せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
「顔は綺麗なんだよね、顔は……」
下着姿で姿見の鏡を凝視する。
身長が160cmを超える瑠璃に対して、優璃の身長はおそらくギリギリ150cmあるかないか。目尻の下がった優しそうな瞳の瑠璃に対して、優璃の瞳はパッチリと大きいがややキツネ目で少し堅い印象だ。
そしてドコとは言わないが、ボーンに対してショボーンだ。
いや、身長にしては大きさは意外とあるのかもしれない。だが比較対象が悪い、あれは反則的な大きさだと思います、はい。
ひとつだけ姉妹に共通点があるとすれば優璃も綺麗な黒髪ロングだ。お手入れは大変だけど、きっと優璃が大切にしていたんだろうなと思うとなんだか切る気にはとてもならなかった。
「……はぁ、まさか自分がブラを普通に付けているなんて、まったく信じられない」
もちろんブラなんか付けた経験なんてなかったのに、いざ付ける時は自然に体が動いた。いつもの事といった感じで腕が動いて無事にホックも止めれた。
なんだか不思議な感じだったけれど、それよりも男としてなんだか負けてしまったような気分になった事は秘密にしておく。
無事に退院できたわたしは後遺症もなく、自宅で療養する事となった。
自宅は二階建ての普通の一軒家、そこに姉妹二人っきりで住んでいる。
姉からは聞いていたが、るりゆり姉妹の両親は既に他界していた、しかもレアな飛行機事故でだ。だから病院でわたしが目を覚ました時に、瑠璃が泣きながら喜んでいた事も理解できた。
もし優璃が死んでいたら瑠璃は天涯孤独となっていた。家族を事故とはいえ全て失ってしまうなんて、とても心が耐えきれなかっただろう。それを聞いた時にはショボーンな胸がきゅうっと締め付けられる思いがした。
瑠璃の為にも大切に生きていこうと思う。
優璃にもらった命を大切に、『尊い』という至高の存在を眺める為にこの命を大事に使おうと思う。
ちなみに生活費は、両親の保険金や事故の見舞い金などで当面の心配はないらしい、瑠璃も大学に通いながら優璃の面倒を見ていたようだ。
ところで『るりゆり』って何かアニメのタイトルみたいな感じで可愛いな。
部屋の扉がノックされた後、瑠璃が着替えは終わったの? と言いながら部屋の中へと入ってきた。
ちょっと、わたし下着姿なんだけど、って姉妹だからいいのか。
「優璃大丈夫? 私が制服を着せてあげようか?」
「大丈夫だから、姉さんは下で待ってて」
瑠璃の背中を押しながら部屋の外へ押し出す。
事故にあった事が影響したのか、それとも元々そうだったのかは知らないけれど瑠璃はやたら過保護だ。
食事もぜんぶ瑠璃が作るし、先日はお風呂に入っている時に背中を流すねって言いながら全裸でバスルームに入ってくる始末だ。
わたしが女の子だからいいかと思っているのかもしれないけれど、そのツインミサイルは目の毒なので勘弁してくださいね、本当に。
万事がいつもこの調子だから、このまま甘やかされ続けたら『るりママ、バブー』状態になってしまいそうな気がするので、なるべく自分で出来る事は自分でやっていこうとは思っている。
今日がわたしの初登校だ、女子高なんてどんな世界か想像出来ないけれど香澄が居てくれると思うと力強いや、女の子と自然にコミュニケーションが取れるとかいう便利スキルは持ち合わせていないのでね。
新品の制服に体を通して少しテンションが上がる。
花咲川女子学園はワンピースタイプの制服でとても可愛い、着てみて思ったけれどデフォルトで結構スカート部分は短いんだよね。
姿見で後姿をチェックする。うん、可愛い。
ゆっくりと一回転してみる。うん、可愛い。
膝から崩れ落ちる。何をやっているのわたし、これじゃ普通に女の子じゃないの。
悲嘆に打ちひしがれていると、ガチャっという音がして部屋の扉が開いた。
「ゆり、ヨガでもしているの?」
「香澄ちゃん、とりあえずノックはちゃんとしようね」
首を傾げてわたしを見ている香澄ちゃん。
真新しい制服もよく似合っている、まぁゲームでいつも見ていたけれどね。
わたし達は公立の中学校から受験をして花咲川女子学園に進学したらしい。
なので二人共に制服は新品のお揃いだ。
そして香澄ちゃんが何故この部屋にノックもしないで入って来たかというと、香澄ちゃんの家はお隣さん、つまり優璃と香澄ちゃんは幼馴染みという訳だ。
るりゆり姉妹の両親が他界した時には、香澄ちゃんの両親に色々とお世話になったらしく今や家族同然の扱いらしい。
なんとも幸せな状況だけれどやっぱりオカシイ。ゲームにもそんなキャラは存在していないし、香澄ちゃんの幼馴染みと言っていいのはギリギリ肉屋の元気娘と、ギリギリアウトの妄想金髪ツインテールくらいだったはずだ。
ここは、わたしの知っている
「どう? この髪型似合ってる?」
香澄ちゃんの髪はトレードマークとも言える星型に結ってあった。二人で一所懸命に考えて作ったんだよねぇ、って意外と凄く面倒くさかった。
「似合っているよ、凄く可愛い」
「えっ? あっ? そ、そう? なんだかゆりに言われると嬉しい、かな」
おー、照れ顔いただきました、ありがとうございまーす。
こっちまで笑顔になっちゃうや、可愛いって罪だねぇ。
「えへへ、これでモテちゃうかな? ナンパとかされちゃうのかな?」
「香澄ちゃんは元々可愛いから、余計にモテるよ(女の子に)」
「えー、そうなのかなぁ。もしかしたら、ゆりよりも先に恋人が出来ちゃうかもよぉ」
なんだかやたらとこちらをチラ、チラ、と見てくるけれど心配しなくても大丈夫。わたしは彼氏を作らないし、あなたにも彼氏は作らせませんから。
あなたはバンドを組んで、メンバー達とキャッキャウフフしながら青春を過ごすの。わたしはそれを眺めて幸せな気分に浸る、これがわたしの青春なのですよ。
「ところでゆり、約束を忘れてる」
今度はわたしが首を傾げる、何か約束とかしてたかな?
香澄ちゃんは頬を膨らませて、わたしの腕を引っ張り抱きついてきた。うわっ、こういうところのキャラは一緒なのね。
それよりも、感触。制服越しとはいえ、柔らかな弾力が……。
「高校生になったら『
優璃はそんな約束をしていたのか。約束なら仕方がない、うん、これは仕方がないね、呼び捨て……てへっ。
「あぁ、ごめんね香澄、ってこんな感じかな?」
「……うん、ありがと」
今度は一転して満面の笑顔だ。こちらも釣られて笑顔になり、二人で思わず笑いあってしまう。
すると突然部屋にカシャ、という音が鳴り響いた。びっくりして入り口の方を二人で見ると、スマホを掲げた瑠璃が立っている。
「はいはい二人共、そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうよ」
「あぁ! ごめんね瑠璃さん。それじゃ行こ、ゆり」
「あわわ、ちょっと待って香澄」
香澄がわたしの手を引いて急いで部屋を出ようとするので、慌てて通学鞄を掴んで引っ張られるままに瑠璃の横を通り過ぎる。
「それじゃ姉さん、行ってきます」
「楽しんできてね。行ってらっしゃい」
相変わらずカシャ、カシャ、とスマホを鳴らせながら瑠璃は片手を振っている。何だかお母さんみたいだよ、るりママ。
玄関で座って靴を履いていると、香澄が待ちきれずに先に扉を開けてしまう。澄んだ春の日差しが差し込んできてちょっと目が眩んでしまった。
優しい光に包まれている香澄の姿を見ていると、何かが新しく始まる予感にショボーンな胸が高鳴る。
光り輝いている香澄がそっと手を差し出してきた。
「さあいこう、ゆり、わたしと一緒に」
「よろしく、香澄」
香澄の手を取り立ち上がる。玄関から出てなんだか花の甘い香りが漂う道を二人で並んで歩き始めた。
今日はクラス発表の日、あの子と香澄が初めて出会う大事なイベントが起こるはずだ。ここで躓くと香澄のクラス内カーストや、その後のバンド結成にも重大な問題が起きてしまう。
わたしは油断しない、香澄が彼氏がなんちゃらとか言い出す世界だ。
尊い世界は、絶対にわたしが守ってみせるんだから。
あの、とりあえず香澄さん、そろそろ繋いだ手を離してくれません?
同性とはいえ、童貞にはちょっと刺激的で心臓が痛いんですけど。