せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
連載を始めて一年が経ちました。
執筆初心者ゆえ一年もあれば未完か完結かはしているだろうなと思っていたのですが、今もこうして続けていられるのは読んでくださる方の存在があってこそだと思っています。
心からの感謝を捧げます。
成長する機会を与えてくれている事、本当にありがとうございます。
月白猫屋
「あ、あの、
無事に結成を迎え、ライブハウス
花女の夏服に似つかわしくはない黒色の丸型サングラスを掛けた怪しさ満点の少女は、最敬礼をした後に緊張の為なのか直立不動の姿勢でわたし達の進路に立ち塞がりました。
「えっ? 花さん? えっ? 何も聞いていないのですけど?」
身長は香澄達と同じくらいでしょうか。右側面だけにある一束だけ綺麗に編み込まれた薄茶色の長い髪を靡かせた少女は、小さな顔に不釣り合いな大きさのサングラスを光らせながら鼻息荒く右手で敬礼を行いました。
「あれっ、戸塚さんだよね。何でそんなサングラスをしているの?」
「はにゃう、市ヶ谷さん⁉︎ いいえ違います、私は只の名もなき黒服の女でしゅので」
「いや黒服って、普通に制服姿だよね」
わたしの横に並んだ有咲に声を掛けられて、戸塚さんは挙動不審な程あからさまに顔を背けながら否定の言葉を発しています。
うーん何ですかね、わたしは知らない娘ですがとてもキャラが濃そうな人が出現してきましたよ。これは花さんに詳しく事情を聞かなければならないようですね。
「ありさ、知っている娘なの?」
「あぁクラスメイト、余り話をした事は無いけれど編み込みの髪が印象的でよく覚えてる」
「また新しい女の子が……」
「沙綾ちゃん目が虚ろだよ、しっかりしてぇ」
香澄が興味津々な顔で有咲に問いかけている横で、能面のように表情を失っている沙綾をりみりんが優しく揺さぶっているという混沌とした光景が広がっております。
血の気が引いた顔をしている沙綾の体調も心配ではありますが、とりあえず下校する生徒達から送られる冷ややかな視線を全身に浴びているサングラス姿の同級生の今後が心配になってきましたよ。
「戸塚さんとやら、いったい花さんから何を命じられたのですか?」
「はい! 花様からはこころ様のパートナーであられる優璃様を陰になり日向になり誠心誠意に支えるようにと。でしゅのでお困り事が有りましたら何でも仰ってください」
ちっとも似合っていないサングラスに右手を添えながら、戸塚さんは口角を上げて不敵に笑った。
弦巻家関連から連想すれば花さんの家で見た黒服のお姉さんみたいな役割のつもりなのでしょうか。黒服さんはSPかお付きの人といった雰囲気でしたが、どのみちわたしに必要では無いですしそんな身分でも御座いませんよ。
「あのですね戸塚さん……」
「はいぃ! 優璃様なんなりと」
申し訳がないですが今日のところは帰って頂こうかと思い、近付いて言葉を掛けようとしたら急に両肩がずしりと重くなりました。
「ゆりぃ、説明プリーズだよ」
右側を向くと頬を膨らませた香澄の可愛らしい顔。
「戸塚さんだっけ。ゴメンね今日はバンドの練習で時間が無いんだよね」
左側を向けば身体が震えてくる程の冷たい笑顔の沙綾。
えっとですね、神様に訊いてもらえば分かると思うのですがわたしは絶対に無罪だと思うのですよ。
「戸塚さん。今日のところはご挨拶という事で、また今度」
「はい優璃様、お疲れ様で御座いましゅ!」
少し変わった雰囲気の人ですがどうやら良い娘なのは間違いなさそうですね。
再び仰々しく最敬礼をした戸塚さんを置いたまま、わたしは両脇を抱えるように固定されズルズルと足を引き攣られながら
さてさて戸塚さんにまた今度とは言いましたが、はたしてわたしは無事に明日を迎える事が出来るのか甚だ疑問で御座いますよ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
翌日のアルバイトからの帰り道、一応女の子ではあるのでなるべく明るい道を通って帰宅するようにしているのですが、今日は付かず離れずの距離でわたしの後を尾行している影があります。
当人は気付いているのか知りませんが、対象に認識されてしまっては尾行の意味を為していないですし、犯人が誰かなどの予想もおおよそは既についているのですがね。
「いったい何をしているのですかね、戸塚さん?」
「はにゃう! いえ私は戸塚ではありません、只の変態不審者の黒服でしゅので」
「いやそっちの方が駄目でしょ、怪し過ぎて通報されてしまいますよ」
曲がり角で待ち伏せていたわたしの姿に跳ねる程の驚きを見せた戸塚さんですが、また花女の夏服にサングラス姿と変態ではありませんが不審者と言われても否定は出来ない出で立ちですよそれは。
「あのですね、わたしは只の一般市民なのでお付きの人などは必要が無いのです。戸塚さんもこんな怪しいアルバイトなどは辞めて普通のをお勧めしますよ」
「時給が良いもん……」
弦巻家からの依頼ならば時給も桁外れというのは納得ですが、唇を尖らせながら顔を背ける彼女の姿を見ているとそれだけが理由ではないような気もしますね。
しかしこのまま流されていてはこころのバンド活動に巻き込まれてしまう恐れがありますね。それは別に悪い事ではないのですが、わたしはポピパのキャッキャウフフを眺める事が至上命題ですので他のバンドにかまけている余裕は無いのですよ。
「戸塚さん、わたしからのお願いを聞いて頂けますかね?」
「はい優璃様、なんなりとお申し付けください」
「花さんに直接会えるようにアポを取ってください」
「優璃様、さしゅがにそれは……」
「なんなりとぉ、なんなりとぉ……」
渋るように眉を寄せた彼女の耳へ顔を寄せて囁くように呟き続けてみると、やがて身体を震わせながら耐えるのも限界が訪れたようで自らの鞄から秘密道具のようにスマホを取り出して誰かに高速でメールを打ち始めました。
「どうにか出来ないかお姉……先輩に訊いてみましゅ」
メールの返信を待つ彼女の前に立ち、怪しい雰囲気を演出していた丸型サングラスをゆっくりと外してあげます。
邪魔物が消え去り正体を現した瞳は、柔らかくて優しそうな印象を与えてくれる丸みを帯びていて、少し弱気にも見えてしまう程に目尻は下がり気味の曲線を描いていました。
「サングラスはもう禁止です。綺麗な瞳が隠れて可愛いお顔が台無しになってしまいますからね」
「そんな筈ない、地味で噛み噛みの舌ったらずだもん」
顔を伏せ携帯を両手で胸に押し付けるように握りしめた彼女はどう見てもやはり普通の女の子です。態々こんな得体の知れないバイトをするよりも、エプロンをして花屋さんに居た方が余程に似合う可憐な少女だと思うのですよ。
視線を合わせる為に両頬に手を添えて少しだけ持ち上げます。
「はゃう⁉︎ な、何でしゅか、何をしゅるのでしゅか」
「わたしが可愛いと思うから見ていたいのです。これはお願いです」
「意地悪でしゅ、優璃様がお望みなら私は断れないからって」
「優しい瞳で綺麗ですよ」
「綺麗とか、言われた事が無いでしゅよ……」
納得してくれたのか今はわたしからの視線を外さずに見つめ返してくれています。これでもうサングラス姿からは卒業ですよね、安心しましたよあの怪しい姿はいつ通報されても不思議ではなかったですからね。
彼女にも安心して欲しくて笑顔を向けてあげると、何の反応も示してくれずに此方を見つめたままになっています。あれれ大丈夫ですかね、まさか電池でも切れてしまったのですかね。
微妙な空気が流れるなか急に大音量で鳴り響いたメールの着信音にまるで驚いた猫のようにびくりと飛び跳ねた彼女は、慌ててその内容を確認した後に親指を立てて可愛らしくウィンクをしてくれました。
「おね……先輩から連絡が来ました。何とか大丈夫みたいでしゅ」
戸塚さんや、もうバレバレなので先輩はお姉さんと言ってしまっても良いのではないでしょうか。
どうやらですが弦巻家の黒服をお姉さんが勤めていて、都合良く花咲川女子学園に在学していた妹さんを花さんが利用したという雰囲気に感じられますね。
「それでは優璃様、明日の朝六時に御自宅までお迎えにあがりましゅね」
「はい? 明日は学校ですよ?」
「学校はお休みして頂きましゅ。無論ご心配なく、学校の方へは弦巻家から連絡を入れるそうでしゅよ」
「はいぃ⁉︎ 別に週末とかでも良いのではないですかね?」
「主従揃っての旅行は初めてでしゅね。何だかウキウキとしてきました」
「旅行ね……えっと、はいぃぃ⁉︎」
呆気に取られて口を大きく開けていたら、彼女はわたしから数歩下がり右手で敬礼をしながら微笑んでくれました。
「綺麗って言ってくれて嬉しかった。何だかこのお仕事を頑張れそうって思っちゃいました」
舌を軽く出した後に勢いよくお辞儀をして彼女は駆け足で帰って行きました。
湿気を含んだ生温い夜風が制服と髪を揶揄うように揺らす。
攻め込むつもりが結局は流されるままに物事が進んでいくという事態に、少しばかりの呆れと自責の念を抱きながらこう叫ぶしかなかったのでした。
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃ⁉︎」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
嫌な予感か悪寒か達観なのか色々と意味のわからない単語が頭の中を飛び交って混乱してしまいそうですが、とりあえず自宅に帰り瑠璃姉さんにひと通り説明をすると姉さんも今ひとつ理解が出来なかったのか力無く頬杖を付き、弦巻家かぁというひと言を発してから渋々と休む事を了解してくれました。
食事とお風呂を済ませて自室に戻る為の階段に片足を乗せたところで、気が緩んだのか思わず口から不満の吐息が漏れ出してしまった。
漸くメンバーが揃ったpoppin'party。これからは間近で五人のキャッキャウフフの光景が味わい放題と浮かれていたのですが、中々に上手く事が運んではくれないようですね……マジ神様許すまじ。
ゆっくりと部屋の扉を開き、精神的に疲れた身体を約束された安息の場所であるマイベッドへ投げ出そうとしたら何故かそこには既に先客がお休みになられておられました。
「百歩譲って部屋に居るのは良いでしょう、ですが既に布団に入っていつでも寝られる体勢とは如何なものかと思いますよ」
「香澄ちゃんは蔵練で疲れているのです。だからゆりのベッドで眠るのです」
「前半部分から後半の結論までの間が色々と端折られていませんかね」
棚に立ち寄り化粧水とコットンを取ってから、顎の部分まで覆われていた掛け布団を剥ぎ取り横になったままの身体に馬乗りになります。
「ほら、化粧水を付けるから大人しくしてくださいな」
コットンに化粧水を染み込ませ、撫でるようにして香澄のシミひとつ無い綺麗な顔に潤いを馴染ませていきます。
瞳を閉じてリラックスをしたような表情が堪らないくらい可愛くて、コットンを滑らせるわたしの手も心なしか上機嫌に踊っているような動きをしてしまいますね。
「それで戸塚さんはその後どうなったの?」
優しくパッティングをしてあげながら戸塚さんの雇い主に会いに行く羽目になった事、その時に戸塚さんへもっと普通の仕事を紹介して欲しいとお願いをしようと考えている事などを説明しました。
「わたしも一緒に行きます!」
「えっ何て……キャッ⁉︎」
大人しく聞いていたかと思っていた香澄が急に瞳を見開き暴れるようにして身体を入れ替えられてしまいました。
そのままフンスと鼻を鳴らしながら自分の両方の掌に化粧水をたっぷりと乗せ、押し広げるようにしてわたしの顔中に潤いと言う名のベトベトを行き渡らせていきます。
「戸塚さんと二人きりは駄目だよ、駄目です、駄目ったら駄目です、わたしも行きます」
「ええっ何で……グエッ⁉︎」
手の圧力を必死に我慢していたら、今度は全身を使ってボディプレスのようにのし掛かりそのままわたしの心許ない胸に顔を埋めてしまいました。
「ゆりはわたしから離れていかないよね? ずっと隣に居てくれるよね?」
わたしのジャージをギュッと力強く握りしめながら押し付けられていた頭を、包み込むように優しく抱きしめてあげました。
まったく何を言っているのですかね。わたしの隣には香澄が、香澄の隣にはわたしが居る事は当たり前に続いていく話なのですよ。
「これからもずっと一緒だよ、香澄こそわたしから離れていかないでくださいね」
「ずっと、ずーっと、今度こそずっと一緒に居ようね、約束したよ」
「うん約束、ずーっと香澄とは一緒に居ますからね」
表情は解りませんが何度も頷く香澄の頭を優しく撫で続けた。星型に髪を結っていないせいか本当に頭が小さくて、柔らかく指の間を通り抜けていく髪の香りも愛しくて愛しくて息が詰まりそうになります。
「好き……ゆりの匂い」
「わたしも香澄の香りが大好きですね、何か落ち着くと言うか東京生まれだけど故郷の匂いと言うか」
「変態さんだ……」
「流石に色々と扱いが酷くない?」
声を押し殺しながら香澄が笑う。
いつまでも一緒というお互いの気持ちを確かめ合うように、二人だけのベッドの上で暫くわたし達はお互いの身体を離す事が出来ずにいたのでした。
あれっ気付きたくはなかったのですが、これって香澄の顔に付けた化粧水がわたしのジャージにベトベトに塗りたくられていますよね。
まぁ乳液ではないのでとりあえず良しとしましょうか、今は香澄を離したくは無い気持ちで心が一杯ですのでね。
ところで香澄さんや、まさかとは思いますが本当に着いてくる気では無いですよね?