せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
原作の戸山明日香さんはとても真面目で良い娘です。
それはわたしにとって死亡宣告のようなものでした。
ーー今から部屋に行きます。
死臭漂う文面を一読して思わず手から零れ落ちてしまった携帯電話を拾い上げ、現実逃避の為に
送信元には
特に怒らせるような出来事も無かったですし、なので折檻を受けるとは考え難いですし、きっと五寸釘なども持っては来ないでしょうし、ええ多分ですが死ぬ事は無いと思います。
これはきっとアレですよ、明日開催される有咲の蔵でのクライブに一緒に行こうというお誘いだと思いますね。ですが大変に有り難い申し出とはいえ既に沙綾と先約がありますので、どうやらあっちゃんには御免なさいとなってしまいそうです。
えっと、もしかしなくても死亡フラグですよねコレ……。
仕方がありませんね、ここは必殺の既読を付けないでスルーを使わせて頂きますか。優璃さんはもう寝ていますよぉ、部屋に来ちゃ駄目ですよぉ。
「優璃お姉ちゃん、起きてる?」
「優璃さんは寝ていますよぉ」
「起きてるじゃん」
ドアを開けて掛けられた声に反射的に応えてしまいました。
あのですね、姉さんが香澄達の両親に合鍵を渡しているのは今迄のお付き合いからして理解が出来るのですけど、わたしとしては生殺与奪の権利まで戸山姉妹に渡したつもりは毛頭ないので御座いまして、勝手に部屋の中へと上がり込むとは如何なものかと思いますよ。
「ヤァアッチャン、オヒガラモヨロシュウ」
「何で布団にくるまって頭だけ出しているの、まるで亀みたいだよ」
そうわたしはスッポン、迂闊にも近付けば噛みつかれるという覚悟を持つが良いです。
「ほらお姉ちゃん、話がしたくて来たんだよ」
布団を無理矢理に剥がされてベッドの端に並んで座らされました。
ふっ、甲羅を取られてしまえばもはや身を守る術も無し、どうやらわたしの命も風前の灯となってしまったようですね。
「ソレデ、ドノヨウナ、ゴヨウケンデ?」
「何をそんなに緊張しているの? まぁいいか、それより香澄お姉ちゃんから聞いているでしょ、私が羽丘に行くかもって」
「一応は聞いているよ、でもどうしてわざわざ」
羽丘女子学園はこの街で花咲川女子学園と人気を二分する女子校なのですが、何故あっちゃんがわざわざ花女の中等部から羽丘に進学しようとしているのかは、今ひとつわたしの中で合点がいっていないのもまた事実です。
「あのね、いつもお姉ちゃん達が仲良さそうに登校して行く姿を見ているのが、寂しくて辛くなったの」
「えええ、そんな理由なの?」
「いや嘘だけど。ただ単に大学に行くなら勉強に集中が出来る環境が良いかなってだけ、花女に居たら戸山の妹だとか弄られそうじゃん」
「別にそれくらいなら花女でも良くないかな、あっちゃんが居なかったらわたしも香澄も寂しいよ」
あっちゃんが黙ったままそっと腕に寄り掛かってくる。香澄はボディクリームに甘い香りを好むけれど、あっちゃんの身体からは夏の高原のような爽やかな香りが漂ってくるのが、やっぱり姉妹でも好みが違うのかなと少し面白い。
腕を廻して優しく抱き寄せてあげたら照れたように微笑んでくれました。年下らしくとても可愛い姿だけれど、わたしの身長が低いせいなのかこの姿勢はあまり様にはなっていないような気がします。
「本当はちょっと迷ってる。お姉ちゃんは毎日見るから良いけれど、優璃お姉ちゃんが見れなくなるのは寂しいかなって」
「だったらさ、花女のままで……」
「お姉ちゃんが側に居てって、特別にしてあげるって言うなら考えちゃうかな」
あっちゃんが身体を横に傾けるようにして上目遣いで見つめてきた。
「私ね、戸山の妹って言われるのは恥ずかしくて嫌だけど、美月の彼女って言われるのは別に良いかなぁって思っているんだよ」
ほほぅ今日は小悪魔モードで御座いますか。しかしわたしにも学習能力というものがありますからね、いつまでもからかわれ放題とはなりませんよ。
そもそもノンケばかりのこの世界で美少女に言い寄られるなんて美味しい話がですね、道端で配られるティッシュのように易々と渡される訳が無いのですよ。
「お姉ちゃんは女の子が相手はやっぱり嫌?」
「あっちゃんは可愛くて最高だけど冗談は頂けませんよ。進学は人生の分岐点になるのですから茶化す物ではありませぬ」
「あれっ、バレちゃったか。まぁ女の子が恋人は無いよね」
横向きになっていた身体を押し付けるように膝枕の体勢にしてから撫でるように優しく髪を触ってあげると、蕩けたように崩れた表情を見せてくれました。
やはりからかっていただけですか、この優璃さんには御見通しでしたが少しばかり残念な気持ちになっているのは気の迷いだと思う事にしておきます。
「という事は、やっぱりお姉ちゃん同士で結婚してもらうしかないか」
「ちょいあっちゃん、さっき迄の流れが死んでいませんかね?」
「だってお姉ちゃん同士が結婚してくれれば、私は正真正銘の義妹としてずっと優璃お姉ちゃんと一緒に居られるでしょ」
義理の妹だからずっと一緒というのはちょっと意味が解りませんが。
そして膝枕をすると必ずジャージを捲ってブラジャーを確認するその悪い癖も意味が解らないのですがね。
「香澄は大好きで誰よりも大切だけどわたし達はそういう雰囲気じゃないでしょ、香澄は女の子に興味が無さそうだし」
「ふうん、これはお姉ちゃんも苦労する訳だわ」
「えっ、香澄が何か苦労しているの?」
「なんでもなーいよ」
あっちゃんがジャージのズボンを捲ろうとしたので軽く頭を叩いてあげると、悪戯っ子のようにニヤリと白い歯を見せながら手を離してくれました。
それにしても香澄に何か問題が起きたのでしょうか。何も相談してくれないとは寂しいですし幼馴染みとしても許すまじですよ、これは直ぐにでも問い正さなければならない許すまじ案件ですよ。
「あっちゃん、香澄に何か問題が起きているのなら教えて欲しい、わたしだって少しくらい香澄の力になってあげたいし」
「何を言っているの、問題が起きたらお姉ちゃんは私より先に優璃お姉ちゃんに相談するに決まっているじゃん。今だって幸せそうな顔で寝ていると思うよ」
あれれぇ、何か話が噛み合っていないような気がしますぅ。
「まぁ今日は優璃お姉ちゃんは女の子が相手でも満更ではないって判ったのは収穫だったかな」
「にゃにゃっ、今迄の会話でそんな要素がありましたか?」
「優璃お姉ちゃんは隙だらけなの、そんなのじゃ男の子にも女の子にも良いように言いくるめられて大変な事になっちゃうよ」
膝枕の体勢だったあっちゃんがお腹にタックルをする勢いで抱きついてきた衝撃で、ボフッという鈍い音と共にベッドへと押し倒されてしまった。急な事に驚いて閉じてしまった瞳を再び開けると、顔の横に両手を付けて見下ろすような姿勢を取ったあっちゃんが少し大人びた笑みをその口元に浮かべていた。
ショートカットの髪を頬に垂らし、香澄と同じ少し紫がかった瞳は妖艶な色で燃え上がっているように瑞々しい眼差しを向けてきています。年下だと思って油断していましたが、じっくりと見ればやはり香澄の妹だけあってこの娘も美少女なんだなと思い知らされてしまいそうです。
「心配だよ、優璃お姉ちゃんが大好きな女の子としては」
手を上げてあっちゃんの左頬に右手を添えてあげると、それきり何も喋らなくなってしまいました。
まったく、そんな泣きそうな程に瞳を潤ませてまで演技をしなくても大丈夫ですよ、例え天地が三百六十度回転してもわたしが男の子と大変な目に遭う事など無いのですから。
「優璃お姉ちゃん……」
「あっちゃん、羽丘に行こうとしている本当の理由は香澄の為でもあるんでしょう」
驚愕したように瞳を見開くあっちゃん。
おやおやこれはもしかして確信も無く適当に放ってしまった言葉が真実という的を見事に射抜いたのではないでしょうか。凄いですよわたし、ここはかの有名な年齢詐称名探偵の決め台詞でも咬ましてしまいますかね。
真実はいつもテキトー!
一度は言ってみたかったこの台詞、くふぅ思わず痺れてしまいますよ。
「違うよ、あくまでも私の為だけだよ」
今度はわたしが瞳を見開く番になりました。口から魂を吹き出さなかっただけまだ良かったですが、これって調子に乗ったところで叩き落とされる最高に恥ずかしいやつではないですかね。流石は死神の異名を持つ女の子、的確に精神力を削ってくるとはラスボスも真っ青な凶悪振りですよ。
「お姉ちゃんて私には無い感性を持ってて、私には見えない景色が見えてて、私には思いもつかない言葉を持っててさ、それが羨ましくて悔しくもあるんだ。だからお姉ちゃんからは絶対に見えない景色、お姉ちゃんの知らない世界を歩きたくなったの」
姉妹だって千差万別です。姉の背中を追う妹も居れば、あっちゃんのように姉とは違う道を選ぶ妹も居て当然です。
「本人には絶対に言わないけれど、お姉ちゃんって学業はアレだから大学とかはかなり厳しいと思うんだ。だから私が進学すれば両親も安心っていうのもあってね、やっぱりお姉ちゃんには自分のやりたい事を自由にしていて欲しいもん」
はにかんだ素敵な笑顔を見せられてしまえばもはや何も言う事は出来ませんよ。ただですね、香澄も花女を受験して入学していますから多分ですがやれば出来る子だとは思いますよ。
身体を起こして優しく抱き寄せてあげます。血の繋がった姉妹ではないというのに、不思議と本当の肉親に感じるような愛しさで胸の中が暖かい色に染まっていくようです。そういえば瑠璃姉さんにも同じような感情を抱く時がありますから、精神的にあっちゃんを妹と感じる事は別に不思議ではないのかもしれませんね。
「あっちゃんはわたし達の最高の妹だよ。これからもずっとわたしの妹で居て欲しいな」
「だからお姉ちゃん同士で結婚してって言ってるじゃん、もしお姉ちゃん以外の人と結婚したら許さないからね」
いや明日香姫や、残念ながら香澄殿はそのような嗜好をお持ちでは御座らぬゆえ、我の精神力が地の底まで滑落してしまう前にこの辺りで勘弁して頂けませぬか。
マントル辺りまで落ちかけた気分を誤魔化す為に、抱き合った形のまま横になり受験勉強の愚痴などを聞いてあげます。それは良いのですが、あっちゃんが割と高頻度に胸を触ってくるのが気になったのでお返しにえいやと触り返してあげたら、急に勝ち誇ったように口角を上げてニヤリと微笑んできました。
えっ……マジすか、嘘……でしょ。
いやわたしよりは大きいとは思っていたのですよ、わたしよりは!
香澄程では無いけれど普通に御立派ですよね、はぁマジですか、あっちゃんはこちらグループとばかりに思っていたのですがね。
「まぁお姉ちゃん程じゃないから」
ムキー! 本日一番の許すまじですよ。裏切り者ですか契約違反ですよ、やれやれ仕方がないですね、りみりんおたえ、やってお仕舞いなさい。
「ちょっと、そんなに強く触ったら痛いよ」
あぁそうですか、何と言ってもわたしには生涯に渡って経験しないであろう痛みですものね。
ムッキッキー! この小悪魔許すまじですぅ。泣かないでください脳内りみりんにおたえ、この裏切り者はわたしが絶対に討ち取ってみせますからね。
「もう優璃お姉ちゃん、帰りたくなくなっちゃうよ」
「おっと、これは夢中になってしまいましたね」
「優璃お姉ちゃんのも可愛いくて私は好きなんだからそんな顔しないで、触っても良いから優しくしてよね」
あっちゃんの胸部装甲を破壊するべく般若の顔で攻撃していたら流石に叱られてしまいました。しかしこれだけ胸を触っていても叱られるだけとは、やっぱり女の子は最高と言わざるを得ませんよね。
逃げるようにベッドから離れて乱れたパジャマを直したあっちゃんは、ニ度三度ほど両手で頬を叩いた後に優しい微笑みを見せてくれた。
「それじゃ優璃お姉ちゃん、明日は迎えに来るね」
「いや明日は先約があるんだよね」
「ふぅん……事情聴取だね、今夜は帰りませんから」
鎌を持たぬまでも雰囲気抜群の死神様は、ゆっくりとベッドに侵入して震えるわたしの身体に馬乗りになられました。
「優璃お姉ちゃん大好き、今夜は寝かさないよ」
「語弊が有り過ぎ、変な本の読み過ぎですから」
死神か小悪魔か、我が愛しの妹様は可愛い顔に凶悪な笑みを浮かべながら、地獄へ誘うようにその綺麗な手を伸ばしてくるのでした。