せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
幕間のお話は練習の為に本編とは雰囲気を変えて書いています(出来ているかは別問題)
普段のゆるふわな感じが好きな方は二話程お待ち頂けると喜びます。
本日は瑠璃姉さんとお出掛けなのですが、黄金週間中だというのに制服姿でとお願いをされています。それというのも訪問先が転生以前の優璃が遭ってしまった交通事故のお相手先で、示談も既に済んでいるというのに先方が本人と面会しておきたいとの要望らしいのです。
わたし的には今更どうこうという話でもないのですが、どうやら破格な示談条件であった事もあり姉さんも渋々とはいえ了承せざるを得なかったようですね。
「優璃、そろそろ音羽が来る頃だけど準備は大丈夫?」
「大丈夫だと思うけど、どうかな?」
軽く体を捻りながらポーズを決めてチェックをしてもらいます。姉さんに薄化粧を施され、髪もお団子ヘアーに編み込まれた姿は何だか自分でも別人になったような気分ですって、憑依転生をしているのだから元々が別人だというのに、別人が別人に感じるってもはや意味の解らない感想になっていますよね。
普段はしない眼鏡を掛けて準備が整ったスーツ姿の姉さんは、絹糸のような長い黒髪も服装とよく合っていて本当に綺麗です。ただですね、その持ち前の凶悪な胸部装甲の大きさのせいで上着さんが窮屈そうなのですよ、やれやれ仕方がないですが別にわたしが少しくらい引き受けても宜しいのですよ?
悔し紛れの捨て台詞はさて置き、さっき姉さんが言っていた音羽さんという方は確か高校時代からの親友だとか。理由はよく知りませんが今日のお出掛けに同伴するとの事でして、以前の優璃なら兎も角としてわたしとしては初対面となるので少々不安ではあるのですが、お淑やかな姉さんの親友ともあればきっと綺麗で慎ましい女性なのでしょう。
「ウィッス、おはぁ」
おやおや眠そうな声でリビングへと侵入してきた細身の女性は誰ですかね。
桃色のような明るい髪色のショートカットにガラの悪そうなシャツと革ジャン、ダメージジーンズからチラリと覗く白い脚。バランス良く整った顔と相まってとても美人なのは察しますが、誠に残念ながら今日は押し売りの類いはお断りなのですよ、何と言ってもこれから清楚なお姉様が訪ねてくる予定ですのでね。
「もう音羽、優璃も居るんだからシャキッとしなさいよね」
「あそこに行くのは気分が乗らないからね、おぉ優璃ちゃん久しぶりって私の事は覚えていないか」
やはりですがそうですか、想像図からは随分と違っていましたが姉さんとの距離感を鑑みればまず間違いは無いですよね。
「覚えていないのは御免なさいです。いつも瑠璃姉さんがお世話になっております」
手を前で組んで軽く頭を下げると、柔らかい動きで頭を優しく撫でてくれました。爽やかに漂うスパイシーな香水の香りといい、とてもスマートで都会的な大人の雰囲気に何やら心が萎縮してしまいそうですよ。
「どちらかと言うと私の方がお世話をしているけれどね」
「まぁそれは否定しないね。とにかく初めましてだね優璃ちゃん、お姉さんの相棒の
音羽さんが両腕を広げて待ち構えておりますが、きっとこれは外国的なハグを求めているのでしょうね、少々恥ずかしいですがそっと寄り添って身体に腕を廻してみたらふわりと優しく抱きしめ返してくれました。
流れるような動作といい適度な抱きしめ加減といい、これは中々にコミュぢからが高そうですよ流石は姉さんの親友さんです。
「あっ! 私も優璃とハグするぅ」
いやいや姉さん、せっかくの都会的な雰囲気が台無しでございますわよ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
音羽さんがレンタルした自動車に乗って軽快な振動と共に目的地へと向かっています。
最初に車を見た時はレンタルと知らなかったもので、見た目とは違ってオジ様達が好きそうな車に乗るんですねと言ったら姉さんに軽く頭を叩かれてしまいましたからね、とりあえず車内では大人しくしておこうと思っております。
勢いよく流れていく車窓から覗く空は程よく晴れていて、雲の輪郭もその境界線をくっきりと形作っています。そろそろ雲の彼方から段々と夏の足音が聴こえてきそうな、ふとそんな気分にさせてくれる気持ちの良い青空です。
「あぁ行きたくない、ダルい、このまま何処かに遊びに行きたい」
「はいはい音羽、約束があるのだから今日は諦めなさい」
外とは違って車内の天気は音羽低気圧による曇天模様となっております。
どうやら訪問先は音羽さんのお知り合いのようですが、そもそもその相手先とはあまり仲がよろしくないのかもしれませんね。まぁそれでもこうしてわたし達を連れ出してくれるのですから、派手な見た目とは裏腹にきっと友達思いの心優しい女性なのでしょう。
流石に我が姉ですよ、人を見る目も確かとは完璧超人の名は伊達ではないという事ですかね。
車がやがて高層ビル街の一角にある地下駐車場へと滑り込んで行きます。
訪問先は何処かの会社ですかね、資産家とは聞いていましたがもし大会社の社長さんとかだったら流石に緊張してしまいそうですよ。
駐車場のスペースに入るのかと思いきや何故か通路の真ん中に停車してしまい、こんな所で降りるのかなと思いながらも慌ててシートベルトを外そうとしたら、勝手にドアが開いていく事に驚いて変なポーズのまま固まってしまいました。
「お待ちしておりました美月様、音羽様」
突然ドアを開けてわたしを驚かせてくれたのは、黒色のサングラスにすらりとした同色のスーツを纏った長髪の女性でした。
良かったですよ、これでドア越しに現れたのがムキムキ筋肉タンクトップにモヒカンヒャッハー野郎だったなら、色々と致命的な何かが飛び散っていたかもしれないですからね。
しかしそれとは別に妙な予感がします、何故ならわたしはこういう格好をした女性を以前に見たような覚えがあるのですよ。
黒服の女性に誘導され専用の直通エレベーターで向かうのはやはり最上階ですか、まぁわたしの想像通りのお金持ちさんなら当然とも言えますが。
ピンッ、という音と共にドアがゆっくりと開いていくと、庶民出身のわたしが予想も出来ないような光景が広がっていました。
瞳を見開きながら眺める先には近代的なビルに不釣り合いな純和風の玄関。エレベーターの扉が開いた瞬間から漂い始めた木と草の香りとも相まって、まるでドコにでも通じるドアを使って田舎情緒満載な親戚の家を無計画に訪ねてしまったような気分です。
しかしあくまでもそれは幻想でしかないというように和風の扉は音も無く滑るように自動で開き、唖然としたままのわたし達姉妹を音羽さんが先導しながら建物の中へとお邪魔をさせていただきましたって、建物の中の建物に入るとかいったいどういう表現なのでしょうか。
靴を脱いで玄関らしき場所から板張りの短い通路を抜けてぐるりと視界を巡らせれば、つくづく富豪と呼ばれる人達の発想は理解が出来ないなと思い知らされましたね。
胸がすく自然の香りに包まれた二階建て木造造りの広い吹き抜けエントランスに出迎えられ、まるで高級旅館のような気品溢れるその雰囲気に圧倒されて立ち尽くしていると、奥から和服姿の女性が音もたてずに歩み寄ってくるのが解った。
というか此処はビルの最上階ですよね。ただでさえ建物の中に建物でややこしいのに、最上階の二階建てとかもうこれ理解が追いつかないのですけど。
「いらっしゃい、其方のお嬢さんとは初めましてね。
空色の瞳と腰まで届く金色の髪を持つ女性は、清流を流れる水の如き美しい所作で深々と頭を下げた。
落ち着いた声の雰囲気からすればお婆さんだとは思うのですが、瑞々しい髪質に染みひとつ無い美しい肌といい流石はお金持ちです。きっと惜しみなく美容にも費用を掛けているのでしょうね、それともまさか全身サイボーグという可能性さえ有り得るかもです、何と言っても弦巻家は世界で十本の指に入るような大財閥の筈ですからね。
「音羽もよく来てくれたわ、久しぶりね」
「偶には顔を出せと仰ったのはお祖母様でしょう」
「ふふ、そうだったかしら。立ち話も何ですから部屋に行くとしましょうか」
わたしと瑠璃姉さんが同時に音羽さんの袖を引っ張る。そんなわたし達の表情を見た彼女は軽く天を仰いだ後に溜め息混じりに話を切り出してくれた。
「花さんはお母さんのお母さん、つまり私のおばあちゃんなの」
絶叫こそしませんでしたが、口から小人のわたしがコンニチハと飛び出すのかと思った程の驚きです。慌てて隣を確認すると姉さんも知らなかったのか今まで見た事が無い程に瞳を見開いて驚いています。
「とはいえ私は産まれた時から蒲田姓だったから、弦巻家の事は全く知らないし興味も無いけれどね」
「それでも私の可愛い孫娘には違いないわ」
花さんに連れられて畳敷の和室へと案内されました。随分と年季の入った囲炉裏もあり落ち着いた雰囲気なのですが、そもそもビル内に囲炉裏は色々と大丈夫なのでしょうかね。
「さて、いくら家の運転手がしでかした事とはいえ、雇い主として心から謝罪をさせて頂きます。此度は本当に申し訳なかったわ」
「もうすっかり優璃も元気ですし、既に充分過ぎる程の謝罪と支援を頂いておりますからどうぞお顔をお上げください」
正座をしながら再び頭を下げた花さんに姉さんが優しく声を掛けると、ゆっくりと顔を上げて菩薩のように優しく微笑んでくれました。しかし不思議な感じですね、わたしの想像では富豪の方は総じて庶民を見下してくるものとばかりに思っていましたが、実際にはこういう品の有る方も居られるのですね。
「事故とはいえ記憶を失くすのは人生を失ったも同然、どれだけ謝罪しても決して取り戻せはしないわ。だから優璃さんには出来るだけの事をしてあげたいと思っているのよ」
「あっお気になさらず、結構楽しく生活しておりますので」
「ぷふっ、この姉妹はやっぱり最高だわ」
何故ですかね、真面目に謙遜の姿勢を見せた筈なのに音羽さんに笑われてしまいましたよ。
「それでお祖母様、社交辞令は良いとして本題がお有りなのでしょう」
「流石は音羽ね、そういうところは母親によく似ているわ」
「弦巻家を捨てた実の娘にですか?」
「そういうところよ」
ふわぁ何なのですかこの雰囲気、まるで社会派ドラマの対決シーンのような緊張感になっていますよ。というか本日の主役であるわたしが完全に空気になっているのですが、好き好んでシリアスドラマに頭を突っ込む勇気は無いのでとりあえず他人事のような顔をしておきますかね。
「優璃さん、少しお姉さん方とお話しをしたいからそうね、屋上に展望スペースがあるから景色でも眺めて待っていてくださるかしら?」
「あっはい、わかりました」
花さんに促され立ちあがろうとしたところで姉さんに腕を掴まれ、心配は無いわのただひと言だけを伝えられます。そんなに不安そうな表情をしていたのでしょうか、大人の話なのかもしれませんがやはり蚊帳の外というのを少々不満に感じていたのかもしれませんね。
「大丈夫だよ、何があっても姉さんを信じているから」
わたしもひと言だけを告げてから部屋を後にしました。精神的には現実の姉妹では無いというのに、姉さんなら間違えないという確信めいた気持ちが砦のように硬く築かれている事に、少しばかりの恥ずかしさと嬉しさを覚えてしまいます。
黒服のお姉さんに案内されて屋上に出てみたは良いのですが、いい加減わたしも富豪という存在に慣れてきたのかそこまで驚く事はありませんでしたよ。
巨大な透明の壁に囲まれ、床には綺麗に刈り揃えられた芝が敷き詰められ、所々にある花壇には色とりどりの綺麗な花やそこそこの大きさの観葉植物、休む為のベンチは木製どころか高級そうなソファー、あぁもういったいコレのドコが展望スペースと呼べる規模なのですかね。
巨大な温室というかもはや公園といった屋上を鼻歌混じりに散策していたら、とある異質な光景に意識を奪われて足が止まってしまった。
明るい陽の光が降り注いでいた温室の壁際、何故か草原のように開けていたその場所に、ひとりの女の子が世界を見渡すように両手を広げたまま固まっていた。
背中越しに見るその姿は制服だろうか、重厚な深い紺色の服をその身に纏い、まるで太陽の力を吸収しているかのように美しい金色の長髪は光り輝いていた。
不思議な女の子がどこか現実離れをした存在に思えてきて、今にもその背中に白き翼を生やして大空に飛び立ってしまいそうな、まるで美術館で高尚な絵画でも見ているような錯覚に陥りそうだった。
「こんにちは、天使さん」
「あら、あなたがおばあちゃんが言っていたお客様かしら?」
静かに近寄って掛けた声に反応して、彼女は両手を広げたままくるりと踊るように振り返ってくれた。
「そうですよ、わたしは
「初めましてね、それとあたしの名前は『てんし』じゃないわ、
えぇよく存じておりますよ、弦巻家現当主の一人娘であり近々ハローハッピーワールドというバンドを組んで香澄達と同じように青春を謳歌してくれる予定の女の子だという事をね。
よく知っている、確かにその筈なのに彼女と初めて言葉を交わした感想は自分でも信じられないものだった。
ーーあれっ? 何かが違う気がする。
きょとんとした表情のこころちゃんを前に、心に湧いた言い知れぬ違和感を探る為にわたしは彼女をベンチへと誘うのでした。