せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
「みっこさんや、とりあえず心の赴くままに殴りかかってみても宜しいですかね?」
「おやおや天下の学級委員長に向かって暴力沙汰とは頂けませんよ、可愛い可愛い赤ずきんちゃん」
晴れ渡る陽気の中で文化祭当日を迎え、開店準備も慌ただしい我が一年A組。
廊下に掲げられた手作りの看板も可愛らしい軽喫茶『BANG DREAM』の店内にて、トレードマークであるサイドテールに括られた髪を弄りながら勝ち誇った顔を見せつけているみっこさんと対峙しております。
黒色のタンクトップに薄手とはいえとても清楚とは程遠い鮮血のような色合いのパーカー、光の反射で目が痛くなりそうなショッキングピンク色のミニスカートと白色タイツ。ふむふむなる程ですよ、これが現代の赤ずきんちゃんという訳ですか……。
「いやいやこれでは文化祭に浮かれきった只のギャルではないですか」
「おやおや何かご不満が? 生徒会の役員でもないのにクラスよりもそちらを優先させていた薄情なお嬢様が何か?」
ムキー! とはなれません。確かに委員長の言う通り、喫茶店よりもライブ開催を優先して方々を駆けずり回っていたのは事実なのですからね。
おかげ様で罰として制服からギャル風の格好へと着替えさせられ、公衆の面前での客引きを仰せつかったという次第です。
「ぐぬぬですがしかし委員長様、例え百歩譲ってこの売り子姿は我慢するにしても、何故に足元が学校指定のローファーなのですか。ここはスニーカーとかではないとバランスが変ではないですか」
「うーん、コスプレ自体は許可が降りたけれど、何故か靴だけは学校指定じゃなきゃ駄目だったのよ」
えっと、うちの学校って色々とバランスが可笑しくないですかね?
「ウサギ……」
縋り付くような声に恐る恐る振り返ると、顔の部分だけが露出している兎の被り物をしたおたえが照れたような上目遣いでお揃いの被り物をわたしに差し出していた。
セーラー型である花女の夏制服に手作り風味の兎の被り物、これは中々に違和感の塊ではないですかね。
「りみに逃げられた……」
「わたしも無理ですからね」
「香澄は被ってくれた……」
視線を外せば教室の中程でクラスメイト達に囲まれたウサギ星人ふたり目がぴょいぴょいと飛び跳ねながら騒いでおりました。
「こんな被り物の人が三人も居たら絶対に目立つよ、これで成功間違いなし!」
本当に楽しそうで何よりですよ香澄。ですが勝手にわたしを数に入れるのは勘弁して頂けませんかね、あんな被り物をしたギャルなど目立つどころか冷ややかな視線を浴びるだけとなってしまいますのでね。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「しゃっせー、やまぶきベーカリーのすげぇうめぇパンが食べられる喫茶店っすよー」
「優璃マジか。痛い奴だとは思っていたけれど、ここまでとは流石の私も気づかなかったわ」
手持ちの看板を持ち罰ゲームのように呼び込みをさせられていたわたしに向かって、指を差しながら必死に笑いを堪えているツインテールの美少女さんが居ますね。
おのれ有咲め許すまじ。後でそのツインテールをぴょこぴょこして遊んでやりますからね。
「おっつー、あーさは休憩って感じなん?」
「そのひと昔前のギャル風な話し方はかなり気持ち悪い」
「ムキー! うっせいわですよ。こちとらギャル風のみならず変な被り物もさせられて完全にファンタジー世界の住人にさせられているのですよ、慰めてくださいよ、つーかマジで代わってくんね?」
「そもそもクラスが違うからな。それよりも香澄から連絡が来たからもうすぐ休憩だと思うぞ、みんなで展示を周ろうだってさ」
有咲と話をしていたら、ぴょんぴょんと軽やかな足取りで残りのポピパ組も教室から出て来ました。
「二人共、お、ま、た、せ」
「私、ウサギ小屋に行きたいな」
「おたえ、ウサギ小屋は年中無休で観覧可能だぞ」
浮かれているウサギ星人達を他所に、二人の陰で縮こまっていたりみりんがわたしの前に立って何やら体をもじもじとくねらせ始めました。
「優璃ちゃん、あの、その……」
黙ったまま、りみりんの肩にそっと手を置きます。
良いんですよ、きっとこれを被ったりみりんは可愛いでしょうが内気な性格を考えれば罰ゲーム以上の苦痛でしょうからね。
「しかし優璃だけかと思ったら香澄とおたえもそれを被ってんのかよ、ちょっとお前等のクラスってヤバくねぇか」
「ありさも被る?」
「さぁ有咲もウサギに生まれ変わろう!」
「そういう役目は優璃に任せてあるので結構です」
「なんやて、有咲」
くるりと背を向けた有咲がりみりんの手を引きながら歩き出してしまいましたので、その姿を見てとりあえずわたしも被り物を取ろうとしたら両側から不思議の国の兎さん達に腕を掴まれて止められてしまいました。
「優璃は仲間だよね」
「あの……わたしに社会的に死ねと?」
「大丈夫! きっとウサギさんは世界を救うんだよ」
ははは、まったく無邪気な兎さん達ですねえ……じゃねぇわ、恥ずかしくて明日から校内を歩けなくなってしまうでしょうが!
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意外な人が意外な場所で意外な才能を発揮いたしております。
「えい! えい! はわわわ」
「りみりん凄いよ、格好良いよ」
香澄からの賞賛を背中に受けながらも、りみりんの手から放たれた輪っかはまるで吸い込まれるように次々と的に入っていきます。
祭りの出店を模した展示をしている教室に入ったわたし達は、りみりんが興味を示した輪投げにとりあえず挑戦をしてみたのですが、りみりんのあまりの上手さに少々呆気にとられております。
「りみりんにそんな才能があったとは驚きですな」
「あのね、小さい頃からこういうのは得意だったの」
得意とは言っても五投した全てを一番遠くて一番小さい最高難易度の的に入れるとかもはや才能としか言えないのではないですかね。
「りみりん、わたしにもコツを教えてください」
「あのね香澄ちゃん、忍者になった気分でシュッと投げたらスポッて入るんだよ」
「むふーわかった、シュッでスポッだね」
りみりんも何だか香澄みたいな感覚で説明をしだしましたよ、これは随分と香澄に染まりつつあるという危険な兆候ではないですかね。
気合満々の香澄が再びのチャレンジをするようですが、何だかとても嫌な予感が胸の内を騒つかせるので床を滑るようにして香澄から遠ざかる事にしました。
「シュッスポッ、シュッスポッ、とりゃあぁぁ!」
「いってぇぇぇぇ!」
有咲がお腹を抑えながら座り込みます。まぁ、やはりそうなっちゃいますよね。
輪投げ事故の後は中等部の校舎に移動して、メイド喫茶をしているというあっちゃんのクラスを訪問してみたのですが。
「えっと、可愛い過ぎるので逮捕します」
「何を言っているの、優璃お姉ちゃん」
目の前には微妙に足先を交差させた姿勢のあっちゃん。クラシカルなメイド服では無く、現代風の短めなスカートがショートカットの髪との相性が抜群で元々の美少女度数をより引き立てておりますよ。
「あっちゃん凄く似合っていて可愛い、流石は自慢の妹だよ」
「おぉ香澄とは違って落ち着いた美人って感じだな」
「市ヶ谷先輩まで止めてください。あの、それよりも……」
あっちゃんが指を差した先にはウサギ星人三人娘。
ふふふ、何をか言われんでも充分に伝わりますよ、こちとらもう既に窓からダイブをしたい程の後悔に苛まれておりますからね。
「どうあっちゃん、可愛いでしょ」
「姉妹でウサギ……いいかも」
空気を読まない異世界人は放っておくとして、あっちゃんの目の前に立ちヘルメットを脱ぐ要領で被り物とはサヨナラをしました。
「優璃お姉ちゃんあんまり見ないでよ、恥ずかしいよ」
「駄目です、可愛いあっちゃんを穴が開く程に見ていたいのですよ」
「もう……今度これを着て部屋に行くから、今日は許して」
「本当に⁉︎ 写真とかいっぱい撮っちゃうよ」
「良いけれど他の人には見せたら嫌だよ。優璃お姉ちゃんにしかこんな姿を見せたくないもん」
なんでしょうか、顔を紅くさせながらのその台詞は色々な人に誤解を生みそうな気がするのですがね。
「あっちゃん、わたしもメイド服とか着てみたいな」
「お姉ちゃんは着たら駄目」
「ええぇ、何でぇ?」
「とにかく駄目なの、私が優璃お姉ちゃんに見せるから駄目なの」
唇を尖らせながら不満を口にする香澄に、顔を紅くさせながら反論をするあっちゃん。
こういう姉妹のじゃれあいを眺めるのも中々に良きものですなと見惚れていたら肩をトントンと叩かれ、慌てて振り向いた先ではおたえが涙目でわたしが脱いだ被り物を指差しておりました。
「ウサギ……」
おたえさんや、いい加減に満足してくれないと流石にわたしの方が泣いてしまいそうですよ。
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午後に入り、poppin'partyは本番の近付いたライブの為に講堂へと向かう事にしました。
兎の被り物も脱ぎ気合充分なその姿は、まるでいくさに赴く武士のような緊張と高揚感に包まれているようにも見えます。
「あっ、ポピパのみんな今日は宜しくね」
講堂の入り口には忙しい七菜生徒会長を除いたグリグリの皆さんとチスパのメンバー達が既に集まっていました。夏希さんとの打ち合わせで驚いたのですが、チスパって夏希さん以外のメンバーは全て他校の生徒さんなのですよね。
「沙綾は居ないんだね、久々に見たかったな沙綾のドラム」
「うん、お母さんの体調がまだ不安みたいで」
「そっかぁ、それなら仕方がないよね」
夏希さんの残念そうな顔、香澄の申し訳なさそうな顔、みんなの少しだけ悲しそうな顔。誰もが無言になってしまった光景を見ていたら、心の奥底からマグマのようにグツグツと煮えたぎる熱くて力強い感情が込み上げてくるのを感じた。
沙綾、今の仲間達が待っているよ……。
さーやー、やっぱり一緒にバンドやろう……。
まぁ私は別に……。
沙綾ちゃん、頑張ろうね……。
沙綾も花園ランドの住人だよ……。
沙綾を囲んでいたみんなの笑顔。それを見て微笑んでいた沙綾。
上手くいくと思った、ずっとみんなの幸せを見ていたいと願った。
ーー私って、きっと神様に嫌われちゃっているんだよ。
やれやれわたしがこんな光景を認める訳が無いでしょうよ。神様さんとやら、お馴染みの八つ当たりをして差し上げますので耳をかっぽじってしっかりと聞いてくださいませ。
神様ゆるすまじ。
「あっみんなゴメン、遠くに置き忘れたものを思い出したからちょっと取りに行ってくるわ」
わたしが突然に発したとぼけた台詞に全員が驚いた表情を向けてきました。
いえ、ポピパの仲間を除いた全員がでしたね。
「たく仕方がねえな、大事なもんを忘れてんじゃねえよ」
呆れながらも笑顔の有咲にくるりと体を廻されて、そっと背中にその手を添えられました。
「優璃ちゃんなら大丈夫、ちゃんと忘れ物を見つけられるよ」
「ウサギは寂しいと死んじゃうんだって、迷信だけど」
りみりんとおたえも背中に手を添えてくれたのが解った。
前を向けばわたしと向かい合わせになっていた香澄も、どこか優しげな表情をしていました。
「ゆり、迷子にならずにちゃんとわたしのところに帰って来てね」
「子供では無いのだからちゃんと帰りますよ、わたしの居場所に」
頷いた香澄も背中に周って手を添えてくれた。
ーー行ってらっしゃい!
それは初めての経験でした。
四人に押された背中から翼が生えたのかと思う程に身体が軽くなり、歩を進める事に運動不足の脚には不思議なチカラが宿っていくようだった。
右足を前に出して次は左足を出す。みんなの思いと覚悟を背負うように刻み込むように、速さを増していく足は力強く地面を打ち付けていった。
走り始めたわたしはもう後ろを振り返る事はしませんでした。
何故なら見送る仲間達がどんな表情をしているのかなんて、今のわたしには容易く想像をする事が出来るのですから。
「待っていてくださいよ、今から答え合わせに行きますからねぇぇ」
走りだす、走りだす。
キミが心の奥底に閉じ込めた願いを聞く為に。
走っていく、走っていく。
キミとみんなで描いた虹を、青春という空の彼方に掲げる為に。