せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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正月用の読み切り短編です。

本編と直接の繋がりは無く、時系列も無視した独立短編となっております。
本編との相違でややこしいかもしれませんので程よい時期にこの話は削除する事になるかとは思いますが、それまで楽しんで頂けたら幸いです。

独立短編という事もあり、主人公が本編よりもアホの子になっていますがギャグテイストで書いたのでそこはお許しください。

 
 



【2021お正月短編】

 

 

 そう、この時ばかりは幼馴染とかご近所とかは関係ないのです。

 今まさに戦場に立つわたし達に情けなどある筈もありません。これは血と涙と生と死と己のプライドを秤に掛けた、年に一度のサバイバルなのですよ。

 もはや自分でも何を言っているのか解りませんが此処は戸山家のリビング。

 そしてリビングテーブルの上には夢が詰まっている筈のポチ袋が六つほど燦然と輝いております。

 

 テーブルの前にはわたし、香澄、あっちゃんのお年頃三人娘。

 そして今日は一月一日の元日、つまりこれはお年玉争奪戦であり今年の運を占う重要な行事なのですよ。

 

 

『戸山家、美月家合同お年玉争奪大会ルール』

 

 1、ひとつづつポチ袋を選んで各人二袋、計六袋のお年玉で運勢を占う。

 2、お年玉の内訳は一万円が四袋、五千円が一袋、千円が一袋の内訳とする。

 3、選ぶ順番はじゃんけんで決めるとする。

 4、二週目は逆の順番で選ぶとする。

 5、触る等の行為は違反、見た目だけで選ぶ事。

 

 

 わたしは知らないのですが去年までは一万円は二つだったのが高校生になったという事で増額となったらしいです。これは今年あっちゃんが高校に進学するので来年はもっと期待出来そうですね、むふふ。

 既に選ぶ順番はわたし、あっちゃん、香澄の順番で決まっております。

 さてそろそろ始めるとしますか、いくら幼馴染の二人とはいえ情け無用でいかして頂きますよぉ!

 

 気合を入れてポチ袋達を凝視すると、惑わせる為か色々と手の込んだ罠が仕掛けてありますね。

 二つは無地で何の変哲も無い物、一つは牛のイラスト入り、一つは花丸マークが書いてある物、一つは『ハズレ』と書いてある物、そして最後の一つはやたらと分厚い物。

 

 

『一週目: それぞれの旅立ち』

 

 顎に手を添えてじっくりと考えます。普通に考えれば怪しいのは『ハズレ』の袋と分厚い袋ですね、特に厚い方は遊び心がある姉さんなら千円札が十枚入っていると見せかけて中には白紙の紙と千円札が一枚だけという事も充分に有り得ますからね。

 

 早くしてというあっちゃんの冷たい視線を浴びながらも最初に選ぶのはズバリ、花丸マークの袋ですね。こんなに派手な印なのでまぁ無難に一万円で間違いは無いでしょう。

 あっちゃんは無地の袋を、香澄は牛のイラスト入りの袋を迷いも無くそれぞれ選びます。おやおやお二人さん此処は戦場ですよ、確かな戦略と慎重な行動が無ければ待っているのは爆死という凄惨な未来だけなのですよ?

 

 

『二週目: 残り物には福がある……はず』

 

 さて二週目に突入し今度は香澄からのスタートとなります。どうやら今回は選ぶのに迷っている様なので、ここらで少し揺さぶりを掛けておきますかね。

 

「意外と裏をかいて『ハズレ』とかに良いのが入っていそうだよね」

「うーん、そうなのかなぁ?」

 

 香澄はわたしの言葉を受けて『ハズレ』の袋を手に取った。

 マジか素直過ぎるでしょ、どれだけ良い子なのよちょっぴり心が痛んだわ。

 でも御免なさい香澄、これは非情な勝負なのですよ油断したら死あるのみなのですよ。

 もしもその袋が千円札だったのなら、この後に行く初詣ではわたしが沢山奢ってあげるから許してね。

 

 一番危険そうな地雷が撤去されて残るは二つ、しかし目指すからには最高額の二万円を狙うのは女の子なら当然です。

 順番が廻ってきたあっちゃんも眉間に皺を寄せて悩んでいる表情を見せています。

 わかりますよあっちゃん、分厚い袋は露骨に怪しいですし無地の袋が二つとも一万円というのも少々疑わしいですからね、ようはどちらの危険度が高いのかという話ですよ。

 

 先程のやり取りを見ていたあっちゃんに迂闊な振りは通用しない予感がするので、今回は目線を使ってそれが欲しいんだよぉアピール作戦をしようと思います。

 じぃ、じじじぃっと無地のポチ袋を凝視します。これだけアピールをすれば優しいあっちゃんならきっと気を遣って分厚い袋の方を選んでくれる事でしょう。

 

 とその時、まるでアニメのスローモーション映像を見ているかのようなゆっくりとした動きで、わたしの視線の先を細くて綺麗な指が通り過ぎて行った。

 

 まっ、まさかです……。

 

 わたしもスローモーションのような動きであっちゃんに視線を送ると、彼女はこちらを一瞥(いちべつ)する事もなく真っ直ぐな視線で一直線に無地のポチ袋へと手を伸ばしています。

 

 こ、こちらを気にもしていないですって……仙人か、それとも解脱したのかあっちゃん!

 

 作戦も虚しく無地のポチ袋は取られたのですが、危険度から言えばさしたる違いもないので勝負は引き分けという事にしておきます。

 いやむしろここからが本番です。二万円と一万五千円では大きな差がありますからね、期待でショボーンな胸も高鳴るってものですよ。

 

 

『結果発表』

 

 1、一週目開封。

 

 戸山香澄選手、牛さんポチ袋、一万円。

 戸山明日香選手、無地ポチ袋、一万円。

 美月優璃選手、花丸ポチ袋……。

 

『忍耐は苦い。しかし、その実は甘い。by野口英世』

 

 

 英世さんこんにちは、じゃねぇぇぇぇ!

 

 

 いや偉人ではあるけれど今はお呼びじゃないですぅ、凛々しい肖像画ですが今は出てこないでくださいよ、あぁもうよりにもよって千円札を引くとか何の報いなのですかぁ!

 

 2、二週目開封。

 

 戸山香澄選手、ハズレポチ袋、諭吉さん。

 戸山明日香選手、無地ポチ袋、諭吉さん。

 

 

 オウッ! ノオォォォォォォォォ! ガッデム!

 (意訳:マジっすか⁉︎)

 

 

 開封する迄もなく残された結果はもう五千円のみ、つまりは今回の設定最低金額である六千円を引き当てるという神引き、いや悪魔引きだわこんなの。

 涙目になりながら分厚い袋を開けて樋口さんを眺めるとしましょうか。

 えっと、英世、英世、英世、英世、英世、確かに五千円で間違いないですね。

 

 

 ってここでも貴様か英世ぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 この世の絶望を味わったわたしはリビングソファーにうつ伏せの死体となって横たわるしかありませんでした。

 香澄とあっちゃんがゆさゆさと揺すりながら慰めてくれるのですが、こんな欲望に塗れた敗者にはこれがお似合いの姿なのですよ。

 

「あけまして、おめでとうございます」

 

 天使のような爽やかな声が玄関の方から聞こえてきます。これは沙綾の声ですか、そういえば今日はポピパのみんなと初詣に行く約束でしたね。

 おめでとうございますという明るい声がリビングの中を行き交います、えぇわたしは先程おめでたくはない出来事に見舞われたばかりなのですがね。

 

「うわっ、何これ優璃どうしたの?」

「優璃ちゃんまだ寝てるの?」

「起こす時には首の後ろを掴むんだよ」

 

 驚く有咲は理解が出来ますが、りみりんとおたえは何を言っているのですかね?

 

「うーん、それがねぇ」

 

 香澄が一通り説明をすると、沙綾がわたしを抱き起こしてから横に並んで座った。

 そのまま頭に手を廻すと、自分の傾けた頭へこちんと優しく当てた。

 

「大丈夫、この先はきっと良い事が沢山あるよ。私達と一緒に楽しい思い出を数え切れないくらい作ろう」

「沙綾ぁ、ありがとう」

 

 触れ合う頭を通じて沙綾と心を通じ合わせる。優しい友達に囲まれてやっぱりわたしは幸せ者なんだと思い知りますよ。

 いやそれよりも香澄とあっちゃんは何故に頬と脇腹をそれぞれ抓っているのですかね、とても痛いですし今はとっても尊い場面だと思うのですよ。

 

 

 準備を終えて初詣に行く為に家から外に出ると、澄み渡った青空とはいえ凍えるような冷たい風が容赦なく全身を包み込みます。

 帽子も手袋も着けているのに、指先の感覚が麻痺してしまう程の寒さに体も思わず縮こまってしまいそうです。

 

「優璃お姉ちゃん、早く行こう」

 

 あっちゃんが満面の笑顔で腕を絡めて寄り添ってきます、可愛いらしい妹の笑顔に先程までの敗北感もすっかり消え去ってしまいますね。

 前を歩くポピパの五人も本当に仲が良さそうで、わたしはこの五人を眺める事がやっぱり大好きなようです。

 

「ゆり、あっちゃん、早く早く」

 

 香澄の弾んだ声に手を振って応えます、おっと新年の抱負をまだ言っていませんでしたよ。

 

「今年も神様許すまじ、これで勝ったと思うなよぉ!」

 

 叫んだ声は澄んだ青空の彼方に吸い込まれていきます。驚きながらも笑うみんなの姿を見ながら、今年も良い一年になる事を心の中で願うのでした。

 

 

 あっやべえ、これから初詣に行くのに神様の悪口を言っちゃった。

 

 

                      おしまい。

 

 

 

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