は優璃お姉ちゃんを枕にするね」
何故に人の話を聞いてくれないのですかねこの姉妹は?
あぁ神様、信心深くは無いので毎日のお祈りはしておりませんが少しは助けてくれませんかね?
オリジナル展開とはいえ、十万字近く書いてアニメ一期の三話分もこなしていないという事実に絶望しました。