せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
乗客が少なくなった帰りの路線バス、窓際に座るわたしの膝の上に置かれたハンドバッグの中には可愛いロゴの入った小さな買い物袋、車窓から流れる街並みは薄暗しさを増していて家々の灯りが流れ星のように煌めいて見える。
まるで銀河鉄道にトコトコと揺られながら、何処か違う星へと旅行に来てしまったような幻想に取り込まれてしまいそうです。
「あのさ、沙綾」
隣に座る沙綾が声を掛けられて小首を傾げるようにして微笑んだ。
隣接した座席の隙間でかろうじて触れ合っている人差し指同士が、何だかお互いの存在を余計に深く感じさせてくれる。
「ゆり、どうかしたの?」
「お揃いで薄紫の下着を買ったよね、なら別にわたしの下着の色を確認する必要は無かったよね?」
「あれはねぇ、最初はショーツだけ替えがあればいいかなぁと思ったけれど、やっぱり上下でお揃いをしたくなっちゃってさ」
という事はわたしだけが余計な赤っ恥をかいたという訳ですか、なる程これは許すまじな事態ですよ、沙綾にも同じく恥ずかしめを受けて貰わなければなりませんね。
「わたしだけ恥ずかしい思いをするのは納得が出来ませんよ、沙綾も今日はその下着をちゃんと着けてくださいね」
「元からそのつもりだよ、じゃないとお揃いで買う意味がないでしょ? ちゃんと見せっこしようね」
えっと、見せっこという事はわたしの下着姿も見られるというとんでもない事態が巻き起こるという事ですよね。冗談ではないですよ、わたしは見たいですが見せるのはお断りです。
「沙綾、わたしはちょっと……」
「髪、ポニーテールにしてくれてたの嬉しかったな。ゆりも私とお揃いがしたいと思ってくれていたんだよね」
「いや、あの……うん」
何ですかこの墓穴の掘りっぷりは、ウッキウキで沙綾とお揃いだと喜んでいた今朝の自分にドロップキックをお見舞いしてあげたい気分ですよ。
バスが目的地の商店街前停留所にゆっくりと停車し、たんたんたんとタラップから跳ねるように降りてから、後に続いてゆっくりと路面に足を着けた沙綾に向かって手を差し出すと、少し驚いた表情を見せてから離れないようにしっかりと手を握ってくれました。
「ゆりから先に手を差し出してくれたの初めてな気がする。何だかちょっと緊張しちゃうね」
「普段のわたしが感じている気持ちが解ってくれましたかな」
「少しだけね、ゆりは手を繋がれるの嫌じゃなかった?」
「間違いなく今の沙綾と同じ気持ちを感じていると思うよ、そうでしょ?」
「本当に私と同じだったら良いのにな……」
悪い気はしませんよ、今やわたしも手を繋いでいたら少し安心してしまうくらいですからね。
寂しそうに光る街灯に照らされた歩道をやまぶきベーカリーに向かって肩を並べて歩く。沙綾が横に居るだけで今なら痴漢が出てきても難なく撃退が出来そうなくらいに気分が高揚してしまいます、まぁ実際に出たらもちろん叫びながら逃げますけれどね。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
小さな妹というのは本当に可愛い存在だと思うのです。
山吹家にお邪魔をすると、優しそうな両親に小学生くらいの弟くんと幼稚園くらいの妹ちゃんに出迎えられました。
出会って早々に飛び込むように抱きついて来た妹の
弟の
山吹家の皆さんと夕食をご一緒した後に、沙綾の部屋へと案内されました。
ベッドに並んで腰掛け漸くひと息ついたという感じですが、沙綾の部屋は飾りっ気があまりなく勉強机に箪笥とベッド、後は小さなテーブルがあるくらいで沙綾のさっぱりとした性格が伺える至ってシンプルな部屋となっております。
「ふう、ゆり大丈夫、疲れてない?」
「大丈夫だよ、それより純君や紗南ちゃん可愛いくて驚いちゃった。特に紗南ちゃんは小さい頃の沙綾はこんな感じかなぁって思って余計に可愛いかった」
「ありがとう、純は段々と生意気になってきたから困っているけれどね」
「あのくらいの男の子はそういうものですよ」
「何か詳しいね、弟とか居たっけ?」
「あっ、ほら少年漫画とかでもそんな感じでしょ」
危うくボロが出そうになったので誤魔化す為に立ち上がってきょろきょろと視線を泳がせると、勉強机の上に置いてあった古ぼけた袋から頭を覗かせた二本の棒が見えた。
「沙綾、あれって」
「あっ! そろそろ紗南をお風呂に入れないと、ゆりゴメンだけれどちょっと待っててね」
机の方を指差したわたしを見て沙綾は慌てたように立ち上がりわたしを再びベッドに座らせると、机に近寄り古ぼけた袋を引き出しの中に仕舞ってしまった。
「紗南をお風呂に入れるのは私の役目なんだ、直ぐに戻ってくるから」
そのまま沙綾はわたしと視線を合わせる事なく急いで部屋を出て行ってしまった。
ひとり残されエアコンの息遣いだけが聴こえる部屋でベッドに横たわり天井を見つめる。
あれは間違いなくドラムスティック、しかも結構使いこなされた感じだった。自身の目に入る場所に常に置いてあるなんて、やっぱり沙綾はドラマーだった自分を捨て去った訳じゃなさそうにどうしても思えてしまう。
わたしは沙綾がドラムやバンド活動が大好きなのを知ってはいる、だけどそれが何の役に立つのだろう。沙綾のトラウマをほじくり返そうとしているわたしの考えは果たして正解と言えるのだろうか。
『……まだまだ走り続けなさい』
ふと以前に姉さんに言われた言葉が頭をよぎって笑いそうになる。
最近のわたしは少し臆病だ。失くしたくない事が増えて踏み出す脚に力が入り難くなっているみたいで、実にらしくないなと思う。
悩んでも答えが出ないならとりあえず突っ走るという脳筋プレイが持ち味だった筈です。ならばぶつかってみるとしましょうかね、大切な友人の為に。
よし、気合いが入ってきましたのでとりあえず箪笥でも漁るとしましょう、他人の色々な好みを知っておくのは女の子としての大切な嗜みですのでね。
「ゆりお待たせ、お湯も張り替えているから入りに行こうか」
あっぶねぇです、箪笥の前に座りいざ尋常にと両手を伸ばそうとしたところで沙綾が戻って来てしまいました。下手をしたら百年の友情もぶち壊しの展開となる可能性も有り得ましたね、重ね重ねあっぶねぇです。
「着替えはスウェットでも良い? これもお揃いにしちゃおう」
沙綾がわたしの横に座って箪笥の中から二組の黒色スウェットを取り出し、ごそごそと自分の鞄から可愛いロゴの入った買い物袋を取って立ち上がった。
「えっ? 沙綾、お風呂に入ったよね?」
「紗南をお風呂に入れただけだよ、まだ化粧を落としただけ」
「まさか一緒に入るとかじゃないよね? わたし見られるの恥ずかしいからひとりで入りたいのですが」
「女の子同士で恥ずかしがる必要なんて無いでしょ」
「いやいやいやいやいや、無理、無理、無理ですぅ」
そう、それが嫌なのですよ。同性なら恥ずかしくないとか当たり前なのかもしれないですが恥ずかしいものは恥ずかしいですし、何よりわたしは恥ずかしがる女の子が見たいのですよ。
あんまり見ないで、と頬を染めながら俯く女子の可愛さが尊きものなのです、確かに沙綾の胸部装甲や臀部バリヤーは見たいに決まっていますが、開けっ広げにされても何と言うか有り難さが半減してしまうのです。
それに何が嫌かって自分が同性、つまり女の子としてしか見られていないという事実を突き付けられるのが傷付くのです。わたしはまだまだ男の子なのですよ、思い切り恥ずかしがって下さいな気分になるのですよ。
「もう仕方がないなぁ、ここは嫁に任せなさい。ほら、行くよ」
「ふにゅにゅ、嫌ですぅ」
わたしの鞄からも小さな買い物袋を取り出した沙綾が此方へ向かってポイッと投げ渡し、その袋を受け取る隙を見計らったかのように腕を引っ張られて無理矢理に立ち上がらせられてしまい、そのまま力強く引っ張られるようにしてお風呂場へと連行されてしまいました。これが俗に言う嫁の尻に敷かれているという状態だというのですかね、もう絶望しかないでございますよ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
冷えきった身体で震えるわたしは、まるで母親と逸れた子羊のよう。
詩的に表現してみても様になりませんね、実際には全裸が恥ずかしくてお風呂場の隅で縮こまっているだけなのですが。
脱衣所で躊躇いもなく服を脱ぎ出した沙綾を全力でガン見していたら、それに気が付いた彼女に無理矢理に服を脱がされ、あまつさえ勢いで下着まで剥かれそうになったので慌てて自分で脱いでお風呂場まで逃げて来たという経緯でございます。
それにしても下着姿の沙綾は綺麗でした。程よい肉付きだけど引き締まった身体で胸部装甲はわたしよりも随分と御立派な仕様です。キュッと括れた腰から続く臀部バリヤーも安産型というやつでかなり強度が高そうですね。
でも綺麗なんだよな、男の子だったらウッヒョー、エッロ、とかいう感想を抱く筈なのに、まず頭に浮かんだのが綺麗ってそれはまんま女の子の感想である訳で……。
「もう、まだ恥ずかしがっているの?」
「仕方がないのです、どうしようもないのですよ」
後から入って来た沙綾の声に反応してそちらを見たら……。
うっわエッロ、胸部装甲めっちゃ形が綺麗やん、形の良いお山の頂上もこれまた……グハッ!
視線を下に移していくと、綺麗なおへそから続くこれまた綺麗にお手入れされた……グハッ!
衝撃で危うく血反吐を吐きそうになりましたよ、というか沙綾も少しは隠してください、またガン見して馬鹿みたいな面を晒してしまいそうになるでしょうが。
沙綾に背を向けて体育座りで縮こまる、これなら背中しか見られませんし恥ずかしさも薄れるというものですよ。
亀のように丸まり固まっていたら、背中に柔らかな熱と衝撃が同時に襲ってきて驚いた瞬間、腕を廻されて抱きしめられてしまった。
「しゃっ、しゃあや、にゃっ、にゃに?」
背中に沙綾の熱が直に伝わる。抱き寄せられる時にわたしの胸も触れられていましたけれど比べ物になりません、柔らかさといい温かさといい沙綾の胸部装甲は戦闘力が高すぎやしませんかね。
「知ってる? 肌が触れ合う程に相手に対する警戒感が和らぐらしいよ。だからこうしていたらゆりも緊張しなくなるって」
そうなのですか? それにしては心臓が張り裂けんばかりの勢いで鼓動が強く打ち鳴らされているのですが?
暫くそのまま抱きしめられていたら不思議と胸の苦しさも収まり始め、身体の緊張も緩やかに絆されていくのがわかった。鼓動はまだ強いけれど、それは先程までと何か違うドキドキに感じられてしまいます。
遮る物が無い肌同士が密着している事で沙綾をとても身近に感じる、確かに言われた通り恥ずかしさが少し薄まって来たような気がしますね。
「慣れてきたみたいだね、それじゃいくよ」
背中に感じていた柔らかさが消え去ったと思ったら、身体を掴まれてお尻を軸にしてくるりと半回転されてしまった。
「ちょっと華奢だけど、とっても綺麗だね」
「ひゃわ! ひゃわわわぁぁぁ!」
これって見えていますよね、わたしの大事な部分が余す所なく全部を見られていますよね。あぁもう死にます、沙綾、短いお付き合いでしたがわたしはこれから階段の下から三段目に移動して飛び降り致しますのでお先に失礼しますね。
「慌て過ぎだから、ゆり、こっちにおいで」
沙綾はガクガクと震えているわたしの脇の下に両手を通し、軽く持ち上げるようにして座っている自らの膝の上にお尻をストンと乗せた。
そのまま引き寄せられちょうど母親が赤ちゃんを抱っこするような形に収まったかと思ったら、沙綾がわたしの胸部装甲の高さにあった頭を埋めるようにして再び強く抱きしめてきた。
「ゆりの鼓動が聞こえる、何だかゆりを凄く身近に感じるな」
「わたしもだよ、沙綾と繋がっている気分になる」
沙綾の頭を包み込むように抱きしめる。先程より密着している面積が大きい為か、まるで沙綾と溶け合っているような心地良さを感じる。何だかこのまま離れたくなくなってしまいそうですよ。
あれっ、でもよくよく考えてみたら、これって第三者から見ればわたしが全裸で沙綾に抱きついているようにしか見えませんよね?
完全に変態の所業ですね、これは顔が真っ赤になる前に階段の下から五段目にランクアップさせてとりあえず飛び降りを致すとしましょうか。
それでは沙綾、離れたくはありませんが離して頂けますかな。いややっぱり離れたくないのでもう少し後に離して頂けますかな。いやいっその事このままずっと抱きしめていてくれても良いのですがね。