せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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37.おっぱいは誰のもの

 

 

 お昼休みで騒めく生徒達が次々と通り過ぎて行く廊下の片隅にて、ひとりの美少女たるわたしは決意を持ってとある部屋の前に立っています。

 心を落ち着かせる為に幾度か深呼吸を繰り返してからノックをして返事を待ち、静かに扉を開けていざ戦場へと足を踏み入れました。

 

 

「いらっしゃい、時間通りね」

 

「失礼します。お時間を頂き感謝します、生徒会長」

 

 

 何台かの書類棚に質素な長机とパイプ椅子、我等が花咲川女子学園の生徒会室は女子校とは思えない程に実務的な様相を呈していました。

 

 促されるまま対面の椅子に座り背筋を伸ばして対峙します。理知的な眼鏡と美しい天使の輪を持つ長髪を後ろでひと束に纏めているのが印象的な会長は、見透かすように瞳を細め、自らの意思を隠すように顔の前で両手を組んで動かずにいました。

 

 

「美月優璃さん、貴女は今年の文化祭で音楽祭という名のライブを開催したいそうですね」

 

「はい、音楽という自己表現を披露する場所を提供する事で文化祭を盛り上げるという生徒会の一助にもなりますし、花咲川女子学園の懐の深さ多様性を内外に示す事にも繋がり、ひいては会長ご自身の評価にも……」

 

「まわりくどい言い方はよせ越後屋、この話はお主にも利益が有るのであろう」

 

「いやいや流石はお代官様、わたくしめの目論見など既にお見通しで御座いましたか」

 

「ぬかしよる。はっ、はっ、はっ、はっ」

 

 

 二人で高笑いを決めたタイミングで同時に頭を叩かれました。

 

 

「茶番は止めなさい、お昼休みは短いのよ」

 

「可愛い後輩と戯れる権利くらいは生徒会長にもあって然るべきよ、ゆり」

 

 

 りみりんのお姉さんでありGlitter⭐︎Green(グリグリ)のギターボーカルでもあるゆりさんに頭を叩かれたキーボード担当の七菜(ななな)さんが、衝撃でズレた眼鏡を直しながら恨めしそうな視線を返しています。

 

 

「ひゃん!」

 

 

 因みに無表情でわたしの頭を叩いたのはベース担当のリィさん、そして背後からするりと腕を伸ばして制服の上から胸を鷲掴みにしてきたのがドラム担当のひなこさんです。

 どうやらグリグリの皆さんが全員集合のようですが、先程乙女のような悲鳴をあげていた女の子の姿が見えませんね、きっと空耳だったと思うので記憶から消去しておく事にします。

 

 

「相変わらず可愛いお胸だねぇ、ひなちゃんが立派に育ててあげるからお姉さんにその身を委ねるのだ。さぁさぁ、ひなこお姉様と呼ぶが良いぞ」

 

 

 制服の上から、しかも微々たる量の物とはいえ乱暴に揉みしだかれると背中に虫が這うような悪寒が走ります。不思議なもので香澄や沙綾達に触られても嫌だとは思わないのに、ひなさんに触られるとハッキリとキモチワルイと思えてしまいます。

 これも女の子らしい感情っぽいとはいえ、何だか複雑な心境になってしまうのは仕方がない事なのですかね。

 

 

「いい加減に止めろ、ゆっちゃんが怯えてるでしょ」

 

 

 一際大きな音をたてながらリィさんがひなさんの頭を叩き身体を引き剥がしてくれました。決してクールな態度を崩さないリィさんはどうやら優しくて安心できる常識人なお姉様のようです。

 

 

「あぁ私のおっぱい、私の美少女がぁぁぁぁ」

 

「どちらもあんたのでは無い」

 

 

 リィさんお願いですからその猛獣を何処かの檻にでも放り込んでおいてくださいませ。あっ、もちろん餌は抜きで。

 

 

「それで美月さんは文化祭で戸山さん達のバンドを演奏させたいと、そういう話ね」

 

 

 わたしが力強く頷くと七菜さんとゆりさんは顔を見合わせ真剣な表情で頷き合った。

 

 

「でもねゆっちゃん、仮に私達も出るにしても二つのバンドだけでは場が持たないのよ」

 

「そこでよ、美月さんには交換条件を提示したいと思います」

 

 

 七菜さんが差し出してきた紙には『文化祭実行委員名簿』という文字が大きく記されております。

 なる程ですこちらの要求を呑む為には対価が必要という訳ですか、ですが……。

 

 

「これは提案よ、ライブをしたいのなら自分で舞台を整えなさいという事ね。出演バンドを集めるにしても生徒会という肩書きは便利だと思うけれど」

 

「やれば良い、そして馬車馬のように働けば良い」

 

 

 返答に悩んでいると、隣に座るリィさんが持っていたぬいぐるみの腕で頬をつんつんと突いてきました。リィさんなりに頑張れと言ってくれているのでしょうが、更に奥に座り美少女美少女と連呼している猛獣の躾は大丈夫なのでしょうかね。

 

 

「わかりました、やります」

 

「物解りが良いのね、それだけあの娘達が大切という事かしら」

 

「必ずや姉御のご期待に応えてみせやすぜ」

 

「無駄に命を散らすんじゃないわよ、絶対に生きて帰って来なさい」

 

 

 七菜の姉御、ゆりの助、と腕を固くクロスさせたところで再び同時に頭を叩かれてしまいました。

 

 

「そのおっぱいはひなちゃんが育てるのだぁ!」

 

 

 隙を見て突然わたしに飛び掛かろうとしたひなさんの顎をリィさんのぬいぐるみが素早い動きで的確に打ち抜きました。綺麗に半円を描きながらスローモーションのように吹っ飛んでいく猛獣を茫然と眺めながら、ふとわたしはひとつだけ心に決めた事があります。

 

 

 ぬいぐるみを怒らせたらアカンなと。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 生徒会室からの帰り道、開いていた窓から吹き込む風に後髪を優しく弄ばれた。草と土の混じり合う匂いは季節の変わり目である事を告げるように校舎の中を満たしていて、何だか意味もなく心をふわふわと浮き立たせてしまいます。

 

 少しだけ軽くなった足取りで教室に戻る為の降り階段に差しかかると踊り場に見知った顔が二つ、座った姿勢でノートを開いている有咲とそれを覗き込むような姿勢の沙綾が居ました。

 

 

「何をしているの?」

 

「何だ優璃かよ。いやメンバーも増えてきたしな、そろそろバンド名とか決めた方が良いのかなって」

 

 

 なんですと、それは聞き捨てならぬ話ですぞ有咲殿。

 

 速攻で有咲の向かいに膝を折るように座りノートを覗き込みながら沢山の単語が書き連ねられている中からとある文字を必死に探します。

 その様子を見たのか沙綾もわたしの隣に膝を合わせるように座り、ノートの一箇所を興味深そうに指差しました。

 

 

「この『poppin』っていうの可愛いかも」

 

「わたしもそれが良いと思った。弾ける可愛さっていうか、元気になれそうな感じがする」

 

 

 その言葉を選んでくれるとは流石は沙綾、お目が高いですよ。

 嬉しさで沙綾に向かって弾ける笑顔を向けたら、ふわりとした優しい微笑みを返してくれて余計にテンションが上がってしまいそうです。

 

 とりあえず有咲のリアクションを見ようと正面に向き直したところで、突然に襲ってきた感覚で背中に震えが走ってしまった。

 それは有咲の位置からは見えない突き合わせた膝の下で、沙綾の左手がわたしの右足首を何の脈絡もなく握りしめてきた事に驚いたからだった。

 

 慌てて沙綾の顔を確認しても有咲の方を見て素知らぬ顔をしています。これは意識的にからかっているのだと直ぐに理解は出来ましたが、有咲に見られたら変に思われるかもしれないと思うと身体を動かす事が出来ず、まさに沙綾にされるがままになってしまいました。

 時折キュッ、キュッ、と強く握られる度に恥ずかしさが込み上げてきて、まるで初めて手を握られた時のように段々と鼓動が強くなり、沙綾の手を握りたいという衝動が顔の熱さと共に沸々と心の奥底から這い出して身体を支配しそうになりそうです。

 

 

「流石は有咲だね、センスが良いんだろうな」

 

「弾ける仲間達とか良いかもなぁ。サンキュ、参考になったわ」

 

 

 沙綾の笑顔に隠されたあからさまな褒め言葉に対して有咲は素直に嬉しそうな顔を見せています。騙されたら駄目です有咲、この娘は笑顔の下で友達の脚を触って遊ぶような悪戯っ子なのですよ。

 

 

「あっみんな此処に居た! 次はホームルームだよって、ありさ何を書いているの?」

 

「何でもねぇ、さっ行くぞ」

 

 

 香澄に覗かれそうになった有咲が誤魔化すように立ち上がりながらノートを小脇に抱えてしまいました。傍目から見ると有咲は割と香澄に素っ気ない態度をとる事が多いのですが、きっと自分の女の子らしい部分を見せるのが恥ずかしいのでしょうね、流石はツンデレの見本市ですよ。

 

 わたし達も有咲に合わせて立ち上がると、香澄が現れた瞬間に脚から手を離していた沙綾がきょとんとした顔の香澄の背中を押すようにして階段を降りて行ってしまった。

 

 

「なぁ、沙綾って……」

 

「んっ? どうしたの有咲」

 

「いや……独り言、ほら私達も行くぞ」

 

 

 一足先に歩き出した有咲が階段を一段づつ降りる度にぴょこぴょこと可愛らしくツインテールの髪が跳ねていた。そんな平和な光景を眺めながらも何故かわたしの儚い胸の内では、お祭り前の高揚感と嵐の前の不安感みたいなものが混じり合いながら通り抜けていくのでした。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

「ほほぅ、そういう流れですか生徒会実行委員さん」

 

「そうなのですよ、クラス代表実行委員さん」

 

 

 夜の帳も下りて満月の照明が輝き出す時間帯に、わたしの部屋のベッドの上で香澄と二人で正座をして向かい合っております。

 

 

 午後のホームルームで香澄が満場一致で文化祭の一年A組実行委員長に推挙されたのですが、いざ副委員長の選抜になると嫁の面倒はお前が見ろよと言わんばかりの視線が教室中から浴びせ掛けられました。

 しかしこれは想定内の流れでしたね、あくまでも余裕の表情を崩さず学級委員長のみっこに向かって右手を挙げながらゆるりと立ち上がりました。

 

 

「みづきゆりくん」

 

「サンクス委員長。さて皆さん先ずは生暖かい視線をどうもありがとう、そしてその期待に応える事が出来ないのを心から謝罪いたすとしよう」

 

 

 舞台に立つ役者のように大袈裟に右手を額に添え絶望の表情を見せます。さてクラスの皆様、優璃さんのひとり舞台をごゆるりとご覧くださいませ。

 

 

「わたくしこと美月優璃は既に先程生徒会より実行委員を承ってしまったので、残念ながらクラスの実行委員をお受けする事は出来ないのです」

 

 

 知るか両方やれ、というみっこの野次に向かって勢いよく指を差し、にやりと笑った後に代替え案を提示します。

 

 

「そ、こ、で、我等がクラス代表の補佐に相応しい人物を推薦したいと思います。その人物は面倒見と包容力という優しさを両立しまさに補佐役として最適な人材、そう山吹沙綾こそが副委員長に望ましいのです」

 

「えっ⁉︎ 私⁉︎」

 

 

 感嘆の拍手と共に今度は教室中の視線が沙綾に向けられます。これで作戦は成功したも同然です、この雰囲気の中で断る事が出来る人で無いのは既に理解をしていますのでね。

 これで香澄と沙綾の接点が増えますし何より先程の悪戯の報復も出来て一石二鳥の展開ですよ、中々の策士ですねわたしは。

 

 

「もう仕方がないな、それじゃあ私がやりますか」

 

 

 沙綾が笑顔でこちらを見てくれた事に安心……出来ませんよ。あの笑顔は怒りの笑顔ですよ、これは殺られてしまうかもしれないと今日はスタコラと走って帰るスタ子ちゃんになったという次第です。

 

 

「ほほぅ、それでわたしの相方を断ったと」

 

「まぁもう少し沙綾と親睦を深めるのも良いでしょ、こっちはバンド出演に向かって舞台を整えるからさ」

 

「色々と甘えちゃってゴメンね」

 

「それは良いけれど香澄さ……」

 

 

 真剣な表情のまま正座で向かい合っているのは良いのですが、生徒会室での遣り取りを聞いた香澄が何故か両手でわたしの胸部装甲をふにふにと揉み始めた事が全くもって理解し難いのですがね。

 

 

「何で胸を揉んでいるの?」

 

「上書きです、これはわたしのおっぱいなので」

 

「許可はしていないよ、これはわたしも触り返しても良い流れだよね?」

 

「それは駄目です、恥ずかしいので」

 

「傍若無人が過ぎるよね」

 

 

 色気も何も無くふにふにと胸を触る香澄にトキメキもあったものではありません。

 このままやられ放題では男も廃るというものなので、香澄に飛び掛かるように押し倒してその柔らかな胸に顔を埋めてやりました。

 顔をグリグリと動かすと有咲に比べれば大人しいサイズとはいえ顔が包み込まれるような滑らかな触感に幸せが溢れてしまいますね。

 そのまま顔を擦り続けて楽しんでいたら、恥ずかしいのか香澄が時折身体を震わせ始めました。

 この優璃様のおっぱいを弄んだからには相応の恥ずかしめを受けて貰わねばなりませんからね、身を震わせる羞恥心にその心を焦がすが宜しいですよ。

 

 

「香澄のおっぱいはわたしのです」

 

「ち、違うもん、ゆりのおっぱいがわたしのだもん」

 

 

 意固地になったわたし達はお互いのおっぱいをがむしゃらに揉み合うというおっぱい合戦に突入してしまいました。

 揉みやすいようにと上着を剥ぎ取り合いベッドの上で揉み合う姿はさながら女子プロレスのようですが、わたしが香澄に馬乗りになりお互いの顔を見つめ合ったところで漸く落ち着きを取り戻す事が出来ました。

 

 

「香澄、今日は泊まっていきなよ」

 

「ゆりから誘ってくれたのは久しぶりだね。泊まるからって乱暴にしたら嫌だよ」

 

「全世界の人が誤解しそうな言い回しは止めて」

 

「だって現に襲われているし、ゆりのおっぱいはわたしのなのに」

 

 

 香澄の身体から離れて部屋の照明を落としてから再び馬乗りになり第二次おっぱい大戦争の始まりです。

 

 

「香澄はわたしのだって言っているでしょうが」

 

 

 勢いよくおっぱいに手を伸ばそうとしたら、香澄の両手が頬を包み込むように添えられた事に驚いて思わず動きを止めてしまった。

 

 

「もう一回さっきの言って」

 

 

 薄暗いベッドの上で淡い光に反射した香澄の瞳は潤んでいるように見えた。先程のわたしの言葉って確か……。

 

 

「もう、ゆりはわたしが大好きで仕方がないんだねぇ」

 

 

 あれ可笑しいですね、何故かわたしの方が羞恥心に身を焦がしているような気がするのですが?

 

 体勢を入れ替えられ今度は香澄が覆い被さる形になり、暗がりでもわかる程に楽しそうにしている顔をぐいぐいと近付けて来ました。

 

 

「それでそれで、誰が誰のものだっけ。ねぇねぇ、香澄は誰のものだって?」

 

 

 意地が悪そうな笑顔もとても可愛いですよ。ですのでお願いしますからそろそろ帰っては頂けませんかね?

 

 

 

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