せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
ゆりの姉である、るりさん視点の回でございます。
もうすぐ
シュシュで髪をひとつにまとめてからエプロンを付ける。それからキッチンに向かい夕食の準備を始めた。
今日のメニューは初登校のお祝いに優璃の大好物にしちゃった。
事故のせいで記憶は失ってしまっているけれど、好きな物はきっと変わらないよね。
私のたったひとりの妹でただひとりの家族。優璃が退院してからは、私の生活は優璃最優先になっている。
お父さんとお母さんが居なくなってから、私達は少しギクシャクとしていた時期が続いた。優璃も多感な時期だったからなのか、私に遠慮してあまり話しかけてはくれなかった。
そんな日々が過ぎていき、優璃が中学卒業を控えたある日の夕方、優璃が事故に巻き込まれたという知らせを受け取った。
目の前が真っ暗になって思わず気を失いそうになりながらもなんとか震える足で病院に向かい、お医者さんから危険な状態ですと話をされた時にもまた倒れそうになった。
両親に続いて優璃まで私の前から居なくなってしまうかもしれない。
そんなの耐えられない。神様お願いします、私の前から優璃を連れ去らないでくださいと必死に祈り続けた。
祈りが通じてくれたのか、一時は危篤に陥った命が私の前から消えて無くなる事はなかった。
意識を取り戻した優璃は事故以前の記憶をほとんど失ってしまっていたけれど、生きていてくれただけでもう充分だった。たとえ私の事を忘れていても、血の繋がりは消えはしない。また姉妹の絆はいちから作っていけばいい、生きてさえいればそれで……。
入院してから数日経ち、優璃は意外な程にすんなりと私を姉と受け入れてくれた。
記憶を失った事で優璃自身も不安だったのか、事故以前にはあまり見せてくれなかった甘えるような仕草も隠さなくなった。
それが何よりも嬉しくて、優璃のお世話をする事が生きがいになった。満足に動けない頃は体を拭いてあげたり、着替えさせてあげたり、食事も私が食べさせてあげるようになった。
この子には私しかいない、私が優璃を守るんだ、優璃には私が必要なんだと思うとたまらなく幸せだった。
しばらく入院生活が続いてようやく退院の目処がたったある日、優璃がはにかみながら『姉さん』と呼んでくれた。前は『お姉ちゃん』だったけれど、そんな事はどうでも良かった。記憶を失ってしまったのに私を姉として認めようと頑張ってくれている。こんなに幸せな事があってもいいのと思ってしまった。
はにかむ笑顔に、私の母性はすっかり撃ち抜かれてしまっていた。
豆腐を切り終えて包丁を置き、両手でガッツポーズをして気合をいれる。
この子は私が育てるの、だからもっとしっかり者にならないとね。優璃にとって母親であり、姉でもあり、そして恋人みたいな存在にならなくちゃ。
ガチャっと玄関の扉が開く音がしたので、メインディッシュが入っているレンジのスイッチを入れて本格的に夕食の準備を始める。しばらくすると、制服姿の優璃が疲れた顔でリビングに姿を現した。
「姉さん、ただいま」
「おかえり優璃、疲れた顔をしているけれど、どうかしたの?」
優璃は鞄を床に置いて、はぁっと息を吐きながらソファーへ乱暴に体を預けた。こらこら、そんな股を広げて男の子みたいだよ。
「いやもう香澄が元気過ぎてさ……ふにゅ、こにょ匂いは」
優璃は急に背筋をピンと伸ばして顔をこちらに向けた。瞳を大きく見開いてこちらを伺う姿がまるで猫みたいでとっても可愛い。
もの凄い早足でレンジの方に近づこうとしたから、体でブロックして侵入を防ぐ。どうやらレンジから漏れる香りで今日のメニューに気付いたみたいね。
「ふにゅ、うにゃぎだよね。今日はうにゃぎなの?」
「今日は初登校のお祝いに、優璃の大好きなうなぎの蒲焼きにしたよ」
「ふにゅ、うにゃぎ、ふにゅ、ふにゅ」
良かった、うなぎ好きは変わっていないみたい。
それにしても見た事ないくらいに興奮し過ぎて猫娘みたいになっている、なんだか頭に猫耳が生えてきそう。
「早く制服を着替えてきて。一緒に食べよ」
優璃はふにゅ、っと頷いてからリビングに置いていた鞄を取って、二階の自室へと階段を登って行った。
以前の優璃はあまり感情を表に出す娘じゃなかったけれど、事故で記憶を失ってからは感情表現がとても豊かになった気がする。
あの子には不幸な出来事だったけれど、私にとっては不幸中の幸いだったのかもしれない。
だって……、今の優璃って最高に可愛いんだもの。
私に笑いかけてくれる顔や、お風呂に乱入した時に見せてくれる嫌そうな表情もとってもキュート。もうキュンキュンしちゃうくらい可愛い。
いつか家に彼氏とか連れてくるのかなぁ。嫌だなぁ、優璃には私が居れば別に彼氏とか必要じゃないと思うんだけどな。
丼にご飯をよそい、うなぎを崩さないようにそっと乗せてからタレをさっとかけると、甘い香りがキッチンに広がる。
我が家ではうなぎを食べる時はお吸い物ではなくてお味噌汁が定番になっている。豆腐と長ネギのシンプルなお味噌汁をお椀に入れて本日の夕食は完成です。
ぱたぱたと階段を降りる音がして優璃が姿を表したのだけれど、ちょっと、その服のチョイスは駄目だよ。
優璃は夕食が置いてあるダイニングテーブルの椅子に座り、ふにゅ、ふにゅ、と言いながらうなぎを見つめているのだけれど、部屋着の上に羽織っている猫耳パーカーのせいでまんま猫娘に見えてしまう。
あぁこれは駄目、可愛い過ぎて萌え死にしそうだわ。
平静を装いながら椅子に座り、優璃と一緒にいただきますをしてスプーンを手に取る。
「ふにゅ、いただきます」
「ちょっと待って優璃」
箸を丼に入れようとしていたところを止めて優璃の手から丼を奪う。眉間に皺を寄せて怪訝な表情を見せる姿もたまらなく可愛い。
「優璃は忘れていると思うけれど、我が家ではこうしてうなぎを食べる習慣なんだよ」
手に持ったスプーンでうなぎとご飯をすくい、優璃の口へとスプーンを運ぶ。
「はい、あーん」
「あーん、はむ」
余程うなぎが食べたかったのか、優璃は素直に口を開いてくれた。もちろんこんな習慣は嘘なんだけれど、いいの、今日から我が家ではうなぎをこうして食べる習慣に決めましたから。
瞳を輝かせながら、はむはむとうなぎを味わっている。しばらくするとまた口を開けてきたので、スプーンでうなぎとご飯をよそい優璃の口へと運ぶを繰り返した。
美味しい? って訊くと口をはむはむとさせながらこくこくと頷いている。
もう、うちの妹が可愛い過ぎて困るんですけど。
ふにゅ、って言いながら私の手からスプーンを奪うと、優璃はそのまま私の丼も奪ってしまった。
別に言ってくれたら私のも食べさせてあげるのに、と思いながら見つめていると、ご飯とうなぎをスプーンに載せて私の口元へと運んでくれた。
「ふにゅ、あーん」
少し感動して震えてしまったけれど、口を開けてスプーンを咥えた。うなぎの脂と甘いタレ、白米の味が口の中でハーモニーを奏でる。そこに優璃の愛情というスパイスが加わり、その旨さはこの世のモノとは思えない美味しさまで高まってしまった。
はぁ、もう、実の妹と結婚できる方法とか無いのかしら。
幸せな食べさせあいの時間はほんの瞬き数回で終わってしまい、ご馳走様をしてから一緒にお皿を洗う。
「姉さんありがと、凄く美味しかったよ」
「どういたしまして。それにしても優璃が可愛いかったなぁ、なんか子猫みたいで」
「やめて、思い出すと恥ずかしいから」
照れたように顔を真っ赤にしながらお皿を洗う姿がたまらない。はぁ抱きしめたい、すりすりしたい。
お皿を洗い終えて優璃は部屋へと戻ってしまった。テーブルを拭き、エプロンを外したところで私は急に思い立った。
このうなぎ習慣を使えば、優璃と一緒にお風呂に入れるんじゃない?
我ながら悪魔の発想を思い付いてしまったのかもしれない。普段は嫌がって一緒に入ってくれないけれど、うなぎパワーを借りればイケるかもしれない。
ようやく背中の流し合いという私の夢が叶ってしまうかもしれない。
ゴクリと喉が鳴る。いや慌てたら駄目よ
私も部屋に戻って大学の課題などをしながら時間を過ごし、そろそろかなと時計を見ると夜の九時を過ぎていた。
さて行きますかと気合を入れ、走るように脱衣所に行って秒速で服を脱ぎ、下着姿になってからお風呂掃除を始めた。
床を磨き、湯船をピカピカにしてからお湯を張る。この後の至福の時間を想像して思わず鼻歌を口ずさんでしまっていた。
ボディーソープやシャンプー、コンディショナーの残量も充分。
瑠璃上等兵、無事に準備完了いたしました。
脱衣所で身体を拭いて優璃の部屋へ向かい、ドキドキとしながらドアを軽くノックする。
落ち着いて瑠璃上等兵、あなたの作戦は完璧よ。
返事を待ってから扉を開けて部屋の中に入ると、優璃はベッドの上でごろごろとしながらスマホをいじっていた。
「あ、あのさ優璃、忘れていると思うけど我が家ではうなぎを食べた後は一緒にお風呂に入る事になっているんだよね。だからさ、一緒に……」
優璃はベッドの上にちょこんと座り直して、私に最高の笑顔を見せてくれた。やりました、瑠璃上等兵やりとげました。
「姉さん、流石にそれは嘘だよね」
はうっ、やっぱりバレてる。瑠璃上等兵、任務失敗であります。
しょんぼりと肩を落としていると、優璃がベッドに立ち上がってそっと私の肩に手を添えてくれた。
「それに何で下着姿なの? 家でもちゃんと服を着ないとダメだよ」
はうっ、さらに叱られた。
「ほら姉さん、体が冷えるよ。先にお風呂に入って温まって」
コクンと頷き、すごすごと優璃の部屋から退散する。
階段を降りたところで立ち止まり、猫耳パーカーをすんすんと嗅いでみる。ほんの少しだけ優璃の香りがしたけれど、ほとんどうなぎの匂いに浸食されてしまっていた。
瑠璃上等兵、