せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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20.独りじゃないから、一人じゃないから

 

 

『オペレーションチョココロネ』

 

 牛込(うしごめ)りみにバンドをさせたい委員会(会員一名)によって秘密裏に立案された本作戦は、周辺勢力の助力も有り順調な推移を見せていた。

 本作戦の最終目標は、あくまで対象者の自立による音楽活動の開始であり強要等の強引な手法は用いない事を前提としている。

 あくまでも目的は誘導であり、決して委員会の欲望を叶える為だけの手段で無い事は予め確認済みである。

 そして満を持して決行日を迎える事が出来たのは僥倖であり、私としても本作戦の成就を願っているのは間違いない。

 だが忘れてはならない、経験豊富な先達とは違い私達はあまりにも作戦遂行には素人である事を、例え魂が削り取られ孤高に叫び出したくなろうとも光放つ新世界の扉が開くその時まで、我らは決して血に塗れた歩みを止めてはならないのだ。

 

 全ては、尊き世界の為に……。 

 

(著、花咲川女子学園高等部 一年B組 市ヶ谷有咲)

 

 

 

「優璃さん」

 

ひたい、ひたいって(痛い、痛いって)

 

「勝手に人の名前を騙って変なレポートを書かないで頂けます?」

 

 

 休憩時間の一年B組でしおらしく自分の席に座っていた有咲に、左耳を引っ張られながら顔を近付けられて小声で凄まれております。

 せっかく授業中に必死に書き上げた文章を見せに来たのですが、有咲が普段とは違う口調を使っているところを見ると、どうやら未だにクラスの中では擬態である有咲猫を被り続けているみたいですね。

 B組のみなさーん、この猫被りは化けの皮を剥ぐと只のツンデレ金髪ツインテールの残念系美少女なんですよぉ、って充分過ぎるポテンシャルだったわ。

 

 

「心配しなくてもそこまで緊張はしていないから」

 

 

 耳から手を離して片肘で頬杖をついた有咲は、気怠そうな表情をしながらもあっさりとわたしの真意を見抜いてしまった。

 そういえば普段の雰囲気から忘れていましたが、確か有咲は学年主席くらいの学力がありますから洞察力はそれなりに有るのかもしれないね。

 

 

「どちらかと言うと、わたしの方が緊張しちゃっているかも」

 

「何それ、お前が緊張しても仕方がねぇだろ?」

 

「まぁそうなんだけどね」

 

 

 作戦などと高尚な言い方をしたって、今回のイベントはノリと勢いで突っ走るだけの計画性の欠けらも見えない代物だ。

 いや例えどれだけ綿密に計画を建てたところで所詮は絵に描いた餅でしかなく、秋の空模様のように移ろいゆく他人の心情なんてとても予測が出来る筈も無いのだけれど。

 

 

「そもそも何でりみにそんなに拘るんだ? まぁ私の時も多少強引だった気はするけどな」

 

「もし本当に嫌だったらそれでも良いんだ、でもりみりんや有咲はそうじゃない気がしたの……ってこれは言い訳だよね。本当はただ見たいだけなんだよ、香澄と有咲とりみりんが一緒にバンドをしている姿を」

 

 

 自分の考えが正しいだなんて思ってはいない、でも待っているだけで望みが叶うとも思ってはいない。

 自分の足で歩き出さなきゃ、どれ程の時が過ぎようとも瞳に映る景色が変わる事は無いのを知っているから。

 

 

私は優璃とも一緒に……

 

「んっ? 何か言った有咲?」

 

「何でもねぇ」

 

 

 頬杖で支えていた顔をふいっと逸らされてしまいましたが、有咲の紅く染まった顔色から察するにきっと照れながらもわたしを励ます言葉を掛けてくれたのでしょうね、本当に優しい女の子ですよ。

 

 

「とにかく、今回の事が失敗したってメンバーが三人からニ人に戻るだけでゼロになる訳じゃないだろ、りみとは友達なんだからどう転ぼうがもう私達は『一人きり』に戻る事は無いんだからな」

 

「ほほぅ、有咲それって……?」

 

「訊き返すな、いいから早く香澄の所へ戻れよな」

 

「うん、色々とありがとうね」

 

(うるさ)い、ウザい、早く行け」

 

 

 背中に掛かる棘のありそうな言葉も優しさの音色を奏でていた。

 そうだよね有咲、もうわたし達はひとりじゃないし、りみりんだって決して独りきりにはさせたくないから。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 放課後の夕陽に染まるライブハウスCiRCLEに併設してあるカフェテラスで、今回の主役であるりみりんと待ち合わせをしております。一応の名目上はわたし達がグリグリの練習を見学したいという事でCiRCLEに集合となっているのです。

 バンド入りを断ってからわたし達の輪に近寄り難そうにしていたりみりんですが、お姉さんのゆりさんからわたし達の面倒を見るように頼まれてはなかなか断れないという事は計算済みなのですよ。

 

 

「優璃ちゃんお待たせ、香澄ちゃん達は?」

 

「どうやら香澄達は待ちきれずに先に入っていったみたいだね」

 

「ふふ、香澄ちゃんらしいね」

 

 

 制服姿のりみりんがいつも通りのふんわりとした笑顔を見せてくれていて何だか申し訳ない気分になりますが、これからの一大ドッキリ企画の為には心を鬼にしなければなりません。

 緊張を隠しながらお店の中へと入り、いよいよリセットボタンもセーブポイントも無い一発勝負の大芝居の始まりですよ。

 受付に居るまりなさんに目配せしてからりみりんの手を引いて、練習スタジオではなくライブ用のスタジオに向かって歩き出した。

 思わぬ方向へと歩くわたしに戸惑いながらそっちじゃないよと言ってくれるりみりんへ、なるべく感情を表に出さない様にして今日はこっちみたいだよと応える。

 わたしの心臓は驚く程に早鐘を打ち鳴らし、りみりんの顔さえもまともに見れないくらいに緊張しているけれど、結局あの精神世界ではりみりんの手を掴めなかった事を忘れてはいないから、いま握り締めたこの手を見失いたくはないし絶対に離したくもないのです。

 

 普段より重く感じる扉を開けて薄暗い部屋に入ると、ステージの上で眩いスポットライトに照らされた制服姿の女の子が二人、深紅の星型ギターを装備した香澄とその斜め後方にはキーボードと共に有咲の姿が浮かび上がっていた。

 

 

「優璃ちゃん、これって?」

 

「りみりん、ライブを観よう」

 

 

 りみりんの背中を押して部屋の中央まで連れて行き、後から抱きしめる形で逃げられない様にした。

 後は主人公たる香澄、それに相棒たる有咲を信じるしかない。

 いや違う信じるんじゃないわたしは確信しているんだ、どれだけジグザグで大変な道であろうとも香澄達なら未来への道程を決して見失ったりはしないって。

 

 静寂に包まれたステージに立つ二人は、柔らかく瞳を閉じていた。

 誰かを想うように、何かを伝えたくて、何かを知って欲しくて。

 そのまま数度の深呼吸の後、香澄は瞳を開けてスタンドマイクの前に歩み寄った。

 わたしも香澄が歌うのを見るのは初めて、少し興奮して身体が震えてしまうよ。

 さぁ行こうみんな、煌めく星空は無いけれどわたし達だけの空を切り開いていこう!

 

 

ーーライブハウスCiRCLEへようこそ!

 

 

 マイクを通して初めて聴く声は、どこまでも優しくて伸びやかだった。

 やっぱりステージに立つ香澄は何処か特別だ、いつもは明るい天然系だけど今の姿は世界中の誰もが一瞬で恋に落ちちゃう様なポップでゴキゲンなロマンティック女子だよ。

 

 

ーー聴いてください! トゥインクル・スターダスト!

 

 

 スタンドマイクから半歩下がってピックを構えたのを合図に、有咲がキーボードで優しく伴奏を始めた。

 ピアノの経験は有ってもキーボードの経験は無いって言っていたのに、その指先は踊るように滑らかな動きをしている、口にしないだけで沢山の練習をしてくれたんだろうなと思うよ。

 やがてキーボードの音色にタイミングを合わせるように香澄がピックを振り下ろすと、アンプから唸るようなギターの叫び声が流れ始めた。

 まだ三つのコードだけの演奏なのに、充分に聴ける仕上がりになっているのはグリグリの人達が色々とコード進行を考えてくれたからと聞いている。

 そして何より、香澄達がりみりんの為に必死になって練習をしていたのも知っている。

 

 

トゥインクル♪ トゥインクル♪ ひーかーるー♪ おーそーらーでーひーかーるー♪

 

 

 香澄の歌声は綺麗というよりかは暖かくて、心の深いところが何だかゆっくりと溶かされていきそうだった。

 伸びやかな声を支えるようなランダムスターの音色が気持ちいい、深紅の星型ギターはそこに有るのが当然みたいな顔で香澄の胸元に収まっていた。

 

 

わーたーしーはーうーたーうー♪ どーきーどーきーしーてーるー♪

 

 

 りみりんを抱きしめている腕を離して隣に並んだ、この演奏を彼女がどう感じてくれているのかはわからないけれど、夢中でステージを眺めている横顔は観客というよりは演者の視線で観ている表情に感じる。

 

 

トゥインクル♪ トゥインクル♪ ひーかーるー♪ おーそーらーでーひーかーるー♪

 

わーたーしーのーうーたーがー♪ とーどーくーとーいーいーなー♪

 

 

 有咲がしっかりとリズムキープをしてくれているおかげか香澄も落ち着いてギターを弾けているみたいだ。

 二人とも素敵だった、踊っている訳でもないのに音楽をするのが楽しいという想いが輝きと煌めきとなりながらその身から放たれ暖かな音を紡いでいく。

 

 

ぐーるーぐーるーまーわーるー♪ おーそーらーのーほーしーよー♪

 

 

 演奏が終わりギターの減衰していく残響が暗闇の中へと吸い込まれステージの上には再びの静寂が訪れた。

 ステージには三つのスポットライトが光の柱を造っていた。

 ひとつは香澄、もうひとつは有咲、そしてもうひとつにはピンク色のボディも可愛い四弦ベース、ゆりさんに持って来てもらったりみりんの愛用ベースを照らしている。

 ステージの最前に立った香澄がりみりんに笑顔で語り掛け始めた。

 

 

「りみりん! びっくりしてくれた?」

 

「もう香澄ちゃん、色々と手が込み過ぎだよ」

 

 

 頬を掻いて照れ隠しをしている香澄を見つめるりみりんの表情は、苦笑いながらも何だか楽しそうだ。

 

 

「やっぱり本番って緊張しちゃうね、いっぱい練習した筈なのにいっぱい失敗しちゃったよ」

 

「香澄ちゃん、だから私には……」

 

「でもね、後に有咲が居るって思ったら何だか頑張れたの、自分には仲間が居るって自分は独りじゃないって思えたから最後まで頑張れたんだ、だからりみりんが居てくれたらきっともっと心強いと思うしりみりんにもそう思って欲しい」

 

 

 香澄が勢いよく右手を差し出した。りみりんにとってもpoppin'party(ポピパ)にとっても大事な架け橋となる連結器、その手を取ったらきっと何処まででも走れるし何時までだって夢が見れるに決まっている。

 そっとりみりんの背中に両手を添えた、もうきっとりみりんは気付いていると信じてるから後は少しの勇気を載せてあげるだけだ。

 

 

「りみりん、怖いと思う時には周りを見て、横にも後にも観客席にもいつだってわたし達が居るから。何度だって躓いたって良いじゃん、みんなで失敗を笑い飛ばしながら行こう」

 

 

 貴女はこちら側に居るべき人じゃないから、だから最初の踏み出しはわたしからのプレゼントだよ。

 小さくほんの僅かに頷いてくれたのを見届けてからそっと両手でりみりんの背中を押すと、一瞬だけこちらを振り向いてから香澄達の方へ歩み寄って行った。

 そうだよりみりん、ポピパのみんなを側から眺めて百合百合しい気分に浸るのはわたしの役得なのですからね、これは誰にも譲る気は無いのですよ。

 

 

「だから……楽しもう、りみりん」

 

 

 香澄の手を取ってステージへと上がったりみりんは自らのベースを装備すると手早くチューニングを済ませてふぅっと息を吐き出すと香澄達に向かってしっかりと頷いた。

 やがてアンプからベースの低音が響きだす、音符という名前の小人さん達が規則正しく行進しているようなビートだけど、所々で跳ね回る小人さんの遊び心がとても楽しい、思っていたよりもりみりんってベースが上手で驚いてしまったよ。

 りみりんのベースに有咲のキーボードの音色が重なる、それを見つめていた香澄に二人が合図を送り香澄もスタンドマイクの前に立ってギターを構え、軽く深呼吸をしたステージの三人が観客席に立つわたしに視線を向けてくれた。

 その視線に応える為に右手を勢いよく突き出した、勿論親指は全力で天に向けてね。

 

 

「やったね、ゆっちゃん」

 

「ゆりさんも色々と有難う御座いました、りみりん大丈夫ですかね? ちゃんとした答えは訊いて無いですけど」

 

「りみの顔を見たらわかるよ、何か吹っ切れた表情をしているからね」

 

「そうですか……」

 

 

 香澄と有咲の演奏にベースという土台が加わった事でそれぞれの音が混じり合う感覚がさっきとは段違いだった。

 ステージベースを奏でているりみりんも本当に楽しそうな顔をしている、どうやら『オペレーション・チョココロネ』は何とか成就してくれそうですね。

 安堵感からふうっと身体から力が抜けてしまいそうですが、何とか堪えてゆりさんと三人の演奏を眺め続けた。

 

 

 独りじゃないから、周りにはキミを見ている仲間が居るから。

 

 一人じゃないから、躓いて転んでもきっと誰かが手を引っ張ってくれる筈だから。

 

 ひとりじゃないから、誰かの手を引いてあげたいと思えるんだ。

 

 

 りみりんの精神世界でパン粉の砂地に飲み込まれる時に最後に聞いた彼女の心の声を、わたしは信じきる事が出来て本当に良かった。

 

 

 その時にわたしの耳にはハッキリと聞こえたんだ。

 

『それでも私は、みんなとバンドがしてみたい』

 

 力強い、確かな想い、恥ずかしがり屋さんの奥底に眠る素直な感情がね……。

 

 

 

 

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