せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
今年は桜の開花が遅かったのか、桜の花はまだずいぶんと残っていた。
ひらりひらりと舞い落ちる名残り花の中を香澄と一緒に歩く。
初めての登校でドキドキしているのか、それとも初めて女の子と一緒に登校しているからなのかは、よくわからないでいた。
ただ緊張はしている、喉渇く、手に汗を滅茶苦茶かいている。
元カノとはそんな体験をしていなかったんだよね、こんな事ならもっと青春をしとくべきだったのかなとも思う。
それにしてもゲームをしている時は可愛い女の子ばかりが出てくるから特に何も感じなかったけれど、いざリアルな視点で香澄を見たらやっぱり美少女だなと思う。
パッチリとした大きな瞳に太陽の光を弾くかのように輝いて見える肌。華奢かと思いきや意外と肉感的な手足。それに制服の膨らみから想像すると意外や結構な物もお持ちのようだ。
この世界にはこんな美少女達がたくさん存在しているかと思うと、違う意味で色々とドキドキとしてくる。
神様、もう本当にありがとうございます。
「わたし、ゆりと同じクラスがいいなぁ。ねっ、神様にお願いしよ」
香澄が足を止めていきなりくっついてきた。体からふわりと爽やかな香りが届いてきて鼓動が少し早くなってしまう。わたしも足を止めて香澄に向かって全力の笑顔を向けた。
「いや、もうクラスは決まっているからさ、今から神様にお願いしても遅いと思うよ」
めちゃくちゃ肩をぽかぽかと叩かれてしまった、なんで?
ふとその時に桜の花びらが一枚、ふわりと香澄の柔らかそうな唇に舞い降りた。慌てた香澄が手で取ろうとする前にそっと唇から花びらを取る。
「桜も、香澄の事が大好きなんだね」
花びらを摘みながら香澄を見つめると、段々と顔を赤くさせながらわたしの手から花びらを取り、そっとわたしの口に花びらを押し付けてきた。
「事故にあったせいなのかな、何か前と雰囲気が違うよ。なんだか凄く……」
少し潤んだ瞳に見つめられて思わずドキッとする。ちょっと可愛い過ぎるんでやめてください香澄さんや。
金縛りにかかってしまったように動けないでいると、香澄は何事も無かったかのように前を向いてひとりで歩き出してしまった。
置いてけぼりをされてしまったけれど、慌てて先を歩く香澄のなんだかひどくご機嫌に見える背中に向かって、桜の花を掻き分けながら急いで追いかけた。
「ちょっと待ってよ、香澄」
「あー、キラキラドキドキしたいなぁ。やっぱり彼氏とか欲しいかもなぁ」
前を歩く香澄はぶんぶんと鞄を振りながら、わたしに聞こえるようにわざと大きな声をだした。
またそれか、それだけは諦めてもらいますからね。
しかしゲームをやっていた時にもここまで露骨な恋人欲しいアピールは無かった気がする。
おのれ神様め、何故に香澄をこうも男好きにしてしまったのか、まったくもって許すまじだよ。もう一度言う、許すまじだよ。
幼馴染みが話す彼氏とのノロケ話なんて何の拷問だよ。許すまじだよ、わたしは尊い光景を見たいんですよ。
無理矢理に香澄の横に並び、体の前側に持ってきた通学鞄をぽすぽすと足で蹴りながら歩く。
「香澄のキラキラドキドキは、そんなのじゃないと思うな」
「ゆりはわたしのキラキラドキドキは何だと思う?」
香澄がわたしの顔を覗き込むようにして訊いてきた。
以前にゲームをしていたので香澄が音楽でキラキラドキドキをしまくっていた事はもちろん知っている。だけど今それを言うのは違うかなと思う、だってネタバレは死罪っていうのは万国共通だからね。
「それを探す為に、わたし達は花咲川女子学園に行くんでしょう?」
「まぁ、確かにそうなんだけどぉ……」
「きっと出会えるよ、香澄のキラキラドキドキに」
きっと出会えるよ。というか、わたしが出会わせるけどね。
しかしなんだか香澄が急に不機嫌になったように見える。さっきまでご機嫌だったような気がしたのに、やっぱり女の子ってよくわからないや、まぁそんな事を言っている自分も女の子なんだけどね。
ふと横から香澄を見るとやっぱりわたしより身長が少し高い。男のときは身長が170cmだったからゲーム画面を見ている時は何とも思わなかったし、気にも留めていなかった。それなのに今は自分より背が高い女の子を見上げているという光景がなんだか不思議で、ちょっと複雑な心境にもなってしまう。
香澄からわたしって、どんな風に見えているんだろう。
いまここに居るのは優璃であって優璃じゃない。わたしは、いつかちゃんと優璃になれるんだろうか。
「香澄、ところで何で拗ねているの?」
「すねてなーい、ゆりなんかしらなーい」
めちゃくちゃ拗ねてるじゃない。あぁもう面倒くさくなってきた、香澄のマネをしちゃえ。
えいっ、と言いながら香澄に抱きついてみる。柔らかな体の感触に思わずそのまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られてしまいそうになる。抱きつかれた香澄は驚くでもなく嫌がるでもなく、足を止めて俯きながら弱々しく呟いた。
「やっと思い出してくれたの? 前はゆりが先に抱きついてくれていたんだよ。全然くっついてくれないから、なんだかわたしの事を忘れちゃっているみたいな気分になって……ちょっと寂しかったよ」
顔を上げてようやく微笑んでくれた。どうやら正解だったみたいだけれど、ひとつだけ言わせて欲しいかな。
抱きつきキャラの香澄よりも先に抱きつくなんて、そんな事を思いつく訳がないって!
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
緩やかな坂を登っていくと大きな校舎が現れ、遠くには校門の姿も見えてきた。まわりを歩く生徒達の間でおはようという挨拶が飛び交っているけれど、わたし達に話しかける子はいない。それもそのはずでわたし達は外部生、つまりまだ高校での友達はいないのである。
中高一貫校の花咲川女子学園は、半分以上の生徒が中等部からの繰り上がりだ。前に記憶喪失のフリをして香澄に何で
ちなみに香澄の妹であるあっちゃん、こと
らしい、というのも正直この子に関してはあまり記憶がない。バンドもしていなかったし、あくまでサブキャラクターのようなポジションだったと思う。
しかし香澄の幼馴染みとしてこれはマズイですよ、あっちゃんに再会するまでに色々と情報を仕入れておかなければ、と考えて香澄にあっちゃんの事をさりげなく訊いたら、『可愛い』、『素直』、『勉強できる』、『わたしの事が大好き』、という単語の羅列が返ってきた。
いやいや香澄さん、まったく人物像がイメージ出来なかったわ。
初々しい気持ちで校門を抜けると掲示板の前に大勢の女の子達が集まってキャーキャーと騒いでいるのが見えた。
いよいよ本日のメインイベント、クラス発表の場面がきた。
ここで香澄は後々バンドメンバーになるパン屋の娘さんと友達になるイベントが発生するはず。
失敗は許されない。万が一にもここで失敗をしてしまったら何も物語が動かずに、香澄がキラキラドキドキを求めて男漁りを始めてしまうかもしれない。
人混みの最後列に二人で並ぶと、すぐに香澄は掲示板に夢中になってしまった。
わたしは掲示板を見ずにまわりに視線を配る。すると来た、あのポニーテール姿は間違いない、パン屋の娘こと今回のターゲット
ふわふわの明るい髪をポニーテールで纏め、ぱっちりとした瞳に声がしっかりと出せそうな形の良い唇。おやおやまぁ、こちらも美少女な事で。
タイミングを見計らい香澄の肩を自分の肩でちょっと押す。油断してバランスを崩した香澄は、隣に居た沙綾に肩をぶつけてしまった。
はい、フラグ建て完了です。
「あっ! ごめんね」
「こっちこそ掲示板に夢中になってて、ごめんね」
香澄と沙綾は再び掲示板で自分の名前を探し始めた。って、ちょおぃぃぃ香澄ぃぃぃ、折角のフラグを叩き折るもんじゃないよ。
仕方がないのでわたしが彼女に近づいて制服に鼻をつけ、くんくんと匂いを嗅ぐ。ゲーム内で香澄はパンの香りがするって言っていたけれど、普通に女の子らしい甘い香りがするだけだぞ、ずっとくんくんしていられる匂いだぞ。
「香澄、この子なんか良い匂いがする」
「あぁ、うちパン屋さんをやっているから」
「本当だ、美味しそうなパンの匂いがするね」
香澄がわたしのマネをして匂いを嗅いでいると、お腹がきゅうっと鳴ったのが聞こえた。良かった、ぎゅるるとかいう音じゃなくて。
その音を聞いた沙綾は、ポケットから飴を取り出すとたぶん香澄に渡したんだと思う。
「はいこれ、パンじゃないけど」
「わぁ、ありがとう。わたし
「私は
「香澄でいいよ、わたしも沙綾って呼ぶから。ちなみにわたしとゆりはA組」
「じゃあクラスメイトだね、色々な意味でよろしくお願いします」
「えへへ、沙綾とはもう友達なんだから、そんなに肩苦しくしなくてもいいよ」
「友達認定はやくない? ふふっ、まぁ二人共これからもよろしくね」
あっ、わたしもA組なのね、しかしそれにしても今の状況がまったくわからない。それは何故かというと、沙綾の匂いを嗅ぐ為に腰をまげてちょうど沙綾のお腹の辺りに鼻をつけたのだけれど、それからずっと沙綾に頭を抱きしめられて髪を撫でられ続けていた。いくらわたしの身長がちょっぴり低いとはいえ、何かの小動物とかと勘違いしているのではないだろうか。
「あー、沙綾ズルい。わたしもゆりの頭を撫でたい!」
いや香澄、あんたも撫でるのかい!
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クラスでの自己紹介などもそつなくこなして無事に初日のイベントはクリア出来たかな、最初はどうなるかと思ったけれどやっぱり油断ならないや。
わたしと香澄と沙綾の三人は、帰る前に廊下で立ち話をする事にした。
「香澄の自己紹介、『キラキラドキドキしたいです!』ってインパクト凄すぎだよ」
「えー、だって他に思いつかなかったんだよぉ」
「私は良かったと思うよ、なんか香澄っぽい」
わたしのツッコミに沙綾が優しくフォローを入れる。おっ、なんとなくわたし達ってバランスがいいかも。
「優璃の自己紹介も面白かったな。凄く緊張してあわあわとしていたよね、可愛いかったなぁ」
「でしょう! 沙綾もそう思うよね」
前言撤回します。ちょっと考えてみてまわり全員が女の子なんだよ、そりゃ緊張もしますよ、だって免疫がないんだから。
ところで何で香澄がドヤ顔をしているの?
「ところでみんな、彼氏とかはもう居たりするの?」
沙綾が優しい笑顔で問いかけてきた。
そうか沙綾、あなたもなのか。沙綾も神のイタズラで歪められてしまっているのか、マジ神様許すまじ。
「彼氏は居ないんだよねぇ、恋人は欲しいとは思っているんだよ」
「私もそんな感じだよ、優璃は?」
唇を噛み、勢いよく沙綾の手を取ってから瞳をじっと見つめる。
「ダメだよ沙綾、彼氏なんかよりも沙綾が本当に求めている
「わ、私が本当に求めている
わたしを見つめる沙綾の瞳が潤んで顔はみるみる赤くなり、握っている手をきゅっと握り返してきた。
おっ、何かわたしの言いたい事が伝わったのかもしれない。沙綾、あなたは彼氏なんか作らずに香澄と一緒にバンドをするのです。
「あっ……、ゆっ、ゆりって見た目と違って意外と情熱的なんだね」
沙綾が何故か顔を逸らしてしまって目線を合わせてくれない。大丈夫かな、ちゃんと伝わっているよね。お願いだから彼氏なんか作らないで、香澄達とキャッキャウフフをしている尊い光景をわたしに見せてくださいな。
首を傾げながら心配していると、香澄が飛び込むようにしてわたしと沙綾の間に割り込んできた。
「あ、沙綾。わたしとゆりはこの後に部活の見学に行くんだけれど、沙綾も一緒に行かない?」
「私、家の手伝いとかあるから部活はやらないんだよね」
「そっかぁ残念。ゆり、仕方がないからわたし達で行こうか」
「ちょっと香澄、どうしたの急に」
部活見学とか聞かされていないんですけど、と言う間もなく背中を押されて廊下を歩かされる。
「じゃあ沙綾、また明日ねぇ」
香澄が沙綾に笑顔でぶんぶんと手を振っているので、わたしも顔だけ振り返って沙綾に声をかけた。
「さ、沙綾、また明日」
「二人とも行ってらっしゃい、ゆり頑張ってね。香澄も」
そのまま香澄にぐいぐいと背中を押されて、わたし達は部活見学へと向かった。
その後、香澄は何個かの部活を体験してみたけれど、何処もあまり満足出来なかったようだ。それはそうでしょ、香澄はこの先バンドに夢中になるのですから。
何箇所かの部活体験を終えて、二人で下校を始めた。通学に使っている路面電車を降りて並んで歩く。春の夕暮れは早くて、もう街は朱色に染まりきっていた。やっぱり何処の部活もキラキラドキドキ出来なかったからか、香澄はどこか少し元気がない。
「香澄、ほら元気だして。そのうちきっとキラキラドキドキは見つかるって」
香澄は『むー』と言いながら、やや俯き加減で歩き続ける。
この先の曲がり角を過ぎればもうすぐ家だ、という所で香澄が急に足を止めた。気になって香澄の方を振り返ると、俯いたままの姿で左手をわたしに差し出していた。
「ゆり、繋いで。わたしに元気をちょうだい」
考える前にまるでその声に吸い込まれるように手を握ってしまった。
香澄は顔を上げてくれたけれど、夕陽に照らされているせいで顔色はよくわからない。でも握られた手に力がこもる程に、段々と素敵な笑顔になっていってくれた。
「幼馴染みなんだから、これくらい良いよね」
そう言うと、香澄は飛びかかるように抱きついてきた。
「あわわ、香澄! 急に抱きつかないで」
「いいじゃん、幼馴染みなんだし。ゆりぃ、ぎゅー」
散々抱きつかれて顔をすりすりされる。いや嬉しい事は嬉しいんだけど、ノンケでこのノリなら男の子はイチコロで香澄に夢中になっちゃうよ。
香澄は天然で魅力的な女の子だ、やっぱり男は近寄らせないようにしなければならない。
香澄の貞操と尊い光景は、絶対にわたしが守ってみせるんだから。
「ゆりぃ、ぎゅー。幼馴染みなんだし、幼馴染みなんだしぃ」
いや香澄さん、どさくさに紛れて抱きつき過ぎじゃないですかね?