せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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早いもので小説に触れるようになって一年が経ちました。

 


 


25.女の子は面倒くさい、でも可愛い

 

 

 非常に危ないですね、何やらとても嫌な展開となってきましたよ。

 

 いつものように朝のお迎えに市ヶ谷家に行ってみるとおばぁちゃんからはもう出て行ったよのお返事、普段は面倒くさがる有咲を引き摺るようにして登校しているというのに、今日に限っては先に出掛けてしまうなんてもうこの時点で既に不穏な空気が漂ってはいたのです。

 

 お昼休みを待って香澄とB組に迎えに行ったらクラスメイトからは市ヶ谷さんは早退したよと言われる始末です。ヤバイですねこれは、どうやら本格的に拗らせてしまっているみたいですよ。

 

 

「ありさどうしたんだろう、何か怒らしちゃったのかな」

 

「うーん、沙綾は拗ねているだけじゃないかなって言っていたけどねぇ」

 

「なんでだろう、心配しちゃうよ」

 

「まぁ最近は蔵にも寄れてないからなぁ、とりあえず帰りに有咲の様子を伺いに行ってみるから香澄は早く課題を終わらせなよ」

 

 

 伏し目がちに頷く香澄は少し落ち込み気味に見える。もしかしたら自分のせいなのかもと気にしているみたいだけれど、これはきっと一人だけの問題では無いんじゃないかと思う。

 

 元気を出してもらう為に軽くお尻を叩くと、飛び上がる程に驚いてからジト目で睨んできた。

 それを無視して頭を撫でてあげると今度は恥ずかしそうに瞳を閉じる。本当にころころと表情が移り変わっていく様が可愛いし、またそれが香澄の一番の魅力であるとも思っていたりする。

 まぁ香澄のトレードマークとも言える独特な髪型のせいで頭を撫でるのには少し慣れが必要とされるのですが、それにしても最近クラスの中で香澄の髪型が猫耳と認知されてきているのを少々不満に思っておりまして、これは星の突起部分をイメージした斬新な髪型なのですからそこは勘違いしないで頂きたいものですよ。

 

 

 という一日を振り返ってみたのは良いのですが、夕暮れ時の市ヶ谷家の裏門前で、わたしとりみりんはまさに途方に暮れたようにその先に足を踏み出せずにいます。

 いかんせん拗ねた女の子の対処方法など知りもしませんし、もし泣かれでもしたら途方に暮れて充電の切れたラジコンのようにぴくりとも動けなくなってしまいそうな予感がしますよ。

 

 とりあえずスマホで家にきたよとメッセージを送ってから、重い足を引き摺るようにして敷地内へと踏み入ります。

 はぁぁぁ面倒くさいです、女の子って何で直ぐに怒ったり拗ねたりと直情的なのでしょうか、もっと論理的な思考をした方が世界は平和になると思うのですよ。

 

 

「有咲ちゃん、お家に居ないのかな?」

 

 

 玄関先で待つ事五分、一向に有咲はその姿を見せてはくれません。

 不安に押し潰されそうなりみりんを見ているのも辛いので、とりあえず呼び鈴を鳴らしてから引き戸を開けて声を掛けてみると、奥からおばぁちゃんが現れて有咲は部屋だよと教えてくれました。

 

 ほほぅ居留守でございますか、良いでしょうならば戦争です。

 お邪魔しますと声を掛けてから有咲の部屋へと向かいます。わたしは兎も角として、りみりんにまでこんな顔をさせてしまっては残念ながら甘い顔は出来ませんよ。

 

 

「うりゃぁ、ヒキコモリツインテール出て来いやぁ!」

 

 

 両手で障子を勢いよく開けながら叫ぶと、座椅子に座っていたらしい有咲がひいぃと言いながらバランスを崩して後方に倒れ込んでしまった。

 そのまま後ずさりして逃げようとしている有咲の顔の横に両手を着けて逃げ道を塞ぐように馬乗りになる。

 

 

「か、勝手に入って来るなよな、不法侵入じゃねぇかよ」

 

「友達の家だから問題無しですよ。それよりもいったい何で拗ねているの? 理由を言ってくれないと解らないでしょうが」

 

「どんな理屈だよ……ていうか理由とか特にねぇ、拗ねてねぇし怒ってもいねぇ」

 

 

 明確に視線を逸らしている姿からは本心を吐露しているとはとても思えませんが、でもそれを知る為に便利なのかもしれない例の特殊能力を使うのは何だか気が引けるというか、今じゃないなという思いが不思議と湧いてきています。

 それはそれとしてわたしの隣で両手をばたつかせながら慌てているりみりんの動く様子が、まるで小動物のような愛くるしさ満点の可愛いさで思わずぎゅっと抱きしめたくなりますね。

 

 

「じゃあ何でわたし達を避けるのさ」

 

「避けているのはお前らじゃねぇかよ」

 

「えぇっ⁉︎ 別に避けてないじゃん」

 

 

 相変わらず顔を背けて視線は合わせてくれないけれど、覇気の無い弱々しくて甘えた声色は普段の有咲っぽくはなくて、その姿が不思議と血が上っていた頭を少しだけ冷静にしてくれた。

 

 

「バンドをやろうって言ってたのに蔵には寄り付きもしねぇし、香澄はお昼御飯を一緒に食べる約束も忘れてるしで、最初の契約を破ってるのは優璃達じゃねぇかよ」

 

 

 えっ拗ねている原因ってそこですか?

 小学生なのですか? 初めての友達付き合いなのですか? ちょっとその発想は不器用過ぎやしませんかね。

 

 一瞬だけ呆れ返りそうになったけれど、受け取り方を変えて見れば有咲がそれだけわたし達の事を真剣に考えているとも言える話だ。

 冷静になって考えればそれはとても嬉しい事で、わたしの下で頬を紅くしながら顔を背けている姿を見ていたら、自然と愛しくて堪らない気持ちが胸の中から溢れ出してしまった。

 

 有咲の背中に手を廻してゆっくりと抱きしめる。

 こうやって身体を密着させる事で、有咲を大切に思っている気持ちがちゃんと伝わってくれたら良いのにな。

 それにしても胸同士が合わさっているというのに、このボリューム感の違いはいったい何なのですかね、しかもそれがちょっと悔しいと思ってしまっているわたしの気持ちも何なのですかね。

 

 

「ちょっ! 何で抱きつくんだよ」

 

「わたし達が有咲の事を大切に思っているのが伝わっていないのが悔しいの」

 

「それは……まぁ知っているけど」

 

 

 有咲も不器用な手つきでわたしを抱きしめてくれた。あぁこれはちょっと駄目かもしれない、背中に掛かる圧力がわたしの心を暖かな色に染めていくのが嬉しくて離れたくなくなってしまいそうです。

 

 

「だからちゃんと約束は守って、優璃も私に逢いに来て」

 

「うん、ちゃんとするから。これからも有咲の事を大切にするからね」

 

 

 さっきよりも有咲が強く抱きしめてくれて、より交わった体温がわたし達の間にあった心の壁をゆっくりと溶かしてくれていくような気がした。

 何なのでしょうか有咲の凶悪なデレの破壊力は、危険ですよこんなの男の子なら一撃で撃沈してしまう事は間違い無しの可愛さですよ。

 

 

「あのぅ二人共……仲直りしたって事で良いのかな?」

 

 

 不意に掛けられた声に驚いて顔を上げると、りみりんが優しく微笑みながらわたし達の頭に手を置いてくれた。

 

 

「ごめんね有咲ちゃん、一人だと勇気が出せなかったけど、これからは香澄ちゃん達となるべく来るからね」

 

「ま、まぁ練習場所は蔵だし、勝手に来ればいいんじゃねぇの」

 

 

 頬を紅く染めっ放しの有咲とそれを見て微笑むりみりん、いやこれは中々に尊い光景でございますよ。

 ほのぼのとした空気を切り裂くような振動がメールの着信を教えてくれたので中身を確認すると、どうやら香澄も心配が拭えなかったようで早々に課題を切り上げて此処まで来てしまったようです。

 

 

「有咲、香澄も迎えに来たみたいだよ」

 

「はぁ? えっと……あぁもう仕方がねぇなぁ」

 

 

 有咲から体を離すと、彼女は渋々といった体で立ち上がり頬を軽く掻きながら部屋から出て玄関へと向かった。

 暫くすると玄関の方から会話をしている声が流れてきたので、りみりんと頷き合ってから気付かれないようにそろりとした足取りで玄関の方へと足を向けた。

 死角からりみりんが顔だけを出して様子を伺い始めたので、わたしもりみりんを背後から抱きしめるような形で寄り添い肩に顔を載せてから二人の様子を大人しく見守った。

 

 

「香澄達も上手くいくと良いね」

 

「うんそうだね、でも優璃ちゃんちょっとくすぐったいかも」

 

 

 契約違反だろ、という声が聞こえてきます。どうやら有咲はその言葉がいたくお気に入りのようですがそんなのに負けるな香澄、頑張って喰らい付いていって。

 

 

「負けないで、頑張れ香澄」

 

「ゆ、優璃ちゃん……息が耳に……」

 

 

 りみりんも心の中で応援してくれているのか体が若干震えてきています。

 心が通じ合ったようでとても嬉しいです、一緒に応援しようという気持ちを込めてりみりんに抱きつく力を少し強めた。

 

 

「もっと仲良くなっていくには、きっとこういうのも必要なんだよ」

 

「そ、そうなのかな……嫌じゃないけどまだちょっと恥ずかしいよ」

 

 

 確かにりみりんの言う通り、ぶつかり合いの喧嘩って後から思い出すとちょっと恥ずかしいものだよね。

 

 

「おーい、二人ともこっちに来て」

 

 

 おやおやどうやら覗いていた事はバレバレだったようですね。急な有咲の声に驚いたのか力が抜けたようにりみりんが腰を落としてしまったので、慌てて前側に周って手を差し出した。

 

 

「りみりん大丈夫?」

 

「うん、こういうのにも慣れていかないと、頑張るね優璃ちゃん」

 

 

 顔中が赤くなるほどの気合が入っている姿がとても格好良いです。

 りみりんはわたしの手を取って立ち上がると、その手をしっかりと握り締めたまま歩き始めてしまいました。

 あれっそういえばりみりんと手を繋ぐのは初めてかもです、何だか恥ずかしいような嬉しいような、ちょっと背中がむず痒い気分になってしまいますよ。

 

 

 玄関先まで行くと半泣きの香澄に抱きつかれた有咲がすっかり困ってしまっているようです。有咲の顔を見れば解りますがどうやら無事に仲直り出来たようでとりあえずは安心しました。

 

 

「ちょっとみんな、蔵まで来てくれるか?」

 

 

 有咲に連れられて蔵の地下にある秘密基地に入ると、そこには見た事の無い新品の真っ白なキーボードが存在感を放つように置かれていた。

 

 

「ありさ、これって……」

 

「ほら、りみの時はグリグリの鰐部(わにべ)先輩にキーボードを借りていただろ、やっぱり自分でバンドをするなら必要かなって」

 

「あーりーさー、大好き!」

 

「うわっ、急に抱きつくなよなぁ!」

 

 

 有咲の話が終わるまで我慢が出来なかったのか、香澄が飛び付くように抱きついてしまった。

 照れながらも嬉しそうな有咲を見て思ったのですが、もしかしてこのキーボードを早く見せたかったのに香澄が蔵に中々来てくれなくて拗ねたという事なのではないでしょうか。

 もしそうなら全くもって面倒くさい、女の子って面倒くさ過ぎやしませんかね。

 でも不思議です、喜ぶ二人を見ていると何だか可愛いなとも思えてきてしまいます。手間が掛かる程に可愛いというか、どうやらこの先も優璃さんのやれやれ回数は減ってくれそうも無さそうですね。

 

 

「良かったね、優璃ちゃん」

 

 

 隣に居るりみりんが嬉しそうに微笑むので、わたしも釣られて素直に微笑みを返してしまいます。

 あれっ、やけに距離が近いなと思ったら、いつの間にか片手で繋いでいた手が両手で包み込まれるように握られていて身体も密着するように寄り添われています。

 りみりんにしてはこの距離感は珍しいですね、まぁそれだけ嬉しかったという事なのでしょうか。

 

 

「あーりーさー!」

 

「いい加減にうぜぇぇ!」

 

 

 いや喧嘩していたとは思えない程に仲が良いなこの二人。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 暫く四人でガールズトークを楽しんでいるうちに、すっかりと陽も落ちて暗さが辺りを包んでしまいました。この時間なら御飯でも食べていけば、という有咲の提案に乗ってみんなで市ヶ谷家の居間へと向かいます。

 普段のお弁当箱の中身を見る限り、有咲のおばぁちゃんの料理は間違いなく美味しい事でしょうし楽しみですね。

 

 

「あっ、おかえり」

 

 

 居間に入ったわたし達を出迎えたのは、お茶碗に御飯をよそっているおばぁちゃんと腰まで届く黒髪の美少女、花園たえちゃんだった。

 

 

「花園たえぇ! 何でお前が此処にいるんだよ!」

 

 

 当たり前のように座っている美少女に向かって叫ぶようにツッコミを入れる有咲を、おたえは意思の見えないきょとんとした瞳で見つめ返した。

 沈黙が支配した居間の中で、おたえは視線を大きなテーブルに戻した後に目の前にあった玉子焼きを箸で掴むと、もぐもぐと味わってから再び有咲の方へきょとんとした瞳を向けた。

 

 

「美味しいよ?」

 

「いや全く意味がわからねぇわ!」

 

 

 会話が繋がりそうにもないので吠える有咲を置いたまま三人でテーブルに着いて、おばぁちゃんから御飯入りのお茶碗をそれぞれ受け取ります。

 

 

「いやお前らも平然と受け入れるなぁ!」

 

「おばぁちゃん、今度はハンバーグ食べたい」

 

「ハンバーグかい? じゃあまた作ってあげるよ」

 

「やったぁ、おばぁちゃん大好き」

 

「いや何でお前がメニュー決めてんの? ってこっち向けや花園たえぇ!」

 

 

 居間の入口で叫び続ける有咲を他所に、わたし達も食事を始める事にします。

 

 

「美味しいね、優璃ちゃん」

 

「ゆり、玉子焼きが凄く美味しいよ」

 

 

 相変わらず距離感が近いままのりみりんに少し戸惑いますが、とりあえず香澄がやたらと勧めてくる玉子焼きに箸を伸ばしてみる事にします。

 

 

「有咲、御飯が冷めちゃうよ?」

 

「花園たえ、お前が言うなぁぁぁぁ!」

 

 

 うん、この玉子焼きは絶品かもしれないですよ、しかしこうして大勢で囲む食卓も中々に楽しくて良きものかもしれないですね。

 

 

 

 

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