せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
今回の作戦はりみりんのバンド加入という形で無事に幕を降ろす事が出来た。
しかしあまりにも事が上手く運び過ぎるので、もしかしたらわたしにも物語の主人公的な運命補正力でもあるのではないかと少しだけ調子に乗ってしまいそうですよ。
香澄達とステージの後片付けをしている間も笑顔が止まりません、床を滑るモップも心なしか普段より踊るように軽く感じられてしまいますね。
「あんた達、ちょっといいかい」
やたらと落ち着いて据わった声が聞こえてきて思わず体が固まってしまいました。調子良く浮かれまくっていた頭にまるで冷水を浴びせ掛けられた気分のまま、ゆっくりと声のする方へ視線を向けると詩船オーナーが杖を付いた姿勢でこちらに鋭い視線を送っています。
雰囲気からするとお怒りになられているのでしょうか、マズイですよ表情に笑顔の一欠片すらも伺えません。
「まったく、此処はライブハウスで学芸会の発表をする為の場所じゃないんだよ」
「いや、あのオーナー……」
言い訳を述べようにも何も言葉を紡ぐ事が出来ない、確かに言われている通りでライブハウスのステージを私用で好き勝手に使っていた事は否定しようもない事実だ。
急いでオーナーの元に歩み寄る、これはわたしがひとりで考えて行った事なのだから叱られるのはわたしだけで良い、何とかみんなには迷惑が掛からないようにしないと。
「オーナー、これはわたしが」
「月島から聞いているよ、あんたが言い出したんだってね」
「そうです、だから悪いのはわたしだけなんです」
「誰も悪いなんて言ってはいないさ」
わたしを見つめるオーナーの視線が鋭さを増して心の中に突き刺さるみたいに痛いけれど、視線を外したら駄目だ。
「音楽はやりたいヤツが好きにやれば良い、ただ此処はライブハウス、観客を相手にステージを魅せる場所なのさ、勘違いをしてもらっちゃ駄目だね」
「それは……御免なさいです」
「だからあんた達にはペナルティーを受けてもらうよ」
心配したのかみんながわたしの後方に集まって来てしまった、駄目だよこの責任はわたしだけが被るの、みんなには関係ない。
「あんた達がバンドを組んでこのステージに再び立ちたいのなら、その前に私のオーディションを受けてもらう、それが今回のペナルティーだ」
「そんな待ってくださいオーナー、罰ならわたしだけが受けますから、みんなは悪くないから」
「確か
俯いて両手の拳を強く握りしめる、本来なら周りを楽しませるのが道化師の役割なのに自分の浅はかな行動のせいでみんなに迷惑を掛けてしまうなんて情け無い、これじゃ調子に乗った只の
「わかりました、絶対にわたし達はオーディションに受かってみせます!」
力強い言葉に驚いて顔を上げると、いつの間にかわたしとオーナーの間に香澄が割って入っていた。
「受かれば良いんだろ、面白そうじゃねぇか」
「わ、私も頑張ります!」
両隣りを見れば有咲とりみりん、三人とも揺るがない視線をオーナーに向けていた。
「良い返事だ、その時が来たならいつでも声を掛けな」
少しだけ微笑んだオーナーはわたし達に背を向けるとゆっくりと出口に向かって歩き出した。
「美月!」
「はひっ⁉︎」
急に歩みを止めて名前を呼ばれた事で、展開に思考が追いついていなかったわたしは思わず間抜けな返事をしてしまった。
「後悔をするのならやりきった後に存分にすれば良い、どんな結末を迎えるかなんて走り始めたばかりのあんた達に解る訳がないだろう」
オーナーが杖を右手で強く床に打ちつけると静寂に包まれた部屋の中に甲高い音が響き渡り、その衝撃波がまるで弾丸の様にわたしの胸を撃ち抜いて通り過ぎていく。
「だから俯かずに顔を上げて周りを見な、自分が押した背中達がどんな音を紡いでいくのかをあんたは最後まで見守る義務がある筈だ、それが行為の代償である責任ってやつなのさ」
有咲とりみりんが肩に手を添えてくれる、香澄も振り向いて力強い瞳のまま頷いてくれた。
参りましたよ、自分が何とかするとか責任を取るとか本当に調子に乗って自惚れていたみたいだ、結局はわたしの方がみんなに支えられているなんてね。
肩の力を抜いて息を吐き、みんなを見渡してから再び大きく息を吸い込んだ。
「はい! 必ずみんなをステージに立たせてみせますよ」
「まったく引退したっていうのに、これはどうやら月島に上手く乗せられたようだね」
オーナーは此方を振り向かないまま再び歩き出した、その背中を四人で見送りながらわたしは暗く底の見えない天井を仰ぎ見た。
きっとこれからも誰かを助けようとしたり、男だった癖に情け無く誰かに助けられたりもするのだろう。
わたしは
だから何度だって転んだって良いんだ、顔や服が泥だらけになったって肘や膝を擦りむいたって、その痛みが自分は歩いているっていう証になってくれるのだから……。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「あう、あうぅぅ」
「はい優璃、何よさっきからどうしたの?」
実家のダイニングテーブルに突っ伏したまま唸っているわたしに、
はぁもう今日の取り乱した自分を思い出していたら、情け無いやら恥ずかしいやらで顔が赤色矮星の様に赤くも熱くもなるってものですよ。
「何かさぁ、格好つけても自分はまだまだお子ちゃまなんだなぁって」
一連の出来事を説明すると、眼鏡姿の姉さんはマグカップを両手で包み込みながら優しく微笑んでくれた。
「でも良かったじゃない、そのりみりんていう娘もバンドをしてくれる事になったのでしょう」
「そうなんだけど、結局わたしがやった事でみんなに迷惑を掛ける形になったし、もうちょっと格好良く決めたかったというか」
「優璃が色々と考えて頑張った事がちゃんと伝わってみんなが一歩を踏み出す切っ掛けになったのならそれで充分じゃない、例えそれが格好悪い姿だって結果としての価値は変わらないわ、それにね……」
カフェオレの入ったマグカップを口に運んでから姉さんは言葉を続けた。
「どんなに無様な姿でも現実的では無い無茶だと思える行動も、友達の為なら損得なんて考えずに走れてしまう。それはきっと今という時期しか出来ない事だから、恥ずかしいとかそんな事は大人になってから思い出として語れば良いのよ、だからまだまだ走り続けなさい。青春ってきっとね、馬鹿馬鹿しい事を全力で楽しめる時間なのだと思うわ」
優しく頭を撫でられる、本当に姉さんは大人なのにわたしは駄目だなぁ、解ってはいるけれど何だかちょっと悔しくて情け無い気分になるや。
「青春か……ところで、何でしれっと隣に香澄が座っているのかな?」
「えっ⁉︎ 何と言っても瑠璃さんは姉としての見本だからね」
「いや質問の答えになってないし」
何故か香澄が当たり前のように隣でカフェオレを啜っておりますが可笑しいですね、今日は我が家に誘った覚えはまったくないのですが?
「御免ね香澄ちゃん、優璃が色々と無茶をしたら宜しくね」
「任せてください、わたしがちゃんと側で見張っていますから」
「おやおやお二人さん、わたしのイメージが少しオカシクないですかね?」
二人が楽しそうに笑っていますが何なのですかね、本来なら暴走キャラは香澄でわたしが抑え役になる立場の筈ですよ。
「ところで香澄ちゃん、お風呂は入ってきたの?」
「いえまだです。着替えは持って来たのでゆりと一緒に入ってしまいますね」
「いやいやいやいや香澄さんや、ツッコミドコロが満載だけどとりあえず何故にお泊りが確定しているのかな?」
「別にいつもの事だよ? それよりも早くお風呂に入ってしまおうよ、今日は色々と頑張ったから疲れたでしょ?」
香澄と一緒にお風呂……?
香澄の全裸? 香澄の胸? 香澄のお尻? 香澄の……。
いやいやいやいやそんな事になったら目が血走って鼻息も荒くなるから、間違いなく挙動が怪しくなり過ぎて変に思われるから無理ですわ。
「か、香澄さん、わ、わたくしお風呂は一人で入りたいお年頃なんですぅ」
「えー、中学生まではよく一緒に入ってたじゃん」
「そうなの香澄ちゃん聞いてよ、優璃ったら最近は恥ずかしがって一緒に入ってくれないの、お姉ちゃんもねすっごく寂しく思っているのよ」
わたしは男だった時でもひとりでお風呂に入るのが好きだったのですが、もしかして女の子同士は一緒にお風呂に入るとかが当たり前の世界なのですかね?
正直に言ってしまえば確かに香澄の裸は見たいですけれどそんな度胸はありません、わたしは純真なのですよ決して臆病者という訳ではないのですよ!
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
お風呂から上がって部屋に戻ると、薄暗い照明の中で白いスウェット姿の香澄がわたしの勉強机をじっと見つめていた。もしかしたらお風呂に乱入してくるかとも思って戦々恐々としていましたが、どうやら大人しく部屋で待っていてくれたようですね。
「照明もっと明るくしたら良いのに、何を見ているの?」
香澄に声を掛けながら窓際まで歩いてカーテンを開ける、今日は空が澄んでいていつもより綺麗な星明かりが世界を明るく照らし出していた。
「ゆり、これを見て」
香澄は机の前壁に貼っているコルクボードに色々な写真と共に飾ってあった星型のイヤリングを手に取ると、愛おしそうに両手の掌に乗せたままわたしの横に並んだ。
「覚えてはいないと思うけれどこれはね、半分しか無い半端なイヤリングなんだ」
確かにずっと不思議には思っていました、片方しかないのにわざわざビニール袋に入れてまで大事そうに飾ってあった事が。
「これのもう片方はわたしの部屋にあるんだよ。昔にね、わたし達は二人で一つだよって一組のイヤリングを片方づつ持ち合う事にしたんだ」
「そうなんだ、ゴメンねそんなに大切な事を忘れちゃってて」
「それは仕方ないよ、だからまたイヤリングに約束してくれる? わたしとゆりはこれからも大切な友達で最高の幼馴染みだって」
「約束しますよ、このイヤリングに誓ってね」
窓から差し込む星明かりに照らされながら香澄は心から嬉しそうな笑顔を作った、淡く光るその表情は本当に可愛いくて、この笑顔を守りたいって本気でそう思えてしまった。
「あっそうだ香澄、ちょっと手を貸してくれる?」
香澄は少し恥ずかしそうに手を差し出してくれた、いやせっかくなのでわたしの特殊能力を試してみようかと思っただけなのです、決して香澄の内面を覗いてみたいとか下衆な欲望を発揮している訳ではないのです、あくまで研究の為であり能力の把握をする為の実験なのですよ。
心を落ち着かせてからゆっくりと香澄の柔らかい手を包み込む、すると……。
「あれっ?」
再び握り直してみる、二度、三度と握り直してみる……。
マジで、か、み、さ、ま、ゆ、る、す、ま、じ!
手を握っても全く
「もう、ちゃんと離れないように握ってよ」
指を絡めてしっかりと握り締められてしまいました、あのぅわたしこの握られ方はとっても恥ずかしくて少し苦手なんですけど。
「これからもちゃんとわたし達を……わたしを見ててね、ゆり」
「もちろん! ちゃんとみんなをステージに立たせるってオーナーにも約束しちゃったし、これからも全力で頑張りますよぉ」
香澄を、poppin'partyのみんなを絶対にあの輝くステージに立たせてみせる、そんな小さな夢とも言える新たな決意を大切な幼馴染みの横顔に誓った。
「ゆりの……バカ……」
えぇっ⁉︎ さっきまで最高にほのぼのとした雰囲気に包まれていた筈ですよ、何故にわたしは急に怒られているのでしょうか。
ちょっと神様、女の子が見せる急な機嫌の変化って、女の子になってみても少しも理解が出来ないのですがどうしたら良いのか教えて貰えませんかね?
香澄さんの暴走キャラを優璃さんに移植してみたら、どうやら香澄さんが只の美少女ヒロインになってしまったようですが果たして許されるのであろうか。