せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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5.事前準備って大事なんだね

 

 

 爽やかな朝、爽やかな目覚め、とはいかないのが若者だよね。

 

 以前の優璃(ゆり)はどうだったのかは知らないけれど、わたしは朝が苦手だ。

 お布団の中は暖かくてどうしても離れがたく、わたしの魂を温もりの中に閉じ込めてしまう。抗えない、わたしはお布団様の奴隷なのだ。

 

 

「はいはい優璃、そろそろ起きなさいよ」

 

「……うにゅ、あと五分、いや三分でも」

 

 

 瑠璃(るり)がお布団様を引き剥がそうとするのを必死にしがみついて抵抗をする。やめてください、お布団様はわたしのご主人様なのですよ。

 

「早く起きないと、香澄(かすみ)ちゃんが迎えに来ちゃうよ。こんなだらしない姿を見られたくはないでしょ」

 

 その言葉に思わず飛び起きた。香澄に見られるのが恥ずかしいとかじゃなくて、こんな姿を見られたら絶対に飛びついてきそうだ。

 先日の学校帰りに抱きつかれてすりすりされた時も、長い時間に渡って離れてくれなかった。

 もし抱きつき(むすめ)のせいで遅刻なんかしてしまったら、先生に理由を言える訳がない。香澄に抱きつかれてて遅くなっちゃいました、なんて色々な意味で人生が詰むわ。

 

 

「朝ごはんも出来ているから、早く着替えて降りてきてね」

 

 

 瑠璃がウィンクをしてから部屋を出ていく。しかし美人で家事万能でしっかり者で優しくて落ち着いた大人って感じの瑠璃は、本当にチートキャラじゃないのかと思う。あんな完璧超人っているんだねっと、もしかして妹の優璃も家事とか出来ちゃっていたタイプだったのかな? だとしたらそれはマズイ、恥ずかしながら以前のわたしは家事どころか部屋の片付けさえもあまりしないズボラなタイプだったのですよ。

 これじゃ駄目だね、瑠璃の妹としてちゃんと家事を覚えなくては!

 

 

「……面倒くさい」

 

 

 はい、秒で心が折れました。さっさと着替えて朝ご飯を食べる事にします。

 下着を新しいのに替えてから制服を着る。意外な事に自分の体には何の感情も湧かないのに、他の女の子の体を見るのは今だに恥ずかしくて無理。同じ女の子の体なのにこの違いはなんだろう、ちょっと不思議な感覚だなと思う。

 まぁ他の女の子の裸が見たいのかと問われれば、やぶさかではないと答えますがね。

 ベッドに座ってタイツを穿く。下半身が涼しいのにまだ慣れていないからこれは手放せないし、なんかこの締め付け感が意外と好きかもしれない。

 通学鞄を手に取り、急いで部屋を出て洗面台へと向かった。

 

 

「はい優璃ちゃん今日も可愛いです」

 

 

 洗顔を終えてから、鏡に向かって日課にしている呪文を唱える。

 ズボラな性格なので、自分は優璃だと認識しておかないと肌とか髪とかのお手入れが手抜きになってしまうんだよね。

 それにしても男の時とは違って肌も陶器のようにつるつるとしている。だからという訳ではないんだけれど化粧はしない、というかわからない。化粧水とか乳液とかは知っているんだけれど、下地(したじ)とか意味わからない。

 何それ日焼け止め的なやつなの、というレベルである。

 最近は男の子でも化粧をする人が増えているけれど、わたしはまだ化粧は女の子がするものという古臭い意識が抜けていないのですよ。

 見た目はおんな! 頭脳はおとこ! その名は……やめておこう恥ずかしくなってきた。

 

 キッチンに着くと既にダイニングテーブルにはパンとスクランブルエッグが盛ってある皿と、マグカップに入った温かいスープが用意してあった。

 椅子に座っていただきますをしてパンに手を付ける。わたしはカリカリより若干ソフトな食感が残るくらいの焼き加減が好きなんだけど、まさに完璧ですよ瑠璃さん。

 はむはむとパンをかじっていると、瑠璃が背後にまわって髪をブラシですき始めてしまう、まったくどこまで気がまわるんですか瑠璃さん。

 こんな気が利いて落ち着いた大人になりたいものですよ、とパンをはむはむとしながら思いました。

 スープを飲み終わる頃にピンポーンと呼び鈴が鳴り、瑠璃が玄関まで迎えに行った。わたしも皿とマグカップをキッチンのシンクに置き、鞄を取って玄関へと向かう。

 

 

「ゆり、おっはよ!」

 

 

 星型ヘアの香澄が玄関で微笑んでいる。しかしこんな美少女が毎朝迎えに来てくれるなんて、こんな幸運があってもいいんでしょうか。

 まったくなんで自分は女の子なのかねぇ、マジ神様許すまじ。

 

 

「それじゃ姉さん、行ってくるね」

 

「瑠璃さん、行ってきまーす」

 

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

 

 

 手を振って見送ってくれた瑠璃に別れを告げて玄関を出た。今日は曇り空だけれど、気温はほのかに温かくてなんだか春らしくて気持ちいい。二人で並んで道路に出たら香澄がピタッと足を止めてしまった。

 やれやれと思いながらもそれを合図にしてエイっと香澄に抱きつく。こうすると香澄は照れ笑いを浮かべて、とても上機嫌になってくれるのだ。

 

 

「もう、ゆりはすぐに抱きつくんだからぁ」

 

 

 いやいや香澄さん。あなた毎朝これをしないと不機嫌になるじゃないですか、昨日はすっかりこれを忘れていて大変な目にあいましたからね、そりゃ学習もしますよ、まぁ柔らかい感触と爽やかな香りはご褒美ですけどね。

 抱きついていた手を離してご機嫌な香澄と歩きだす。

 歩いていたら急に春の強い風が吹いてきて長い髪が乱れそうになってしまい、慌てて足を止めて髪を片手で押さえてなんとか耐え忍んだ。

 

 

「ひゃあ凄い風だったね、ごめんね早く行こう」

 

 

 笑いながら香澄を見るとこちらを放心したように見ている、首を傾げて香澄を見返すと慌てて前を向いて再び歩き始めた。

 

 

「ゆりって、普段はちっちゃくて可愛いのに時々凄く綺麗に見える時があるから不思議だなぁ」

 

「そう? 香澄の方がよっぽど美人だと思うけれど」

 

 

 香澄は歩きながらあさっての方向へ顔を背けてしまった。

 あれっ? もしかしてまた機嫌を損ねてしまったのかな。

 

 

「もう! そういうところだよ! そういうの他の人に言っちゃダメだからね」

 

 

 何故か怒られた、わたし何もしていないのに……。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 今日は特に何事もなく無事に放課後を迎える事ができた。しかし女子高ってみんな香水とか使うからなのか教室の中が甘い香りで満たされているんだよね。こんな所に童貞の男子なんか居たらもうそれだけで昇天してしまいそうな気がする、って忘れていたけれど自分も元童貞男子だったわ。

 席で荷物を鞄に詰めていると、肩をポンと叩かれたのでふにゅっと後ろを振り返ると笑顔の沙綾(さあや)が手を振っていた。

 

 

「ゆり、暇だったら一緒に帰らない?」

 

「あーごめん沙綾、今日まで香澄の部活体験に付き合う約束なんだ」

 

 

 両手を合わせてゴメンナサイポーズをすると、沙綾は仕方がないかぁと少し残念そうな笑顔を作った。

 なんでだろう、沙綾は困った顔が凄く可愛い。何か庇護欲がそそられるというかギュッとしたくなる感じがする。

 

 

「もう、香澄ばっかりじゃなくてたまには私の相手もしてよね」

 

「沙綾は大切な人なんだからいつも見ているよ、ちゃんと気にしているからね」

 

 

 そう、沙綾は香澄の大切なバンドメンバーになってもらうんだから、ちょっと目を離した隙に彼氏なんか作られたらたまったものじゃありませんからね。

 

 

「大切ってそんなに……あ、相変わらずゆりは話が上手だね」

 

 

 沙綾が背中から頭を抱き寄せて髪を撫で始めた。最近はこれがすっかり癖になっているみたいだけれど、いつもより抱きつく力が強すぎるのか椅子の背もたれが背中に食い込んできて痛いです。

 

 

「ゆり、明日は私と一緒に帰ってくれる?」

 

「わかった、わかりましたから腕の力を緩めてもらえませんかね、超痛いよ」

 

「わかったならよろしい」

 

 

 腕の力は緩めてくれたけれど、頭を撫でる手は止めてくれない。あの沙綾さん、髪は良いんですけどちょこちょこ耳たぶを触るのはやめてくださいね、くすぐったくて笑ってしまいそうになるので。

 帰る準備を終えたのか、香澄がぱたぱたとわたしの席へと迎えに来た。

 

 

「ゆりぃ、お待たせ。あれ、今日は沙綾も一緒に行くの?」

 

「いや私は違うよ、ゆりと話をしていただけ」

 

「えー、沙綾も行こうよ。三人だときっと楽しいよ」

 

 

 沙綾は行かないと知って香澄は明らかに落胆したように肩を落とした。こういう素直な感情表現が香澄の魅力的なところだと思うのです。

 顔を上げた香澄は、わたしを見てぷくっと頬を膨らませたかと思うといきなりわたしの頬を両手で引っ張ってきた。

 

 

ひはひほ(痛いよ)ひゃひゅひ( 香澄 )はひ()?」

 

「いやなんとなくね」

 

 

 なんですかそりゃ、ちょっと理不尽すぎない?

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 今日の部活体験でなんと全部活を制覇した香澄は、やっぱり何処もキラキラドキドキする事が出来ずに少し落ち込み気味です。

 よしやっぱり今日だ。フッフーン、わたしは転生者ゆえに未来を知る者、この帰り道で香澄は星のシールに導かれてツンデレ金髪ツインテール娘と深紅の星型ギター(ランダムスター)に運命的な出会いをするはず……はずだよね。

 昨日までの帰り道でまったく星のシールに気付く気配がなかったのだけれど、大丈夫だよね。

 わたし、不安になって事前に星のシールが貼っている場所を確認してまわったんだけれど、どうかこれが徒労に終わりますように。

 

 

「あっ! ゆり見て、あそこ何か光ってる」

 

「えっ? なになに?」

 

 

 やったー、フラグが死んでいなかった。神様もたまには良い仕事をしてくれるんだね。

 香澄は夕陽に反射してキラキラと光る場所まで走り寄ると、路肩に貼ってあった星型のシールを剥がし取った。

 

 

「星のシールだよ、とっても綺麗」

 

「本当だね、香澄は星が好きだから何か良い事があるかも」

 

 

 機嫌が良さそうな顔で笑う香澄が、夕陽に照らされてとってもキラキラとしている。

 やっぱり香澄は星の鼓動だっけ? 何かよくわからないけれど確かそんな感じのキラキラドキドキとした感じの……ってヤバイ、結局どちらも意味不明だったわ。

 とりあえず細かい事は気にしないようにして、何はともあれいよいよ香澄が音楽と出会うんだ、自然と少しテンションが上がってしまうのは別に普通だよね。

 

 

「良い事かぁ、ナンパなんてされたら困っちゃうなぁ、でもゆりがきっと嫌がるだろうしなぁ」

 

 

 ニヤニヤと嬉しそうにしながら星のシールをポケットに仕舞って、香澄は上機嫌で歩き出した。

 そのまま次のシールを素通りした辺りで、わたしの怒りは大爆発です。

 

 

 オイッ! カ、ミ、サ、マ、テメェ!

 

 

 はぁここまで邪魔をしますかね、わたしのただただ尊い光景が見たいという些細な願いを踏みにじりまくりですか。いいでしょう、そっちがその気ならやってやるです。神の因果律に逆らおうが、尊い光景は何よりも優先されなければならないのですよ。

 はぁ前もって星のシールが貼ってある場所を確認しておいて良かったですわ。

 

 

「ちょっと待って香澄、あそこにもシールが貼ってあるよ」

 

「あっ本当、キラキラしてて綺麗だね、なんだかゆりみたい」

 

 

 呑気にお世辞なんか言ってんじゃねぇ、って危うく金髪ツインテールみたいな口調になりかけたわ。らちがあかないので香澄の手を引いてシールの所まで連れて行き、さも意味があるんですよぉという風に次のシールを指差す。

 

「あそこにも貼ってある、ねぇ香澄、もしかしたらどこかに行く為の目印なんじゃないのかな、ちょっと行ってみようよ」

 

「あ、うん。ゆりが言うなら」

 

 

 なんで乗り気じゃねぇんだよ、って危うく盆栽が趣味の金髪ツインテールみたいなツッコミを入れそうになったわ。

 その後も香澄の手を引いて、わたし達は何かが始まる予感を感じながら星の導きを追って行くのでした。

 

 

……って無理矢理じゃねぇか、マジ神様許すまじだよ!

 

 

 

 

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